愛し子は自由のために、愛され妹の嘘を放置する

紅子

文字の大きさ
9 / 29

しおりを挟む
私は祈りを捧げてすぐに回りの空気が変わったのを感じ取った。

「まあ、もうそんな年なのね」

暢気な声が目を閉じている私の耳に響く。

「女神様。何のご用ですか?」

目を閉じたまま声の主に呆れを隠さずに問いかけた。

「特にないわ。せっかく愛し子が来たのだから、もてなすのは当然でしょう?」

「遅くなると怪しまれるのですが・・・・」

「心配ご無用よ。時を止めたから、あちらでは一瞬。さあ、お茶にしましょう」

私は仕方なく目を開けて女神様のお茶に付き合うことにした。料理長特製の季節のフルーツタルトを出す。色とりどりのフルーツをのせたタルトは見た目にも女神様好みだと思う。

「まあ。なんて綺麗なの!」

やっぱり、お気に召したようだ。他にも猫型や葡萄型のクッキーや薔薇型のマドレーヌを進呈した。大変ご機嫌になった。

「ねぇ、これは私の世界で広めてはくれないのかしら?」

「そんなことしたら、女神の愛し子だってバレるでしょ?」

「ええ~・・・・。バラしちゃいましょう?」

「嫌よ。女神なのに約束を破るつもり?・・・・ハァ。お兄様が領主になった後、広めるつもりよ」

「!絶対よ?でも、その方が無難ね」

女神様もそう思うんだ。私の決断は間違ってないってことか。

「そろそろ帰してくれない?」

お茶も二杯目がなくなった。タルトも食べた。かれこれ体感で2刻ー2時間ほどここにいる。もういいでしょう?

「そうね。新しいものができたらこれに入れてね?」

渡されたのはバラの描かれた安そうな蓋付きの箱。プラスチック?くれると言っても要らない、本当に安っぽい箱。ゴミ箱にしてもいいだろうか?

「何か言いたそうね?」

「いいえ、何も・・・・」

この箱に入れると女神様に届く仕様の一見便利迷惑な箱は、間違っていれると返ってこない不親切な一品だった。

「あなたの能力は、調薬特級と植物魔法よ。生活するにはいい能力だと思うわ」

確かに。生活力は必要。

「有難うございます。さようなら」

最後、呆れた顔を見せた女神様だったが、手を振って送り出してくれた。また空気が変わったのを感じ、目を開けると女神様像がある。戻ってきたようだ。

「授かりました」

「どうであった?」

「・・・・」

国王陛下の問い掛けであっても答える義務はない。能力は大切なもの。軽々しく教えたりはしない。私がなかなか口を開かないため、周りも焦れたようだ。

「特別な能力はあったのか?」

宰相が言葉を変えて聞いてきた。

「ごく一般的なものだと思います」

この言葉に若干の落胆はあったものの、私が本命ではない。リルアイゼに期待の眼差しが向けられた。リルアイゼが何故私を先にやらせたのか理由が分かった。この眼差しを浴びたかったのだ。

「では、リルアイゼよ。授かって参れ」

「はい」

鈴を転がしたような可愛らしい声と笑顔で国王陛下に答えたリルアイゼは、一歩一歩ゆっくりと勿体ぶるように女神像に向かって歩いていった。リルアイゼの一挙手一投足に私以外の全ての人が注目している。私はというと、神殿の隅でそれを見ていた。女神像の前でリルアイゼは祈りを捧げる。傍目には何も起こっていないかのようにみえた。

「授かりました」

えー、あんな短い間だったの?一瞬。瞬きするくらいの時間。

「して、どうであった?」

「えーと。ひとつだけよく分からない称号を戴きました」

「おお!」

その場に居合わせた人たちから期待の声が上がる。
溜めるねぇ、リルアイゼも。

「その称号とは?」

「女神の愛し子、とか」

「おおおおおお!!!!!」

怒号のような歓喜の声が神殿に響き渡った。私はただ、やっぱり愛し子の存在を知っていたのか、としか思わなかった。

「リルアイゼ、本当にその称号を戴いたの?」

そんな中、お兄様だけが懐疑的だった。何故?

「お兄様はわたくしが嘘をついているとでも?」

いやいや、嘘ついてるし。

「王都に発つ数日前、私と父上の話を聞いていたよね?」

「・・・・何のことですの?」

若干目が泳いだが、リルアイゼは惚けることにしたようだ。お兄様はじっとリルアイゼの目を見たまま視線を逸らさない。

がんばれ!リルアイゼ!私の代わりに愛し子として頑張っておくれ!

「ライナス。いい加減にしないか!リルが嘘などつくはずないだろう?」

「そうですわ。リルは本当に女神の愛し子の称号を授かったのですよ。素晴らしいことだと思わないの?」

「女神の愛し子ならば、素晴らしいことだと思いますよ」

王太子殿下の言葉はリルアイゼを肯定しているようで実際は、お兄様寄りなようだ。本人にしか真偽が分からない以上、盲目的に信じることはできないといった感じか。

「確かに、真偽のほどは本人にしか分かるまい。だが、リルアイゼから歴代の愛し子に勝るとも劣らない魔力を感じ取れる。他にどんな能力を戴いた?」

国王陛下はリルアイゼの見た目と魔力量から本物と思っているようだ。

「ええ。全属性の能力を戴きました」

「おおおおお!」

「教育次第では戦闘・防御共に開花させることが可能ということか。リルアイゼよ。此度の世界の災厄とはどのようなものか、己の役割は分かるか?」

「そ、それは。えっと・・・・、この能力を磨き、えーと、上位種の討伐をすれば収まりますが、有能な仲間が必要ですわ」

そうきたか。ありがちだけど、納得できる理由と役割ではある。

「どうやら、リルアイゼは歴代の愛し子と同様、お役目を分かっているし、愛し子で間違いないだろう」

「陛下。このような場では落ち着いて話もできませんから、場所を移されてはいかがでしょう?」

こうして、リルアイゼは国王陛下から愛し子として認定された。溜め息をつくお兄様。誇らしさを隠しきれないお祖父様とお祖母様。満面の笑みでリルアイゼを抱き締める両親。ほくそ笑む宰相。皮算用していそうな国王陛下。チラチラとリルアイゼを見る第3王子。そして、王太子殿下は・・・・、何故かじっと探るような眼差しで私を見ていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹は謝らない

