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私は祈りを捧げてすぐに回りの空気が変わったのを感じ取った。
「まあ、もうそんな年なのね」
暢気な声が目を閉じている私の耳に響く。
「女神様。何のご用ですか?」
目を閉じたまま声の主に呆れを隠さずに問いかけた。
「特にないわ。せっかく愛し子が来たのだから、もてなすのは当然でしょう?」
「遅くなると怪しまれるのですが・・・・」
「心配ご無用よ。時を止めたから、あちらでは一瞬。さあ、お茶にしましょう」
私は仕方なく目を開けて女神様のお茶に付き合うことにした。料理長特製の季節のフルーツタルトを出す。色とりどりのフルーツをのせたタルトは見た目にも女神様好みだと思う。
「まあ。なんて綺麗なの!」
やっぱり、お気に召したようだ。他にも猫型や葡萄型のクッキーや薔薇型のマドレーヌを進呈した。大変ご機嫌になった。
「ねぇ、これは私の世界で広めてはくれないのかしら?」
「そんなことしたら、女神の愛し子だってバレるでしょ?」
「ええ~・・・・。バラしちゃいましょう?」
「嫌よ。女神なのに約束を破るつもり?・・・・ハァ。お兄様が領主になった後、広めるつもりよ」
「!絶対よ?でも、その方が無難ね」
女神様もそう思うんだ。私の決断は間違ってないってことか。
「そろそろ帰してくれない?」
お茶も二杯目がなくなった。タルトも食べた。かれこれ体感で2刻ー2時間ほどここにいる。もういいでしょう?
「そうね。新しいものができたらこれに入れてね?」
渡されたのはバラの描かれた安そうな蓋付きの箱。プラスチック?くれると言っても要らない、本当に安っぽい箱。ゴミ箱にしてもいいだろうか?
「何か言いたそうね?」
「いいえ、何も・・・・」
この箱に入れると女神様に届く仕様の一見便利な箱は、間違っていれると返ってこない不親切な一品だった。
「あなたの能力は、調薬特級と植物魔法よ。生活するにはいい能力だと思うわ」
確かに。生活力は必要。
「有難うございます。さようなら」
最後、呆れた顔を見せた女神様だったが、手を振って送り出してくれた。また空気が変わったのを感じ、目を開けると女神様像がある。戻ってきたようだ。
「授かりました」
「どうであった?」
「・・・・」
国王陛下の問い掛けであっても答える義務はない。能力は大切なもの。軽々しく教えたりはしない。私がなかなか口を開かないため、周りも焦れたようだ。
「特別な能力はあったのか?」
宰相が言葉を変えて聞いてきた。
「ごく一般的なものだと思います」
この言葉に若干の落胆はあったものの、私が本命ではない。リルアイゼに期待の眼差しが向けられた。リルアイゼが何故私を先にやらせたのか理由が分かった。この眼差しを浴びたかったのだ。
「では、リルアイゼよ。授かって参れ」
「はい」
鈴を転がしたような可愛らしい声と笑顔で国王陛下に答えたリルアイゼは、一歩一歩ゆっくりと勿体ぶるように女神像に向かって歩いていった。リルアイゼの一挙手一投足に私以外の全ての人が注目している。私はというと、神殿の隅でそれを見ていた。女神像の前でリルアイゼは祈りを捧げる。傍目には何も起こっていないかのようにみえた。
「授かりました」
えー、あんな短い間だったの?一瞬。瞬きするくらいの時間。
「して、どうであった?」
「えーと。ひとつだけよく分からない称号を戴きました」
「おお!」
その場に居合わせた人たちから期待の声が上がる。
溜めるねぇ、リルアイゼも。
「その称号とは?」
「女神の愛し子、とか」
「おおおおおお!!!!!」
怒号のような歓喜の声が神殿に響き渡った。私はただ、やっぱり愛し子の存在を知っていたのか、としか思わなかった。
「リルアイゼ、本当にその称号を戴いたの?」
そんな中、お兄様だけが懐疑的だった。何故?
