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番外編③ バイト訪問 講師編
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偶然休みが取れた平日のお昼。
大虎くんと美琴さんにお呼ばれして二人の大学の学食に来ている私。
二人は白衣を着ていて何だかとっても様になっている気がする。
ふと大虎くんを見ると大虎くんの白衣の胸ポケットには黒縁の眼鏡がかけてあった。
「あれ?大虎くん、眼鏡かけていたっけ?」
「ん?あぁ、これ?伊達眼鏡」
「伊達眼鏡?ファッションか何かで付けているの?」
「違うよ。かけてやらないとまったく俺の話を聞いてくれないから仕方なく」
その言葉にますます首を傾げる。
「トラ~?栗山さんにバイトで補習クラス教えてるって話したの~?」
「あ」
「……?大虎くん、授業しているの?」
「あー……まぁ、塾講師みたいなもんだよ。教授に頼まれて仕方なく引き受けた。お金も入るし単位とか内申的なものもあげてくれるって言うから」
「へぇ!そうなんだ!すごいね!何を教えているの?」
「数学」
「トラ、すっごく人気なんですよ。教授からボーナス出るくらい人数は多いわ、ちゃんと成績上がるわ、どんな教え方してるんだってくらい!まぁ、教えてるのは女ばっかりなんですけどね」
「そんなに?私も受けてみたいな……って女の子しかいないの!?」
驚いて大虎くんを見ると顔を逸らされた。
「(あ、本当に女の子しかいないんだ……)」
少し複雑な気持ちになりながらジーッと大虎くんを見る。
大虎くんは気まずそうにしながらもやっと視線を合わせてくれた。
そして、恐る恐ると言った感じで口を開く。
「……怒ってる?」
「怒ってはいないけれど……黙っていることでもないわよね」
私がそういうとうっ……と言葉を詰まらせる大虎くん。
「……黙ってたのは謝る。ごめんね。でも、いい気分しないでしょ?」
「後から聞く方が気分悪いわ」
「……ごめん」
「もう!仕方がないからこの件は許すわ。大虎くんがやっているバイトってこれだけなの?」
その質問に再び顔を反らす大虎くん。
「(別のバイトもしているんだ……)」
「た い が くん?」
ニッコリ笑顔で名前を呼べば降参とでも言うように私の方を向いた。
「……もう一つだけバイトしてます」
「そのバイトはどんなバイトなの?」
「……秘密」
「大虎くん?まさかそっちも女の子だらけじゃないでしょうね?」
「……そんなことないよ?男もいるよ?少ないけど……」
「少ないって聞こえたけど!もう!どうして隠すの!?美琴さんは知っているの?」
「え?あ、まぁ、紹介したの僕なんで当然知ってますけど……」
「こっちも女の子ばっかりなの!?」
「多いってだけでばっかりじゃないですよ……?」
自分から聞いておいてなんだけど美琴さんが大虎くんを庇っているように見えて信じられない。
私は一つため息を吐いて宣言する。
「私、大虎くんのバイトを訪問します!」
「えぇっ!?」
「わぁ~!面白そう!今日、これから早速、補習クラスの勉強会有りますよ」
「私も行くわ。良いわよね?」
私がニッコリ微笑んで聞くと大虎くんは頭を抱え深いため息を吐いた。
「……もう、好きにして」
「えぇ、そうさせてもらうわ」
しばらくして時間になったらしく移動する。
まずは大虎くん専用のゼミ室に寄り教材を持ち教室に向かった。
教室に着き私は大虎くんに最後の念押しをする。
「良い?いつも通りにやってね?約束よ?」
「……分かったから。美琴も来んの?」
「うん!面白そうだからね!」
「……とりあえず、教わってるフリくらいはして」
そう言って大虎くんは私たちを反対のドアから教室に入るように促した。
先に教室に入ると本当に女の子しかいない。
しかも、思っていたよりも教室は広かった。
「(これじゃあ、まるで、本当に先生が授業するみたい……)」
