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13話:弁明と異常
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「動くな! 動けば放つ!」
男の鋭い声がこの場に響く。
俺は悔しさを滲ませて、フィリアは驚きと恐怖でたじろぎながら、その指示に従った。
そうして現れたのは見知った集団――俺たちが後を追いかけていた冒険者の一団だった。
彼らはそれぞれの武器をこちらに向けて、いつでも動けるように警戒している。
「武器を捨てて両手を頭の後ろで組め。こちらには魔術師がいる。怪しい動きをしたら即――」
「て、ちょっと待ったカイル! この二人、フィリアお嬢様とこの前の狩人君じゃない?」
リーダーのカイルを制して言葉を発したのは、あの小うるさい冒険者リアナだ。彼女の言葉を聞いてカイルもようやく気がついたようだ。持っていた剣を下ろして近づいてきた。
「えっ、本当だ。なんでこんなところにいるんだ?」
「あ、あはは。ご、ごきげんよう皆様」
フィリアが気まずそうに挨拶をする。やれやれ、これは村に帰ったら二人そろって説教コースだな。
彼らが無事だったのは良かったが、ここまで接近されても気付けなかったのはおそらく隠密系の魔術によるものだろう。
眼鏡の冒険者コーネルが、倒れた六体の小悪鬼に目をやる。おそらく【風の道標】を阻害したのも、冒険者に隠密の魔術をかけてたのもこいつだな。
「この小悪鬼たちはあなたたちが? ……いいえ、それよりもどうしてフィリア様がここに居られるのですか?」
「それはー、ええっと……」
「フィリア。ここにいるのを見られた以上、誤魔化しは効かないぞ。ここは正直に吐いてしまおうぜ?」
「ちょ、ちょっとアゼル! 私を売るつもり! ここにいる以上あんたも同罪なんだからね⁉」
「売るて……別に言い逃れるつもりはねえよ」
罪の重さを持ちだしたらフィリアよりも俺の方が重くなりそうなんだがな。
俺たちの年齢を考えると、館を抜け出したフィリアが危険な森にいたことよりも、俺が子爵家の娘を危険な森に連れ出していることの方が断然ヤバい。
まあフィリアの提案を受け入れた以上、見つかった場合の処罰について覚悟はしていた。
領主様は領民に対し非常に優しい方だ。フィリアの性格や俺との交友関係は存じているはずだから、軽い罰が下るくらいで済ませてくれるんじゃないかと思う。
これが他の貴族、他の土地だったなら死刑や村からの追放も考えられる。最悪の場合は一族郎党処罰されるだろう。
「え、うそ? あんたたちそういう関係?」
「どういう意味だ、おい?」
「だってお互いに呼び捨てで……しかも結構親し気に!」
「なんでそんな嬉しそうなんだよ……ただの幼馴染だ。こいつの名誉のためにも、誓ってそんな関係じゃない。……状況の説明していいか?」
「こほん――そうだな。教えてくれ」
前方と後方から不満げな雰囲気を感じながら、俺はここまでのことを話し始める。
村とでの会話から冒険者を尾行するために森へ入ったこと、【風の道標】で追跡していたこと、その追跡が途切れた後で小悪鬼と遭遇し戦闘したこと。
時折フィリアが口を挟みながら、俺たちは経緯をこと細かく順序立てて説明した。
おそらく彼らが気になっているのは【風の道標】の件だろう。
俺たちのことを敵と考え【風の道標】による探知を妨害すると同時に、その魔術の痕跡を逆に辿ることで接近したということだ。
追跡の魔術を使う際の注意点として教えられることだが、すっかり失念していた。
「なるほど、事情はわかった。だが危険な行為なのは変わりない。ここではDランクの魔物が生息しているし、時にはCランクの魔物が出ることもある危険な場所だ。小悪鬼も魔物とは言えその脅威度はEランク程度……そこれがDランクの魔物だと――」
