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12話 隠れるもの
しおりを挟む凄い。これは便利だ。あまりにも便利すぎる……。
【殺意の波動】の効果は、半径20メートル以内の敵を全て麻痺させるっていうだけあって、この森では必須のスキルなんじゃないかと思えるほど威力を発揮していて、ゴブリンやオークの群れが近くにあっても一切気にすることなく容易に進むことができていた。
「……」
楽なせいか、アルウのことがふと脳裏に浮かんできた。でも、僕にはどうしてやることもできないしな……。なんとかできるならしてあげたいけど、今はまず自分の用事を済ませなきゃ。
「――あ……」
遂に見えてきた。正面に立ち並ぶ木々の間から、森の中心にあるっていう湖が。あの近くに、僕が目当てにしてるレインボースパイダーっていうモンスターが出現するはずなんだ。そういうわけで、僕は立ち止まって少し距離のある木陰から湖の周辺を凝視することにした。
――あ、今何か動いたような。きっと探しているアレだ。早速【鑑定士】スキルを使用してみる。
名前:レインボースパイダー
レベル:23
種族:蜘蛛
属性:地
サイズ:中型
スキル:
【偽装】
やっぱり蜘蛛型モンスター、レインボースパイダーだった。周りの景色と体色を同化させるようにしてゆっくりと移動しているのがわかる。じっくり観察してないと見逃すレベルだ。さすが、僕が獲得を目指している【偽装】スキルを持つだけある。
これを自分のものにするためには、僕に対して姿を隠すべく【偽装】スキルを使用する瞬間を狙うしかないわけなんだけど、そのためには僕の存在を認識させた上である程度近付かなきゃいけない。それが結構難易度が高い。
さらに蜘蛛は存在を隠すだけでなく、獲物を見ることで体力を少しずつ吸収できる特殊攻撃があることでも知られているんだ。
特殊攻撃が鑑定結果の中に表示されないのは、スキルには熟練度があるといわれていて、それがまだ僕の中では未熟な部類に入るからだと思う。とにかくこの特殊攻撃があることは、【殺意の波動】で麻痺させても意味がないことを意味している。
それでも今の僕にはほかに対処する手段があるしいけるはず……。そういうわけで念入りに頭の中でシミュレーションしたあと、レインボースパイダーに向かって《跳躍・小》で進んでいく。
『ギュルル……』
お、早速特殊攻撃を仕掛けられてるのか僕の体力が減り始めるのがわかったけど、負けじとこっちも視線を削除することで応戦する。いずれ【偽装】スキルの効果が切れて姿を見せるはずで、そのときに僕に対して改めて【偽装】を使ってくるだろうから、そのタイミングで【削除&復元】を使う予定だった。
よし……視線を切り始めてからほどなくしてやつは姿を現わした。その正体は真っ白な蜘蛛で、足元に魔法陣が浮かび上がってくるのが確認できる。すぐに【偽装】で隠れようって魂胆だろうけどそうはいかないぞ。
さあ、削除してやる――って、あれ? 魔法陣が出たと思ったときには蜘蛛の姿が消えてしまってた。こっちにはルーズダガーがあるのにそれでもスキル使用が速すぎる……。
「はっ……」
しかも、気付いたときには僕の体力が物凄い勢いで削られているのがわかった。これは、大量のレインボースパイダーに囲まれてしまってるってことだ。一体何匹いるんだ、これ……。とてもじゃないが全部断ち切れる気がしない。またたく間に意識が朦朧としてきて、疲労をいくら削除しても追いつかないほどだった。
相手の数が多ければ多いほど【偽装】を削除できそうなものなんだけど、スキルの効果時間が長いのか中々姿を現わしてくれないから、待っている間にやられてしまいそうだ。
こうも数がいると厳しい。少し倒して減らすか、あるいは一旦退くか……。
いや、この状況はある意味チャンスなんじゃないか? 姿を現わすようにこっちから仕向けてやればいいんだ。
そういうわけで、僕は【ストーンアロー】を周囲を覆っているであろう蜘蛛たちにぶつけてやるとともに、浮かんできたやつらの足元に魔法陣が現れた瞬間、【削除&復元】スキルを使用してやった。
早速【鑑定士】スキルで確認してみる。これだけの数が一斉に隠れようとするなら、一つくらいは削除できてるはず……。
名前:カイン
レベル:20
年齢:16歳
種族:人間
性別:男
冒険者ランク:B級
装備:
ルーズダガー
ヴァリアントメイル
怪力の腕輪
スキル:
【削除&復元】
【鑑定士】
【ストーンアロー】
【武闘家】
【殺意の波動】
【偽装】
テクニック:
《跳躍・小》
《盗み・小》
ダストボックス:
疲労35
恐怖18
眠気3
空腹2
頭痛12
オーガの死骸
吸収の眼光31(特殊攻撃)
よしよし、ちゃんと【偽装】の【削除&復元】ができてる。僕は早速手に入れた新スキルを自身の体に使ってみた。
「……」
レインボースパイダーたちには僕のことが見えないらしく、疲労を削除してもすぐに疲れるようなことはなくなった。
ちなみに、蜘蛛の特殊攻撃の吸収の眼光を一つ手元に復元させてみたけど何も表示されなかったから使い捨てっぽい。僕が蜘蛛みたいな体の構造だったら常時使用できたのかもしれないけど。
さて……あとは駆除するだけだね。【武闘家】スキルを発動させ、今までのお返しとばかりに蜘蛛たちを蹂躙する。
『『『『『ギュルルルアァァッ!?』』』』』
「ふう……」
あっという間だった。ついでに依頼を達成するべく、倒した蜘蛛の足も削除してダストボックスに収納する。
◆◆◆
「……」
『鬼哭の森』の中心近くにて、木々や湖を一望できる高い樹の上から、蜘蛛のモンスターと少年が戦う様子を神妙な表情で見つめる兎耳の男がいた。
(なるほど、ミュリアが潜在能力を高く評価しているだけある。判断能力も素晴らしい。だが……まだまだ全体的に粗削りといったところか。それでも、いずれはレジェンドクラスの者たちに肩を並べる可能性もあることを考えれば、やつらに取られることだけは絶対に避けなければ……)
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