三十人は入れそうな席はほとんど埋まっている。
美琴さんが何とか席を見つけてくれてそこに座った。
それとほぼ同時に伊達眼鏡をかけた大虎くんが入ってくる。
すると少し教室がザワザワし出した。
カッコいいとか言う声が聞こえる。
「……うるさい。黙って。毎回毎回入って来る度に騒ぐな。真面目に受ける気がない人は帰っていいよ」
ドアの前で止まってそう告げる大虎くんにピタッとお喋りが止まった。
大虎くんはため息を吐くと教卓まで移動する。
教卓に教材を置くと再び口を開いた。
「それじゃあ、前回の課題提出からね。前回いなかった人は荷物持って一番前に座って。いた人は荷物持って一列に並ぶ……初参加の人は……二人だけか……じゃあ、その二人はそこ座ってくれる?」
どうやら初参加は私と美琴さんだけらしい。
美琴さんはニヤニヤしながらはーいと返事をして私と共に大虎くんに言われた右側の一番前に座る。
他の人たちも言われた通りにしていた。
一列に並んでいる人たちをしばらく待たせ、前回いなかった人たちに前回の課題と思われるプリントを配る。
「じゃあ、前回いなかった人はこれが前回の課題だから解いてて。その前の課題ある人は出しといてね。後で確認するから。初参加の二人は小テストやっててくれる?」
そういって高校を思い出させる数学のテストみたいなプリントを渡された。
大虎くんは教卓に戻ると一人一人課題を確認し座る席を指示していく。
全員が座り終えると大虎くんは口を開いた。
「それじゃあ、各自言われた通りの課題を進めること。課題が出来たか分かんなかったら挙手。私語厳禁。教え合うのは許可する。課題と関係ない話をしたら即退場。二度と俺の授業に参加させないからね?以上」
大虎くんはそういうと前回いなかった人たちを順番に見ていく。
どうやらその前の課題の確認をしているらしい。
赤ペンで間違ったところを指摘している。
その途中で美琴さんが挙手をした。
大虎くんはすぐに気づいて私たちのところに来る。
「テストできた?」
美琴さんはニコッと笑って答えた。
「全然、分かんないのぉ~」
瞬間、大虎くんの笑顔が引き攣った気がする。
「……どこが特に分からないの?」
「えっとぉ~こことぉ~」
「あぁ、ここね。ここは……」
口頭で説明しながら赤ペンでは『俺から行くまで挙手も何もするな。あと、彼女のフリはしなくていい』と書かれていた。
「わぁ~!分かりやすい~!」
「ならよかった。引き続き頑張って」
大虎くんが離れると同時に睨まれているような視線を感じる。
美琴さんは視線の先を見ると喧嘩を売るかの如く舌を出した。
視線の先の相手はその行動に腹を立てたのかガタッと立ち上がる。
「……どうしたの?」
すぐにそう反応した大虎くんにその子は何でもありませんと言って座った。
大虎くんは肩をすくめると再び美琴さんのところにやってくる。
そして、容赦なくデコピン。
「痛っ!」
「美琴。他の人の邪魔をするなら退場。分かった?」
「だ、だからってデコピンすることはなくない!?」
そう反論する美琴さんに大虎くんはにっこり微笑んだ。
「俺の話、聞いてた?私語厳禁。課題に関係ない話をしたら即退場。これが最後の忠告だからね?」
それからは大人しく大虎くんに言われた通り課題をしているフリをする。
ときどき、私たちの様子を見に来れば分かりやすく説明をして別のところに行くの繰り返し。
けれど、あまりにキョロキョロしすぎて不自然なので一問だけ自分で解いてみる。
大虎くんが見に来てくれたときに気づいてくれてチェックしてくれた。
するといきなり笑って頭を撫でられる。
「すごいじゃん。正解。よく解けたね。その調子で頑張って」
いつもと少し違うその笑顔に思わず顔が赤くなり俯いた。
その瞬間、鋭い視線をたくさん感じ縮こまる。
そうこうしている内に時間は経ち終了時間になった。
「……はい。今日はここまで。できなかった分は宿題ね。次からはまた少し難しくなるから心配の人は予習して来ること。以上、解散」
