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第18話 竜神の運命
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しばらくフカフカの竜神の胸に顔を埋め、彼が落ち着くのを待つ。しかし彼はとても不器用に俺の背中や尻を撫でて、興奮冷めやらぬ様子だった。それが積年の孤独を際立たせているようで、複雑な感慨を抱く。
「レジー……怖かっただろう……?」
彼の胸の中で首を横に振る。前回も全く同じように首を振っていた。
「レジー……レジーがもし……」
竜神はそれっきり黙ってしまった。そして背を撫でていた手を緩め、俺の胸に手を這わせた。僅かに竜神と俺との間に隙間ができて、彼は長い首を器用に折りたたんで顔を寄せた。そうして節くれ立った指がゆっくりと下に降りて行く。
怖がりながらも慈しむように触れる巨大な手が、足の付け根に到達する。その感触に思わず息を漏らした。
「貴方に守ってもらった操です。貴方に捧げたい。だから貴方を探していたのです」
竜神は鱗を逆立てながらブルッと震えた。
「竜神との性行は、契約なんだ。昔はそれで大陸の覇権を狙う者が無理やり番ったと聞いたことがある」
「契約?」
思わぬ話に聞き返してしまう。しかしさっきも疑問に思ったのだ。なぜ大陸に1個体というのならば発情があるのだろうと。
「番った者の寿命が……俺と同じになる……」
「寿命? 竜神は一体、何年生きるのです?」
竜神は黙った。それが答えだった。人族というのは生きてせいぜい80年程度。2倍や3倍ではないから竜神は黙ったのだろう。
「なにもかも捨てて……俺と……」
言葉を詰まらせ、胸を震わせ、竜神が言葉を絞り出した時、脳裏をよぎったのはミオの顔だった。寿命が伸びるということはミオを看取るということ。俺はどんな姿でミオを見送るというのだろう。
手に力が入り、竜神の胸の毛を掴んでしまう。
「ご、ごめん。困らせるようなことばかり言って……今日は会いにきてくれてありがとう……」
心の歪みからか、高音が多くなった竜神の声は洞窟を駆け上がり空に吸い込まれて行く。
「レジーはこんなに美しいんだ。だから……お礼に操を差し出すなんて、そんな悲しいことをしないで」
「違う……貴方に相応しくないだけだ……」
彼はまた両手で俺を包み、抱き寄せた。
それから今までの時間を埋めるかのように竜神と他愛もない話をした。彼は他種族に見つかるとすぐに鱗や爪、ツノや尻尾に至るまで剥ぎ取られてしまうから、こうやって人目のつかない場所で休んでいること。サニアは竜神の世話役一族で、秘匿を守りダーニャのような淫魔を貸し出してくれること。その報酬に売れば高値になる、爪を渡していること。そして、竜神は200年程度生きているということ。
スケールの大きな話に圧倒させられてばかりで、俺は聞く側に徹してしまう。だからだろうか、懐かしい匂いのする彼の腕の中で、いつのまにか眠ってしまった。
朝、前のように寝藁の中で1人目覚める。そして俺はひとつの疑問を抱く。俺はなぜ、竜神の願いを叶えられないのだ、と。この大陸に渡ってきた当初はどんな感情も皇帝陛下に傾き流れていた。焦燥感に駆られ、はやく死に場所を決めたいとすら思っていた。しかし竜神の胸で眠った日から、そのやり場のない気持ちの向く先は彼に変わったはずだ。
やっと会えたのに。竜神の優しさに甘え、なんと残酷な受け答えをしたのだろう。どうして俺は……。
「レジーどこほっつき歩いてたんだよ! メアとユキはもう採集クエストに行っちゃったよ!」
堂々巡りの自問自答をしている間に俺は集会所の一本道を歩いて帰ってきていた。ミオの声で我に返るも、どうやって歩いてきたのか思い出せない。自分の行動に驚いて、あけすけなことを聞いてしまう。
「ミオには心に決めた女性がいるのか?」
「え? なんだよ急に。竜神にフラれちゃったのか?」
ミオは茶化すが俺は顔を緩めなかった。
