愛し子は自由のために、愛され妹の嘘を放置する

紅子

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リルアイゼたちが王都に出発してから2月程経ち、私はお兄様と王都の屋敷にやって来た。そのお兄様は、私たちの授けの儀に同行するつもりらしく領地には帰らずに留まっている。明日の準備で慌ただしい使用人の間を縫うように私の手を引いて屋敷の案内までしてくれた。領地の屋敷より小さいものの部屋数はこちらの方が多い。おかげで、私の部屋が確保できた。

「シュシュ、明日着ていく服の準備はいい?」

「はい。大丈夫です」

お父様たちが王都に発った後、お兄様が仕立て屋を呼び、それに合わせて来てくれたお兄様の婚約者であるプルメアお姉様と一緒に服を数着とそれに合わせた小物、靴などを選んだ。久しぶりの新しい服に心が踊る。リルアイゼに見つかることもないから安心だ。

翌日、お兄様と朝食をご一緒して、私は自分で仕度をした。ここに料理長のベンはいないから、お兄様がいなければご飯はなかったかもしれない。それを見越して料理長は沢山の日持ちするビスケットや干し肉を持たせてくれたんだけどね。毎食それは嫌すぎる。仕度を終えた私が玄関で待っていると、頭を疑うくらい着飾ったリルアイゼが家族と談笑しながらやって来た。淡い瑠璃色のドレスには小さなエメラルドが散りばめられ、胸元には小粒ながら沢山のダイヤをあしらったネックレス、同じ意匠の髪止めとイヤリング、ゴールドのショールには金糸が織り込まれているのかキラキラとして、しっかりと化粧を施された姿は、どこの夜会にご参加ですか?と問いたくなる。10歳からかけ離れた姿にお兄様も苦い顔をしていた。年齢詐称していませんか?わたしはというと、プルメアお姉様お薦めの薄紫色の柔らかな生地に銀糸で刺繍をしたドレスにパールの一粒ネックレス、共布で作った髪飾りに化粧なしという主張を押さえた装いだ。

「似合ってるよ、シュシュ」

お兄様の誉め言葉と後ろで頷くビルにくすぐったさを感じて、照れ臭くて小声で「ありがとう」と言うのが精一杯だった。

「さあ、行くぞ」

お父様に促されて私たちは馬車に乗り込んだ。私はお兄様、お祖父様、お祖母様と同じ馬車だ。馬車に揺られて半刻ー30分ほどするとその馬車が止まった。窓が閉じられているから、何が起こっているのか分からない。

「城の門に着いたみたいだね」

「いよいよか」

「ああ。本当に楽しみだわ。リルはどのような能力を賜るのかしら?きっと素晴らしい能力よ♪」

「だが・・・・」

「名誉なことではありませんか」

どうやら、お祖父様もお祖母様もお兄様も女神の愛し子のことを知っているようだ。そして、それはリルアイゼだと思っているらしい。

リルアイゼは、知っているのかな?

ふとそんな疑問が頭をもたげた。知っているならきっと女神の愛し子を名乗るに違いない。それはそれで好都合だ。

「緊張してない?」

ずっと黙ったままの私をお兄様だけが気遣ってくれる。

「大丈夫です」

「おい、お前。粗相するなよ?リルアイゼや私たちに恥をかかせるな?」

「そうですよ?あなたはリルと違って出来が良くないようですからね」

「ふたりとも!シュシュは賢い子ですよ」

それきり誰もが口をつぐみ、重い空気のまま馬車は王宮神殿にたどり着いた。お兄様のエスコートで馬車を降りるとお父様が煌びやかな一行に挨拶をしている。

「国王夫妻と王太子夫妻、弟王子と宰相だよ」

こそっとお兄様が耳元で教えてくれた。弟王子はふたり。優しげに目元を細めた美青年とちょっと偉そうな美少年。あれならお兄様の方が何倍も素敵だ。

「さあ、私たちも挨拶しに行こう」

お兄様に促されて国王陛下ご一行様に挨拶をした。王太子殿下以外は、私を見た後、リルアイゼを見て、お兄様に視線を移した。失礼な人たちだ。

「ゴホン。よく来てくれた。早速始めよう」

案内された王宮神殿は、荘厳という一言に尽きる。あの・・女神様を奉っているにしては、厳格すぎる気がした。なにせ、あの女神様。綺麗で可愛いものが大好き。私が平凡な容姿を望んだら、さめざめと泣いたのだ!ドン引きした。その代わりの妥協点として、美容に関する一切のメンテナンス不要という身体を要求してきた。女神の愛し子として“普通”は許せないそうだ。願ってもない要求にすぐさま了承した。お蔭で何をしても髪はつやつや、珠のようなお肌が約束されている。

「さて、どちらから行うかな?」

「わたくし、ちょっと怖いです。お姉様、先にお願いできませんか?」

リルアイゼは、眉をハの字に下げ、首を傾げ、胸の前で両手を組むというポーズで、早速か弱さをアピールしてきた。第3王子はその可憐な仕草演技に顔を赤くしている。これは・・・・、落ちたな。

「いいですよ」

「本当で・・・・」

何か言いかけたリルアイゼを無視し、私はさっさと祭壇のある場所へと移動した。そして、形式に則り、女神像に祈りを捧げた。
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