大虎くんがそういうと二人の可愛い女の子が大虎くんのところに行く。
「結城先輩!分からないときは先輩のゼミ室に聞きに行っても良いですか?」
「三人以上で俺が研究とか課題してなければいいよ」
その子たちは分かりました!お疲れ様です!というと手を振りながら出て行った。
「(……やっぱり、複雑、かも)」
そう思っていると別の子が結城くんに声をかける。
「結城くん」
「何?」
「……彼女贔屓するのはどうかと思うの。いつもだったら退場させるでしょ?どうして退場させなかったの?彼女だから?」
その言葉を聞いてハッと思い出した。
「(そういえば、ここでは美琴さんが大虎くんの彼女だった……!)」
「退場させるなら君も一緒に退場させたけどそれでもよかったの?」
「なっ……何で私まで!?」
「俺が最初に言ってるルールは他のみんなの妨げになるなってことだよ。集中力を切らす行為は退場対象。分かってる?美琴は俺の授業なんか受けなくても問題ないけど君は?せっかく頑張って成績上がってるのにもったないじゃん。俺は君を贔屓したつもりだけど?」
「……っ!」
大虎くんの言葉に顔を赤く染める女の子。
「……ま、そういうことだからさ。これからも頑張るよーに。それじゃあね。美琴、行くよ」
「はいはーい!」
私にも合図を送って教室から出ようとするとさっきの女の子が大虎くんの腕を掴む。
「うわっ!?危な……何?まだ何かあるの?」
「私と付き合って!!結城くんのこと、入学式のときからずっと好きだったの!!」
「……は?いや、無理だけど」
「ど、どうして!?私の何がいけないの!?」
「え?頭が悪いところ?」
ほぼ即答でバッサリ言い切られた女の子はその場で立ち尽くした。
その隙をついて大虎くんは腕を抜いて何事もなかったかのように教室を出る。
私と美琴さんは呆然としながらも慌てて後を追いかけた。
大虎くんのゼミ室に着くと美琴さんが真っ先に口を開く。
「良い?栗山さん。さっきの頭が悪い発言、悪気もなければ素で言ったからね?」
「そ、そうなんだ……」
「にしても……案外普通の授業だった!真面目すぎってくらい真面目!何の参考にもならないよ。ご褒美制度とかあると思ったのにー」
「あるよ」
「えっ!?あるの!?」
「時間内に課題を一問も間違えず一人で解けたら一回だけ一対一で教えるってご褒美?誰もクリアしたことないからあげたことないけど」
「あー……それ無理でしょ。ちょっとプリント見せて」
「ん」
美琴さんは大虎くんからプリントを受け取るとサッと流し見た。
「あ、やっぱり。小テストのプリントから何となく分かってたけどこれとかさ、ひっかけじゃん。普通に解いたら間違うよね。さり気なく回避してるー」
「当たり前だろ。一対一とか面倒臭い。お金はもらえないし。成績がかなり上がったら美琴のクラスを勧めるしご褒美もらえる人は出ないと思うよ」
「うーわ、たまに女が来るのはそういうこと?まぁ、僕も貰える金額が増えるから良いけどさー」
何だか二人があんまり良くない話をしている気がするけど何も聞いていないフリをして口を開く。
「……大虎くん」
「ん?何?」
「……大虎くん、教えるのすごく上手いし人気あるのも分かるんだけど……あんまり、他の女の子に優しくしないでね……?」
私がそう言うと大虎くんはバッと背を向けてしゃがみ込んだ。
その様子を美琴さんはクスクス笑っている。
私は訳が分からず首を傾げた。
「大虎くん?いつもみたいに約束してくれないの……?」
「いや!する!します!絶対優しくしないから……そういう可愛いこと言うの本当勘弁して……」
最後の方は声が小さくなって何を言っているのか聞き取れない。
「あははっ!トラ!耳まで真っ赤!めっずらし~!不意打ちだったもんね~?」
「ば……っ!美琴!余計なこと言うなよ!」
そういって反射的に美琴さんを睨んだ大虎くんの横顔は本当に耳まで真っ赤だった。
なかなか見られない顔なので嬉しさから思わず笑ってしまう。
その様子を見た大虎くんは諦めたかのようにため息を吐いて座った。