「俺にはレジーしかいないよ。でも、別に俺はレジーと一緒にいれればいいんだ。だって兄弟だろ?」
ミオの言葉と表情に一点の曇りもなかった。しかし俺の心には暗雲が立ち込めたのだ。
「レジー……怖かっただろう……?」
彼の胸の中で首を横に振る。前回も全く同じように首を振っていた。
「レジー……レジーがもし……」
竜神はそれっきり黙ってしまった。そして背を撫でていた手を緩め、俺の胸に手を這わせた。僅かに竜神と俺との間に隙間ができて、彼は長い首を器用に折りたたんで顔を寄せた。そうして節くれ立った指がゆっくりと下に降りて行く。
怖がりながらも慈しむように触れる巨大な手が、足の付け根に到達する。その感触に思わず息を漏らした。
「貴方に守ってもらった操です。貴方に捧げたい。だから貴方を探していたのです」
竜神は鱗を逆立てながらブルッと震えた。
「竜神との性行は、契約なんだ。昔はそれで大陸の覇権を狙う者が無理やり番ったと聞いたことがある」
「契約?」
思わぬ話に聞き返してしまう。しかしさっきも疑問に思ったのだ。なぜ大陸に1個体というのならば発情があるのだろうと。
「番った者の寿命が……俺と同じになる……」
「寿命? 竜神は一体、何年生きるのです?」
竜神は黙った。それが答えだった。人族というのは生きてせいぜい80年程度。2倍や3倍ではないから竜神は黙ったのだろう。
「なにもかも捨てて……俺と……」
言葉を詰まらせ、胸を震わせ、竜神が言葉を絞り出した時、脳裏をよぎったのはミオの顔だった。寿命が伸びるということはミオを看取るということ。俺はどんな姿でミオを見送るというのだろう。
手に力が入り、竜神の胸の毛を掴んでしまう。
「ご、ごめん。困らせるようなことばかり言って……今日は会いにきてくれてありがとう……」
心の歪みからか、高音が多くなった竜神の声は洞窟を駆け上がり空に吸い込まれて行く。
「レジーはこんなに美しいんだ。だから……お礼に操を差し出すなんて、そんな悲しいことをしないで」
「違う……貴方に相応しくないだけだ……」
彼はまた両手で俺を包み、抱き寄せた。
それから今までの時間を埋めるかのように竜神と他愛もない話をした。彼は他種族に見つかるとすぐに鱗や爪、ツノや尻尾に至るまで剥ぎ取られてしまうから、こうやって人目のつかない場所で休んでいること。サニアは竜神の世話役一族で、秘匿を守りダーニャのような淫魔を貸し出してくれること。その報酬に売れば高値になる、爪を渡していること。そして、竜神は200年程度生きているということ。
スケールの大きな話に圧倒させられてばかりで、俺は聞く側に徹してしまう。だからだろうか、懐かしい匂いのする彼の腕の中で、いつのまにか眠ってしまった。
朝、前のように寝藁の中で1人目覚める。そして俺はひとつの疑問を抱く。俺はなぜ、竜神の願いを叶えられないのだ、と。この大陸に渡ってきた当初はどんな感情も皇帝陛下に傾き流れていた。焦燥感に駆られ、はやく死に場所を決めたいとすら思っていた。しかし竜神の胸で眠った日から、そのやり場のない気持ちの向く先は彼に変わったはずだ。
やっと会えたのに。竜神の優しさに甘え、なんと残酷な受け答えをしたのだろう。どうして俺は……。
「レジーどこほっつき歩いてたんだよ! メアとユキはもう採集クエストに行っちゃったよ!」
堂々巡りの自問自答をしている間に俺は集会所の一本道を歩いて帰ってきていた。ミオの声で我に返るも、どうやって歩いてきたのか思い出せない。自分の行動に驚いて、あけすけなことを聞いてしまう。
「ミオには心に決めた女性がいるのか?」
「え? なんだよ急に。竜神にフラれちゃったのか?」
ミオは茶化すが俺は顔を緩めなかった。
「俺にはレジーしかいないよ。でも、別に俺はレジーと一緒にいれればいいんだ。だって兄弟だろ?」
ミオの言葉と表情に一点の曇りもなかった。しかし俺の心には暗雲が立ち込めたのだ。
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