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しおりを挟む初めて二人を見た時、何の冗談かと思ったものだ。だが、冗談ではなかった。父は、そんな二人が大事だと言ってのけたのだ。
『お前もお前の母も、辛気臭い髪色をしおって……公爵家の運気が下がる一方だ。だがロアラ達が来た。これでようやく我が家も明るくなるぞ!』
それが父からのまともな言葉の最後だった。
それきり、父とは碌に会話しても居ない。怒鳴られることは頻繁にあったけれど。
母譲りの紫紺の髪を、私は気に入っていた。辛気臭いと言われようと、王太子もまた、美しいと褒めてくれたこの髪を、私は好きだった。
食事を別にしてもらったのは良かったと思う。たとえどんなご馳走が用意されたとしても、このピンクの頭を目の前にしては食欲なんて失せるというもの。
「貴女がテルディス様に選ばれるですって?そんなわけないでしょう?」
だから言ってやった。
どれだけ暴言を吐かれようと暴力を振るわれようと。
それにやり返すことを許されなかった日々。けれどそれでも私の気持ちは折れる事は無い。屈する事は無かった。
ギロッと未だ濡れる前髪をかき上げて、私はロアラを睨みつけた。
「テルディス様は、私だから良いと言って下さったのよ!あの方の妻となるに相応しいと……私を愛していると言ってくださったのだから!」
それだけが私の心の支え。
支えがあれば人は立って居られるものだ。
私は負けない。絶対屈しない!
そんな私にロアラが小馬鹿にしたような笑みを向けたのは、直後の事。
「ほんと、めでたいわねお前は」
「何を──」
私は……負けない。
「その王太子から……王家から、先ほど文が届いたわ」
「文?」
「厳重に閉じられたそれを先ほどお父様が開けてご覧になったのだけど。明日、私とお前を連れて王城に来い、だそうよ」
「なんですって?」
どうして急に?それも妹も共に?
突然の展開に頭が付いて行かず、私は言葉が出なかった。
そんな私を嘲笑うかのように、ロアラが小箱を指でつまんでヒラヒラと揺らした。
「大まかな要件は、こうよ。──王太子テルディス様の婚約者であるリーナとは婚約を解消する。そして改めて、その妹であるロアラを婚約者とする。それに関する書類へのサインなど、諸々の手続きのため、明日王城に来られたし──」
「──!!そんな、そんな……」
何を言ってるのだろう。
そんなはずはないのに。
だって、だって……
「テルディス様は、だって……昨日も……」
(愛してるよ、リーナ。早くキミと結婚したい)
そう愛を囁いてくださった。
そう言って、私に小箱をくださった。
まだ開けてはいないその箱は、けれど私は中身を知っていた。
私達が卒業と同時に執り行われる婚約の儀。
そして一年の後、結婚となる。
その婚約の儀で、これをして欲しいと渡されたのだ。
これを──この指輪をして欲しいと。
それはつい昨日の事。
昨日の学園での出来事だというのに!
「そんなの間違いよ!何かの間違いだわ!!」
私の悲痛な叫びは、けれどロアラの甲高い笑い声にかき消されるのだった。
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