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11話:フィリアの魔術の腕前
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「それで、どうやって冒険者たちを見つけるつもりだ? 行き先は知っているのか?」
「具体的にどこへ向かったかはわからないけど、昨日たまたまお父様の執務室前で聞き耳を立てていたんだけど、南の森の話をしていたのが聞こえたの。そこまで行ったら私が人探しの魔術を使うから、たぶん見つけられると思う」
たまたま聞き耳を立てていた、ってそれはもう確信犯だろ……。
「南の森か……なるほど、最初からそのつもりで、待ち合わせ場所を「あくびの大木」にしたな」
ロスウェル村は四方が深い森と小高い丘に囲まれた村で、「あくびの大木」は南の森に近い位置に生えている。
森を進むと澄んだ水が流れる川があり、魚などもよく見られる。川を越えてさらに森の奥へ行くと強い魔物が出始めるから、村では川を越えて入らないように子どもに注意している。
野盗の討伐の時に遭遇した夜狩熊もここから出たヤツが住み着いた個体だと思う。
そして村には夜狩熊に対抗できる猟師はいない。
「野盗たちの洞窟に夜狩熊がいたから、森の安全のために領主様が調査を依頼した? いや夜狩熊の目撃情報は昔からあったから違うか……」
「あれ? なんで盗賊団の洞窟に夜狩熊がいるの知っているの?」
「……兵士の会話でそんなことを言っていたのが聞こえたんだよ。逆に何でお前も知っているんだよ?」
「館を警備している兵士がそんなことを言っていたのが聞こえたのよ」
「……どうやら口が軽い兵士がいると見えるな」
口の軽い兵士君に感謝。すべての責任を誰かわからない兵士に押し付けることで、出したボロを隠すことに成功した。
しかしこうなると本当に情報が足りない。本当は野盗の件とは無関係で、たまたま時期が被っただけの可能性もある。もしそうなら以上首を突っ込みたくはないが、逆に関係があった場合は俺が何とか後始末をしなければならない。
なにせ「アゼル」として産まれて初めての殺人、それも【血濡魔術(ブラッティー・マジック)】を用いての殺人だった。何らかの痕跡が残っていたとしても不思議はない。前世と今世では二〇〇年ほどの隔たりがあるんだ、どんな技術が開発されていてもおかしくはない。
俺に繋がる痕跡は、何としてでも消さなくてはならない……。
「あ、あそこ! 川が見えたわ」
「ん? もうそこまで来たのか。ここまでの道のりで足跡とかは見つからなかったし、ここいらで人探しの魔術を使ったらどうだ?」
「そうね。それじゃあ魔術を使うから、その間しっかり私のことを守ってよね」
「はいよ。頑張れよ」
俺が少し離れると、フィリアは赤みを帯びた小杖を取り出しそれの切っ先を前方に突き出す。
杖は魔術の発動を助ける補助道具で、杖の材質にもよるが魔術の効果を高めたり魔力の消耗が抑えられるから、自身に合った杖を作る魔術師は多い。
その姿勢のまま軽く目を閉じ集中力を高めたあと、慎重に言葉を紡ぎ呪文を唱える。
「彷徨える風よ 記憶をたどれ
彷徨の痕を撫で 彼の行く先を我に示せ――【風の道標】」
「ほう?」
彼女の詠唱の後に発動した魔術は【風の道標】。風属性の中級魔術だ。
固有魔術使い故に属性魔術にはあまり詳しくはないが、確か特定の人物を探し、追跡する魔術だったはずだ。
感知可能範囲は一〇〇から三〇〇メートル程で、開けた場所では五〇〇、風の強い場所では八〇〇メートルまで広がった気がする。
どうやら勉強して中級魔術を扱えるようになったというのは本当のようだな。詠唱に頼った術式構築を見るに使い慣れていないことがわかるが、フィリアの歳で中級を使えるのなら十分に才能があると思う。
「ふう……どうよ、私の魔術の腕は!」
「恐れ入った。話を聞いたときは半信半疑だったが、本当に中級魔術が使えるとはな」
素直な感情で褒めるとフィリアは「ふふん」と得意げに鼻を鳴らした。
「魔術の反応は……あっちの方角みたい。ついて来て」
フィリアの先導のもと俺たちは森のさらに奥、川の向こう側へと進んでいく。
クリステル川――水質は澄んでおり、魚も泳いでいるため釣りにも適している。川の幅は八から十二メートルほどで、水深は深いところで大人の胸ほどある。
彼岸と此岸を繋ぐための丸太橋が架けられているため行き来するのに支障はない。冒険者の一団もここを通っているはずだ。
「うわー、なんかドキドキする! この橋を渡ったら未知の世界が広がっている。そんな感じがしない?」
「まあ。子どもは絶対に行かせてくれなかったかからな」
まあ俺は所用により、こっそり行っていたがな。カンを忘れないよう定期的にここら辺の魔物と戦っている。
「それにしても、未知の世界ね……」
もしかしたらフィリアにとって、この村は狭すぎるのかもしれないな。
今回のこの探索だってそうだ。村の人に安心を与えたいとか、原因を取り除きたいとかの気持ちも勿論あるのだろうが、それ以上に好奇心もあったのではなかろうか。それに彼らが来たことも要因としては大きいだろう。
冒険者――世界を股にかけた組織にして、開拓・討伐・調査のために世界中を渡り歩く者たち。そんな彼らに憧れを抱いているのやもしれないな。
