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第22話 宵の雷鳴
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今日こそはミオがどこに行くのか突き止めるつもりだった。しかしそう遠くに行っていないはずだ、という慢心が時間を無駄に浪費させる結果になった。辺りは暗く、ミオも見失い、遂には自分がどこを歩いているのかもわからなくなってしまう。
とにかく来た道を探すか、と諦めかけた時小さな洞窟から灯が漏れているのを見つける。直感的にミオだと思った。だからなんの躊躇いもなしに洞窟へ駆け込んだ。
「ミオ! ミオ!」
しかし眼前に現れた影はミオの何倍も大きく、なんの警戒も無しに飛び込んだことを後悔するほどだった。咄嗟に剣を抜き身構える。
その音に気づいたであろう巨体はゆっくりと起き上がる。竜神だった。
「レジー……よかった。身ぐるみ剥がされると思ったよ。レジーは俺の隠れ家を探すのが得意だね……」
奥に焚き火が焚かれており、輪郭しかわからなかったが、その声は紛れもなく竜神だった。それに震えていることから、また発情しているのであろう。
「ここに男の子は来ませんでしたか?」
「いや、来ていないよ。来ていたら、俺はもう移動している」
そう言われればそうかと思う。それと同時に、俺だった場合には逃げないという事実に胸が震えた。
竜神は俺を抱こうとそっと手を伸ばした。しかし今自分が抱えている欲望を隠して彼の優しさに甘んじるのは、卑怯だとも思った。
「貴方に折り入ってお願いしたいことがあるのです」
竜神の手が俺の前でピタッと止まり、その先で長い首が伸びた。俺は意を決して言葉を振り絞る。
「貴方のウロコを1枚いただけないでしょうか」
目の前にあった巨大な手がキュッと握られた。
「なにに使うの?」
竜神の声に高音の成分が多くなる。俺は彼の親切に甘んじてあまつさえ自分の欲望を押し付けようとしているのだ。彼の気持ちを利用して。その事実から目を背けてはならない。
「病気の女の子を……助けたいのです……」
意図的にミオのことを隠した。それは竜神には俺の奥底に眠る欲望を知られていて、ミオが男性だからに他ならない。
「最初に会った時に、1枚置いていったはずだ」
俺は雷に打たれたような衝撃で絶句してしまう。ウロコは勝手に抜け落ちたものだとばかり思っていた。しかしウロコは竜神が意図的に渡したものだったのだ。
嫌な汗が体中から噴き出し、声を発することもできず、ただただ呆然と立ち尽くしていた。そこに彼の手がゆっくり伸びてきて、頬の前で止まる。
「俺はレジーを困らせてばかりだね」
竜神の冷たい指先が俺の頬に軽く触れたと思ったら、その手はすぐに引っ込められた。そして彼はその手で自身の反対側の腕からウロコを引きちぎる。シルエットでもわかるほど、体液が飛び出した。それに驚き駆け寄ろうとした時、竜神はこっちに来るなとばかりに、ウロコを差し出した。
「美しいって言ってくれた時、嬉しくて……」
竜神は言葉を詰まらせ、ウロコを受け取ることを待っていた。しかし俺が躊躇っているうちに、彼は地面にそっとそれを置いた。
急に腕が引っ込められたと思ったら、竜神は一瞬で上昇する。慌てて奥に駆け出し見上げると、そこから断末魔のような咆哮が降り注いだ。
そして天井だと思っていたそこから激しい雨が降り注ぐ。この洞窟もまた、天井がぽっかり空いていたのだ。
雨に打たれて、俺は自身の所業を省みる。どれだけ竜神の気持ちを踏み躙り、傷つけたかを。俺は彼だったらわかってくれるという驕りがあった。しかし本当にわかってもらわなければならないことを意図的に隠しもした。
俺は彼と共に生きたい。しかしミオという恩人を捨てて自分だけが幸せになることに葛藤がある。だから、ミオに恩を返すまで待っていて欲しい。そう言えば済むことなのに。
竜神にも、ミオにも。
俺はまだ自分を隠していたのだ。ミオには薄情な自分を、竜神には強情な自分を。
