51 / 91
第51回 怒涛
しおりを挟む「あっ……」
「ん、佐嶋よ、どうしたのだ?」
「い、いや、なんでもないです……」
「怪しいのー……」
風間に疑いの目を向けられているが、彼には【クエスト簡略化】スキルがないんだから現状がわかるはずもない。
というのも、ボスの体が点滅し始めていたのだ。まだかなりゆっくりではあるものの、弱り始めているという紛れもない証拠だった。
このペースならそのうち倒せそうだな。こっちが反撃する機会なんて大してなかったのにこうなったのは、俺の連続攻撃も効いてはいるだろうが、それだけスレイヤーの風間の力が大きいんだろう。
「――スウウウゥゥッ……」
「…………」
デスマスクが吸息音とともに哀しい顔を覗かせたとき、俺は肝心なことに気付いた。
そうだ、この局面だとボスはアシッドレインをしてくるっていうのに、この真っ二つに割れた大剣でどう凌げばいいのか。しかも所々罅割れてるし、これで果たして耐えられるのか……。
「風間さん、その剣、とりあえずくっつけてください」
「な、何を言っとるんだ、佐嶋よ……?」
「今のままじゃ酸の雨を凌げないですから!」
「あっ……そ、それはそうだなっ……だ、だが、これでは漏れるぞ……」
風間が剣をくっつけたが、確かに今のままじゃ厳しそうだ。しかもカウントダウンが差し迫ってきている。どうするか……って、そうだ、一か八か、あの手段に賭けてみよう。
「フシュウウウゥゥッ……」
「「……」」
吐息とともに怒涛の雨が降り注いできて心臓に悪かったが、大丈夫だ。酸の雫は今のところ内側のほうには漏れてこない。
どうやって雨を凌いだのかというと、割れた大剣をくっつけた上、その中央に俺のツルハシを挟み込んだんだ。さらにその先端がいい具合に強酸の流れを別方向にずらしてくれていた。
「――や、止みましたね……」
「……う、うむ、止んだな……」
かなり長い間続いたように感じたが、ようやく止んでくれたこともあり、俺たちは安堵した顔を見合わせていた。デスマスクは仮面をつけて待機状態に入っている。
とはいえ、ホッとしてばかりもいられない。風間との勝負は続いているし、邪魔者が現れる可能性もあるからだ。
「ちょっ、風間さん……」
「ん? どうしたのだ?」
「剣が……」
「っ!?」
なんてことだ。風間が両手に剣を戻した途端、全体が崩れ落ちたのだ。
「も、持たなかったか……」
やはり、羽田の念力で真っ二つにされ、罅割れた影響が大きかったんだろう。それに加えてボスへの攻撃、アシッドレインという負荷が加わり、こうなったというわけだ。
「風間さん、元気を出して――」
「――さ、佐嶋よ、そう言うお前さんのツルハシも……」
「えっ……? あっ!」
俺のツルハシも、ほとんどが溶けたことで無惨な姿になってしまっていた。痛いが、まあ仕方ない。風間の武器と比べるとただの工事用のものだし、ここまでよく持ちこたえてくれた……。
ただ、これで身を守るものがなくなった俺たちは、次の哀の顔までにボスを倒さないといけなくなった。まさに追い詰められた状況で、背水の陣もいいところだ。
「スウウウゥゥゥッ……」
吸息音とともに仮面が剥がれ、デスマスクが喜の顔を露にする。
ここは耳を塞いで耐え忍ぶしか……って、それじゃダメだ。この局面で、両手が塞がるからと俺は反撃する方法がないと決めつけていたが、それじゃ哀の顔までに間に合いそうにないし、耳を閉じたままでもボスにダメージを与えられる方法を考えないと。
ただ、大剣とツルハシは壊れてしまってるし、どうしたら……って、待てよ? そうだ、武器がないことで、逆に思いついたことがあった。
「風間さん……耳を塞いだ状態でジャンプしましょう」
「へっ……!? さ、佐嶋よ、お前さん、正気なのか……?」
「両手は使えないので、頭突き、肘打ち、蹴り、体当たり……この中でどれか一つ、今のうちに攻撃方法を選んでおいてください」
「ちょっ、本気でやるつもりなのか……!?」
「もちろんです。このままじゃ、次にアシッドレインが来たときに全滅しちゃいますからね」
「……そっ、それは、確かにそうだの……」
風間は怯んだ表情ながらも現状を理解したようだ。素手でもなんでも、今の俺たちはとにかく攻めるしかないんだと。
さあ、ボスの攻撃が来るまであとほんの数秒しかない。
「フシュウウウゥゥゥッ――」
「――今ですっ……!」
俺はもう、どうやって攻撃するか決めていた。耳を塞ぎつつ、風間とともに高く跳躍すると、ボスの輝く顔が近付いてきたところで空中で半回転し、両足で怒涛の足蹴りをかましてやった。
よしよし……音は聞こえないしダメージは低かったかもしれないが、塵も積もれば山となる、だ。ちなみにその間、風間が体当たりをかましていたが、俺の派手な連続攻撃を前に霞む格好になったせいか少し悔しそうだった。
俺たちが地面に着地してから天を見上げると、ボスの点滅速度がかなり上昇しているのがわかる。よしよし、狙い通りだ。この調子なら、心配したもののもうすぐ倒せそうだな……。
まもなくデスマスクが仮面を被り、束の間の安息のときが訪れる。
次は楽の顔が来るし無の境地を強いられるので、ここでは無理をせずにじっとしていたほうがよさそうだ。怒りの顔のときにとどめを刺せるだろうし、それが万が一ダメでも、アシッドレインが降る直前に跳び上がって攻撃すれば、火傷を負う程度で間違いなく仕留められるはず。
「――スウウゥゥゥッ……」
吸息音がしたのち仮面が壊れ、楽の顔が頭上に降臨する。
カウントダウンも順調に進み、残り十秒を切ろうとしていた。さあ、いよいよだな……。
12
あなたにおすすめの小説
シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~
尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。
だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。
全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。
勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。
そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。
エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。
これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。
…その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。
妹とは血の繋がりであろうか?
妹とは魂の繋がりである。
兄とは何か?
妹を護る存在である。
かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!
無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います
長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。
しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。
途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。
しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。
「ミストルティン。アブソープション!」
『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』
「やった! これでまた便利になるな」
これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。
~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~
さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。
全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。
ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。
これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ゆう
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる