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迷走編
37-2話【daily work】渡辺 弘 63歳:ハプニング(藍原編)②
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ガラッ。
勢いよく扉が開いて、入ってきたのは、待ちに待っていた警備員……ではなくて、西園寺先生だった。
「お取り込み中失礼します。私、病棟の責任者の西園寺と申します」
あまりに普通に入ってきたもんだから、皆一瞬呆気に取られる。
「こちらの病室のほうがうるさいとほかの入院患者様からクレームが来まして。すみませんね、もうちょっと静かにしていただけると助かるのですが」
美余さんはナイフを握ったままだし、渡辺さんのお宝も出たまんま。明らかに異常な状況なのに、西園寺先生、いたって冷静。あたしはそんな先生の白衣の裾をつんつんと引っ張る。
「せ、先生、状況、ご存じです? 今、不倫現場を目撃した奥様と、三つ巴の修羅場なんですけど……」
小声で囁くと、西園寺先生はちらっとあたしを見た。
「佐々木さんから聞いたわ。だから来たのよ。ほら、次期病棟長、丸く収めてみなさいよ」
「むっ、無理ですっ! こういうのはむしろ、西園寺先生の得意分野なのでは……」
西園寺先生はにやりと笑った。
「うふふ。あたし、男女の濡れ場と修羅場は大好物。でもね、場所が悪かったねえ。病棟でやられちゃあ、止めないわけには行かないからねえ。さあ、どうしたものかしら……」
西園寺先生、一触即発のこの状態を楽しむかのようにうっすらと笑みを浮かべて目を細める。さ、さすがだわ、西園寺先生……。
奥さんが再びナイフを振り上げたので、あたしは慌てて声をかけた。
「奥さん、こんなことで警察に捕まったりするの、バカらしいと思いませんか? 残りの人生が台無しですよ?」
とりあえずありがちなセリフでなだめてみる。でも美余さんは止まらない。
「いいんですよ、私の残りの人生をかけて、この男とそこのメス豚をぶっ壊してやるんだから!」
ああ、ダメだ。止めようがない。すると。西園寺先生が、一歩前へ進み出た。
「それじゃあぶっ壊せないですよ」
「え?」
美余さんの動きが止まる。
「確かにね、渡辺さん本人への復讐は、成功するでしょうね。でも、この秘書の方は、これくらいじゃあへこたれませんよ」
ええ!? そ、そんな、煽るようなこといって、まさか更なる修羅場化を狙ってるなんてことは……。
「この方、まだ30台でしょう? 確かに、綺麗ね。それに優秀な秘書さんだとのこと。こういう人はね、あなたが渡辺さんの陰茎を切断したところで、堪えることなく、またすぐ次の職場と男を見つけますよ。何の復讐にもなりません」
うわあ、さすが西園寺先生、エロい女の生態をよくご存じで。美余さんの目が怒りにメラメラと燃え上がった。
「じゃあ、この女も使い物にならなくしてやるわ……!」
「やっ、やめてください、奥様ッ!」
そりゃそうなるわよね? 西園寺先生、なにやっちゃってるの!
「使い物といえば。奥さん。あなたは使い物になるんですか?」
さ、西園寺先先生!? なんですか、またその、神経を逆撫でするような発言!? ああもう、警備員さん、早く来て!
「あ、当たり前でしょう! 何をいいだすんですか、急に!」
「いえね、奥さんが使い物にならないんだとしたら、ご主人が浮気に走るのもいたしかないのかな、と思いまして。でも、奥さん。……あなたも、とてもお綺麗ね? こちらの秘書の方にはない、円熟した色気をお持ちでいらっしゃる」
……ちょっと待って。今、西園寺先生の声音に何やら淫靡な響きが混じっていたのは、気のせい……?
