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12話:小悪鬼との戦闘
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川を越えてからしばらく歩いていたが、人の声はおろか動物の鳴き声も何一つない。
静かな森の中では草葉が擦れる音が奇妙なほどに耳に付き、なるほど確かに普段とは違う神秘的な雰囲気を感じる。
その自然の演奏に耳を傾けていると、「あら?」と違和感を感じたのかフィリアが突如立ち止まった。
「どうかしたのか?」
「風に引っ張られる間隔が途切れちゃった。魔術が切れちゃったのかも」
彼女はもう一度【風の道標】を唱えたが、まったく反応しなくなったようだ。
使い慣れていない様子だったから魔術が失敗したかと疑ったが、今かけ直した魔術は正常に発動していた。
「となると考えられるのは……魔術の感知範囲外へ行ってしまったかだな」
「そうかも。【風の道標】は方角を示すだけで、その人とどれくらい離れているかはわからないから……もしかしたら結構ぎりぎりの距離だったのかもね」
「…………」
実は魔力感知外へ行った以外にも、魔術が反応しなくなる原因が二つある。
フィリアの魔術に気付いて探知を阻害されたか、もしくは対象の人物が死んだかだ。
一番可能性が高いのは前者だ。あっちにはコーネルとかいったBランク冒険者がいることだしな。
ただ後者の場合は最悪だ。
この森には魔物以外に命を落とす要素はない。突如反応が消えたということはつまり、彼らが魔物によって殺されたということだ。それもBランクの冒険者を殺せる魔物によって。
「フィリア、探索はここまでだ。村に――」
村に帰ろうと提案しようとしたところで、複数の生き物の気配が近づいてくることに気がつき、すぐさま剣を抜き構える。
左手は鞘に添えて、いつでも【血濡魔術(ブラッティー・マジック)】を発動できるよう警戒する。
「アゼル……?」
「警戒しろ。何か来るぞ」
不安げに尋ねるフィリアに注意を促すと同時に、森の奥からその気配の主が現れた。
身長は五から八歳の子ども程度の大きさで、肌はくすんだ緑色。尖った鼻に大きな耳、むき出しになっている牙は歯並びが悪い。動物の毛皮やボロ布を纏い、手には造りの悪い棍棒が握られている。
それは計六体の小悪鬼の集団だった。
「なんだ小悪鬼か」
六体はまあまあ多いが、この程度なら魔術無しでも問題ないな。
「あいつらは俺が相手する。フィリアは周囲を警戒しつつ、自分の身を守ることに専念しろ」
そう言いフィリアを下がらせようとするが、彼女は後退することなく持っていた杖を小悪鬼たちに向けた。
「アゼルひとりに戦わせないわ。私も魔術で援護する」
なんとも勇敢なことを言うが、それを聞いた俺は不安でしかない。
「気持ちはありがたいが、余計なことをするな。実戦経験もないのに魔法を打ったら、かえって邪魔になりかねん。心配しなくてもあの程度なら怪我もしない」
それだけ言うと俺は先頭にいる小悪鬼に接近する。
フィリアに下がる気がないのなら、俺自身が離れて小悪鬼と彼女との距離を無理やり開ける。
「グガッ⁉ グギギィ!」
小悪鬼の持つ棍棒が俺の左の腹目掛けて振るわれたが、当たる直前で立ち止まり回避する。ついでに棍棒を握る手に刃を添えて、振り抜かれたタイミングに合わせて斬り払う。
「ギャッ」
「――グギィッ⁉」
そうすると、手を斬られた痛みで棍棒を握る手が緩み、その棍棒が脇を抜けてフィリアへ向かおうとした別の|小悪鬼《ゴブリ別のの顔に命中する。
間を置かずに剣を切り返し首筋から左脇にかけて斬りつけると、正面のは小悪鬼苦痛に呻きながら前のめりに倒れる。
攻撃の隙を狙うように、俺の左からもう別の小悪鬼が、反対から棍棒をぶつけられて怒ってた小悪鬼が同時に襲い掛かってくるが、問題ない。
服の下の血染布を防具に変えて、左から来るヤツの攻撃を受け止める。
「ガッ――」という音と共に固い感触が伝わるが、衝撃もなく容易に受け止められる。
相手は予想とは違う感覚に困惑して、一瞬だが固まった。
その隙を見逃さず、一体目を斬りつけた後の低い姿勢のまま、一歩、二歩踏み出し走り抜けるようにして胸を斬る。
小悪鬼って小柄だから、微妙に剣や短剣使いは戦いづらいんだよなあ。
などと内心で愚痴りながら、背後のもう一体の小悪鬼に向けて左手で解体用のナイフを投げつける。
「ギィガッ⁉」
回避されて体勢を崩していた小悪鬼の眉間にナイフが刺さると、その衝撃で後ろに倒れこみ三体目も沈黙した。
