すれ違う輪、重なる道

紅子

文字の大きさ
6 / 8

神域

しおりを挟む
翌日の朝早くから、私達は蒼貴に乗って神域を目指した。とはいっても、実際に入り口まで行くのは、神獣達と私、そして絶対に行くと譲らなかったアルの6人。エドガー、ロザンナ、シュバルツ、フェルナンは、途中で待機だ。蒼貴に乗ること2日。私達は見覚えのある場所に降り立った。

「蒼貴、ここって・・・・」

「ああ、シェリアの箱庭があった場所だ」

「ここから、我らで2日程行ったところに神域への入り口のひとつがある」

「少し行くと神域への入り口に繋がる分岐点があるんだよ。普通はその分岐点で弾かれちゃう」

「シェリアさんや。箱庭を展開してくれんかの」

緑葉の要請で私はすぐに箱庭を出した。そして、中に入り、これからのことを決める。

今日のおやつは・・・・
・モンブラン
・煎餅
・生キャラメル
飲み物は、ダージリンかコーヒー

明日の朝、私とアルは神獣達に連れられて神域を目指す。エドガー達は魔獣を狩りながらここで私たちを待つ。箱庭はここに残るエドガー達のために据え置いていくけど、必ず誰かひとりは箱庭に残らなければならない。箱庭が消えてしまうからだ。話しが決まってから、私は久しぶりに大変な思いを味わった。私とアル、従魔達のご飯とおやつを大量に、そして残るメンバーのご飯とおやつを大量に作りおきという何の罰ゲーム?的なお仕事をこなしたからだ。それぞれにリクエストもあって、ぶち切れそうになりながら深夜まで頑張った。そして、翌日私達はエドガー達に後を任せて神域へと旅立った。

大きくなった白銀にアルとふたりで乗って森の中を駆け抜ける。蒼貴も紅蓮も緑葉も元の大きさだ。白銀は初めのうちは馬と変わらないくらいのスピードだったのに、いきなりスピードを増した。

「し・ろ・が・ね~、おちるぅ~」

「しっかり捕まっておけよ」

「ハァ・・・・」

アルは溜め息と共に私を囲う腕に力を込めた。私は、後ろから被さるようにアルに支えられている。私の握力だけでは白銀から落ちてしまうのだ。いや、いくら風魔法で風圧を調整しているとはいえ、周りの景色が白く見える速さで走っているんだから、落ちない方がおかしい。鞍もないのにバランスを崩すこともなく、私を支える余裕のあるアルがおかしいに決まっている。それだけのスピードを出しているのに木や岩にぶつかることはない。不思議なことに、スピードを増したあたりから障害物が彼らを避けているのだ。どうやらそこが神域へと通じる道の分岐点だったのかもしれない。

「白銀、そろそろシェリアが限界だ。今日はこのあたりまでだ」

「仕方ないな。では、この先に泉があるからそこで休むとしよう。蒼貴、紅蓮、緑葉もいいな?」

「分かった」「うん。了解」「仕方ないのぉ」

お手数をかけます。でも本当に限界なんです。腕も足も力が入りません。お尻、痛い。少し前から、白銀にベッタリとへばりついて、アルが私の全てを支えている。やっと泉が見えてきた。

伏せをした白銀からアルが私を下ろしてくれる。転がり落ちる力もない。まさに、満身創痍。この期に及んで、私を抱えながら居場所を整えるアルの体力はどうなっているのか。

「シェリア、念のため結果を張ってくれ。今日はここで休む」

神獣がいれば、魔獣は寄ってこないとは思うけど、何が起こるかわからないからね。その神獣達はというと、人型になりご飯を食べ始めている。次々と出しているけど、無くなっても作れないよ?私とアルも自分達の分を出して食べ、私はどうやら途中で眠ってしまったようだ。

夜中、ふと目が覚めてしまった。白銀のもふもふに包まれ、アルに抱えられている。私を囲むように蒼貴、紅蓮、緑葉が眠っているのか分かった。月明かりが私達を照らす。この世界の月は、丸いまま欠けることはない。丸い月がふたつ。あと2日もすれば重なりあい、あたかもひとつのようになる。ぼんやりとそれを眺めていると、意識がくらりと傾いた?