「……あぁ、もう。恥ずかしいとこ見られた」
頬杖をつきながらそっぽを向く大虎くん。
すると、コンコンとノックの音が聞こえたと当時にドアが開く。
「結城せんぱーい!教えてもらいに来ちゃいました~」
そう言いながら三人の女の子がぞろぞろと入ってきた。
美琴さんは怪訝そうな顔して立ち上がり口を開いたけれど大虎くんが遮る。
大虎くんが立ち上がって三人に近寄ると口を開いた。
「早すぎ。ちゃんと自分で考えた?そもそもいつ誰が入っていいなんて言った訳?」
「だって~先輩、寝てるかもって思って~」
ねー?と言い合う三人。
「悪いけど、今日はこれから用事あるから教えられない。また今度。分かったらさっさと帰れ」
三人はえー!と言いながら締め出された。
「美琴、この後の予定は?」
「え?普通に授業出るけど……ってトラ、まさかサボるの?」
「ヘルプ頼まれたから。俺のカードも通しといて。これ、提出する課題ね」
そう言いながら大虎くんは美琴さんにカードと課題を渡す。
「それじゃあ、よろしく。莉恵さん、行くよ」
「えっ!?」
私の手を掴むと美琴さんを置いてスタスタと歩き出した。
「ちょ、大虎くん!?どこ行くの?」
「もう一つのバイト。来るでしょ?」
「!行くわ!」
ワクワクしながら大虎くんのあとをついて行く。
着いた先は大虎くんたちがよく使うカフェだった。
私は驚いて大虎くんを見る。
「ここって……いつも来ているカフェよね?」
「うん。そうだよ」
「大虎くん、ここで働いていたの?」
「うん」
「……大虎くん目当てのお客さんが多そうね」
「そんなことないと思うけど……って、何で俺がホールだと思うの!?」
「大虎くんがキッチンに入れる訳ないもの!包丁を使おうものなら必ず指切るし火を使おうものならお鍋をだめにするし!どうせお店でも何かやらしたんでしょう!?」
「……」
私の言葉にスッと顔を逸らす大虎くん。
その行動が肯定を意味するのは明白だった。
私は少し腹を立てる。
大虎くんはごめんねと謝りながら私の手を引き一緒にカフェに入った――――
大虎くんと美琴さんにお呼ばれして二人の大学の学食に来ている私。
二人は白衣を着ていて何だかとっても様になっている気がする。
ふと大虎くんを見ると大虎くんの白衣の胸ポケットには黒縁の眼鏡がかけてあった。
「あれ?大虎くん、眼鏡かけていたっけ?」
「ん?あぁ、これ?伊達眼鏡」
「伊達眼鏡?ファッションか何かで付けているの?」
「違うよ。かけてやらないとまったく俺の話を聞いてくれないから仕方なく」
その言葉にますます首を傾げる。
「トラ~?栗山さんにバイトで補習クラス教えてるって話したの~?」
「あ」
「……?大虎くん、授業しているの?」
「あー……まぁ、塾講師みたいなもんだよ。教授に頼まれて仕方なく引き受けた。お金も入るし単位とか内申的なものもあげてくれるって言うから」
「へぇ!そうなんだ!すごいね!何を教えているの?」
「数学」
「トラ、すっごく人気なんですよ。教授からボーナス出るくらい人数は多いわ、ちゃんと成績上がるわ、どんな教え方してるんだってくらい!まぁ、教えてるのは女ばっかりなんですけどね」
「そんなに?私も受けてみたいな……って女の子しかいないの!?」
驚いて大虎くんを見ると顔を逸らされた。
「(あ、本当に女の子しかいないんだ……)」
少し複雑な気持ちになりながらジーッと大虎くんを見る。
大虎くんは気まずそうにしながらもやっと視線を合わせてくれた。
そして、恐る恐ると言った感じで口を開く。
「……怒ってる?」
「怒ってはいないけれど……黙っていることでもないわよね」
私がそういうとうっ……と言葉を詰まらせる大虎くん。
「……黙ってたのは謝る。ごめんね。でも、いい気分しないでしょ?」
「後から聞く方が気分悪いわ」
「……ごめん」
「もう!仕方がないからこの件は許すわ。大虎くんがやっているバイトってこれだけなの?」
その質問に再び顔を反らす大虎くん。
