A級パーティーを追放された黒魔導士、拾ってくれた低級パーティーを成功へと導く~この男、魔力は極小だが戦闘勘が異次元の鋭さだった~

名無し

文字の大きさ
7 / 37

7話 絆

しおりを挟む

「俺たちのパーティー【深紅の絆】はな、元々【栄光の賛歌】っていうパーティー名で、メンバーは五人だったんだ……」

 話は、ガムランのこの一言から始まった。

「以前は黒魔導士のジンと、戦士のエリックってのがいてな。はっきり言って、この二人が俺たちの攻守の要といってよかった。俺たちは、あいつらに引っ張られるようにしてC級パーティーまで駆け上がった。一度の失敗もなく、順調そのものだった……」

「……」

 なるほど、C級までいっていたのか。粗さはあったが、G級パーティーにしては結構手慣れてたしな。

「あのが起きるまでは……」

「……忌まわしい事件?」

「そうだ。思い返したくもねえがな……」

 ガムランが露骨に顔をしかめる。おそらくここからが話の核心部分なんだろう。

「ガムランさん、そこからは僕が話しますよ」

「い、いや、ワドル、これくらいかまわねえって」

「ガムランさんはリーダー同様、彼らと親しかったですし、僕は最後に入りましたからね。その分ダメージは少ないんです」

「じゃ、じゃあ頼むぜ。この話をすると気分が重たくなるからよ……」

「はい。ではモンドさん、続きは僕からお話しします」

「あ、あぁ……」

 語り主がガムランからワドルに変更された。どうやらかなり重い内容みたいだな……。

「僕たちは半年かけてC級の依頼を三つ攻略して、いよいよパーティーのB級昇格が見えてきた頃でした。カイゼル渓谷という場所でアビスゴーレムを討伐中、イレギュラーが起きてしまったんです……」

「討伐中にイレギュラーとは、タイミングが悪いにもほどがあるな。一体何が起きたんだ?」

「背後にモンスターが発生したんです。それがなんと、レッドドラゴンでして……」

「レ、レッドドラゴンだって……!?」

 レッドドラゴンはS級パーティーの討伐対象なわけで、そんなのが出て来るなんてイレギュラーすぎるな……。

「左右が切り立った崖、前にはゴーレム系で特にタフで知られるアビスゴーレム、後ろにはドラゴン系で最も火力の高いといわれるレッドドラゴンという過酷すぎる状況の中、戦士のエリックさんが声高に叫んだんです。自分が囮になるから、早くゴーレムを倒すようにと」

「……」

 レッドドラゴンのファイヤーブレスは、食らったら骨どころか灰すら残らないといわれる。そんな化け物を相手にして囮になるなんて、死を覚悟しないとできないことだ。

「エリックさんは普段からひょうきんなことを言って、みんなを笑わせてくれるムードメーカー的な存在でして、遊び人になったほうがいいなんてよくからかわれてましたが、このときばかりは違っていましてね。僕たちを懸命に守ろうとする勇敢な戦士そのものだったんです……」

 確かに勇敢な男だ。戦士とはいえ、相手がレッドドラゴンなら逃げ惑ってもおかしくない状況だからな。

「僕たちは必死にゴーレムを倒したんですが、直後にエリックさんはレッドドラゴンの突進を食らい、僕の回復魔法も及ばないほどの瀕死の重傷を負ってしまいました。それをなんとか助けようと、特に彼と仲が良かった黒魔導士のジンさんが肩を貸して逃げ始めたんです」

「それじゃ、逃げられないだろうな……」

「モンドさんの言う通りです。僕たちは補助魔法をかけて全力で走ったんですが、レッドドラゴンの執拗な追跡から逃れられるわけもなく、気付けばすぐ後ろまで迫ってきていました。そんな中、エリックさんがジンさんを突き飛ばし、後方に走ったんです」

「ま、まさか……」

「エリックさんは、自分はもう助からないとこぼしていたので死ぬつもりだったんでしょう。ジンさんは追いかけようとして、それを僕たちが力尽くで止めたんです。エリックを見殺しにするつもりかというジンさんの叫び声と、その直後にエリックさんに放たれたファイヤーブレスが、今でも脳裏に焼き付いてます……」

「……」

 話を聞くだけでも衝撃的だったし、俺もその場にいたら一生忘れられないだろう。

「それからジンさんは酒に溺れるようになり、ギルドで何度も喧嘩沙汰を起こすようになりました。そのペナルティによって、僕たちのパーティーはどんどん降格していったんですが、それでもリーダーは彼を追放することはしませんでした」

「追放しないのは、エリックを死なせてしまったことの負い目かな……」

「新参の僕ですら引き摺ってるくらいですし、それもあるでしょうね。いよいよF級まで降格してしまいましたが、リーダーは動きませんでした。これ以上、大切な仲間を失いたくはなかったんでしょう……」

