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しおりを挟む『どうしたの、リーナ。泣いてるの?』
『テルディス様!お母さまが、お母さまが……!』
『可哀そうに、つらいね……僕も母様を失ってるから、気持ち、凄く分かるよ……』
思い切り、泣いたらいい。気が済むまで思い切り泣いていいから……。
そう言って、幼い王子は私を優しく抱きしめてくれた。
母を失ったばかりの幼い私は、本来最も悲しみを分かち合うべきの父ではなく。婚約者であるテルディス様の胸で、思い切り声が枯れるまで大声で泣いたのだった。
あの日、私は泣きたいだけ泣いた。だからこそ、すぐに現れた義母と異母妹を、どうにか受け入れる事が出来たのだ。
その後の辛い日々を乗り越えてこれたのも、全て全て。
「あーはっはっは!!いい気味!あっさり王子に捨てられてやんの!ざまあみろだわ、バーカ!!」
耳障りで不快でしかない笑い声をあげるのは、ロアラ。
ずっとずっと、この公爵家にやって来た時からずっと私に嫌がらせをしてきた張本人。
それが、今目の前で勝ち誇った顔で私を見下し笑っている。
私はそれを睨みながら、ブルブルと震えるしかない。
寒さからの震えではない。悲しみからくるものでもない。
純粋に、怒り、だ。
怒りが私を支配していた。それが私を震わせていたんだ。
「これであんたはもう用済みよ。明日、王城での用が済んだらとっとと出て行きなさい。あんたの居場所はどこにもないんだから」
そう言い置いて、立ち去るロアラ。その手には小箱が握られたまま。
それを取り返す気力は、私にはもう無かった。
※ ※ ※
「やあリーナ」
一昨日、私に愛を囁いてくださった優しい笑みを浮かべたまま。
その人は、私の名前を呼んだ。
翌日、王城へと来た私を出迎えて下さったのは、誰あろうテルディス様だった。
良かった、やっぱり何かの間違いだったのだ。
そう思って挨拶を返す私にニコリと微笑むテルディス様。
ああやっぱり彼は彼だ。私を愛してくれている。
安堵で胸がいっぱいになり、私は彼の元へ駆け寄ろうとした。が、その手に触れる事は出来なかった。
スッと彼もまた動き、私の横を通り過ぎてしまう。
え?と思う間もなく。
王太子は、ロアラのそばへ行く。
「やあロアラ、今日も美しいね」
「まあ嬉しいですわ、テルディス様」
呆然とする私を尻目に、二人は仲睦まじく会話を続け。
そして、ごく自然に、王太子はロアラの手を取った。
「テルディス様!?」
さすがに私が声を上げる。
それに対して、なぜかロアラの体がビクッと震えた。それを見て、王太子はそっと彼女の肩を抱いた。
まるで何かから守るかのように──。
「声を荒げるな、リーナ。ロアラが怯えてるじゃないか」
そう言って、心配そうに王太子はロアラの顔を覗き込む。その時のロアラの顔は……これまで見た事もないような、怯えた顔をしていた。こんな顔、今まで見た事もない。
まるで泣きそうな。
まるで私が虐めてるような。
そんな怯え切った彼女の様子に。
そんなロアラを大事そうに抱きしめる王子の様子に。
ただ私は呆然とするしか出来なかったのだった。
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