「そりゃそうですよ、だって私、日ごろからお手入れは欠かしていませんし、いつまでも魅力的でいられるように、毎日、努力して……なのに……」
美余さんが涙声になってきた。そういえば。さっき渡辺さんが、美余さんが自分から咥えてきたって……。
「……奥さん。日ごろのお手入れは、ご自分のためじゃなくて……ご主人の、ためだったんですか?」
勢いよく扉が開いて、入ってきたのは、待ちに待っていた警備員……ではなくて、西園寺先生だった。
「お取り込み中失礼します。私、病棟の責任者の西園寺と申します」
あまりに普通に入ってきたもんだから、皆一瞬呆気に取られる。
「こちらの病室のほうがうるさいとほかの入院患者様からクレームが来まして。すみませんね、もうちょっと静かにしていただけると助かるのですが」
美余さんはナイフを握ったままだし、渡辺さんのお宝も出たまんま。明らかに異常な状況なのに、西園寺先生、いたって冷静。あたしはそんな先生の白衣の裾をつんつんと引っ張る。
「せ、先生、状況、ご存じです? 今、不倫現場を目撃した奥様と、三つ巴の修羅場なんですけど……」
小声で囁くと、西園寺先生はちらっとあたしを見た。
「佐々木さんから聞いたわ。だから来たのよ。ほら、次期病棟長、丸く収めてみなさいよ」
「むっ、無理ですっ! こういうのはむしろ、西園寺先生の得意分野なのでは……」
西園寺先生はにやりと笑った。
「うふふ。あたし、男女の濡れ場と修羅場は大好物。でもね、場所が悪かったねえ。病棟でやられちゃあ、止めないわけには行かないからねえ。さあ、どうしたものかしら……」
西園寺先生、一触即発のこの状態を楽しむかのようにうっすらと笑みを浮かべて目を細める。さ、さすがだわ、西園寺先生……。
奥さんが再びナイフを振り上げたので、あたしは慌てて声をかけた。
「奥さん、こんなことで警察に捕まったりするの、バカらしいと思いませんか? 残りの人生が台無しですよ?」
とりあえずありがちなセリフでなだめてみる。でも美余さんは止まらない。
「いいんですよ、私の残りの人生をかけて、この男とそこのメス豚をぶっ壊してやるんだから!」
ああ、ダメだ。止めようがない。すると。西園寺先生が、一歩前へ進み出た。
「それじゃあぶっ壊せないですよ」
「え?」
美余さんの動きが止まる。
「確かにね、渡辺さん本人への復讐は、成功するでしょうね。でも、この秘書の方は、これくらいじゃあへこたれませんよ」
ええ!? そ、そんな、煽るようなこといって、まさか更なる修羅場化を狙ってるなんてことは……。
「この方、まだ30台でしょう? 確かに、綺麗ね。それに優秀な秘書さんだとのこと。こういう人はね、あなたが渡辺さんの陰茎を切断したところで、堪えることなく、またすぐ次の職場と男を見つけますよ。何の復讐にもなりません」
うわあ、さすが西園寺先生、エロい女の生態をよくご存じで。美余さんの目が怒りにメラメラと燃え上がった。
「じゃあ、この女も使い物にならなくしてやるわ……!」
「やっ、やめてください、奥様ッ!」
そりゃそうなるわよね? 西園寺先生、なにやっちゃってるの!
「使い物といえば。奥さん。あなたは使い物になるんですか?」
さ、西園寺先先生!? なんですか、またその、神経を逆撫でするような発言!? ああもう、警備員さん、早く来て!
「あ、当たり前でしょう! 何をいいだすんですか、急に!」
「いえね、奥さんが使い物にならないんだとしたら、ご主人が浮気に走るのもいたしかないのかな、と思いまして。でも、奥さん。……あなたも、とてもお綺麗ね? こちらの秘書の方にはない、円熟した色気をお持ちでいらっしゃる」
……ちょっと待って。今、西園寺先生の声音に何やら淫靡な響きが混じっていたのは、気のせい……?
「そりゃそうですよ、だって私、日ごろからお手入れは欠かしていませんし、いつまでも魅力的でいられるように、毎日、努力して……なのに……」
美余さんが涙声になってきた。そういえば。さっき渡辺さんが、美余さんが自分から咥えてきたって……。
「……奥さん。日ごろのお手入れは、ご自分のためじゃなくて……ご主人の、ためだったんですか?」
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