ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す

名無し

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第23回 影

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「おい、そこにいるのは、まさか、佐嶋かあ?」

「はっ……」

 工事現場へ向かって、燦然と輝く道を歩いていたときだ。俺の後ろのほうから長い人影が伸びてくるとともに、がした。

「……ま、ま、まさか、お前は……」

 恐る恐る振り返ると、鞄を脇に抱えたスーツ姿の男が満面の笑みを浮かべていた。

「……は、は、羽田……」

 間違いない。虐殺者のスレイヤー、羽田京志郎だ。もうここを嗅ぎつけてきたのか……。

「やはり、ネクロフィリアの佐嶋だったかあぁ。ついに見つけたぞおぉぉ――」

「――くっ……!」

 俺は気付いたときには工事現場とは逆方向に駆け出していた。

 どう考えたってあんな化け物とまともに戦って勝てるわけがないし、逃げるしかない状況だが、玄さんたちに迷惑をかけるわけにもいかない。なんとしても逃げ切るんだ。

 なるべく視界が開けた、なおかつ人目が多い場所がいい。そういうところなら世間体もあるからスレイヤーも迂闊に手出しはできないはず……。

「…………」

 って、あれ……追いかけてこない……? 走りながら振り返ると、誰もいなかった。

「おい佐嶋、あたしが相手になってやんよ……」

「なっ……」

 すぐ近くから声がしたと思って前を向いたら、あの裏切者の黒坂優菜が不敵な笑みを浮かべていた。こいつ、一体いつの間に……。

「く、黒坂、お前まで……」

「久しぶりじゃねーか、佐嶋。でも、もう終わりだよ。お礼参りされる前にぶっ殺してやるから、覚悟しなっ!」

「や、やられてたまるかっ……!」

 黒坂もとっくにスレイヤーになっているわけで、レベル3の俺がかなう相手ではない。そのため、俺は来た道を急いで引き返すしかなかった。もう少し走れば横に狭い路地があるはずだから、リスクはあるがそこを通ろう。

 少々遠回りにはなるものの、その路地さえ抜ければ大通りに出るし、そこならやつらも手を出せない――

「――待ちくたびれたぞぉ、佐嶋あ……」

「……あ、あ、あ……」

 細い路地の入口には、腕組みをした得意顔の羽田が立っていた。

「羽田さん、ナイスッ! これで佐嶋は袋の鼠だよっ!」

「…………」

 すぐ背後からは黒坂の弾むような声。俺はスレイヤー二人に挟み撃ちにされてしまった。

「さあて、どんな風に殺してやるとするかなぁ……」

「佐嶋、今度こそあたしが仕留めてやるから、覚悟しな……」

「……ち、畜生……」

 折角、植物状態から脱してレベルを上げられる状況になったっていうのに、俺はスレイヤーにさえなれず、やり返す前に芽を摘まれてしまうというのか……。

「クククッ……今すぐ美しい死体に変えてやるぞおおぉぉ……」

「アハハハッ! 殺す、ぶっ殺してやるってんだよ……!」

「…………」

 それでも俺は諦めたくなくて、なんとか隙を見て逃げようとするが、何故かまったく動けなかった……って、あれ? よく見ると俺の左足がなくなっているのがわかる。

 そ、そんなはずはない。確かにレベルアップしたことで回復したはずだが、まさかあれは幻だったっていうのか――?

「――はっ……」

 もうダメかと思った矢先、俺は暗がりの中にいた。

「……はぁ、はぁ、はぁっ……」

 しばらくの間、自分の呼吸音だけが響く。どうやら今までのことは夢だったみたいだな。ここは自宅で、二階にある俺の部屋だ……。

 そうそう、俺は親父が死んでからというもの、母さんや妹を守ってほしいという遺言を守る格好で実家から仕事場に通うようになったんだ。それにしても、まだ心臓が高鳴っている程度にはリアルな夢だった。

 まさかと思って足を見ると、ちゃんとあったので心底ほっとした。っていうか、まだあいつらに何もされてないのに急に足を失うなんて、冷静に考えてみたらおかしい話なんだが、それでも追い詰められていたせいか夢だとは思えなかった。

「…………」

 まだ窓の外が暗いので二度寝しようとしたものの、興奮したせいか眠れなくなってしまった。

 そうだ、この際だからレベルを4まで上げようかと思うも、虐殺者の羽田や黒坂に襲われるかもしれないってことを考えたら、レベルアップの報酬である全回復は保険として持っておいたほうがいいかもしれない。

「――あ……」

 そこで窓が叩かれる音がしたので、はっとする。

 お、おいおい……まさか、あの悪夢が現実のものになるのか? やつらがここまでやって来たっていうのか……?

「……あ……」

 目を凝らしてよく見てみると、窓を叩いていたのは黒い毛に覆われた生き物だった。なんだ、妹の灯里が飼ってる黒猫のライトじゃないか。何故か知らないが、猫に興味がない俺のほうに懐いてるんだ。

「ミャー」

 ったく、驚かせやがって……。窓を開けるとライトは尻尾を立てながらすり寄ってきた。朝起きたら猫を見て喜ぶだろうし、一階にある灯里の部屋に持っていってやるとするか……。
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