投げたナイフの柄頭には包帯の血染布が結び付けられており、長く伸びた包帯は小悪鬼から俺の手の中へと繋がっている。これをどう使うかというと――
「【炎昇】!」
「おお?」
俺が三体を倒している隙をついて、二体ほどフィリアの方へ向かったから取り急ぎ始末しようと振り返ると、その内の一体に向けて魔術を放つ彼女の姿が見えた。
放ったのは火属性下級魔術の【炎昇】だな。前方に向けて大きな火を放つだけの魔術で、攻撃系の魔術ではないがなかなか悪くない判断だ。
攻撃系の魔術でなくとも、火というだけで熱いし多少の傷はつけられる。軽い火の耐性があれば目くらましにしかならないが、小悪鬼なら十分な牽制になる。魔力消費量も【小焔球】と比べて抑えられる。
感心しながら俺は包帯を握った左腕を振り抜く。
包帯の血染布は鞭のようにしなりながら、フィリアに迫るもう一体の小悪鬼へ飛び、その先端に結びつけられたナイフを喉元へと突き立てる。
「【血織刃:紅鎖鞭】」
続けて振り抜き、フィリアの近くにいる二体の小悪鬼を片づけた。フィリアのまえで固有魔術を使ったが、まあバレないだろう。【武具製造】という言い訳もあることだし。
「ありが――危ないアゼル!」
フィリアが悲鳴に似た叫びをあげた。後ろにいる最後の小悪鬼が死に物狂いで迫っているからだろう。
仲間が全滅したのだから逃げればよかったものを……随分と潔い小悪鬼がいたものだ。
剣を構え直して最後の一体と相対する。しかし斬りかかるより先に、俺の横を掠めるように一本の火の矢が飛来し小悪鬼の眉間を貫いた。
「ギイィーー⁉」
「おっと……へえ、当てたか」
背後を振り返るとそこには、フィリアが杖を向けて立っていた。
【炎矢】は同じ攻撃系火属性下級魔術の【小焔球】と比べ攻撃範囲が狭いが、速度と貫通力に優れている。通常の弓矢を扱うように狙いすまさなければならないはずだが、見事に眉間に当てたものだ。
他に仲間をいないことを確認し俺は剣を納めた。
「大丈夫アゼル? 怪我はない?」
「大丈夫だ、問題ない。やるじゃないかフィリア。正直かなり見直したぞ」
血染布とナイフを回収しつつ、フィリアの様子を確認する。呼吸は興奮気味だが問題なし。身体は震えている様子はない。顔色も悪くない。目の焦点もしっかりと俺を見据えている。
魔物との戦闘で怯えた様子はなさそうだ。
「初めての魔物討伐だろ? 初勝利おめでとう」
「ほとんどはあんたが倒しちゃじゃない。私が倒したのは最後の一体だけだったし」
「確かにそうだが、魔術の使い方はかなり良かった。【炎矢】とかの魔術矢は、追尾機能を術式に付与していないと当てるのが難しい魔術だ。本来の武具の矢と比べて直線的に飛ぶから当てやすくはあるが、弓の心得もない奴が狙って当てるのはよほどの才能がないとほぼ不可能。囲まれた時も攻撃系魔術に頼らず【炎昇】で牽制したのも的確な判断だったと思う」
警告から【炎矢】までの速さといい、きっと魔術学院で精度に見合うほどの練習を重ねたのだろう。
今までフィリアのことをおてんばな貴族の娘としか見ていなかったが、中級を扱う腕前といい、戦闘時での魔術の選択といい、経験次第では魔術兵士としても腕利きとして活躍しそうだ。
「……あんた、学院の先生みたいなことを言うのね? それに妙に魔術に詳しいような……」
「さあて、余力がありそうだし。ついでに小悪鬼の死体を集めて解体してもらおうかな? 何そう難しくはない。ちょいと服は汚れるが、小悪鬼から得られるのは魔石くらいしかないから鹿を捌くよりも簡単だ。ほい解体用のナイフ」
「待って待って、話が早いってば! 解体の現場なんて初めて見るし、さすがにそれは私にはまだ早いというか……」
彼女の言葉を努めて無視し、彼女の前に小悪鬼の死体を次々と並べていく。その光景に圧倒されてたじろいだ。
……危ない危ない。まさか自分の口からボロを出すとは。
どうやら柄にもなく気分が上がっていたようだ。
昔から知っているやつが成長している姿を見てつい嬉しくなってしまった。例えるならそう、子供が大人になったのに気がついた親の気持ちというか、教えていた部下がいつの間にか部下を持っていたことに気がついた上司の気持ちに似ている。
「まあ、解体させるのは冗談だ。ドレスが汚れたらまずいしな。だがそれはそれとして死体は簡単に処理しておく必要がある。ちょうど火属性魔術の使い手がいるし、魔術で焼いてくれると――っ!」
そこまで言ったところで俺は、小悪鬼とは別の生き物がすぐ近くに立っていることに気がついた。
――馬鹿か俺は⁉ 気が抜けすぎだ!