うわっ、説教臭くなってきた。めんどくせー。
言っていることはまったくもって正論だが、そんなことぐらいわかっている。なまじ俺の中身はもう何十年も生きたおっさん――いやもはや爺だからな。なおのこと鬱陶しい。
ほら、フィリアもうんざりした顔になってきた。きっとこれまでに館の人たちから同じことを何度も聞いたんだろうなあ。
そんな俺たちの表情に気がついたカイルが深めの溜息を吐いて呆れた。
「いや、カイル。この子たち結構やるかもよ」
しかし、カイルを宥めるように女性の冒険者、エマがそんなことを言った。
「……どういうことだエマ?」
「ほらこの小悪鬼たち見てみなよ。傷がほとんどない。どいつも急所を斬られて、一撃で倒されている。その子たちだって怪我をした様子はないし、それどころか服に汚れもない。Eランクの小悪鬼とはいえ、六体もいてこの状態……実力で言ったらリアナと同じくらいかも」
「そこまで言うか……」
同様に小悪鬼を見ていたコーネルも、エマの言葉に頷く。
「そうですね。フィリア様もその歳で中級魔術の【風の道標】を扱われていますし、この死体なんかは眉間に穴が開き、焼き跡までついている。おそらく【炎矢】によるものでしょう。こちらは下級の魔術とはいえ、命中させるにはそれなりの訓練が必要です。戦闘時の姿を見ていないので正確な戦闘評価はできませんが、少なくとも魔術の腕は悪くありませんね」
「コーネルさんまで……」
二人の評価を聞きカイルは驚きの表情を浮かべ、対照的にフィリアは誇らしげな笑みを浮かべる。ベテランに良い評価を貰って嬉しいのだろう。
だが俺は別のことを気にかけて、のんきな気持ちにはなれなかった。
死体を調べるのは結構だが、そろそろ帰った方がいい気がする。フィリアのせいにするわけではないが、彼女の安全に注意を払っていたためこんな単純な異変を見落としていた。
「話は以上だ。あんたらの仕事の邪魔をしたのは悪いと思っている。その死体を片づけてさっさと村に帰らせてほしい」
「……ちょっとあんた。前々から気になっていたけど、そういう言い方ないんじゃないの。小悪鬼の群れを倒した程度で調子に乗ってんじゃないわよ!」
「そうよアゼル……この人たちは村のために危険を承知で調査をしてくれているのよ。悪いのは明らかに私たちだし、いくら何でもそんな言い方は――」
俺の物言いに気を悪くしたリアナと、それを失礼に思ったフィリアに苦言を呈されるが、今の俺にそれに付き合っていられるほどの余裕はない。
「この際だから白状する。あんたらの言う通り森は確かに危険な魔物が出るし、村の人間もよほどのことがない限り川を渡って森の奥へ行くことはない。だが俺は、村の人に隠れて何度もここに来たことがある――だからわかることがある。今のこの森は明らかに異常だ。勝手に来て迷惑をかけた側からこんなことを言うのは申し訳ないが、フィリアは早く村に返すべきだ」
「……いったい何に気がついたのですか? 異常とは何を指しているのです?」
コーネルの質問に対し俺は確信をもって答えた。
「静かすぎるんだよ。この時期は渡り鳥が羽休めのためにこの森に滞在してくる。その鳥は警戒心が強く頻繁に鳴いては仲間と情報を交換する……それはもう騒がしいくらいにな。あんたら今まで、鳥の鳴き声を聞いたか?」
「……そういえば」
森に足を踏み入れた時点で違和感に気がつくべきだったが、こうなっては後の祭りだ。
警戒心の強い渡り鳥が今では一匹もいない。例年通りならば、このCランクの魔物が出る森に羽休めに来る鳥たちが、何らかの危険を感じてここに降りることを避けたということだ。
それはつまり、Cランクの魔物を超える何かがあるということだ。警戒するに十分な状態である。
