20 / 47
第19話 珍しいクエスト
しおりを挟む
竜神に再会できたことを、メア達はともかくミオにさえ言えずにいた。それにユキに提案された家を持つ件についても有耶無耶にしたまま、日々が過ぎて行く。そんなある日、集会所の掲示板に珍しいクエストが張り出された。
『竜神のウロコ求む。報酬は全財産お渡しします。詳細は依頼者宅までお越しください』
その切実な依頼内容に、隣にいたメアはため息をつきながらひとりごちる。
「こりゃすでにウロコを持っている奴専門のクエストだな。この広い大陸で竜神が何年かに一度落とす鱗を見つけるなんて到底不可能だよ」
メアとユキがカウンターに行くのを、ミオと俺は横目で見送った。
「全財産って言ったって、貧乏人の可能性もあるしな。それにレジーは竜神のウロコを売るつもりはないんだろ?」
「竜神のウロコは万病に効くと言っていたな。このクエストの主は病気なのか?」
「わからないけど、全財産っていうからには本人なんじゃないか? レジーが気になるなら行くだけ行ってみるか?」
ミオは悪い笑顔で微笑んでいる。しかし俺自身気になって仕方がないから、今日はこの依頼者の元へ足を運んでみることにした。
この大陸には点々と集落が存在している。エルフのサニアが言っていた通り、一種族で巨大な集落を作ると、襲撃された場合種族の血が途絶える可能性がある。だから各地に点在する集落はどこも小さく、多種族で構成されていた。
今回張り出されていた依頼の主は、集会所の一本道の森を一山越えた場所に位置する集落に住んでいるとのことだった。メア達に今日は別のクエストに行くと別れ、ミオと2人森を歩く。
「なんかレジーと2人っきりなんて久しぶりだな」
「テントでは2人で寝るじゃないか」
「こうやって2人で周りを気にせず話せるのなんかそうそうないだろ? 兄弟水入らずって感じ」
「そう言われればそうだな……」
「レジーはさ、やっぱりいつかは帝国に帰りたいと思ってるわけ?」
唐突に投げられた質問の意図が分からず、歩みを止めてしまう。
「なぜそんなことを……」
「メア達に聞かれたんだ。家を構えるつもりはないのかって。レジーがなかなか俺に相談してこないから、そういうことなのかなって」
俺は答えに窮し、しばらくミオを見つめた。ミオは俺を置いて歩き出す。ミオのブロンドが森の緑の中でサラサラと揺れた。
「それか、俺と暮らしたくないか」
「違う!」
「俺はレジーが帝国に帰りたいって言うんだったらついて行くよ。家を建てたって、レジーが俺をそこに置いて行くっていうなら、家なんていらない」
「なんで……」
「だって……兄弟だろ?」
ミオの言う兄弟の定義がわからなくなる。家族というのであれば、離れてもその絆は失われないのではないか。
「もし……もし、レジーが一緒に住んでくれるなら、俺の宝物の秘密を教えてあげるよ。俺だけにしかわからない宝物の良さを……。そうしたら、それは2人の宝物になるだろ?」
ミオが今どんな顔でそれを言っているのかわからない。でもその真摯さは十分伝わってきた。ミオは持てる財産を投げ打って俺にお願いしているのだ。
「なんて……。もし一緒に住むんだったらだよ?」
ミオはいつもの調子で振り返り、俺の腕を引いて歩き出す。俺は船を降りたその時から、ずっとこうやって手を引かれてきた。それは、自分がどうしたいのかわからないまま、ただ生きているだけだった。
依頼主の家は遠くからでもわかるほど豪華だった。ミオはそれに気づいた時から足取りが軽い。
「なぁ、レジー。竜神のウロコを持ってたって、竜神に会えるってわけじゃないだろ? 別に今日手放せってことを言ってるんじゃないんだ。ただ、ウロコは竜神に会うこととは関係ないってことを……」
「わかった。でも今日は話を聞くだけだ」
「わかってないよ! 竜神のウロコの採集クエストなんて全然出回らないから、売る方にしたってチャンスなんだよ! 病気になったって、竜神のウロコを買えるほど金を持ってるやつだって希少なんだ!」
