皇帝に追放された騎士団長の試される忠義

大田ネクロマンサー

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第20話 覇権者の答え

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「今回の依頼は誠実そうな方にお願いしたいと思っておりました」

 ティーカップを差し出しながらリディアードはそう切り出した。

「半年前にこの大陸に渡ってきた人族とのことで……。すみません集会所に依頼書を貼り出すときに所属メンバーのリストをいただいていたのです。この大陸に来る人族は犯罪者と聞き及んだことがありますが、ギルドでも信頼されている人族は珍しい」

「おい、値踏みする気か! 別にこんなクエスト請けなくたって俺たちは……」

 ミオは怒り出しティーカップを乱暴にテーブルに置く。

「ミオ、事実だ。彼を責めてはならない」

 俺の名誉を守ろうとしたミオの背を撫でてやると、ミオは鼻を鳴らしてそっぽ向いた。リディアードは俺に申し訳ないといった視線を送ってから、静かに語りだす。

「私の妻は3年前に亡くなりました。その妻との間に1人、子宝に恵まれまして。その子の病気を治したく今回の依頼を。本来であれば私が探しに出るべきなのでしょうが……」

「どういった病気なのですか?」

「ドワーフ特有の病気です。妻も……その病気で亡くなりました。見ての通り、私は仕事人間でして。財を成すことが家族への愛だと、そう信じて疑わなかったのです。妻が亡くなって泣き腫らす娘を見るまで、私は気づけなかった」

「それと、依頼を受ける奴の素性となにが関係あるっていうんだ。ただでさえ難しいクエストなのに。人を選ぶような真似をして!」

「ミオ、やめなさい。申し訳ない、自分はこの大陸に来て日が浅く、根本的なことがわかっていないのですが、例えば回復魔法といったものは効かないのですか?」

 俺の素朴な疑問に答えたのはミオだった。

「回復魔法は、破傷なんかの突発的な怪我にしか効かない。破傷でも欠損した部位が焼かれたりしたら復元不可能だ。原因と事象大きさとその時間の分だけ詠唱が必要なんだ。もしそれができるなんていうヒーラーがいたら、それは詐欺師だよ」

 やけに詳しい説明に俺は驚いた。思えばミオもユキも人族の末裔なのに、ユキは詠唱が苦手だという。それは知識の差なのか、力量の差なのか、そんなことに疑問を抱いたことすらなかった。

「その言葉であなたを信頼することができます。ミオ。そしてレシオン、あなたが疑問に思うことは私も疑問に感じ、様々な者に騙されてきました。だから、あなた方のような誠実な方を待っていた。例え竜神のウロコが見つからなくとも……」

「おい、全財産って……おっさんもその病気にかかっているのかよ!」

 思ってもみなかったミオの推測に、俺と、そしてリディアードも目を見開く。しかしリディアードはみるみると涙を溜めて手で顔を覆った。

「女のドワーフにしかかからない病気です。代われるものなら、代わってやりたい……。私が差し出せる誠意は財産しかございません。しかし財を成せば成すほど集まってくるには不誠実な者ばかり。娘が助からないことはわかっています。ただ、娘との最後の時間を、希望を持って過ごしたいのです。私には信頼できる冒険者がいて、その者がきっと竜神のウロコを持ってきてくれる。そう娘に安心をさせてやりたいのです……その時間が買えるのであればなんだって……」

 その告白で、彼が味わってきた苦渋を切実に感じる。仕事に時間を捧げた人生で得られたものは不誠実な者が集まる財産のみ。娘が助けられないのであれば、せめて娘を安心させる信頼が欲しい。全財産とは彼の覚悟を知らしめるものだったのだ。

「リディアード。娘さんに会うことはできますか?」

「ええ、ええ!」

 彼は涙を拭い、しゃくり上げながら立ち上がった。俺とミオも立ち上がり後に続く。

 娘の部屋は2階の南向きの部屋だった。部屋は眩しいほどに明るく、それが彼女を慮るリディアードの愛と、彼女の病状を浮き彫りにしていた。

「コリン、今日は冒険者さんが来てくれたよ」

 コリンと呼ばれる娘は肌が骨につくほど痩せ細り、父親の呼びかけにも答えられないようだった。ミオはリディアードのすぐ後を歩き、ベッドに着くなり膝を折って顔を寄せた。

「俺はミオ、16歳だ。コリンは何歳だ?」

「ここ……のつ……」

 9歳。種族に違いもあるとは思うが、それにしても小さく細い。

「あっちの大きいのはレジー。レジーは何歳なんだ?」

「26歳だ。コリン、はじめまして。レシオン・ド・ミゼルだ。コリンもレジーと呼んでくれ」

 俺が側に寄ると、コリンは目を見開いた。

「お、おおきい……」

「はは、レジーは体はデカいけど、中身はこどもなんだ」

「こども?」

「そうさ。でも腕っぷしだけはいいんだよな。暴れると大変なんだ。聞き分けがないし」

 コリンはふふっと笑う。そして目を細めた拍子にそのまま眠ってしまった。

「すみません、体力が無くてすぐ眠ってしまうんです」

「いえ、貴重な時間を割いて紹介いただきありがとうございます」

 リディアードはなにか言いたげに手を揉んでいた。それを見たミオは声を上げた。
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