「エマ、コーネルさん、リアナ。今日の調査は引き揚げよう。この子たちを安全に――」
俺の話に信憑性を感じたカイルがそのように提案するが、俺たちはどうやら少しばかり遅かったようだ。
男の鋭い声がこの場に響く。
俺は悔しさを滲ませて、フィリアは驚きと恐怖でたじろぎながら、その指示に従った。
そうして現れたのは見知った集団――俺たちが後を追いかけていた冒険者の一団だった。
彼らはそれぞれの武器をこちらに向けて、いつでも動けるように警戒している。
「武器を捨てて両手を頭の後ろで組め。こちらには魔術師がいる。怪しい動きをしたら即――」
「て、ちょっと待ったカイル! この二人、フィリアお嬢様とこの前の狩人君じゃない?」
リーダーのカイルを制して言葉を発したのは、あの小うるさい冒険者リアナだ。彼女の言葉を聞いてカイルもようやく気がついたようだ。持っていた剣を下ろして近づいてきた。
「えっ、本当だ。なんでこんなところにいるんだ?」
「あ、あはは。ご、ごきげんよう皆様」
フィリアが気まずそうに挨拶をする。やれやれ、これは村に帰ったら二人そろって説教コースだな。
彼らが無事だったのは良かったが、ここまで接近されても気付けなかったのはおそらく隠密系の魔術によるものだろう。
眼鏡の冒険者コーネルが、倒れた六体の小悪鬼に目をやる。おそらく【風の道標】を阻害したのも、冒険者に隠密の魔術をかけてたのもこいつだな。
「この小悪鬼たちはあなたたちが? ……いいえ、それよりもどうしてフィリア様がここに居られるのですか?」
「それはー、ええっと……」
「フィリア。ここにいるのを見られた以上、誤魔化しは効かないぞ。ここは正直に吐いてしまおうぜ?」
「ちょ、ちょっとアゼル! 私を売るつもり! ここにいる以上あんたも同罪なんだからね⁉」
「売るて……別に言い逃れるつもりはねえよ」
罪の重さを持ちだしたらフィリアよりも俺の方が重くなりそうなんだがな。
俺たちの年齢を考えると、館を抜け出したフィリアが危険な森にいたことよりも、俺が子爵家の娘を危険な森に連れ出していることの方が断然ヤバい。
まあフィリアの提案を受け入れた以上、見つかった場合の処罰について覚悟はしていた。
領主様は領民に対し非常に優しい方だ。フィリアの性格や俺との交友関係は存じているはずだから、軽い罰が下るくらいで済ませてくれるんじゃないかと思う。
これが他の貴族、他の土地だったなら死刑や村からの追放も考えられる。最悪の場合は一族郎党処罰されるだろう。
「え、うそ? あんたたちそういう関係?」
「どういう意味だ、おい?」
「だってお互いに呼び捨てで……しかも結構親し気に!」
「なんでそんな嬉しそうなんだよ……ただの幼馴染だ。こいつの名誉のためにも、誓ってそんな関係じゃない。……状況の説明していいか?」
「こほん――そうだな。教えてくれ」
前方と後方から不満げな雰囲気を感じながら、俺はここまでのことを話し始める。
村とでの会話から冒険者を尾行するために森へ入ったこと、【風の道標】で追跡していたこと、その追跡が途切れた後で小悪鬼と遭遇し戦闘したこと。
時折フィリアが口を挟みながら、俺たちは経緯をこと細かく順序立てて説明した。
おそらく彼らが気になっているのは【風の道標】の件だろう。
俺たちのことを敵と考え【風の道標】による探知を妨害すると同時に、その魔術の痕跡を逆に辿ることで接近したということだ。
追跡の魔術を使う際の注意点として教えられることだが、すっかり失念していた。
「なるほど、事情はわかった。だが危険な行為なのは変わりない。ここではDランクの魔物が生息しているし、時にはCランクの魔物が出ることもある危険な場所だ。小悪鬼も魔物とは言えその脅威度はEランク程度……そこれがDランクの魔物だと――」
うわっ、説教臭くなってきた。めんどくせー。