「お兄様はわたくしが嘘をついているとでも?」
いやいや、嘘ついてるし。
「王都に発つ数日前、私と父上の話を聞いていたよね?」
「・・・・何のことですの?」
若干目が泳いだが、リルアイゼは惚けることにしたようだ。お兄様はじっとリルアイゼの目を見たまま視線を逸らさない。
がんばれ!リルアイゼ!私の代わりに愛し子として頑張っておくれ!
「ライナス。いい加減にしないか!リルが嘘などつくはずないだろう?」
「そうですわ。リルは本当に女神の愛し子の称号を授かったのですよ。素晴らしいことだと思わないの?」
「女神の愛し子ならば、素晴らしいことだと思いますよ」
王太子殿下の言葉はリルアイゼを肯定しているようで実際は、お兄様寄りなようだ。本人にしか真偽が分からない以上、盲目的に信じることはできないといった感じか。
「確かに、真偽のほどは本人にしか分かるまい。だが、リルアイゼから歴代の愛し子に勝るとも劣らない魔力を感じ取れる。他にどんな能力を戴いた?」
国王陛下はリルアイゼの見た目と魔力量から本物と思っているようだ。
「ええ。全属性の能力を戴きました」
「おおおおお!」
「教育次第では戦闘・防御共に開花させることが可能ということか。リルアイゼよ。此度の世界の災厄とはどのようなものか、己の役割は分かるか?」
「そ、それは。えっと・・・・、この能力を磨き、えーと、上位種の討伐をすれば収まりますが、有能な仲間が必要ですわ」
そうきたか。ありがちだけど、納得できる理由と役割ではある。
「どうやら、リルアイゼは歴代の愛し子と同様、お役目を分かっているし、愛し子で間違いないだろう」
「陛下。このような場では落ち着いて話もできませんから、場所を移されてはいかがでしょう?」
こうして、リルアイゼは国王陛下から愛し子として認定された。溜め息をつくお兄様。誇らしさを隠しきれないお祖父様とお祖母様。満面の笑みでリルアイゼを抱き締める両親。ほくそ笑む宰相。皮算用していそうな国王陛下。チラチラとリルアイゼを見る第3王子。そして、王太子殿下は・・・・、何故かじっと探るような眼差しで私を見ていた。
「まあ、もうそんな年なのね」
暢気な声が目を閉じている私の耳に響く。
「女神様。何のご用ですか?」
目を閉じたまま声の主に呆れを隠さずに問いかけた。
「特にないわ。せっかく愛し子が来たのだから、もてなすのは当然でしょう?」
「遅くなると怪しまれるのですが・・・・」
「心配ご無用よ。時を止めたから、あちらでは一瞬。さあ、お茶にしましょう」
私は仕方なく目を開けて女神様のお茶に付き合うことにした。料理長特製の季節のフルーツタルトを出す。色とりどりのフルーツをのせたタルトは見た目にも女神様好みだと思う。
「まあ。なんて綺麗なの!」
やっぱり、お気に召したようだ。他にも猫型や葡萄型のクッキーや薔薇型のマドレーヌを進呈した。大変ご機嫌になった。
「ねぇ、これは私の世界で広めてはくれないのかしら?」
「そんなことしたら、女神の愛し子だってバレるでしょ?」
「ええ~・・・・。バラしちゃいましょう?」
「嫌よ。女神なのに約束を破るつもり?・・・・ハァ。お兄様が領主になった後、広めるつもりよ」
「!絶対よ?でも、その方が無難ね」
女神様もそう思うんだ。私の決断は間違ってないってことか。
「そろそろ帰してくれない?」
お茶も二杯目がなくなった。タルトも食べた。かれこれ体感で2刻ー2時間ほどここにいる。もういいでしょう?
「そうね。新しいものができたらこれに入れてね?」
渡されたのはバラの描かれた安そうな蓋付きの箱。プラスチック?くれると言っても要らない、本当に安っぽい箱。ゴミ箱にしてもいいだろうか?
