私、これからいきます。

蓮ヶ崎 漣

文字の大きさ
61 / 77

番外編② 大虎捜索 後編

家に入ると大虎くんは何故か玄関で立ち止まったまま上がろうとしないので口を開く。
 
「どうしたの?上がらないの?」
 
「……だって、まだ聞いてない」
 
「え?」
 
一瞬何のことか分からず首を傾げると大虎くんは続けた。
 
「俺は莉恵さんにたくさん心配かけて不安にさせて挙句の果てには傷づけることを言ったし嫌われてもしょうがないことをしたんだから莉恵さんが俺ともう一緒にいたくないとしたら俺がこの家に上がる権利はないと思う」
 
そういう大虎くんの顔はすごく悲しそうで私は思いっきり大虎くんの両頬を挟むように叩く。
 
「っ!?」
 
痛みからか顔を歪めた大虎くんの頬をそのまま掴み顔を上げさせた。
 
「その言い方はずるいわ。私がって何?大虎くんは私といれなくても良いってことなのかしら?」
 
「えっ!?ち、違うよ!!俺は莉恵さんと一緒にいたい!!でも、俺のしたことは許されることじゃないでしょ……?」
 
「えぇ、そうね。大虎くんが私と別れようとしていたって知ってすごく悲しくなった。大虎くんは私のこと簡単に手放せちゃうんだって。でもね、それでも、私は大虎くんが好きで一緒にいたいの。なのに、大虎くんは大虎くんの気持ちなんか教えてくれもせずに私に別れるか別れないか選べって言っているのよ?こんな酷いことってある?」
 
「……ごめん」
 
「だからね、逆に聞くわ。大虎くんが私ともう一緒にいたくないなら別れましょう?」
 
「っ……本当だね。ずるい言い方だった」
 
大虎くんは私の手を掴むとぎゅっと握り、真剣な顔で口を開く。
 
「莉恵さん。俺、もう隠し事はしない。どんなことでも莉恵さんにだけはちゃんと言うし嘘も吐かない。だから、ずっと俺の傍にいてください」
 
何だかプロポーズされているみたいでドキドキした。
 
「……プロポーズ、されてるみたい」
 
「え」
 
思わぬ返事に大虎くんを睨む。
すると大虎くんは気まずそうに顔を逸らした。
けれど、すぐに私の方に向き直る。
 
「いや、うん。ごめん。これはプロポーズのつもりで言ってない。っていうか、こんな心配とか怒らせといてプロポーズなんかできないから」
 
その言葉を聞いて悲しくなった。
もしかして、大虎くんは私と結婚する気はない……?
そんな不安が押し寄せてきて思わず俯いた。
 
「でもね、莉恵さん。ちゃんと落ち着いたらするから待ってて?」
 
「え?」
 
どういうことか分からず首を傾げる。
けれど、大虎くんは微笑んでいるだけで何も言わない。
私は少し期待しながら待つことを決めて口を開く。
 
「……もう。自分で言ったことにはちゃんと責任を持ってね?私には隠し事も嘘も吐かないで何でも話して。約束よ?」
 
「うん。約束する」
 
大虎くんがそう言ってくれたので嬉しくなって微笑んだ。
そのまま二人でリビングに行くと大虎くんは改めて今回の件を話してくれる。
本当はあの日、美琴さんだけには言おうとしていたみたいだけれど美琴さんの八つ当たりに腹が立って誰に言わないことを決意したらしい。
私に話してくれなかったのはどうしたいのか自分一人で考えたかったからだそうで。
車の中で聞いたことまでを聞き終えると大虎くんが口を開いた。
 
「俺の気持ちを押し殺すなら別れるのが最善だと思った。莉恵さんのためだともいうし何より俺が弱ってる姿を莉恵さんに見られたくないっていうのが本音。生きられないのが確定してる中での看病なんてされたくない。そんな辛い思いさせたくないし辛い思いをしてる莉恵さんを見るのも嫌だって。結果、再発はしてないし健康だったけどそれはそれで会わす顔なくて……でも、瀬羽が連れてきてくれてよかったって思うよ。ちゃんと話せたから」
 
「……大虎くんは難しく考えすぎるところがあるわ」
 
「うん。そうだね。今回の件で自覚したよ」
 
二人してクスッと笑う。
 
「そろそろご飯にしましょうか。大虎くん何が食べたい?」
 
そう言いながら立ち上がると腕を掴まれた。
 
「待って。まだ誰にも話してないことがあるんだ」
 
「え?」
 
驚きを隠せずにいると大虎くんに座るよう促される。
大人しくそれに従い大虎くんの隣に座ると大虎くんは私の手をギュッと握り言いにくそうにしながらも口を開いた。

 
ポツリ、ポツリと話し始める大虎くん。
その手は心なしかどんどん強く握られていく。
 
「あの、ね?診てくれた医者に……俺が医者を続ける限り、再発の不安を抱え続けるから辞めろって言われて。俺ね、辞めることには何の未練もないんだよ。でも……辞めたあと、俺はどうすればいい?」

