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しおりを挟む「汚い手で触らないでよ!」
「でもロアラ!それは私がテルディス様から戴いたもので──」
テルディス様。
それはこの国の次期王となる、第一王子にして王太子である方。
私と同じ貴族のための学園に通う、クラスメートであり、そして……。
「テルディス様はあんたに贈ったんじゃないわよ!『婚約者』に贈ったんでしょ!」
「だから、私が──」
「あんたじゃない!!」
そんなテルディス様の婚約者が私だなんて、何の間違いかと衝撃を受けたのはほんの七年前。まだ十になったばかりの私は、王家からの使いがもたらしたその知らせに呆然となったものだけど。
それは間違いなんかじゃなかったと知った時の嬉しかった事。
頻繁に会いに来て下さるテルディス様の優しさが、愛が。私をとても幸せにしてくださった。
母を亡くした時の言い知れぬ喪失感を乗り越えられたのも。母の葬儀の翌日に父が愛人を正妻にしたショックに耐えられたのも。
全て全て、彼のお陰なんだ。
だから私は厳しい王妃教育にも耐えられる。頑張れる。
学園に入ってからは毎日彼に会える事が嬉しかった。幸せだった。
彼は変わらず私に愛を囁き。
そして頻繁に贈り物をくださる。
王家は国民の血税で支えられているから。だから高価な物など要らないと言えば。
社会見学と称して、身分を隠して仕事をするような変わった王太子。
驚くような事を平然としてのける彼の事が、どうして嫌いになれよう。
だからずっと耐えられたのだ。
父の私への無関心も。
義母やロアラによる、嫌がらせも。
心も体も痛みで悲鳴をあげようとも、耐えられたのに。
拠り所である王太子からの大切な贈り物が、今目の前のロアラが持っている。
その事が耐えられなかった。
なのにロアラは、それは『私への贈り物』ではないと言う。
何を言ってるのかと眉間に皺を寄せていると、不意に寒気が襲い、くしゃみが出た。
当然だ、屋内とはいえ季節は冬。ずぶ濡れの状態で平気でいられるはずがない。
そんな私をロアラは鼻で笑う。
「ふん、とっとと風邪をこじらせて死んでしまえばいいのよ!お前なんて公爵家長女だから王太子の婚約者になれただけだというのに!でなければ、誰がお前のような不器量で辛気臭い娘……!王子が婚約者を決める時に私が居れば、絶対私が選ばれていたのよ!そんな事も分からないの!?」
そう言って、ロアラはバサッと自身の肩にかかった髪を払いのけた。
その、ピンクの髪。
目がチカチカするそれは、見事に義母譲りだった。
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