「何か言いたそうね?」
「いいえ、何も・・・・」
この箱に入れると女神様に届く仕様の一見便利な箱は、間違っていれると返ってこない不親切な一品だった。
「あなたの能力は、調薬特級と植物魔法よ。生活するにはいい能力だと思うわ」
確かに。生活力は必要。
「有難うございます。さようなら」
最後、呆れた顔を見せた女神様だったが、手を振って送り出してくれた。また空気が変わったのを感じ、目を開けると女神様像がある。戻ってきたようだ。
「授かりました」
「どうであった?」
「・・・・」
国王陛下の問い掛けであっても答える義務はない。能力は大切なもの。軽々しく教えたりはしない。私がなかなか口を開かないため、周りも焦れたようだ。
「特別な能力はあったのか?」
宰相が言葉を変えて聞いてきた。
「ごく一般的なものだと思います」
この言葉に若干の落胆はあったものの、私が本命ではない。リルアイゼに期待の眼差しが向けられた。リルアイゼが何故私を先にやらせたのか理由が分かった。この眼差しを浴びたかったのだ。
「では、リルアイゼよ。授かって参れ」
「はい」
鈴を転がしたような可愛らしい声と笑顔で国王陛下に答えたリルアイゼは、一歩一歩ゆっくりと勿体ぶるように女神像に向かって歩いていった。リルアイゼの一挙手一投足に私以外の全ての人が注目している。私はというと、神殿の隅でそれを見ていた。女神像の前でリルアイゼは祈りを捧げる。傍目には何も起こっていないかのようにみえた。
「授かりました」
えー、あんな短い間だったの?一瞬。瞬きするくらいの時間。
「して、どうであった?」
「えーと。ひとつだけよく分からない称号を戴きました」
「おお!」
その場に居合わせた人たちから期待の声が上がる。
溜めるねぇ、リルアイゼも。
「その称号とは?」
「女神の愛し子、とか」
「おおおおおお!!!!!」
怒号のような歓喜の声が神殿に響き渡った。私はただ、やっぱり愛し子の存在を知っていたのか、としか思わなかった。
「リルアイゼ、本当にその称号を戴いたの?」
そんな中、お兄様だけが懐疑的だった。何故?
「お兄様はわたくしが嘘をついているとでも?」
いやいや、嘘ついてるし。
「王都に発つ数日前、私と父上の話を聞いていたよね?」
「・・・・何のことですの?」
若干目が泳いだが、リルアイゼは惚けることにしたようだ。お兄様はじっとリルアイゼの目を見たまま視線を逸らさない。
がんばれ!リルアイゼ!私の代わりに愛し子として頑張っておくれ!
「ライナス。いい加減にしないか!リルが嘘などつくはずないだろう?」
「そうですわ。リルは本当に女神の愛し子の称号を授かったのですよ。素晴らしいことだと思わないの?」
「女神の愛し子ならば、素晴らしいことだと思いますよ」
王太子殿下の言葉はリルアイゼを肯定しているようで実際は、お兄様寄りなようだ。本人にしか真偽が分からない以上、盲目的に信じることはできないといった感じか。
「確かに、真偽のほどは本人にしか分かるまい。だが、リルアイゼから歴代の愛し子に勝るとも劣らない魔力を感じ取れる。他にどんな能力を戴いた?」
国王陛下はリルアイゼの見た目と魔力量から本物と思っているようだ。
「ええ。全属性の能力を戴きました」
「おおおおお!」
「教育次第では戦闘・防御共に開花させることが可能ということか。リルアイゼよ。此度の世界の災厄とはどのようなものか、己の役割は分かるか?」
「そ、それは。えっと・・・・、この能力を磨き、えーと、上位種の討伐をすれば収まりますが、有能な仲間が必要ですわ」
そうきたか。ありがちだけど、納得できる理由と役割ではある。
「どうやら、リルアイゼは歴代の愛し子と同様、お役目を分かっているし、愛し子で間違いないだろう」
「陛下。このような場では落ち着いて話もできませんから、場所を移されてはいかがでしょう?」
こうして、リルアイゼは国王陛下から愛し子として認定された。溜め息をつくお兄様。誇らしさを隠しきれないお祖父様とお祖母様。満面の笑みでリルアイゼを抱き締める両親。ほくそ笑む宰相。皮算用していそうな国王陛下。チラチラとリルアイゼを見る第3王子。そして、王太子殿下は・・・・、何故かじっと探るような眼差しで私を見ていた。
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