「(別のバイトもしているんだ……)」
「た い が くん?」
ニッコリ笑顔で名前を呼べば降参とでも言うように私の方を向いた。
「……もう一つだけバイトしてます」
「そのバイトはどんなバイトなの?」
「……秘密」
「大虎くん?まさかそっちも女の子だらけじゃないでしょうね?」
「……そんなことないよ?男もいるよ?少ないけど……」
「少ないって聞こえたけど!もう!どうして隠すの!?美琴さんは知っているの?」
「え?あ、まぁ、紹介したの僕なんで当然知ってますけど……」
「こっちも女の子ばっかりなの!?」
「多いってだけでばっかりじゃないですよ……?」
自分から聞いておいてなんだけど美琴さんが大虎くんを庇っているように見えて信じられない。
私は一つため息を吐いて宣言する。
「私、大虎くんのバイトを訪問します!」
「えぇっ!?」
「わぁ~!面白そう!今日、これから早速、補習クラスの勉強会有りますよ」
「私も行くわ。良いわよね?」
私がニッコリ微笑んで聞くと大虎くんは頭を抱え深いため息を吐いた。
「……もう、好きにして」
「えぇ、そうさせてもらうわ」
しばらくして時間になったらしく移動する。
まずは大虎くん専用のゼミ室に寄り教材を持ち教室に向かった。
教室に着き私は大虎くんに最後の念押しをする。
「良い?いつも通りにやってね?約束よ?」
「……分かったから。美琴も来んの?」
「うん!面白そうだからね!」
「……とりあえず、教わってるフリくらいはして」
そう言って大虎くんは私たちを反対のドアから教室に入るように促した。
先に教室に入ると本当に女の子しかいない。
しかも、思っていたよりも教室は広かった。
「(これじゃあ、まるで、本当に先生が授業するみたい……)」
三十人は入れそうな席はほとんど埋まっている。
美琴さんが何とか席を見つけてくれてそこに座った。
それとほぼ同時に伊達眼鏡をかけた大虎くんが入ってくる。
すると少し教室がザワザワし出した。
カッコいいとか言う声が聞こえる。
「……うるさい。黙って。毎回毎回入って来る度に騒ぐな。真面目に受ける気がない人は帰っていいよ」
ドアの前で止まってそう告げる大虎くんにピタッとお喋りが止まった。
大虎くんはため息を吐くと教卓まで移動する。
教卓に教材を置くと再び口を開いた。
「それじゃあ、前回の課題提出からね。前回いなかった人は荷物持って一番前に座って。いた人は荷物持って一列に並ぶ……初参加の人は……二人だけか……じゃあ、その二人はそこ座ってくれる?」
どうやら初参加は私と美琴さんだけらしい。
美琴さんはニヤニヤしながらはーいと返事をして私と共に大虎くんに言われた右側の一番前に座る。
他の人たちも言われた通りにしていた。
一列に並んでいる人たちをしばらく待たせ、前回いなかった人たちに前回の課題と思われるプリントを配る。
「じゃあ、前回いなかった人はこれが前回の課題だから解いてて。その前の課題ある人は出しといてね。後で確認するから。初参加の二人は小テストやっててくれる?」
そういって高校を思い出させる数学のテストみたいなプリントを渡された。
大虎くんは教卓に戻ると一人一人課題を確認し座る席を指示していく。
全員が座り終えると大虎くんは口を開いた。
「それじゃあ、各自言われた通りの課題を進めること。課題が出来たか分かんなかったら挙手。私語厳禁。教え合うのは許可する。課題と関係ない話をしたら即退場。二度と俺の授業に参加させないからね?以上」
大虎くんはそういうと前回いなかった人たちを順番に見ていく。
どうやらその前の課題の確認をしているらしい。
赤ペンで間違ったところを指摘している。
その途中で美琴さんが挙手をした。
大虎くんはすぐに気づいて私たちのところに来る。
「テストできた?」
美琴さんはニコッと笑って答えた。
「全然、分かんないのぉ~」
瞬間、大虎くんの笑顔が引き攣った気がする。
「……どこが特に分からないの?」
「えっとぉ~こことぉ~」
「あぁ、ここね。ここは……」