内心で己を罵倒したが、気がついたときにはすでに遅かった。
静かな森の中では草葉が擦れる音が奇妙なほどに耳に付き、なるほど確かに普段とは違う神秘的な雰囲気を感じる。
その自然の演奏に耳を傾けていると、「あら?」と違和感を感じたのかフィリアが突如立ち止まった。
「どうかしたのか?」
「風に引っ張られる間隔が途切れちゃった。魔術が切れちゃったのかも」
彼女はもう一度【風の道標】を唱えたが、まったく反応しなくなったようだ。
使い慣れていない様子だったから魔術が失敗したかと疑ったが、今かけ直した魔術は正常に発動していた。
「となると考えられるのは……魔術の感知範囲外へ行ってしまったかだな」
「そうかも。【風の道標】は方角を示すだけで、その人とどれくらい離れているかはわからないから……もしかしたら結構ぎりぎりの距離だったのかもね」
「…………」
実は魔力感知外へ行った以外にも、魔術が反応しなくなる原因が二つある。
フィリアの魔術に気付いて探知を阻害されたか、もしくは対象の人物が死んだかだ。
一番可能性が高いのは前者だ。あっちにはコーネルとかいったBランク冒険者がいることだしな。
ただ後者の場合は最悪だ。
この森には魔物以外に命を落とす要素はない。突如反応が消えたということはつまり、彼らが魔物によって殺されたということだ。それもBランクの冒険者を殺せる魔物によって。
「フィリア、探索はここまでだ。村に――」
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左手は鞘に添えて、いつでも【血濡魔術(ブラッティー・マジック)】を発動できるよう警戒する。
「アゼル……?」
「警戒しろ。何か来るぞ」
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それは計六体の小悪鬼の集団だった。
「なんだ小悪鬼か」
六体はまあまあ多いが、この程度なら魔術無しでも問題ないな。
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フィリアに下がる気がないのなら、俺自身が離れて小悪鬼と彼女との距離を無理やり開ける。
「グガッ⁉ グギギィ!」
小悪鬼の持つ棍棒が俺の左の腹目掛けて振るわれたが、当たる直前で立ち止まり回避する。ついでに棍棒を握る手に刃を添えて、振り抜かれたタイミングに合わせて斬り払う。
「ギャッ」
「――グギィッ⁉」
そうすると、手を斬られた痛みで棍棒を握る手が緩み、その棍棒が脇を抜けてフィリアへ向かおうとした別の|小悪鬼《ゴブリ別のの顔に命中する。
間を置かずに剣を切り返し首筋から左脇にかけて斬りつけると、正面のは小悪鬼苦痛に呻きながら前のめりに倒れる。
攻撃の隙を狙うように、俺の左からもう別の小悪鬼が、反対から棍棒をぶつけられて怒ってた小悪鬼が同時に襲い掛かってくるが、問題ない。
服の下の血染布を防具に変えて、左から来るヤツの攻撃を受け止める。
「ガッ――」という音と共に固い感触が伝わるが、衝撃もなく容易に受け止められる。
相手は予想とは違う感覚に困惑して、一瞬だが固まった。
その隙を見逃さず、一体目を斬りつけた後の低い姿勢のまま、一歩、二歩踏み出し走り抜けるようにして胸を斬る。
小悪鬼って小柄だから、微妙に剣や短剣使いは戦いづらいんだよなあ。
などと内心で愚痴りながら、背後のもう一体の小悪鬼に向けて左手で解体用のナイフを投げつける。
「ギィガッ⁉」
回避されて体勢を崩していた小悪鬼の眉間にナイフが刺さると、その衝撃で後ろに倒れこみ三体目も沈黙した。
投げたナイフの柄頭には包帯の血染布が結び付けられており、長く伸びた包帯は小悪鬼から俺の手の中へと繋がっている。これをどう使うかというと――
「【炎昇】!」
「おお?」
俺が三体を倒している隙をついて、二体ほどフィリアの方へ向かったから取り急ぎ始末しようと振り返ると、その内の一体に向けて魔術を放つ彼女の姿が見えた。
放ったのは火属性下級魔術の【炎昇】だな。前方に向けて大きな火を放つだけの魔術で、攻撃系の魔術ではないがなかなか悪くない判断だ。