ミオは半ば怒りながら俺を説得する。安定のガメつさに安心する。
豪華な屋敷は、近くで見ると更にその凄みを実感できる。この大陸でこんな豪華な屋敷を見たことがなかった。そしてその集落に点在する他の屋敷も然り。なにか商売をやっている者たちの集落なのだろうか。
長い玄関アプローチを、駆け出しそうになるミオを抑えながら歩く。玄関もかなり巨大だった。扉をノックして訪問を知らせる。
中から使用人らしき者が顔を出したので、集会場の張り紙を見て来たことを告げると、使用人は俺とミオの名前を問うた。俺が答えると、使用人は一度玄関扉を閉めて暫く待たされた後、ようやく中へ招き入れてくれる。
使用人は、小さな体ながらとても筋肉質だった。髭を蓄え、見ようによっては上流貴族のようでもある。大きな応接間に通された時、使用人は振り返り、そして手を伸ばした。
「私が依頼主の、リディアードです。あなたのような高名な方が来てくれるなんて……感謝します。どうぞおかけください。使用人は今買い出しに行っておりまして……お茶を用意するので少々お待ちください」
「どうぞ、お構いなく」
リディアードは少し笑って、部屋を後にする。俺は天井から垂れ下がった豪華なシャンデリアを眺める。色とりどりの透明な石が眩い光を放っていた。
「へへっ、俺たち少しは有名なんだな」
「ミオ、リディアードはエルフなのか?」
「ドワーフだよ。多分鉱脈を当てたからこんなに豪華な屋敷を持ってるんだな。俺たちやっぱりラッキーだぜ!」
「鉱脈……鉱業を営んでるのか?」
「大抵のドワーフはその小さな体と屈強な体躯をいかして鉱山で発掘をしている奴が多いよ。この大陸で防具や武器は必需品で、鉱石は引く手数多だからな……全財産というと……ふふふ」
ミオは不気味な笑みを浮かべて皮算用をはじめる。そこにリディアードが香りの尾を引きながら、ティーセットを持ってきた。
『竜神のウロコ求む。報酬は全財産お渡しします。詳細は依頼者宅までお越しください』
その切実な依頼内容に、隣にいたメアはため息をつきながらひとりごちる。
「こりゃすでにウロコを持っている奴専門のクエストだな。この広い大陸で竜神が何年かに一度落とす鱗を見つけるなんて到底不可能だよ」
メアとユキがカウンターに行くのを、ミオと俺は横目で見送った。
「全財産って言ったって、貧乏人の可能性もあるしな。それにレジーは竜神のウロコを売るつもりはないんだろ?」
「竜神のウロコは万病に効くと言っていたな。このクエストの主は病気なのか?」
「わからないけど、全財産っていうからには本人なんじゃないか? レジーが気になるなら行くだけ行ってみるか?」
ミオは悪い笑顔で微笑んでいる。しかし俺自身気になって仕方がないから、今日はこの依頼者の元へ足を運んでみることにした。
この大陸には点々と集落が存在している。エルフのサニアが言っていた通り、一種族で巨大な集落を作ると、襲撃された場合種族の血が途絶える可能性がある。だから各地に点在する集落はどこも小さく、多種族で構成されていた。
今回張り出されていた依頼の主は、集会所の一本道の森を一山越えた場所に位置する集落に住んでいるとのことだった。メア達に今日は別のクエストに行くと別れ、ミオと2人森を歩く。
「なんかレジーと2人っきりなんて久しぶりだな」
「テントでは2人で寝るじゃないか」
「こうやって2人で周りを気にせず話せるのなんかそうそうないだろ? 兄弟水入らずって感じ」
「そう言われればそうだな……」
「レジーはさ、やっぱりいつかは帝国に帰りたいと思ってるわけ?」
唐突に投げられた質問の意図が分からず、歩みを止めてしまう。
「なぜそんなことを……」
「メア達に聞かれたんだ。家を構えるつもりはないのかって。レジーがなかなか俺に相談してこないから、そういうことなのかなって」
俺は答えに窮し、しばらくミオを見つめた。ミオは俺を置いて歩き出す。ミオのブロンドが森の緑の中でサラサラと揺れた。
「それか、俺と暮らしたくないか」
「違う!」
