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さん『エンマ様が判決を下す日はお気に入りの傘を逆さにさして降ってきたキャンディを集めよう』
6 上の空◆①
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「ハ~ルさんっ! ですよね?」
ヒョコンと跳ねて現れた女の子。退屈そうに携帯電話をいじるハルの目が少女に向けられた。
「小山仁花です!」
車にもたれかかるハルは軽くうなずくと助手席のドアを開けた。
「乗りなさい」
仁花が乗り、ハルはドアを閉める。
車を軽く走らせたハルはその辺の路肩に車を寄せ、仁花に金を差し出した。
「え?」
「これを持ってすぐに降りなさい」
「……なんの冗談?」
「金が必要なんだろ? だったらこれで」
仁花は差し出すハルの手を両手で握る。
「デートがしたいの。あたし、ハルさんとデートがしたい」
「なにが目的だ」
「目的? ただそれだけだよ?」
「金はいらないのか?」
「……うん!」
握った手をハルへ押し返すと仁花は笑顔を向けた。
──ピロリロリン……ピロリロリン……──
「あたし喉渇いちゃったー」
「どこか寄ろうか」
「ね、この近くに今人気のカフェがあるんだって! 行ってみたいな~」
「場所は?」
「検索してみるね!」
と、携帯電話を取り出そうとしたその手が止まった。
「……あー、やっぱりいいや! ハルさんのオススメの場所に行きたいな!」
「オススメ……」
「よく行くカフェとかないの?」
「……わかった」
──ピロリロリン……ピロリロリ──
「ハルさんのハルってニックネーム?」
「ああ」
「本名はなぁに?」
「教えない」
「えー? いいじゃん、教えてよー」
「知ってどうする」
「だってハルさんのこと、名前で呼びたいんだもん」
「……トキワハルヒコ」
「ふふっ、苗字常磐なんだー。うちのクラスにもいるよ? かっこいいよね~! 名前はどんな漢字?」
「……季節の春に……彦星の彦」
「ひこぼし? 織姫と彦星の、彦星?」
「ああ」
「ふふ、春彦さん、結構ロマンチストだったりして」
──ピロリロリン……ピロリロ──
「電話、出ないのか?」
一度切れてはまた繰り返し鳴り続ける電話に、しびれを切らしたハルは言った。
「あー…いいのいいの! 最近変な電話かかってくるんだよね~」
そう言う彼女の表情はどこか不安そうだった。
「ね! あたし、お買い物がしたい! 今持ってる服飽きちゃったし、新しいのほしいんだよね」
仁花のリクエストに応えて、ハルは表通りのブティックへ向うことにした。
「いらっしゃいませ」
気品溢れる店内は、どれも高級そうなものばかり。その雰囲気に気後れした仁花は、取り繕うように次々と洋服を手に取った。
「これかわいい~! どっちがいいかなぁ。春彦さんはどっちがタイプ?」
「どっちも買うよ」
「えっ……いいの!? うれし~い!」
ハルに背を向けた仁花はこっそりと値札を見る。その額に、見間違いかともう一度丸の数を数えた。
「あとは?」
「あー、うん。今日はこれだけでいいかな。あたしに合う服はここにはないかも」
「そうか。それは悪かった」
仁花から洋服を受け取ると、それを店員へ渡しレジへ向かった。
ハルから離れ、会計が終わるのを一人待っていると、
──ピロリロリン……ピロリロ──
仁花は浮かない顔で、携帯電話を取り出し名前を確認する。
頭の中でこだまする着信音。
仁花は鳴り続ける電話を壊したくなった。
「次はどこ行こっかな~!」
店員に見送られ店を後にする二人。上機嫌に前を行く仁花の足が突然止まった。
「どうした?」
回り込んで顔色をうかがうと、仁花は店先に止まっている赤い車をジッと見つめている。その目はどこか怯えているよう。
「なんでもないよ、行こ!」
仁花はハルの手を引き足早にその車の横を通りすぎた。すると、
──ピロリロリン──
また仁花の携帯電話が鳴った。
その着信音が仁花の足を引き止めた。
仁花に掴まれた手がギュッとしめつけられ、ハルは少し首を動かし、横目で後ろを見ようとしたがやめた。