青葉めいこ
恋愛
物心つく頃から、わたくし、ウィスタリア・アーテル公爵令嬢の物を奪ってきた双子の妹エレクトラは、当然のように、わたくしの婚約者である第二王子さえも奪い取った。 手に入れた途端、興味を失くして放り出すのはいつもの事だが、妹の態度に怒った第二王子は口論の末、妹の首を絞めた。 気絶し、目覚めた妹は、今までの妹とは真逆な人間になっていた。 「彼女」曰く、自分は妹の前世の人格だというのだ。 わたくしが恋する義兄シオンにも前世の記憶があり、「彼女」とシオンは前世で因縁があるようで――。 「彼女」と会った時、シオンは、どうなるのだろう? 小説家になろうにも投稿しています。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

(完)貴女は私の全てを奪う妹のふりをする他人ですよね?

青空一夏
恋愛
公爵令嬢の私は婚約者の王太子殿下と優しい家族に、気の合う親友に囲まれ充実した生活を送っていた。それは完璧なバランスがとれた幸せな世界。 けれど、それは一人の女のせいで歪んだ世界になっていくのだった。なぜ私がこんな思いをしなければならないの? 中世ヨーロッパ風異世界。魔道具使用により現代文明のような便利さが普通仕様になっている異世界です。

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました

さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア 姉の婚約者は第三王子 お茶会をすると一緒に来てと言われる アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる ある日姉が父に言った。 アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね? バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

(完結)その女は誰ですか?ーーあなたの婚約者はこの私ですが・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はシーグ侯爵家のイルヤ。ビドは私の婚約者でとても真面目で純粋な人よ。でも、隣国に留学している彼に会いに行った私はそこで思いがけない光景に出くわす。 なんとそこには私を名乗る女がいたの。これってどういうこと? 婚約者の裏切りにざまぁします。コメディ風味。 ※この小説は独自の世界観で書いておりますので一切史実には基づきません。 ※ゆるふわ設定のご都合主義です。 ※元サヤはありません。

【完結】女王と婚約破棄して義妹を選んだ公爵には、痛い目を見てもらいます。女王の私は田舎でのんびりするので、よろしくお願いしますね。

五月ふう
恋愛
「シアラ。お前とは婚約破棄させてもらう。」 オークリィ公爵がシアラ女王に婚約破棄を要求したのは、結婚式の一週間前のことだった。 シアラからオークリィを奪ったのは、妹のボニー。彼女はシアラが苦しんでいる姿を見て、楽しそうに笑う。 ここは南の小国ルカドル国。シアラは御年25歳。 彼女には前世の記憶があった。 (どうなってるのよ?!)   ルカドル国は現在、崩壊の危機にある。女王にも関わらず、彼女に使える使用人は二人だけ。賃金が払えないからと、他のものは皆解雇されていた。 (貧乏女王に転生するなんて、、、。) 婚約破棄された女王シアラは、頭を抱えた。前世で散々な目にあった彼女は、今回こそは幸せになりたいと強く望んでいる。 (ひどすぎるよ、、、神様。金髪碧眼の、誰からも愛されるお姫様に転生させてって言ったじゃないですか、、、。) 幸せになれなかった前世の分を取り返すため、女王シアラは全力でのんびりしようと心に決めた。 最低な元婚約者も、継妹も知ったこっちゃない。 (もう婚約破棄なんてされずに、幸せに過ごすんだーー。)

婚約破棄でみんな幸せ!~嫌われ令嬢の円満婚約解消術~

春野こもも
恋愛
わたくしの名前はエルザ=フォーゲル、16才でございます。 6才の時に初めて顔をあわせた婚約者のレオンハルト殿下に「こんな醜女と結婚するなんて嫌だ! 僕は大きくなったら好きな人と結婚したい!」と言われてしまいました。そんな殿下に憤慨する家族と使用人。 14歳の春、学園に転入してきた男爵令嬢と2人で、人目もはばからず仲良く歩くレオンハルト殿下。再び憤慨するわたくしの愛する家族や使用人の心の安寧のために、エルザは円満な婚約解消を目指します。そのために作成したのは「婚約破棄承諾書」。殿下と男爵令嬢、お二人に愛を育んでいただくためにも、後はレオンハルト殿下の署名さえいただければみんな幸せ婚約破棄が成立します! 前編・後編の全2話です。残酷描写は保険です。 【小説家になろうデイリーランキング1位いただきました――2019/6/17】

永遠の誓いをあなたに ~何でも欲しがる妹がすべてを失ってからわたしが溺愛されるまで~

畔本グラヤノン
恋愛
両親に愛される妹エイミィと愛されない姉ジェシカ。ジェシカはひょんなことで公爵令息のオーウェンと知り合い、周囲から婚約を噂されるようになる。ある日ジェシカはオーウェンに王族の出席する式典に招待されるが、ジェシカの代わりに式典に出ることを目論んだエイミィは邪魔なジェシカを消そうと考えるのだった。

処理中です...