口頭で説明しながら赤ペンでは『俺から行くまで挙手も何もするな。あと、彼女のフリはしなくていい』と書かれていた。
「わぁ~!分かりやすい~!」
「ならよかった。引き続き頑張って」
大虎くんが離れると同時に睨まれているような視線を感じる。
美琴さんは視線の先を見ると喧嘩を売るかの如く舌を出した。
視線の先の相手はその行動に腹を立てたのかガタッと立ち上がる。
「……どうしたの?」
すぐにそう反応した大虎くんにその子は何でもありませんと言って座った。
大虎くんは肩をすくめると再び美琴さんのところにやってくる。
そして、容赦なくデコピン。
「痛っ!」
「美琴。他の人の邪魔をするなら退場。分かった?」
「だ、だからってデコピンすることはなくない!?」
そう反論する美琴さんに大虎くんはにっこり微笑んだ。
「俺の話、聞いてた?私語厳禁。課題に関係ない話をしたら即退場。これが最後の忠告だからね?」
それからは大人しく大虎くんに言われた通り課題をしているフリをする。
ときどき、私たちの様子を見に来れば分かりやすく説明をして別のところに行くの繰り返し。
けれど、あまりにキョロキョロしすぎて不自然なので一問だけ自分で解いてみる。
大虎くんが見に来てくれたときに気づいてくれてチェックしてくれた。
するといきなり笑って頭を撫でられる。
「すごいじゃん。正解。よく解けたね。その調子で頑張って」
いつもと少し違うその笑顔に思わず顔が赤くなり俯いた。
その瞬間、鋭い視線をたくさん感じ縮こまる。
そうこうしている内に時間は経ち終了時間になった。
「……はい。今日はここまで。できなかった分は宿題ね。次からはまた少し難しくなるから心配の人は予習して来ること。以上、解散」
大虎くんがそういうと二人の可愛い女の子が大虎くんのところに行く。
「結城先輩!分からないときは先輩のゼミ室に聞きに行っても良いですか?」
「三人以上で俺が研究とか課題してなければいいよ」
その子たちは分かりました!お疲れ様です!というと手を振りながら出て行った。
「(……やっぱり、複雑、かも)」
そう思っていると別の子が結城くんに声をかける。
「結城くん」
「何?」
「……彼女贔屓するのはどうかと思うの。いつもだったら退場させるでしょ?どうして退場させなかったの?彼女だから?」
その言葉を聞いてハッと思い出した。
「(そういえば、ここでは美琴さんが大虎くんの彼女だった……!)」
「退場させるなら君も一緒に退場させたけどそれでもよかったの?」
「なっ……何で私まで!?」
「俺が最初に言ってるルールは他のみんなの妨げになるなってことだよ。集中力を切らす行為は退場対象。分かってる?美琴は俺の授業なんか受けなくても問題ないけど君は?せっかく頑張って成績上がってるのにもったないじゃん。俺は君を贔屓したつもりだけど?」
「……っ!」
大虎くんの言葉に顔を赤く染める女の子。
「……ま、そういうことだからさ。これからも頑張るよーに。それじゃあね。美琴、行くよ」
「はいはーい!」
私にも合図を送って教室から出ようとするとさっきの女の子が大虎くんの腕を掴む。
「うわっ!?危な……何?まだ何かあるの?」
「私と付き合って!!結城くんのこと、入学式のときからずっと好きだったの!!」
「……は?いや、無理だけど」
「ど、どうして!?私の何がいけないの!?」
「え?頭が悪いところ?」
ほぼ即答でバッサリ言い切られた女の子はその場で立ち尽くした。
その隙をついて大虎くんは腕を抜いて何事もなかったかのように教室を出る。
私と美琴さんは呆然としながらも慌てて後を追いかけた。
大虎くんのゼミ室に着くと美琴さんが真っ先に口を開く。
「良い?栗山さん。さっきの頭が悪い発言、悪気もなければ素で言ったからね?」
「そ、そうなんだ……」
「にしても……案外普通の授業だった!真面目すぎってくらい真面目!何の参考にもならないよ。ご褒美制度とかあると思ったのにー」
「あるよ」
「えっ!?あるの!?」