楽しげに丸太橋を渡り切った彼女の背中を見て、ついそんなことを思うのだった。
「具体的にどこへ向かったかはわからないけど、昨日たまたまお父様の執務室前で聞き耳を立てていたんだけど、南の森の話をしていたのが聞こえたの。そこまで行ったら私が人探しの魔術を使うから、たぶん見つけられると思う」
たまたま聞き耳を立てていた、ってそれはもう確信犯だろ……。
「南の森か……なるほど、最初からそのつもりで、待ち合わせ場所を「あくびの大木」にしたな」
ロスウェル村は四方が深い森と小高い丘に囲まれた村で、「あくびの大木」は南の森に近い位置に生えている。
森を進むと澄んだ水が流れる川があり、魚などもよく見られる。川を越えてさらに森の奥へ行くと強い魔物が出始めるから、村では川を越えて入らないように子どもに注意している。
野盗の討伐の時に遭遇した夜狩熊もここから出たヤツが住み着いた個体だと思う。
そして村には夜狩熊に対抗できる猟師はいない。
「野盗たちの洞窟に夜狩熊がいたから、森の安全のために領主様が調査を依頼した? いや夜狩熊の目撃情報は昔からあったから違うか……」
「あれ? なんで盗賊団の洞窟に夜狩熊がいるの知っているの?」
「……兵士の会話でそんなことを言っていたのが聞こえたんだよ。逆に何でお前も知っているんだよ?」
「館を警備している兵士がそんなことを言っていたのが聞こえたのよ」
「……どうやら口が軽い兵士がいると見えるな」
口の軽い兵士君に感謝。すべての責任を誰かわからない兵士に押し付けることで、出したボロを隠すことに成功した。
しかしこうなると本当に情報が足りない。本当は野盗の件とは無関係で、たまたま時期が被っただけの可能性もある。もしそうなら以上首を突っ込みたくはないが、逆に関係があった場合は俺が何とか後始末をしなければならない。
なにせ「アゼル」として産まれて初めての殺人、それも【血濡魔術(ブラッティー・マジック)】を用いての殺人だった。何らかの痕跡が残っていたとしても不思議はない。前世と今世では二〇〇年ほどの隔たりがあるんだ、どんな技術が開発されていてもおかしくはない。
俺に繋がる痕跡は、何としてでも消さなくてはならない……。
「あ、あそこ! 川が見えたわ」
「ん? もうそこまで来たのか。ここまでの道のりで足跡とかは見つからなかったし、ここいらで人探しの魔術を使ったらどうだ?」
「そうね。それじゃあ魔術を使うから、その間しっかり私のことを守ってよね」
「はいよ。頑張れよ」
俺が少し離れると、フィリアは赤みを帯びた小杖を取り出しそれの切っ先を前方に突き出す。
杖は魔術の発動を助ける補助道具で、杖の材質にもよるが魔術の効果を高めたり魔力の消耗が抑えられるから、自身に合った杖を作る魔術師は多い。
その姿勢のまま軽く目を閉じ集中力を高めたあと、慎重に言葉を紡ぎ呪文を唱える。
「彷徨える風よ 記憶をたどれ
彷徨の痕を撫で 彼の行く先を我に示せ――【風の道標】」
「ほう?」
彼女の詠唱の後に発動した魔術は【風の道標】。風属性の中級魔術だ。
固有魔術使い故に属性魔術にはあまり詳しくはないが、確か特定の人物を探し、追跡する魔術だったはずだ。
感知可能範囲は一〇〇から三〇〇メートル程で、開けた場所では五〇〇、風の強い場所では八〇〇メートルまで広がった気がする。
どうやら勉強して中級魔術を扱えるようになったというのは本当のようだな。詠唱に頼った術式構築を見るに使い慣れていないことがわかるが、フィリアの歳で中級を使えるのなら十分に才能があると思う。
「ふう……どうよ、私の魔術の腕は!」
「恐れ入った。話を聞いたときは半信半疑だったが、本当に中級魔術が使えるとはな」
素直な感情で褒めるとフィリアは「ふふん」と得意げに鼻を鳴らした。
「魔術の反応は……あっちの方角みたい。ついて来て」
フィリアの先導のもと俺たちは森のさらに奥、川の向こう側へと進んでいく。
クリステル川――水質は澄んでおり、魚も泳いでいるため釣りにも適している。川の幅は八から十二メートルほどで、水深は深いところで大人の胸ほどある。
彼岸と此岸を繋ぐための丸太橋が架けられているため行き来するのに支障はない。冒険者の一団もここを通っているはずだ。
「うわー、なんかドキドキする! この橋を渡ったら未知の世界が広がっている。そんな感じがしない?」
「まあ。子どもは絶対に行かせてくれなかったかからな」
まあ俺は所用により、こっそり行っていたがな。カンを忘れないよう定期的にここら辺の魔物と戦っている。
「それにしても、未知の世界ね……」
もしかしたらフィリアにとって、この村は狭すぎるのかもしれないな。
今回のこの探索だってそうだ。村の人に安心を与えたいとか、原因を取り除きたいとかの気持ちも勿論あるのだろうが、それ以上に好奇心もあったのではなかろうか。それに彼らが来たことも要因としては大きいだろう。
冒険者――世界を股にかけた組織にして、開拓・討伐・調査のために世界中を渡り歩く者たち。そんな彼らに憧れを抱いているのやもしれないな。
楽しげに丸太橋を渡り切った彼女の背中を見て、ついそんなことを思うのだった。
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