「シェリア、明日もある。眠れ」

あれ?気のせい?

アルは私を深く抱え直すと髪をすいて眠りを促してくれる。その気持ち良さにとろとろと意識が溶けていった。

それから、同じ事を2日も繰り返した。2日目の途中からはしがみつくこともできず、白銀に紐で括られた。つらい。

「神域の入り口が見えてきたぞ」

やっと、やっとです。もう2度と来たくない!

入り口の前で白銀が立ち止まった。

「ここだ」

「「・・・・」」

・・・・。木のうろ
これ、入れるの?
白銀達、どれくらいまで小さくなるの?
え、私とアルは大きさ変わらないよ?

「私にしっかりと捕まっておけよ」

「この大きさで入れるの?」

「心配するな」

「入れなかったら、白銀から落ちるだけだから」

「そうじゃの。怪我はせんよ」

いやいや、木にぶつかったら痛いよね?怪我するよね?

「ああ、あれはぶつかっても痛くないぞ」

そうなの?久しぶりに異世界の不思議だ。

「シェリアが入れねば、アルフォンスも入れぬだろうが、もし、アルフォンスだけが入れなかったときは我がここで共に待とう」

「シェリア、私が入れなかったら、すぐに戻ってこい。いいな?」

「分かった。白銀、よろしくね」

「行くぞ」

私は片手で白銀にぎゅっと捕まり、もう一方の手をアルの腕に回した。アルも私の腰を支え、片手で白銀の鬣を掴んでいる。白銀が虚に向かって走り出した。私は、ぎゅっと目をつぶりその瞬間に備える。

「着いたぞ」

白銀の声に恐る恐る目を開けると、そこは・・・・。なんというか、メルヘン?な世界だった。私の後ろにはちゃんとアルもいて、ポカンと口を開けている。

分かるよ。
アルの混乱ぶりはよく分かる。
なんとも受け入れがたい光景だよね。

足元の花に見えていたそれは、野菜スティク。
空中には葡萄やオレンジ、桃などの果物が浮かんでる。
遠くには赤い実のなる木。
向こうでキラキラ光るのは何だろう?湖?川?池?

「無事に入れたようじゃの」

緑葉の声で我に還った。無意識に掴み匂いを嗅いでいたオレンジをこそっと空中に返した。危うく、食べるところだったよ。

「ここが神域・・・・」

ポツリとアルが呟いた。まだ、呆然としているのかもしれない。

「シェリアさんや、何処に向かえばいいんじゃ?」

「あっ。えーと、綺麗な湖のあるところなんどけど、わかる?」

「どんな湖だ?」

「周りを高い木に囲まれてて、木漏れ日にキラキラしてて・・・・」

「そうではない。何色でどんな飲み物の湖だと聞いているんだ」

「え?・・え?どんな飲み物?湖に味があるの?」

「あるよ。ミルクの湖でしょ。ダージリンの湖でしょ。エスプレッソの湖でしょ。水の湖でしょ。あとは・・・・」

「あっ、水の湖だよ」

あー、なんてメルヘン。
湖がそれなら、川もきっと普通じゃないよね。

白銀に乗って、神域を案内してもらいながら、湖を目指した。案の定、川には水ではなく、ジュースが流れ、実のなる木には肉がなり、低木にはパンがなっていた。食べ物には困らないけど、調理するということがないから飽きるそうだ。だから、白銀は私と初めて会った日に食べた唐揚げに衝撃を受けたそうだ。その場で従魔契約したもんね。