「時間内に課題を一問も間違えず一人で解けたら一回だけ一対一で教えるってご褒美?誰もクリアしたことないからあげたことないけど」
「あー……それ無理でしょ。ちょっとプリント見せて」
「ん」
美琴さんは大虎くんからプリントを受け取るとサッと流し見た。
「あ、やっぱり。小テストのプリントから何となく分かってたけどこれとかさ、ひっかけじゃん。普通に解いたら間違うよね。さり気なく回避してるー」
「当たり前だろ。一対一とか面倒臭い。お金はもらえないし。成績がかなり上がったら美琴のクラスを勧めるしご褒美もらえる人は出ないと思うよ」
「うーわ、たまに女が来るのはそういうこと?まぁ、僕も貰える金額が増えるから良いけどさー」
何だか二人があんまり良くない話をしている気がするけど何も聞いていないフリをして口を開く。
「……大虎くん」
「ん?何?」
「……大虎くん、教えるのすごく上手いし人気あるのも分かるんだけど……あんまり、他の女の子に優しくしないでね……?」
私がそう言うと大虎くんはバッと背を向けてしゃがみ込んだ。
その様子を美琴さんはクスクス笑っている。
私は訳が分からず首を傾げた。
「大虎くん?いつもみたいに約束してくれないの……?」
「いや!する!します!絶対優しくしないから……そういう可愛いこと言うの本当勘弁して……」
最後の方は声が小さくなって何を言っているのか聞き取れない。
「あははっ!トラ!耳まで真っ赤!めっずらし~!不意打ちだったもんね~?」
「ば……っ!美琴!余計なこと言うなよ!」
そういって反射的に美琴さんを睨んだ大虎くんの横顔は本当に耳まで真っ赤だった。
なかなか見られない顔なので嬉しさから思わず笑ってしまう。
その様子を見た大虎くんは諦めたかのようにため息を吐いて座った。
「……あぁ、もう。恥ずかしいとこ見られた」
頬杖をつきながらそっぽを向く大虎くん。
すると、コンコンとノックの音が聞こえたと当時にドアが開く。
「結城せんぱーい!教えてもらいに来ちゃいました~」
そう言いながら三人の女の子がぞろぞろと入ってきた。
美琴さんは怪訝そうな顔して立ち上がり口を開いたけれど大虎くんが遮る。
大虎くんが立ち上がって三人に近寄ると口を開いた。
「早すぎ。ちゃんと自分で考えた?そもそもいつ誰が入っていいなんて言った訳?」
「だって~先輩、寝てるかもって思って~」
ねー?と言い合う三人。
「悪いけど、今日はこれから用事あるから教えられない。また今度。分かったらさっさと帰れ」
三人はえー!と言いながら締め出された。
「美琴、この後の予定は?」
「え?普通に授業出るけど……ってトラ、まさかサボるの?」
「ヘルプ頼まれたから。俺のカードも通しといて。これ、提出する課題ね」
そう言いながら大虎くんは美琴さんにカードと課題を渡す。
「それじゃあ、よろしく。莉恵さん、行くよ」
「えっ!?」
私の手を掴むと美琴さんを置いてスタスタと歩き出した。
「ちょ、大虎くん!?どこ行くの?」
「もう一つのバイト。来るでしょ?」
「!行くわ!」
ワクワクしながら大虎くんのあとをついて行く。
着いた先は大虎くんたちがよく使うカフェだった。
私は驚いて大虎くんを見る。
「ここって……いつも来ているカフェよね?」
「うん。そうだよ」
「大虎くん、ここで働いていたの?」
「うん」
「……大虎くん目当てのお客さんが多そうね」
「そんなことないと思うけど……って、何で俺がホールだと思うの!?」
「大虎くんがキッチンに入れる訳ないもの!包丁を使おうものなら必ず指切るし火を使おうものならお鍋をだめにするし!どうせお店でも何かやらしたんでしょう!?」
「……」
私の言葉にスッと顔を逸らす大虎くん。
その行動が肯定を意味するのは明白だった。
私は少し腹を立てる。
大虎くんはごめんねと謝りながら私の手を引き一緒にカフェに入った――――
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