亡国の王弟は女好きの騎士に溺愛される

コムギ

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25【おぞましい暗闇】※R18

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 汚された身体は丁寧に布で拭かれた。手枷も一度外されて、たまった垢を擦り取られた。気だるい身体を持ち上げられて、両手を挙げさせられた。背中や肩や脇にまで唇を寄せてくる。

 どれも快感とは程遠く、くすぐったさもなかった。証明するようにルカーシュの下半身は無反応のままだ。破かれた服が腰に巻き付いていたが、その下にあるはずの雄は大人しく垂れていた。

「まさか、反応しないとは。こうしても駄目ですか?」

 ゾルターンが刺激を与えようと触れても、反応はしなかった。それにはルカーシュも自分を褒めたくなった。心も体も許していないことの表れだ。

「媚薬でも使いましょうか。いや、狂わせたくはないですね。正気のまま、犯すのがいいのですから」

 ゾルターンの独り言を聞いても、驚きはなかった。嫌悪だけしかない。

 ――私はこの男のために存在する、慰め者。

 母も父王の慰め者だった。妾にもなれない性奴隷だったという。

 母はどんな気持ちで、自分を育ててきたのだろう。

 憎んで当然なのに、母は愛情を持って接してくれた。手作りの手袋まで編んでくれて、髪がこんがらがったときには手櫛ですいてくれた。

 母の深い愛情を当たり前のように受け取っていた。何も知らずに過ごしてきた自分を恥じた。

 シモンに合わす顔もない。手のひらを眺めて、枷で縛られた手首を切り落としてしまいたい思いに何度もかられた。

 それでもしなかったのは、シモンが触れようとしてくれた場面が頭を過ぎったからだ。どんなに怪我を負ったとしても自分と触れることを諦めなかった。

 直に触れることで温もりを感じさせてくれた。

 背中を見送ったあの時が最後だと知っていたなら、好きだと告げてしまえば良かった。

 それもできない。目の前にシモンがいない。暗闇と後悔しかない。

「ルカーシュ様。あなたに触れていたら、またここがもたげてきました。ほら、口を開けて」

 ルカーシュは顔を背けようかと思ったが、とどめた。もしかしたら、この瞬間を待っていたのかもしれない。ゾルターンの警戒を解くように微笑んでみると、目の前の男はうっとりと悦に入っている。

「やはり、あなたは美しい。一目見た時から、あなたを自分のものにしたかった。同じ魔女の血をひいているのも、運命でしょう」

 愛を囁かれても、閉ざされたルカーシュの心にはひとつも響かなかった。ゾルターンの雄は、恥ずかしげもなく頭をもたげていた。鈴口からは涎のように先走りを垂らし、ルカーシュが唇を寄せるのを待っていた。

 情事直後の雄の臭いに顔を顰めそうになるが、ルカーシュは張りぼてだと思うようにした。自分と同じ一物を指で触れる。軽く掴み、口の高さに調節した。

「ゾルターン。私がすることを見ていて」

 ゾルターンの喉仏が上下した。

「ああ、本当に何といったらいいか」

 ルカーシュのこれまでの抵抗を忘れたかのように、ゾルターンは警戒心を解いたようだ。

「私に全部やらせてほしい」

 ルカーシュは唇を開けて、舌を突き出した。自分が出した唾液を垂らすと、それを潤滑油にして、ゾルターンの雄首を含んでいった。

 じゅぷ、ちゅぷ。想像よりも苦しく、臭いがきつかった。何度も肺のものを戻しそうになりながら、深く口の中に入れた。

 鼻先に毛が触れた時、ルカーシュは思い切り、歯を立てた。心のなかで「くたばれ!」と叫んだ。

 ゾルターンの悲鳴。口の中に錆びた味が広がる。

 ルカーシュはゾルターンに蹴られ、寝台から落ちた。血混じりになった唾液を勢いよく吐き出すと、ルカーシュは唇を拭った。親指と人差指が真っ赤に染まった。よく血が出たようだ。ルカーシュはゾルターンの悶え苦しむ姿を冷たく見上げて、微笑んだ。

 ゾルターンは助けを求めて手を伸ばすが、空を切る。ルカーシュはふらつく足で立ち上がると、壁伝いに地下室の階段を登り始めた。

 外に出て、どうするかなんて考えていない。グロッスラリアに帰れるかどうかもわからない。それでも、この地下室から抜け出すことは、希望でしかなかった。ルカーシュの足取りは止まらなかった。



 地下室の扉を開けた時、目の前の眩しさに慣れるまで時間がかかった。窓を通した日の明かりが、部屋の中の色彩を浮かび上がらせる。木でさえ、一つとして同じ色はない。この世界には暗闇以外の色があることを改めて感じた。

 もっと広い空を感じたい。

 ルカーシュは家の扉に手をかけた。枷のかかった手で扉を押し開けようとした時、地下室の扉が弾け飛んだ。

 ゾルターンは足元に赤い血を滴らせながら立っている。汗を垂らた頬は、引きつっている。睨みつけている瞳は血に染まっていた。早く外に出なくてはと思うのに、ルカーシュの身体は動かない。

 どれほど長く地下室に閉じ込められていたのだろうか。ゾルターンの髪の毛が肩まで伸びてきている。首や顔に浮き出た血管は、人や魔女とも程遠いように見えた。赤い目は化け物に等しい。

 ゾルターンの顔色が戻ってきた。余裕を含んだ表情をして、ルカーシュに手を伸ばす。

「あなたは私のものです」

 強引に掴まれて、固い床の上に引き落とされた。そこには明かりはなく、地下室よりもおぞましい暗闇が広がった。ゾルターンが覆い被さってくる。腰の布は引きちぎられて、床に散らばった。

「もう手加減をしません」

 ルカーシュは激しく抵抗したが、ゾルターンの力の前ではまったく歯が立たなかった。
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