「ここか?シェリア」

「たぶん」

「ここは滅多に誰も来ない」

そうだろうなと思いながら私達は白銀から降りて、湖の際まで近寄った。高い木が幾重にも湖を囲い、低い木には色とりどりのパン。木漏れ日を受けてキラキラと輝く湖は、底まで透けて見えるほどの透明度で、深さがわからない。白銀と蒼貴は、直接湖から水を飲んでいる。私も少し喉が乾いた。そう思って、手を水に浸した・・・・途端に・・・・湖の真ん中から波紋が広がり、こぽこぽと泡が弾け・・・・。

アルは、即座に私を抱き上げ湖から距離をとった。緑葉、紅蓮、白銀、蒼貴も私達と湖を隔てるように対峙している。

泡はその後もこぽこぽと出続けた。何が起こってもいいように、誰もそれから目を逸らさない。どれくらいそうしていたか。泡が止まった。次の瞬間、勢いよく、バサッと何が湖から飛び出した。

水が引き、それが姿を現す。



え?光の玉?

「なんだ、あれは?」

白銀の知らないものを私たちが知るわけがない。危険なものなのか、そうでないのかすら分からない。

《ようこそ。いらっしゃいませ~♪》

この場にそぐわないポップな音楽、それこそ、お手軽クッキング番組を彷彿とさせるような軽薄なメロディーと共に、これも緊張感の欠片もない高い声が響いた。

《ご注文は何になさいますか?次からお選びくださいぃ♪》

《1.スキル消滅・・・・お代は、番の印》

《2.スキル封印浄化・・・・お代は、番の印》

《3.スキル分離浄化・・・・お代は、番の印》

《どれになさいますか?》


ふざけてる。
遊ばれてるとしか思えない。

「・・・・どれも要りません」

ダダーン・ダン・・・・

音楽が突然変わった。軽やかで軽薄なメロディーから重苦しくドロドロとしたものになり、追い詰めるように鳴り響く。

《では、そんなあなたには、これを差し上げましょう》

低く嘲るかのような声がして、私の左胸が黒く輝いた。

《またのご来店を心よりお待ち致しております♪》

ポチャン・・・・

湖に消えた。
私達は、唖然とそれを見つめるしかなかった。



「シェリア!!!」

「え?」

アルの叫び声に、声のする方を見て何が起こったのか分からなかった。私は何かに包まれて浮かんでいるのだ。いつ、アルから離れたのかも分からなかった。

「アル!!!アル!!!アル!!!」

手を伸ばしてもアルに届かない。アルは、私を捕まえようとありったけの力でジャンプを繰り返し、蒼貴や紅蓮も私を捕まえようと私の周りを飛んでいるけど、かすりもしない。私は掻き消えるようにそこから連れ去られ、その衝撃で、気を失った。

「シェリア!!!!!!」

アルの私を呼ぶ声が最後に聞こえた気がした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

精霊王だが、人間界の番が虐げられているので助けたい!

七辻ゆゆ
恋愛
あんなに可愛いものをいじめるなんてどうかしている! 助けたい。でも彼女が16になるまで迎えに行けない。人間界にいる精霊たちよ、助けてくれ!

『完結』番に捧げる愛の詩

灰銀猫
恋愛
番至上主義の獣人ラヴィと、無残に終わった初恋を引きずる人族のルジェク。 ルジェクを番と認識し、日々愛を乞うラヴィに、ルジェクの答えは常に「否」だった。 そんなルジェクはある日、血を吐き倒れてしまう。 番を失えば狂死か衰弱死する運命の獣人の少女と、余命僅かな人族の、短い恋のお話。 以前書いた物で完結済み、3万文字未満の短編です。 ハッピーエンドではありませんので、苦手な方はお控えください。 これまでの作風とは違います。 他サイトでも掲載しています。

彼女は白を選ばない

黒猫子猫
恋愛
ヴェルークは、深い悲しみと苦しみの中で、運命の相手とも言える『番』ティナを見つけた。気高く美しかったティナを護り、熱烈に求愛したつもりだったが、彼女はどうにもよそよそしい。 プロポーズしようとすれば、『やめて』と嫌がる。彼女の両親を押し切ると、渋々ながら結婚を受け入れたはずだったが、花嫁衣装もなかなか決めようとしない。 そんなティナに、ヴェルークは苦笑するしかなかった。前世でも、彼女は自分との結婚を拒んでいたからだ。 ※短編『彼が愛した王女はもういない』の関連作となりますが、これのみでも読めます。