震えた声で話す大虎くんの手を握り返した。
大虎くんは驚きながら私を見て意を決したように続ける。

「なりたいものもなければやりたいこともなくて……親の仕事を継ぐのは絶対に嫌だ。でも、無職になる訳にもいかない。なら、不安を抱え続けてでも辞めない方がいいんじゃないかって……そういうことを色々考えてたら……俺って本当に自由だったんだなって思って自分に自信がもてなくなった」
 
「えぇ?」
 
黙って聞いていたけれど最後の言葉に思わず驚きの声を上げた。
その反応が意外だったのか首を傾げる大虎くんにますます驚きを隠せない。
私は小さく息を吐いてから口を開いた。
 
「あのね、大虎くん。自信なんて経験しもしないうちからある訳ないでしょう?不安になる気持ちは分かるけど深く考えすぎよ」
 
「え?だって、俺、基本的に何でもこなせる自信あるよ?美琴は僕にできないことはないって言うくらいだし……自信もないのに働けるの?」
 
「……大虎くんと美琴さんが特殊なだけよ。一般的に自信っていうのは経験を積んでつけていくものなの。私だってそうだもの。今では指導もできるけれど入社したての頃は右も左も分からなくてミスも連発して上司にたくさん迷惑をかけたわよ。怒られることもたくさんあってどんどんやっていける自信もなくなって辞めたいって何度思ったことか。私は聖来がいたから頑張れたの。お互いを励ましあって今に至るのよ。だから、大虎くんも自信はなくても良いの。そのうちつくものなんだから。まぁ、でも、確かに大虎くんは何でも普通にこなしそうね。自分でもそう思っているなら何も不安に思うことはないと思うわ」
 
「……そっかぁ……莉恵さんは俺が医者を続けるとしたら反対する?」
 
「そうね……大虎くんは嘘が上手いから心労が溜まっていても言わなそうだし不安になるわ」
 
「俺、ついさっき莉恵さんにはどんなことでも言うし隠し事しないって言わなかった?」
 
「大虎くんは自分のことより相手のことを考える人だから私が心配するようなことは絶対に言わないわよ」
 
「……絶対って……そんな確信を持った目で言わなくてもいいじゃん」
 
「確信しているもの。ところで、大虎くんはどうしてご両親のお仕事を継ぐ気がないの?」
 
「え?だって、父さんは工場の母さんは芸能事務所の社長だよ?俺はどっちかしか継げない。二人とも言わないだけで俺に跡を継いでほしいと思ってるのは分かってる。どっちかが悲しい思いするくらいならどっちの跡も継がないことにしたんだ」
 
そうハッキリ告げた大虎くんはパッと手を離すと立ち上がりニコッと笑って口を開く。
 
「はい!じゃあ、俺の話は終わり!お腹空いたしご飯食べに行こ?」
 
「ううん。久しぶりに帰ってきてくれたんだもの。私の手料理を食べてほしいわ」
 
その言葉に大虎くんは一瞬、目を見開いたけれどすぐに満面の笑みに変わる。
 
「うん!じゃあ、買い出しに行こ?リクエストしてもいい?」
 
「もちろん。でも、大虎くんのことだから唐揚げでしょ?」
 
「正解!莉恵さんの唐揚げ大好きだから」
 
「ふふっ、ありがとう。そういってもらえて嬉しいわ」
 
「こちらこそ、ありがとうだから!唐揚げは莉恵さんが初めて俺に作ってくれた手料理だし。何より俺の誕生日に作ってくれたんだから好物にならない訳ないじゃん!」
 
サラッと恥ずかしげもなくそんなことをいう大虎くんに思わず顔が赤くなる。
そんな私の反応を見て面白がっているのかクスッと笑う大虎くん。
そして、いきなりグイッと引っ張られ体制を崩した私はそのまま大虎くんに抱き締められた。
大虎くんは私の耳元で小さく囁く。
 
「……絶対、俺が幸せにするから待ってて。莉恵」
 
その言葉に驚いて慌てて顔を上げようとするとさらに強い力で抱き締められ阻止された。
それでも何とか視線だけでも上に向けると大虎くんが珍しく顔を真っ赤に染めていて私までさらに顔が赤くなるのを感じる。
大虎くんはその視線に気づいたのか片手で私の目を覆うと再び口を開いた。
 
「……今は見ちゃだめ」
 
そんな大虎くんを可愛く思っていると不意にチュッとキスをされる。
帰宅後、やっぱり疲れていたのか少し目を離した隙に大虎くんはソファーで寝ていた。
傍に寄り頬を撫でるとパチッと目を覚ます大虎くん。
けれど、その眼はすぐにとろんとして今にも眠りそうだったので私は大虎くんの手を引いて寝室まで連れていく。
どうにかベッドに寝かせると大虎くんはすぐに寝息を立て始めた。
手は繋がったままで放される気配はない。
 
