妄想女医・藍原香織の診察室

Piggy

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障害編

95話【daily work】西園寺 すみれ:辞表(藍原編)

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「えっ、梨沙ちゃん、辞めちゃったんですか?」

 昼間の食堂で、あたしはびっくりして声をあげた。西園寺先生は、顔色ひとつ変えずに焼肉定食をほおばっている。クールでおしゃれなイメージの西園寺先生には不釣り合いな気もするけど、先生らしいといえばらしいような。

「がっかりだわ。もっと骨のある子かと思ってたのに、あっさり辞表提出」
「ひゃは、いい気味じゃないですか! あたしはせいせいしましたよ」

 なぜだかナースの楓ちゃんも一緒に食事中。そうね、楓ちゃんのほうが、梨沙ちゃんのこと怒ってたものね。

「おかしいわね、あんなに楽しんだんだから、感謝こそすれ辞めるだなんてことになるはずないのに」
「……先生、それ、本気でいってます?」

 あたしのツッコミに、西園寺先生が心外だとでもいうように眉を吊り上げる。

「あら、私はただ、ぎくしゃくした病棟を見かねて、一肌脱いだだけよ。あのおかげで、藍原さんだって彼氏と吹っ切れて、戸叶さんにもちゃんと文句をいえて、すっきりしたでしょ? 佐々木さんだって、彼氏に突っ込ませて、ドヤ顔だったじゃないの」
「彼氏じゃありません」
「だから、これでみんなすっきりして丸く収まるはずだったのに。まさか、梨沙ちゃんが辞めちゃうなんて」

 ……先生、本気で丸く収まるとでも思ってたのだろうか……。いや、そういう演技かも? すっとぼけてるふりして、実は全部計画通り?

「……なんだか、梨沙ちゃんに、可哀想なことしましたね……」

 うっかり呟いたら、楓ちゃんが呆れた顔であたしを見た。

「先生、どこまでお人よしなんですか!? 全然可哀想じゃないですよ、今までのつけが回ってきただけじゃん」
「ま、ちゃんと次の職場への推薦状も書いてあげたし、悪くはないんじゃない?」
「推薦状ですか」
「ええ。頭脳明晰で判断力・適応力に優れ、優秀な内科医です、ってね。一身上の都合で退職することになったのがとっても残念なくらいです。初期研修終了直後の退職につき、専門医等の資格は不所持ですが、学会発表で業績を残しており、臨床だけでなく学問・研究においてもさらなる活躍が期待されます。加えて、彼女の過剰なまでの社会適応能力には目を見張るものがあり、フェラ1級、クンニ2級の腕前に裏打ちされた確かな実力で、円滑な業務を行うことと思いますが、時として軋轢を生みかねないハイエナのような強奪精神には、若干の注意を要します」
「……先生、マジですか」
「冗談に決まってるじゃない」
「なんか今、先生の中に悪意を見ましたけど」
「そんなことないわ。あの子に辞めてほしくなかったのは本当よ。ああ、もっと楽しみたかったわぁ」

 ……院内で、西園寺先生に近づこうとする男の人がなかなかいない理由が、わかった気がしたわ。誰かがいってた。西園寺先生に狙われたら最後、チンコどころか骨の髄までしゃぶりとられるぞ、って。……梨沙ちゃん、ご愁傷様……。
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