「ブロックしたらいい」
「……うん……そうだよね」
仁花は小さなカバンから取り出した、鳴り続ける携帯電話の電源を落とした。
ヒョコンと跳ねて現れた女の子。退屈そうに携帯電話をいじるハルの目が少女に向けられた。
「小山仁花です!」
車にもたれかかるハルは軽くうなずくと助手席のドアを開けた。
「乗りなさい」
仁花が乗り、ハルはドアを閉める。
車を軽く走らせたハルはその辺の路肩に車を寄せ、仁花に金を差し出した。
「え?」
「これを持ってすぐに降りなさい」
「……なんの冗談?」
「金が必要なんだろ? だったらこれで」
仁花は差し出すハルの手を両手で握る。
「デートがしたいの。あたし、ハルさんとデートがしたい」
「なにが目的だ」
「目的? ただそれだけだよ?」
「金はいらないのか?」
「……うん!」
握った手をハルへ押し返すと仁花は笑顔を向けた。
──ピロリロリン……ピロリロリン……──
「あたし喉渇いちゃったー」
「どこか寄ろうか」
「ね、この近くに今人気のカフェがあるんだって! 行ってみたいな~」
「場所は?」
「検索してみるね!」
と、携帯電話を取り出そうとしたその手が止まった。
「……あー、やっぱりいいや! ハルさんのオススメの場所に行きたいな!」
「オススメ……」
「よく行くカフェとかないの?」
「……わかった」
──ピロリロリン……ピロリロリ──
「ハルさんのハルってニックネーム?」
「ああ」
「本名はなぁに?」
「教えない」
「えー? いいじゃん、教えてよー」
「知ってどうする」
「だってハルさんのこと、名前で呼びたいんだもん」
「……トキワハルヒコ」
「ふふっ、苗字常磐なんだー。うちのクラスにもいるよ? かっこいいよね~! 名前はどんな漢字?」
「……季節の春に……彦星の彦」
「ひこぼし? 織姫と彦星の、彦星?」
「ああ」
「ふふ、春彦さん、結構ロマンチストだったりして」
──ピロリロリン……ピロリロ──
「電話、出ないのか?」
一度切れてはまた繰り返し鳴り続ける電話に、しびれを切らしたハルは言った。
「あー…いいのいいの! 最近変な電話かかってくるんだよね~」
そう言う彼女の表情はどこか不安そうだった。
「ね! あたし、お買い物がしたい! 今持ってる服飽きちゃったし、新しいのほしいんだよね」
仁花のリクエストに応えて、ハルは表通りのブティックへ向うことにした。
「いらっしゃいませ」
気品溢れる店内は、どれも高級そうなものばかり。その雰囲気に気後れした仁花は、取り繕うように次々と洋服を手に取った。
「これかわいい~! どっちがいいかなぁ。春彦さんはどっちがタイプ?」
「どっちも買うよ」
「えっ……いいの!? うれし~い!」
ハルに背を向けた仁花はこっそりと値札を見る。その額に、見間違いかともう一度丸の数を数えた。
「あとは?」
「あー、うん。今日はこれだけでいいかな。あたしに合う服はここにはないかも」
「そうか。それは悪かった」
仁花から洋服を受け取ると、それを店員へ渡しレジへ向かった。
ハルから離れ、会計が終わるのを一人待っていると、
──ピロリロリン……ピロリロ──
仁花は浮かない顔で、携帯電話を取り出し名前を確認する。
頭の中でこだまする着信音。
仁花は鳴り続ける電話を壊したくなった。
「次はどこ行こっかな~!」
店員に見送られ店を後にする二人。上機嫌に前を行く仁花の足が突然止まった。
「どうした?」
回り込んで顔色をうかがうと、仁花は店先に止まっている赤い車をジッと見つめている。その目はどこか怯えているよう。
「なんでもないよ、行こ!」
仁花はハルの手を引き足早にその車の横を通りすぎた。すると、
──ピロリロリン──
また仁花の携帯電話が鳴った。
その着信音が仁花の足を引き止めた。
仁花に掴まれた手がギュッとしめつけられ、ハルは少し首を動かし、横目で後ろを見ようとしたがやめた。
「ブロックしたらいい」
「……うん……そうだよね」
仁花は小さなカバンから取り出した、鳴り続ける携帯電話の電源を落とした。
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