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聖女
しおりを挟むジュリアン公爵令嬢が無言で立ち去るのを見た私は、そのまま扉の前に立った。何も言わずとも扉の前に待機した者が開けてくれる。私はそれを微笑みながら見つめていた。
扉が開かれる。パーティ会場の扉が。私は静かに扉をくぐり、しずしずと歩を進めた。
「ミリー!遅かったな、待ちくたびれたぞ!」
そんな私に大きな声をかけて手を伸ばす存在。この国の王太子であるバルト様だ。
──私の獲物、だ。
手に入れようと思ったのは気まぐれでも何でもない。必要だと思ったから。
勿論彼自身ではない。王族、王太子、そんな彼だから手に入れようと思った。これまで王太子妃教育を頑張ってきたジュリアン様には申し訳ないけれど……これはどうしても必要なのだから。
聖女である私には必要なのだから。
この国はとても平和だ。それはもう欠伸が出そうなくらいに退屈で平凡な日々が続くほどに。
──そんなつまらない日々では駄目だと私は思う。
だってそうでしょう?人々は最初こそ満足感を得るけれど、平和な日々が続き過ぎるとそれが普通になってしまうのだ。幸せだと感じないのだ。
もっともっと幸せを感じてもらうには、危険な状況に身を置かなくてはいけないわ。
そして国の発展にもつながらない。平和だと人はどうしてこんなにもボンクラになるのだろう。危険と隣り合わせの日々を送ると、不思議と国は発展するのだ。追い詰められて、良い案が浮かびやすいのかもしれない。
だから聖女である私は、この国の幸せのため、発展のために動く事にした。
その第一歩が王太子の婚約者の座だ。ひいては王妃となるために。
……いいえ、そうではないわね。
私が王となるために。
王となってこの国を率いて見せよう。
悪を呼び寄せてこの国を危険な目に遭わせよう。賊の類は勿論のこと、魔物もいっぱい呼び寄せよう。なに聖女の力をもってすれば簡単なこと。
人々は私が癒しの力しかない聖女だと思ってるようだけどそれは大きな勘違いだ。
聖女の力は無限にある。
聖なることも悪なることも。聖女には自由自在。
異国へは無理難題を押し付けるのもいいかもしれない。その結果、国交断絶ともなれば……また知恵を絞り発展するだろう。
これらを成し遂げるため、阿呆な王太子はこのまま阿呆で居てもらわねばならない。私の傀儡となってもらわねばならない。
そうして頃合いを見て、隠居させよう。
それもまた簡単なこと。聖女の力をもってすれば、王太子など簡単に寝たきりに出来る。大丈夫、私は聖女だから。殺しはしない、ギリギリ生かしておいてあげる。
その後は私が実権を握り、代理の王としてこの国を掌握しよう。
「ミリー、きみを苦しめていた存在は追放したぞ。さあおいでミリー、これからはきみが僕の婚約者だ。僕と共に幸せになろう」
「はいバルト様。貴方様と国のために……私は貴方と共にありましょう」
ニッコリと微笑めば、王太子は優しく私を抱きしめた。その腕に抱かれながら、私は会場の空気を肌に感じていた。
王太子への不信感一色の空気を。
なんの証言もない、非などないはずのジュリアン様を追放した王太子。彼への不信感がヒシヒシと感じられる。
きっとその不信感はいずれ大きな不満となって爆発するだろう。下手すればクーデターに発展するかもしれない。
発展。
それもいいかもしれない。素晴らしい発展となるかもしれない。
ああゾクゾクするわ。
私は聖女。聖なる力をもった女。
国のため、人々のため、私はこの力を使いましょう。
そうして私は王太子の腕の中で、静かにほくそ笑んだ──
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