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しおりを挟む「それではこちらの書類にサインを」
「ああ──これでいいか?」
「はい結構です。これにて正式にテルディス様とリーナ様の婚約は解消されました。そして新たにロアラ様との婚約が成されました。おめでとうございます、王子」
「ああ、ありがとう」
これは一体何なのか。
未だ目の前の現実を受け入れられないでいる私の目の前で。
全ての用意された書類にサインは為され。
あれよあれよと私とテルディス様の婚約は解消された。
そしてあっという間にロアラとテルディス様の婚約が決定。
呆然とする私の目の前で。
あろうことか。
二人は固い抱擁を交わした後。
口づけをかわしたのだ。
「──!!」
私ですら。
長年婚約者だった私ですら、まだそこまでの関係では無かったというのに。
いつからなのか分からない二人は、恐ろしくも私の目の前で破廉恥な行為を恥ずかしげもなく行ったのだ。
目のまえがチカチカする。
真っ赤に染まってるのか真っ暗闇に呑まれてるのか。
おそらくは目を見開いて呆然とする私の方を二人が見る。
先に口を開いたのは王太子の方だった。
「さて、ここで大事な話がリーナにある」
「?」
声が出せない状態の私は、目だけで何かと王太子に問う。
それに対して、困ったような笑みを返す王太子。
「キミには困ったものだ、まさか実の妹を虐げていたなんて……」
「……は?」
ようやく出た声は、不敬ともとられないものだった。だが、今の私を咎める者は居ない。
この場に居合わせた父も国王ですらも。
少人数の場の中で、皆が皆、私の動向を黙って見ていた。
「それは、どういう……?」
「そのままの意味だよ。きみ、ロアラに随分と酷いことしてたんでしょ?」
「何を──」
何を言ってるのですか!?
私が、私こそがロアラに虐げられてきたというのに!
家族とは別に用意された、粗末な食事。それすらも取り上げられた事が何度あったことか!
飢えた腹を満たすのは、学園での昼食だけだった。
着るものなど、使用人の方がマシなレベル。
寒い真冬に薄い服しか与えられず、風邪を引いた事など数知れず。その時も、医者にかかることも出来ず、自然治癒するまで苦しみ抜いた。
暴力なんて日常茶飯事だった。
気に入らない事があれば、八つ当たりのために呼ばれて殴られた。
抵抗したりやり返せば、両親も飛んで来て、使用人に体を拘束させ──その上で鞭が振るわれた。勿論、それを振るったのはロアラだ。
制服では隠せない場所にはけして痣が残らないように。
巧妙に、実に巧妙に隠されたそれらの行為。
言えば良かったのかもしれない。
この身に隠された醜い痣を見せれば、一目で分かってもらえたと思う。
けれど曲がりなりにも私は公爵令嬢だ。たとえ相手が女性であったとしても、おいそれとこの身に残る醜い痕を見せることなど……。
それにと思う。
奴らは定期的に私を治癒師の元へと連れて行き治療していた。
だから醜い痕は作られては消え、そしてまた作られては消えていたのだ。おそらく結婚直前にも治癒される予定だっただろう。
でももう恥も外聞もない!私は声を荒げた。
「違います!私がロアラ『を』虐めていたのではありません!私がロアラ『に』虐められていたのです!」
「言うに事欠いて何てことを……」
けれど私の反論は、王太子のため息と共に無に帰される事となった。
「これを見てごらん」
そう言って、テルディス様はロアラの服の袖をめくった。
そこには──
「それは──?」
ロアラの左腕には青痣が出来ていた。どこかにぶつければ出来るような小さな痣。
それを見せられて、私が眉根を寄せる。
それに対して、王太子も顔をしかめた。
つらそうに、悲しそうに。
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