攻撃系の魔術でなくとも、火というだけで熱いし多少の傷はつけられる。軽い火の耐性があれば目くらましにしかならないが、小悪鬼なら十分な牽制になる。魔力消費量も【小焔球】と比べて抑えられる。
感心しながら俺は包帯を握った左腕を振り抜く。
包帯の血染布は鞭のようにしなりながら、フィリアに迫るもう一体の小悪鬼へ飛び、その先端に結びつけられたナイフを喉元へと突き立てる。
「【血織刃:紅鎖鞭】」
続けて振り抜き、フィリアの近くにいる二体の小悪鬼を片づけた。フィリアのまえで固有魔術を使ったが、まあバレないだろう。【武具製造】という言い訳もあることだし。
「ありが――危ないアゼル!」
フィリアが悲鳴に似た叫びをあげた。後ろにいる最後の小悪鬼が死に物狂いで迫っているからだろう。
仲間が全滅したのだから逃げればよかったものを……随分と潔い小悪鬼がいたものだ。
剣を構え直して最後の一体と相対する。しかし斬りかかるより先に、俺の横を掠めるように一本の火の矢が飛来し小悪鬼の眉間を貫いた。
「ギイィーー⁉」
「おっと……へえ、当てたか」
背後を振り返るとそこには、フィリアが杖を向けて立っていた。
【炎矢】は同じ攻撃系火属性下級魔術の【小焔球】と比べ攻撃範囲が狭いが、速度と貫通力に優れている。通常の弓矢を扱うように狙いすまさなければならないはずだが、見事に眉間に当てたものだ。
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「大丈夫アゼル? 怪我はない?」
「大丈夫だ、問題ない。やるじゃないかフィリア。正直かなり見直したぞ」
血染布とナイフを回収しつつ、フィリアの様子を確認する。呼吸は興奮気味だが問題なし。身体は震えている様子はない。顔色も悪くない。目の焦点もしっかりと俺を見据えている。
魔物との戦闘で怯えた様子はなさそうだ。
「初めての魔物討伐だろ? 初勝利おめでとう」
「ほとんどはあんたが倒しちゃじゃない。私が倒したのは最後の一体だけだったし」
「確かにそうだが、魔術の使い方はかなり良かった。【炎矢】とかの魔術矢は、追尾機能を術式に付与していないと当てるのが難しい魔術だ。本来の武具の矢と比べて直線的に飛ぶから当てやすくはあるが、弓の心得もない奴が狙って当てるのはよほどの才能がないとほぼ不可能。囲まれた時も攻撃系魔術に頼らず【炎昇】で牽制したのも的確な判断だったと思う」
警告から【炎矢】までの速さといい、きっと魔術学院で精度に見合うほどの練習を重ねたのだろう。
今までフィリアのことをおてんばな貴族の娘としか見ていなかったが、中級を扱う腕前といい、戦闘時での魔術の選択といい、経験次第では魔術兵士としても腕利きとして活躍しそうだ。
「……あんた、学院の先生みたいなことを言うのね? それに妙に魔術に詳しいような……」
「さあて、余力がありそうだし。ついでに小悪鬼の死体を集めて解体してもらおうかな? 何そう難しくはない。ちょいと服は汚れるが、小悪鬼から得られるのは魔石くらいしかないから鹿を捌くよりも簡単だ。ほい解体用のナイフ」
「待って待って、話が早いってば! 解体の現場なんて初めて見るし、さすがにそれは私にはまだ早いというか……」
彼女の言葉を努めて無視し、彼女の前に小悪鬼の死体を次々と並べていく。その光景に圧倒されてたじろいだ。
……危ない危ない。まさか自分の口からボロを出すとは。
どうやら柄にもなく気分が上がっていたようだ。
昔から知っているやつが成長している姿を見てつい嬉しくなってしまった。例えるならそう、子供が大人になったのに気がついた親の気持ちというか、教えていた部下がいつの間にか部下を持っていたことに気がついた上司の気持ちに似ている。
「まあ、解体させるのは冗談だ。ドレスが汚れたらまずいしな。だがそれはそれとして死体は簡単に処理しておく必要がある。ちょうど火属性魔術の使い手がいるし、魔術で焼いてくれると――っ!」
そこまで言ったところで俺は、小悪鬼とは別の生き物がすぐ近くに立っていることに気がついた。
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