妄想女医・藍原香織の診察室

Piggy

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妄想編

38話【conference in Hukuoka(day 1)】外科医 西 克彦 43歳:ホテル(藍原編)

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 ホテルの薄手の寝巻に着替え、ベッドの中で寝入ったころ。

 カチッカチッ。ピー、ピー。

 ……何の音?

 ガチャ、ガチャ。

 ……! ドアの音だ! あわてて飛び起きる。誰かがあたしの部屋を開けようとしている。何者? 隣の部屋の西園寺先生かしら? 酔っ払って部屋を間違えてるとか……。
 眠い目をこすりながらドアのレンズから覗いて、びっくりした! まさかの、西先生が立っている! え、どういうこと? あたしの部屋、知らないはずなのに。っていうか、夜中だし、どういうこと? ままままさかの、……夜這い?? 西園寺先生から、あたしの部屋を聞き出したとか……!? でもダメよ、西先生には、清楚系美人の花子さんという恋人が……!
 いきなり脈が速くなる。どうしようか迷ったけど、先生がしきりにカードキーを差し込んでは抜いて、頑張ってるから、ドキドキしながらドアを開けることにした。

 かちゃ。

 おそるおそるドアを開けると、西先生がふつーに入ってきた!

「はあ、やっと開いたか」

 え、ちょっと待って、そのナチュラルすぎる振る舞いはいったい……!?

「……あの、西先生、どうかされましたか……?」

 声をかけると同時に、西先生がビクンと跳ねあがって壁に張りついた。

「うわっ、だ、誰ですか!」
「え、あの、内科の藍原ですけど……」
「ええ!? な、なんでいるんですか!? え、ここ、藍原先生の部屋ですか?」
「……そうですけど……」

 も、もしかして、部屋間違い……? そういえば西先生、顔がほんのり赤い。こんな時間まで、飲んでたのかな? ……花子さんと一緒に。
 西先生はすっかりあわてて目を白黒させている。……ちょっと待って、あたし、西園寺先生かと思ってふらっと出ちゃったけど……今、ノーメイクだし、なにより、ホテル備え付けの薄っぺらい浴衣みたいな寝巻だから、む、胸の谷間もがっつり出ちゃってるし、……あっ、ちょっと、ち、乳首の形が……っ!
 大慌てで胸を隠すように両腕を寄せたら、今度は胸の谷間が強調されちゃう。うわあ、どうしよう、こんなカッコじゃ、まるで西先生を誘ってるみたいに……! 

「ひゃあ、す、すみません、こんな夜中に! いや実は、部屋に戻る途中でコンタクトを落としてしまって、もうまったく前が見えなくて……ここ、2010号室じゃなかったですか?」

 うそ、西先生、隣の部屋だったの?

「いえ、2011です。先生のお部屋、左隣ですよ」
「うわ、これは失礼しました! すぐ出ますので」

 そういった西先生は、くるっと背を向けて出口に向かおうとして……

 ゴンッ!

「いて!」

 え、西先生、反対側の壁に思いっきりぶつかってますけど。

「ああ、すみませんっ、視力が悪いもんで、まったく見えなくてですね……」

 西先生、すっかりあわててる。なんか、いつものクールなイメージとのギャップがすごくて、めちゃくちゃかわいい!

「ふふふ。先生、よければあたし、お部屋までお連れしますよ?」

 そんなに目が悪いなら、ノーメイクでも乳首出てても気にしなくて大丈夫だし、連れて行ってあげないと、これは隣の部屋にすら辿り着けない勢いだもの。

「申し訳ない、助かります」

 あたしは西先生の手を取った。あったかくて、大きくて、骨ばった手。……なんだか、中学生の初デートみたいにドキドキする。それにしても……新條くんのいうとおりね、部屋間違いする人、わりといるんだ。

「今までずっと飲んでたんですか?」
「あ、はい、そうですね……ちょっと飲みすぎました」
「ふふ、花子さんとですか?」
「花子?」
「あっ、いや、あの、レストランでご一緒だったきれいな彼女さん」
「ああ、結子のことですか? ははは、彼女じゃありませんよ、妹です。福岡に嫁いだものでね、せっかくこちらに来ることになったので一緒に食事でも、と」

 なんだ、妹さんだったのね! しかも人妻! はあ、ほれぼれ美男美女兄妹ね。

「それにしても、西先生がコンタクトだとは知りませんでした」
「いやあ、裸眼じゃほとんど見えないし、眼鏡にすると牛乳瓶の底になるしで、コンタクトが手放せないんですよ」
「はい、着きましたよ」

 西先生の代わりにドアを開けてあげて、連れていってあげる。

「ああ、助かりました。すみません、眼鏡とってもらってもいいですか? 椅子の上にあるボストンバッグの中にあるはずなのですが」

 整頓された西先生の部屋。いわれたとおり、すぐ見つかった。

「はい、どうぞ」
「すみま――うわっ!?」

 眼鏡を受け取ろうと近づいてきた西先生が、あたしのスリッパを踏んだ!

「きゃあっ」

 バランスを崩して、そのままベッドに倒れ込んじゃった! しかも、踏んだ西先生まで倒れてきて……!

 むぎゅ。

「……むぎゅ?」

 ひゃああああっ! に、西先生の手がっ、思いっきりあたしのむ、胸の上に……! 西先生の顔がみるみる赤くなり、あたしから飛びのいてまたもや壁に張りついた。

「あああっ、こ、これは、大変、失礼しました、あの、本当に……っ」

 ああ、西先生が完全にテンパってる! 西先生のせいじゃないのに! 今のは事故よ、コンタクトレンズを落としてしまったことによる不運な事故! ああ、何とか取り繕ってあげないと……そう、西先生、何にも見えていないんだから! あたしの顔だって胸だって、何にも……!

「に、西先生、大丈夫です! 今のは枕ですよ!? ホテルの、ふわふわの枕! 全っっ然大丈夫です、まったく問題ありません!」
「……え?」
「ほ、ほら、枕です枕!」

 こわばる西先生の体に枕を押しつける。おっぱいも枕も似たようなもんよ、色だってだいたい変わらないし、あたしがいい張れば大丈夫!

「ささっ、眼鏡はこちらです!」

 畳みかけるように右手に眼鏡を握らせる。よしっ、このまま撤収すれば万事OK! 西先生がいそいそと眼鏡をかけて……ぶはっ、目がめっちゃちっちゃく見える! か、可愛すぎるわ!

「あ、藍原先生、ありがとうございます、おかげさまでよく見えます」
「それはよかったです、よく見えて」

 ……って、あっ、あたし今ノーメイクだった! しかも寝巻で、し、しかも今の事故で服がはだけて……うわっ、む、胸元がヤバいっ!
 寝巻を手繰り寄せて胸を抱えるようにしながらダッシュで出口に向かう。

「あっ、ではっ、失礼いたします! お大事にしてくださいっ! 違う、おやすみなさいっ!」

 うひゃあ、は、恥ずかしすぎる! 西先生、今夜のことはすべて忘れてくださいっ!
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