皇帝に追放された騎士団長の試される忠義

大田ネクロマンサー

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第19話 珍しいクエスト

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 竜神に再会できたことを、メア達はともかくミオにさえ言えずにいた。それにユキに提案された家を持つ件についても有耶無耶にしたまま、日々が過ぎて行く。そんなある日、集会所の掲示板に珍しいクエストが張り出された。

『竜神のウロコ求む。報酬は全財産お渡しします。詳細は依頼者宅までお越しください』

 その切実な依頼内容に、隣にいたメアはため息をつきながらひとりごちる。

「こりゃすでにウロコを持っている奴専門のクエストだな。この広い大陸で竜神が何年かに一度落とす鱗を見つけるなんて到底不可能だよ」

 メアとユキがカウンターに行くのを、ミオと俺は横目で見送った。

「全財産って言ったって、貧乏人の可能性もあるしな。それにレジーは竜神のウロコを売るつもりはないんだろ?」

「竜神のウロコは万病に効くと言っていたな。このクエストの主は病気なのか?」

「わからないけど、全財産っていうからには本人なんじゃないか? レジーが気になるなら行くだけ行ってみるか?」

 ミオは悪い笑顔で微笑んでいる。しかし俺自身気になって仕方がないから、今日はこの依頼者の元へ足を運んでみることにした。

 この大陸には点々と集落が存在している。エルフのサニアが言っていた通り、一種族で巨大な集落を作ると、襲撃された場合種族の血が途絶える可能性がある。だから各地に点在する集落はどこも小さく、多種族で構成されていた。

 今回張り出されていた依頼の主は、集会所の一本道の森を一山越えた場所に位置する集落に住んでいるとのことだった。メア達に今日は別のクエストに行くと別れ、ミオと2人森を歩く。

「なんかレジーと2人っきりなんて久しぶりだな」

「テントでは2人で寝るじゃないか」

「こうやって2人で周りを気にせず話せるのなんかそうそうないだろ? 兄弟水入らずって感じ」

「そう言われればそうだな……」

「レジーはさ、やっぱりいつかは帝国に帰りたいと思ってるわけ?」

 唐突に投げられた質問の意図が分からず、歩みを止めてしまう。

「なぜそんなことを……」

「メア達に聞かれたんだ。家を構えるつもりはないのかって。レジーがなかなか俺に相談してこないから、そういうことなのかなって」

 俺は答えに窮し、しばらくミオを見つめた。ミオは俺を置いて歩き出す。ミオのブロンドが森の緑の中でサラサラと揺れた。

「それか、俺と暮らしたくないか」

「違う!」

「俺はレジーが帝国に帰りたいって言うんだったらついて行くよ。家を建てたって、レジーが俺をそこに置いて行くっていうなら、家なんていらない」

「なんで……」

「だって……兄弟だろ?」

 ミオの言う兄弟の定義がわからなくなる。家族というのであれば、離れてもその絆は失われないのではないか。

「もし……もし、レジーが一緒に住んでくれるなら、俺の宝物の秘密を教えてあげるよ。俺だけにしかわからない宝物の良さを……。そうしたら、それは2人の宝物になるだろ?」

 ミオが今どんな顔でそれを言っているのかわからない。でもその真摯さは十分伝わってきた。ミオは持てる財産を投げ打って俺にお願いしているのだ。

「なんて……。もし一緒に住むんだったらだよ?」

 ミオはいつもの調子で振り返り、俺の腕を引いて歩き出す。俺は船を降りたその時から、ずっとこうやって手を引かれてきた。それは、自分がどうしたいのかわからないまま、ただ生きているだけだった。



 依頼主の家は遠くからでもわかるほど豪華だった。ミオはそれに気づいた時から足取りが軽い。

「なぁ、レジー。竜神のウロコを持ってたって、竜神に会えるってわけじゃないだろ? 別に今日手放せってことを言ってるんじゃないんだ。ただ、ウロコは竜神に会うこととは関係ないってことを……」

「わかった。でも今日は話を聞くだけだ」

「わかってないよ! 竜神のウロコの採集クエストなんて全然出回らないから、売る方にしたってチャンスなんだよ! 病気になったって、竜神のウロコを買えるほど金を持ってるやつだって希少なんだ!」

 ミオは半ば怒りながら俺を説得する。安定のガメつさに安心する。

 豪華な屋敷は、近くで見ると更にその凄みを実感できる。この大陸でこんな豪華な屋敷を見たことがなかった。そしてその集落に点在する他の屋敷も然り。なにか商売をやっている者たちの集落なのだろうか。

 長い玄関アプローチを、駆け出しそうになるミオを抑えながら歩く。玄関もかなり巨大だった。扉をノックして訪問を知らせる。

 中から使用人らしき者が顔を出したので、集会場の張り紙を見て来たことを告げると、使用人は俺とミオの名前を問うた。俺が答えると、使用人は一度玄関扉を閉めて暫く待たされた後、ようやく中へ招き入れてくれる。

 使用人は、小さな体ながらとても筋肉質だった。髭を蓄え、見ようによっては上流貴族のようでもある。大きな応接間に通された時、使用人は振り返り、そして手を伸ばした。

「私が依頼主の、リディアードです。あなたのような高名な方が来てくれるなんて……感謝します。どうぞおかけください。使用人は今買い出しに行っておりまして……お茶を用意するので少々お待ちください」

「どうぞ、お構いなく」

 リディアードは少し笑って、部屋を後にする。俺は天井から垂れ下がった豪華なシャンデリアを眺める。色とりどりの透明な石が眩い光を放っていた。

「へへっ、俺たち少しは有名なんだな」

「ミオ、リディアードはエルフなのか?」

「ドワーフだよ。多分鉱脈を当てたからこんなに豪華な屋敷を持ってるんだな。俺たちやっぱりラッキーだぜ!」

「鉱脈……鉱業を営んでるのか?」

「大抵のドワーフはその小さな体と屈強な体躯をいかして鉱山で発掘をしている奴が多いよ。この大陸で防具や武器は必需品で、鉱石は引く手数多だからな……全財産というと……ふふふ」

 ミオは不気味な笑みを浮かべて皮算用をはじめる。そこにリディアードが香りの尾を引きながら、ティーセットを持ってきた。
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