言っていることはまったくもって正論だが、そんなことぐらいわかっている。なまじ俺の中身はもう何十年も生きたおっさん――いやもはや爺だからな。なおのこと鬱陶しい。
ほら、フィリアもうんざりした顔になってきた。きっとこれまでに館の人たちから同じことを何度も聞いたんだろうなあ。
そんな俺たちの表情に気がついたカイルが深めの溜息を吐いて呆れた。
「いや、カイル。この子たち結構やるかもよ」
しかし、カイルを宥めるように女性の冒険者、エマがそんなことを言った。
「……どういうことだエマ?」
「ほらこの小悪鬼たち見てみなよ。傷がほとんどない。どいつも急所を斬られて、一撃で倒されている。その子たちだって怪我をした様子はないし、それどころか服に汚れもない。Eランクの小悪鬼とはいえ、六体もいてこの状態……実力で言ったらリアナと同じくらいかも」
「そこまで言うか……」
同様に小悪鬼を見ていたコーネルも、エマの言葉に頷く。
「そうですね。フィリア様もその歳で中級魔術の【風の道標】を扱われていますし、この死体なんかは眉間に穴が開き、焼き跡までついている。おそらく【炎矢】によるものでしょう。こちらは下級の魔術とはいえ、命中させるにはそれなりの訓練が必要です。戦闘時の姿を見ていないので正確な戦闘評価はできませんが、少なくとも魔術の腕は悪くありませんね」
「コーネルさんまで……」
二人の評価を聞きカイルは驚きの表情を浮かべ、対照的にフィリアは誇らしげな笑みを浮かべる。ベテランに良い評価を貰って嬉しいのだろう。
だが俺は別のことを気にかけて、のんきな気持ちにはなれなかった。
死体を調べるのは結構だが、そろそろ帰った方がいい気がする。フィリアのせいにするわけではないが、彼女の安全に注意を払っていたためこんな単純な異変を見落としていた。
「話は以上だ。あんたらの仕事の邪魔をしたのは悪いと思っている。その死体を片づけてさっさと村に帰らせてほしい」
「……ちょっとあんた。前々から気になっていたけど、そういう言い方ないんじゃないの。小悪鬼の群れを倒した程度で調子に乗ってんじゃないわよ!」
「そうよアゼル……この人たちは村のために危険を承知で調査をしてくれているのよ。悪いのは明らかに私たちだし、いくら何でもそんな言い方は――」
俺の物言いに気を悪くしたリアナと、それを失礼に思ったフィリアに苦言を呈されるが、今の俺にそれに付き合っていられるほどの余裕はない。
「この際だから白状する。あんたらの言う通り森は確かに危険な魔物が出るし、村の人間もよほどのことがない限り川を渡って森の奥へ行くことはない。だが俺は、村の人に隠れて何度もここに来たことがある――だからわかることがある。今のこの森は明らかに異常だ。勝手に来て迷惑をかけた側からこんなことを言うのは申し訳ないが、フィリアは早く村に返すべきだ」
「……いったい何に気がついたのですか? 異常とは何を指しているのです?」
コーネルの質問に対し俺は確信をもって答えた。
「静かすぎるんだよ。この時期は渡り鳥が羽休めのためにこの森に滞在してくる。その鳥は警戒心が強く頻繁に鳴いては仲間と情報を交換する……それはもう騒がしいくらいにな。あんたら今まで、鳥の鳴き声を聞いたか?」
「……そういえば」
森に足を踏み入れた時点で違和感に気がつくべきだったが、こうなっては後の祭りだ。
警戒心の強い渡り鳥が今では一匹もいない。例年通りならば、このCランクの魔物が出る森に羽休めに来る鳥たちが、何らかの危険を感じてここに降りることを避けたということだ。
それはつまり、Cランクの魔物を超える何かがあるということだ。警戒するに十分な状態である。
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