「……私、ずっと待ってるからね」
 
私はそう呟いてそっとベッドに入り大虎くんの手を握り返して眠りについたのだった。
 
 
 
 
END
感想 1

あなたにおすすめの小説

ソツのない彼氏とスキのない彼女

吉野 那生
恋愛
特別目立つ訳ではない。 どちらかといえば地味だし、バリキャリという風でもない。 だけど…何故か気になってしまう。 気がつくと、彼女の姿を目で追っている。 *** 社内でも知らない者はいないという程、有名な彼。 爽やかな見た目、人懐っこく相手の懐にスルリと入り込む手腕。 そして、華やかな噂。 あまり得意なタイプではない。 どちらかといえば敬遠するタイプなのに…。

フローライト

藤谷 郁
恋愛
彩子(さいこ)は恋愛経験のない24歳。 ある日、友人の婚約話をきっかけに自分の未来を考えるようになる。 結婚するのか、それとも独身で過ごすのか? 「……そもそも私に、恋愛なんてできるのかな」 そんな時、伯母が見合い話を持ってきた。 写真を見れば、スーツを着た青年が、穏やかに微笑んでいる。 「趣味はこうぶつ?」 釣書を見ながら迷う彩子だが、不思議と、その青年には会いたいと思うのだった… ※他サイトにも掲載

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

大好きな背中

詩織
恋愛
4年付き合ってた彼氏に振られて、同僚に合コンに誘われた。 あまり合コンなんか参加したことないから何話したらいいのか… 同じように困ってる男性が1人いた

義姉と押し入れに隠れたら、止まれなくなった

くろがねや
恋愛
父の再婚で、義姉ができた。 血は繋がっていない。でも——家族だ。そう言い聞かせながら、涼介はずっと沙耶から距離を取ってきた。 夏休み。田舎への帰省。甥っ子にせがまれて始まったかくれんぼ。急いで飛び込んだ押し入れの中に、先客がいた。 「……涼介くん」 薄い水色の浴衣。下ろした髪。橙色の光に染まった、沙耶の顔。 逃げ場のない暗闇の中で、二人分の体温が混ざり合う。 夜、来て。 その一言が——涼介の、全部を壊した。 甘くて、苦しくて、止まれない。 これは、ある夏の、秘密の話。

手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】

まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と… 「Ninagawa Queen's Hotel」 若きホテル王 蜷川朱鷺  妹     蜷川美鳥 人気美容家 佐井友理奈 「オークワイナリー」 国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介 血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…? 華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。

結婚する事に決めたから

KONAN
恋愛
私は既婚者です。 新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。 まずは、離婚してから行動を起こします。 主な登場人物 東條なお 似ている芸能人 ○原隼人さん 32歳既婚。 中学、高校はテニス部 電気工事の資格と実務経験あり。 車、バイク、船の免許を持っている。 現在、新聞販売店所長代理。 趣味はイカ釣り。 竹田みさき 似ている芸能人 ○野芽衣さん 32歳未婚、シングルマザー 医療事務 息子1人 親分(大島) 似ている芸能人 ○田新太さん 70代 施設の送迎運転手 板金屋(大倉) 似ている芸能人 ○藤大樹さん 23歳 介護助手 理学療法士になる為、勉強中 よっしー課長(吉本) 似ている芸能人 ○倉涼子さん 施設医療事務課長 登山が趣味 o谷事務長 ○重豊さん 施設医療事務事務長 腰痛持ち 池さん 似ている芸能人 ○田あき子さん 居宅部門管理者 看護師 下山さん(ともさん) 似ている芸能人 ○地真央さん 医療事務 息子と娘はテニス選手 t助 似ている芸能人 ○ツオくん(アニメ) 施設医療事務事務長 o谷事務長異動後の事務長 雄一郎 ゆういちろう 似ている芸能人 ○鹿央士さん 弟の同級生 中学テニス部 高校陸上部 大学帰宅部 髪の赤い看護師(川木えみ) 似ている芸能人 ○田來未さん 准看護師 ヤンキー 怖い

【完結】僕ら二度目のはじめまして ~オフィスで再会した、心に残ったままの初恋~

葉影
恋愛
高校の頃、誰よりも大切だった人。 「さ、最近はあんまり好きじゃないから…!」――あの言葉が、最後になった。 小島久遠は、新たな職場で、元カレとまさかの再会を果たす。 若くしてプロジェクトチームを任される彼は、 かつて自分だけに愛を囁いてくれていたことが信じられないほど、 遠く、眩しい存在になっていた。 優しかったあの声は、もう久遠の名前を呼んでくれない。 もう一度“はじめまして”からやり直せたら――そんなこと、願ってはいけないのに。 それでも—— 8年越しのすれ違いは、再会から静かに動き出す。 これは、終わった恋を「もう一度はじめる」までの物語。