ただの新米騎士なのに、竜王陛下から妃として所望されています

柳葉うら
恋愛
北の砦で新米騎士をしているウェンディの相棒は美しい雄の黒竜のオブシディアン。 領主のアデルバートから譲り受けたその竜はウェンディを主人として認めておらず、背中に乗せてくれない。 しかしある日、砦に現れた刺客からオブシディアンを守ったウェンディは、武器に使われていた毒で生死を彷徨う。 幸にも目覚めたウェンディの前に現れたのは――竜王を名乗る美丈夫だった。 「命をかけ、勇気を振り絞って助けてくれたあなたを妃として迎える」 「お、畏れ多いので結構です!」 「それではあなたの忠実なしもべとして仕えよう」 「もっと重い提案がきた?!」 果たしてウェンディは竜王の求婚を断れるだろうか(※断れません。溺愛されて押されます)。 さくっとお読みいただけますと嬉しいです。

貴方は私の番です、結婚してください!

ましろ
恋愛
ようやく見つけたっ! それはまるで夜空に輝く真珠星のように、彼女だけが眩しく浮かび上がった。 その輝きに手を伸ばし、 「貴方は私の番ですっ、結婚して下さい!」 「は?お断りしますけど」 まさか断られるとは思わず、更には伸ばした腕をむんずと掴まれ、こちらの勢いを利用して投げ飛ばされたのだ! 番を見つけた獣人の男と、番の本能皆無の人間の女の求婚劇。 ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

恋愛小説に踊らされている婚約者様へ。悪役令嬢になりますので早めの婚約破棄を所望します

ゆずこしょう
恋愛
巷で流行っている一冊の本がある。 その本の名は 「ラブロマンスは突然に…」 平民女性が貴族男性に見染められ、やがて王妃になるという、なんとも言えないシンデレラストーリーだ。 しかし意外にもこういったストーリーは男女問わず人気がある。 そして、そういった時に現れるのは…夢見る女の子と勘違いした男…。 まさか自分の婚約者に限ってそんなことは無いだろうと思いたいのだが… 「いったたたたた…すみませぇーん。大丈夫ですか?」 「すまない…君こそ大丈夫だったかい?」 って、そんなベタベタな始まりあってたまるか! と思っているのも束の間。まさかのベタベタな展開が始まったのである。

【完結】黒茨の魔女と金眼の下僕

灰銀猫
恋愛
孤児ゆえに神官になっても侮られて過重な仕事を押し付けられる主人公。ある日身に覚えのない噂を理由に辺境の砦に異動となるが、道中で護衛の騎士に襲われる。胸を剣で貫かれた衝撃で前世の自分が魔女だったと思い出した主人公は…… 三百年生きた魔女の前世を持つ主人公と、魔女の転生を待ち続けた元暗殺者の物語です。 ※タイトル変えました(旧黒魔女と金の下僕) データ消したので書き直して投稿再開します。 ふんわり設定のご都合主義の話なので、広いお心でお読みください。

あなたのためなら

天海月
恋愛
エルランド国の王であるセルヴィスは、禁忌魔術を使って偽の番を騙った女レクシアと婚約したが、嘘は露見し婚約破棄後に彼女は処刑となった。 その後、セルヴィスの真の番だという侯爵令嬢アメリアが現れ、二人は婚姻を結んだ。 アメリアは心からセルヴィスを愛し、彼からの愛を求めた。 しかし、今のセルヴィスは彼女に愛を返すことが出来なくなっていた。 理由も分からないアメリアは、セルヴィスが愛してくれないのは自分の行いが悪いからに違いないと自らを責めはじめ、次第に歯車が狂っていく。 全ては偽の番に過度のショックを受けたセルヴィスが、衝動的に行ってしまった或ることが原因だった・・・。

処理中です...