無造作に置かれたウロコを拾い上げた時、その事実に胸が破れ、膝から崩れ落ちる。しかしいくら嘆き悲しんだところで、なにもかも無かったことにはならないのだ。
とにかく来た道を探すか、と諦めかけた時小さな洞窟から灯が漏れているのを見つける。直感的にミオだと思った。だからなんの躊躇いもなしに洞窟へ駆け込んだ。
「ミオ! ミオ!」
しかし眼前に現れた影はミオの何倍も大きく、なんの警戒も無しに飛び込んだことを後悔するほどだった。咄嗟に剣を抜き身構える。
その音に気づいたであろう巨体はゆっくりと起き上がる。竜神だった。
「レジー……よかった。身ぐるみ剥がされると思ったよ。レジーは俺の隠れ家を探すのが得意だね……」
奥に焚き火が焚かれており、輪郭しかわからなかったが、その声は紛れもなく竜神だった。それに震えていることから、また発情しているのであろう。
「ここに男の子は来ませんでしたか?」
「いや、来ていないよ。来ていたら、俺はもう移動している」
そう言われればそうかと思う。それと同時に、俺だった場合には逃げないという事実に胸が震えた。
竜神は俺を抱こうとそっと手を伸ばした。しかし今自分が抱えている欲望を隠して彼の優しさに甘んじるのは、卑怯だとも思った。
「貴方に折り入ってお願いしたいことがあるのです」
竜神の手が俺の前でピタッと止まり、その先で長い首が伸びた。俺は意を決して言葉を振り絞る。
「貴方のウロコを1枚いただけないでしょうか」
目の前にあった巨大な手がキュッと握られた。
「なにに使うの?」
竜神の声に高音の成分が多くなる。俺は彼の親切に甘んじてあまつさえ自分の欲望を押し付けようとしているのだ。彼の気持ちを利用して。その事実から目を背けてはならない。
「病気の女の子を……助けたいのです……」
意図的にミオのことを隠した。それは竜神には俺の奥底に眠る欲望を知られていて、ミオが男性だからに他ならない。
「最初に会った時に、1枚置いていったはずだ」
俺は雷に打たれたような衝撃で絶句してしまう。ウロコは勝手に抜け落ちたものだとばかり思っていた。しかしウロコは竜神が意図的に渡したものだったのだ。
嫌な汗が体中から噴き出し、声を発することもできず、ただただ呆然と立ち尽くしていた。そこに彼の手がゆっくり伸びてきて、頬の前で止まる。
「俺はレジーを困らせてばかりだね」
竜神の冷たい指先が俺の頬に軽く触れたと思ったら、その手はすぐに引っ込められた。そして彼はその手で自身の反対側の腕からウロコを引きちぎる。シルエットでもわかるほど、体液が飛び出した。それに驚き駆け寄ろうとした時、竜神はこっちに来るなとばかりに、ウロコを差し出した。
「美しいって言ってくれた時、嬉しくて……」
竜神は言葉を詰まらせ、ウロコを受け取ることを待っていた。しかし俺が躊躇っているうちに、彼は地面にそっとそれを置いた。
急に腕が引っ込められたと思ったら、竜神は一瞬で上昇する。慌てて奥に駆け出し見上げると、そこから断末魔のような咆哮が降り注いだ。
そして天井だと思っていたそこから激しい雨が降り注ぐ。この洞窟もまた、天井がぽっかり空いていたのだ。
雨に打たれて、俺は自身の所業を省みる。どれだけ竜神の気持ちを踏み躙り、傷つけたかを。俺は彼だったらわかってくれるという驕りがあった。しかし本当にわかってもらわなければならないことを意図的に隠しもした。
俺は彼と共に生きたい。しかしミオという恩人を捨てて自分だけが幸せになることに葛藤がある。だから、ミオに恩を返すまで待っていて欲しい。そう言えば済むことなのに。
竜神にも、ミオにも。
俺はまだ自分を隠していたのだ。ミオには薄情な自分を、竜神には強情な自分を。
無造作に置かれたウロコを拾い上げた時、その事実に胸が破れ、膝から崩れ落ちる。しかしいくら嘆き悲しんだところで、なにもかも無かったことにはならないのだ。
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