「それで、最後の最後に追放を……?」

「いえ、F級に降格してからしばらくして、ジンさんは自らパーティーを脱退し、そのあとは行方不明になってしまいました。リーダーは、今でも待ってるんです。彼が戻ってくるのを。だから、ほかの黒魔導士を正式なメンバーにしたら、帰る場所がなくなってしまうんじゃないかって、それを危惧してるみたいで、あのときのことを忘れないようにと、【深紅の絆】というパーティー名に変更を……」

「なるほどな……」

 よくわかった。グロリアがどれだけ仲間との絆を重んじているか。

「――ジン……貴様、いい加減戻ってこい……私は待ちくたびれたぞ……」

「……」

 グロリアが起きたと思ったら、ただの寝言のようだった。

「グロリアもよ、多分わかってるんだと思うぜ。あいつが……ジンが帰ってくることはもうないって……」

 ガムランが絞り出すように声を発する。

「僕もそう思います。今回、臨時メンバーとはいえ、黒魔導士のモンドさんを受け入れたのも、気持ちに整理がつきはじめている証拠でしょうしね」

「なるほど……」

「だから、モンド。今回、どうなるかはまだわかんねえけど、もしまた依頼を一緒にやることがあったら……そのときは、俺たち【深紅の絆】パーティーの正式な一員になってくれ。もちろん、無理強いするつもりはねえからよ」

「モンドさん、僕からもお願いします」

「気持ちは嬉しいけど、まだ先のことはわからないし、それにリーダーの許可も……」

「――モ、モンド、貴様っ、私の手から逃れようなどと、そうはいかんぞ……!?」

「「「……」」」

 グロリアの寝言がまた聞こえてきて、俺たちは呆れたような笑顔を見合わせた。

 ジンが帰って来る可能性だってまだあるだろうし、簡単に決められるわけもないが、俺にとっても居心地のいいパーティーだから、また一緒になる機会があったらそういう選択肢もありなのかもな……。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。 「ヨシュア……てめえはクビだ」 ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。 「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。 危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。 一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。 彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい

桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強

こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」  騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。  この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。  ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。  これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。  だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。  僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。 「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」 「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」  そうして追放された僕であったが――  自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。  その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。    一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。 「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」  これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

元悪役令嬢、偽聖女に婚約破棄され追放されたけど、前世の農業知識で辺境から成り上がって新しい国の母になりました

黒崎隼人
ファンタジー
公爵令嬢ロゼリアは、王太子から「悪役令嬢」の汚名を着せられ、大勢の貴族の前で婚約を破棄される。だが彼女は動じない。前世の記憶を持つ彼女は、法的に完璧な「離婚届」を叩きつけ、自ら自由を選ぶ! 追放された先は、人々が希望を失った「灰色の谷」。しかし、そこは彼女にとって、前世の農業知識を活かせる最高の「研究室」だった。 土を耕し、水路を拓き、新たな作物を育てる彼女の姿に、心を閉ざしていた村人たちも、ぶっきらぼうな謎の青年カイも、次第に心を動かされていく。 やがて「辺境の女神」と呼ばれるようになった彼女の奇跡は、一つの領地を、そして傾きかけた王国全体の運命をも揺るがすことに。 これは、一人の気高き令嬢が、逆境を乗り越え、最高の仲間たちと新しい国を築き、かけがえのない愛を見つけるまでの、壮大な逆転成り上がりストーリー!

ざまぁされた馬鹿勇者様に転生してしまいましたが、国外追放後、ある事情を抱える女性たちの救世主となっていました。

越路遼介
ファンタジー
65歳で消防士を定年退職した高野健司、彼は『ざまぁ』系のネット小説を好み、特に『不細工で太っている補助魔法士の華麗な成り上がり』と云う作品を愛読していた。主人公アランの痛快な逆転劇、哀れ『ざまぁ』された元勇者のグレンは絶望のあまり…。そして、85歳で天寿を全うした健司は…死後知らない世界へと。やがて自身が、あのグレンとなっていることに気付いた。国外追放を受けている彼は名を変えて、違う大陸を目指して旅立ち、最初に寄った国の冒険者ギルドにて女性職員から「貴方に、ある事情を抱えている女性たちの救世主になってもらいたいのです」という依頼を受けるのであった。そして、そのある事情こそ、消防士である高野健司が唯一現場で泣いた事案そのものだったのである。

1つだけ何でも望んで良いと言われたので、即答で答えました

竹桜
ファンタジー
 誰にでもある憧れを抱いていた男は最後にただ見捨てられないというだけで人助けをした。  その結果、男は神らしき存在に何でも1つだけ望んでから異世界に転生することになったのだ。  男は即答で答え、異世界で竜騎兵となる。   自らの憧れを叶える為に。

処理中です...