「俺はレジーが帝国に帰りたいって言うんだったらついて行くよ。家を建てたって、レジーが俺をそこに置いて行くっていうなら、家なんていらない」
「なんで……」
「だって……兄弟だろ?」
ミオの言う兄弟の定義がわからなくなる。家族というのであれば、離れてもその絆は失われないのではないか。
「もし……もし、レジーが一緒に住んでくれるなら、俺の宝物の秘密を教えてあげるよ。俺だけにしかわからない宝物の良さを……。そうしたら、それは2人の宝物になるだろ?」
ミオが今どんな顔でそれを言っているのかわからない。でもその真摯さは十分伝わってきた。ミオは持てる財産を投げ打って俺にお願いしているのだ。
「なんて……。もし一緒に住むんだったらだよ?」
ミオはいつもの調子で振り返り、俺の腕を引いて歩き出す。俺は船を降りたその時から、ずっとこうやって手を引かれてきた。それは、自分がどうしたいのかわからないまま、ただ生きているだけだった。
依頼主の家は遠くからでもわかるほど豪華だった。ミオはそれに気づいた時から足取りが軽い。
「なぁ、レジー。竜神のウロコを持ってたって、竜神に会えるってわけじゃないだろ? 別に今日手放せってことを言ってるんじゃないんだ。ただ、ウロコは竜神に会うこととは関係ないってことを……」
「わかった。でも今日は話を聞くだけだ」
「わかってないよ! 竜神のウロコの採集クエストなんて全然出回らないから、売る方にしたってチャンスなんだよ! 病気になったって、竜神のウロコを買えるほど金を持ってるやつだって希少なんだ!」
ミオは半ば怒りながら俺を説得する。安定のガメつさに安心する。
豪華な屋敷は、近くで見ると更にその凄みを実感できる。この大陸でこんな豪華な屋敷を見たことがなかった。そしてその集落に点在する他の屋敷も然り。なにか商売をやっている者たちの集落なのだろうか。
長い玄関アプローチを、駆け出しそうになるミオを抑えながら歩く。玄関もかなり巨大だった。扉をノックして訪問を知らせる。
中から使用人らしき者が顔を出したので、集会場の張り紙を見て来たことを告げると、使用人は俺とミオの名前を問うた。俺が答えると、使用人は一度玄関扉を閉めて暫く待たされた後、ようやく中へ招き入れてくれる。
使用人は、小さな体ながらとても筋肉質だった。髭を蓄え、見ようによっては上流貴族のようでもある。大きな応接間に通された時、使用人は振り返り、そして手を伸ばした。
「私が依頼主の、リディアードです。あなたのような高名な方が来てくれるなんて……感謝します。どうぞおかけください。使用人は今買い出しに行っておりまして……お茶を用意するので少々お待ちください」
「どうぞ、お構いなく」
リディアードは少し笑って、部屋を後にする。俺は天井から垂れ下がった豪華なシャンデリアを眺める。色とりどりの透明な石が眩い光を放っていた。
「へへっ、俺たち少しは有名なんだな」
「ミオ、リディアードはエルフなのか?」
「ドワーフだよ。多分鉱脈を当てたからこんなに豪華な屋敷を持ってるんだな。俺たちやっぱりラッキーだぜ!」
「鉱脈……鉱業を営んでるのか?」
「大抵のドワーフはその小さな体と屈強な体躯をいかして鉱山で発掘をしている奴が多いよ。この大陸で防具や武器は必需品で、鉱石は引く手数多だからな……全財産というと……ふふふ」
ミオは不気味な笑みを浮かべて皮算用をはじめる。そこにリディアードが香りの尾を引きながら、ティーセットを持ってきた。
17
あなたにおすすめの小説
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
いきなり有能になった俺の主人は、人生を何度も繰り返しているらしい
一花みえる
BL
ベルリアンの次期当主、ノア・セシル・キャンベルの従者ジョシュアは頭を抱えていた。自堕落でわがままだったノアがいきなり有能になってしまった。なんでも「この世界を繰り返している」らしい。ついに気が狂ったかと思ったけど、なぜか事態はノアの言葉通りに進んでいって……?
転生して王子になったボクは、王様になるまでノラリクラリと生きるはずだった
angel
BL
つまらないことで死んでしまったボクを不憫に思った神様が1つのゲームを持ちかけてきた。
『転生先で王様になれたら元の体に戻してあげる』と。
生まれ変わったボクは美貌の第一王子で兄弟もなく、将来王様になることが約束されていた。
「イージーゲームすぎね?」とは思ったが、この好条件をありがたく受け止め
現世に戻れるまでノラリクラリと王子様生活を楽しむはずだった…。
完結しました。
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる
ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。
・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。
・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。
・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。
婚約破棄された俺の農業異世界生活
深山恐竜
BL
「もう一度婚約してくれ」
冤罪で婚約破棄された俺の中身は、異世界転生した農学専攻の大学生!
庶民になって好きなだけ農業に勤しんでいたら、いつの間にか「畑の賢者」と呼ばれていた。
そこに皇子からの迎えが来て復縁を求められる。
皇子の魔の手から逃げ回ってると、幼馴染みの神官が‥。
(ムーンライトノベルズ様、fujossy様にも掲載中)
(第四回fujossy小説大賞エントリー中)
欠陥Ωは孤独なα令息に愛を捧ぐ あなたと過ごした五年間
華抹茶
BL
旧題:あなたと過ごした五年間~欠陥オメガと強すぎるアルファが出会ったら~
子供の時の流行り病の高熱でオメガ性を失ったエリオット。だがその時に前世の記憶が蘇り、自分が異性愛者だったことを思い出す。オメガ性を失ったことを喜び、ベータとして生きていくことに。
もうすぐ学園を卒業するという時に、とある公爵家の嫡男の家庭教師を探しているという話を耳にする。その仕事が出来たらいいと面接に行くと、とんでもなく美しいアルファの子供がいた。
だがそのアルファの子供は、質素な別館で一人でひっそりと生活する孤独なアルファだった。その理由がこの子供のアルファ性が強すぎて誰も近寄れないからというのだ。
だがエリオットだけはそのフェロモンの影響を受けなかった。家庭教師の仕事も決まり、アルファの子供と接するうちに心に抱えた傷を知る。
子供はエリオットに心を開き、懐き、甘えてくれるようになった。だが子供が成長するにつれ少しずつ二人の関係に変化が訪れる。
アルファ性が強すぎて愛情を与えられなかった孤独なアルファ×オメガ性を失いベータと偽っていた欠陥オメガ
●オメガバースの話になります。かなり独自の設定を盛り込んでいます。
●最終話まで執筆済み(全47話)。完結保障。毎日更新。
●Rシーンには※つけてます。
わがまま放題の悪役令息はイケメンの王に溺愛される
水ノ瀬 あおい
BL
若くして王となった幼馴染のリューラと公爵令息として生まれた頃からチヤホヤされ、神童とも言われて調子に乗っていたサライド。
昔は泣き虫で気弱だったリューラだが、いつの間にか顔も性格も身体つきも政治手腕も剣の腕も……何もかも完璧で、手の届かない眩しい存在になっていた。
年下でもあるリューラに何一つ敵わず、不貞腐れていたサライド。
リューラが国民から愛され、称賛される度にサライドは少し憎らしく思っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる