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5.ご立腹
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「ティシモ伯爵嬢様は、あの殿下のご婚約者ですもの。さぞ素晴らしいお人柄なのでしょう」
「そうですわ。このようなことで感情を昂ぶらせることなどございませんでしょう」
悪意ある嗤いがあった。
メリオラーザがカダージュの婚約者と発表されて、初めての公式の場である第一皇子レヴェージュの生誕祭。メリオラーザは悪意に晒されていた。
どんなにダメ人間のレッテルを貼られていても、カダージュは皇族。皇位継承権を放棄しても、大公という皇族に次ぐ地位に就く。寧ろ、王子妃という面倒事なく悠々自適に今後の人生を送れるのだ。面倒事なく甘い汁だけを吸える。そう思っている者たちの嫉妬がそこにはある。
メリオラーザを数人が囲み、チクチクと嫌味を言い続けている。メリオラーザが口を開こうとする度、冒頭の言葉で封じてくる。メリオラーザを知る級友たちは、庇いたくても庇えない。囲む者たちは、高位貴族。伯爵や侯爵の家格の者たちだからだ。
メリオラーザは下位貴族によく親しまれていた。伯爵位にあるのだが、誰に対しても扱いが平等だった。それが、プライドの高い高位貴族には面白くない。そんなメリオラーザが大公夫人となるのだ。余計に面白くなかった。
「あのような方が大公位だなんて、ねぇ」
「爵位を下げると言われても応じないなんて、余程ご自身のことがおわかりではないのですわねえ」
噂の真偽などどうでもいいのだろう。カダージュへの批判は皇家への批判と受け取られるのだが、カダージュは蔑ろにされている、見放された存在だと信じている者たちの口は軽かった。
「殿下のお話しにはご注意なさいませ」
カダージュを悪く言われたメリオラーザが、子女たちを睨みながらそう言った。その態度がより気に入らなかったのだろう。
「まあ、まだあなたは伯爵家の身でしょう?侯爵家のわたくしにそのような態度が赦されると思って?」
「身分を振りかざすのであれば、カダージュ殿下への発言はどのような弁解をなさるのですか」
子女が、ギッと睨みつけた。
「殿下のお立場を考えて、あえて厳しいことを申し上げることも臣下の務めよ」
「ではわたくしも、殿下のお立場を考えた上で、侯爵令嬢様方の発言は相応しくないと申し上げます」
一人の子女が、扇を振り上げた。
「この、生意気なっ」
振り下ろそうとした瞬間。
会場中に、けたたましい音が響いた。
全員が驚いて、音のした方を向く。
そこには、割れた無数の皿。立食用に重ねられた取り皿を落としたようだ。
その側には、侮蔑と嘲笑の対象カダージュが、背筋を伸ばして立っていた。
カダージュのその行動に、誰もが呆気にとられた。陰気で卑屈な彼は、行動を起こすことがないからだ。それが今、なぜか怒っている。
カダージュが、コツリと歩を進める。向かう方向の貴族たちは、自然、道を空けていく。自分たちの方へ近付いて来ていると感じたメリオラーザを囲う子女たちは、思わずメリオラーザから少し距離をとった。
「なあ。誰に手をあげようとした?」
普段何を言っているのかわからないため、これ程はっきり声を聞いたことがない。故に、カダージュの発言だと認識出来ない者が大勢いた。
「聞いている。誰に手をあげようとしたんだ?」
腰にある剣の柄に手をかけるカダージュを止めたのは。
「殿下、なりません。祝いの席です。わたくしは大丈夫です。わたくしのために、ありがとうございます」
柔らかく微笑むメリオラーザに、カダージュは剣から手を離す。メリオラーザの側に来ると、カダージュはゆっくり手を伸ばし、メリオラーザを抱き締めた。
その一連の行動に、誰もが目を見開いている。
「ごめんね、リオ。ごめん」
メリオラーザの頭に顔を埋めるように、少し震えた声で謝るカダージュ。
「僕のこと以外で苦労はさせないと言ったけど、こういうことじゃない。僕のワガママにだけ振り回されて欲しかった。僕がこうであることで、リオに苦労して欲しかったんじゃないんだ」
抱き締める腕に、力が入る。
「僕がバカだった。そうだ。愚か者の思考回路は、こういうものだった」
人間は、優越感に浸りたい生き物だ。今回は、皇族という身分の者にそれが出来るまたとないチャンス。皇族本人だけではない。その婚約者までも、くだらない優越感に浸りたいためだけに虐げるような存在たち。
自身を落ち着かせようと、カダージュは深く呼吸をした。メリオラーザの額にくちづける。
「ならば僕は、僕以外のものからリオを守ろう」
カダージュは、鬱陶しいとばかりに、その顔を覆う髪をかき上げた。
*つづく*
「そうですわ。このようなことで感情を昂ぶらせることなどございませんでしょう」
悪意ある嗤いがあった。
メリオラーザがカダージュの婚約者と発表されて、初めての公式の場である第一皇子レヴェージュの生誕祭。メリオラーザは悪意に晒されていた。
どんなにダメ人間のレッテルを貼られていても、カダージュは皇族。皇位継承権を放棄しても、大公という皇族に次ぐ地位に就く。寧ろ、王子妃という面倒事なく悠々自適に今後の人生を送れるのだ。面倒事なく甘い汁だけを吸える。そう思っている者たちの嫉妬がそこにはある。
メリオラーザを数人が囲み、チクチクと嫌味を言い続けている。メリオラーザが口を開こうとする度、冒頭の言葉で封じてくる。メリオラーザを知る級友たちは、庇いたくても庇えない。囲む者たちは、高位貴族。伯爵や侯爵の家格の者たちだからだ。
メリオラーザは下位貴族によく親しまれていた。伯爵位にあるのだが、誰に対しても扱いが平等だった。それが、プライドの高い高位貴族には面白くない。そんなメリオラーザが大公夫人となるのだ。余計に面白くなかった。
「あのような方が大公位だなんて、ねぇ」
「爵位を下げると言われても応じないなんて、余程ご自身のことがおわかりではないのですわねえ」
噂の真偽などどうでもいいのだろう。カダージュへの批判は皇家への批判と受け取られるのだが、カダージュは蔑ろにされている、見放された存在だと信じている者たちの口は軽かった。
「殿下のお話しにはご注意なさいませ」
カダージュを悪く言われたメリオラーザが、子女たちを睨みながらそう言った。その態度がより気に入らなかったのだろう。
「まあ、まだあなたは伯爵家の身でしょう?侯爵家のわたくしにそのような態度が赦されると思って?」
「身分を振りかざすのであれば、カダージュ殿下への発言はどのような弁解をなさるのですか」
子女が、ギッと睨みつけた。
「殿下のお立場を考えて、あえて厳しいことを申し上げることも臣下の務めよ」
「ではわたくしも、殿下のお立場を考えた上で、侯爵令嬢様方の発言は相応しくないと申し上げます」
一人の子女が、扇を振り上げた。
「この、生意気なっ」
振り下ろそうとした瞬間。
会場中に、けたたましい音が響いた。
全員が驚いて、音のした方を向く。
そこには、割れた無数の皿。立食用に重ねられた取り皿を落としたようだ。
その側には、侮蔑と嘲笑の対象カダージュが、背筋を伸ばして立っていた。
カダージュのその行動に、誰もが呆気にとられた。陰気で卑屈な彼は、行動を起こすことがないからだ。それが今、なぜか怒っている。
カダージュが、コツリと歩を進める。向かう方向の貴族たちは、自然、道を空けていく。自分たちの方へ近付いて来ていると感じたメリオラーザを囲う子女たちは、思わずメリオラーザから少し距離をとった。
「なあ。誰に手をあげようとした?」
普段何を言っているのかわからないため、これ程はっきり声を聞いたことがない。故に、カダージュの発言だと認識出来ない者が大勢いた。
「聞いている。誰に手をあげようとしたんだ?」
腰にある剣の柄に手をかけるカダージュを止めたのは。
「殿下、なりません。祝いの席です。わたくしは大丈夫です。わたくしのために、ありがとうございます」
柔らかく微笑むメリオラーザに、カダージュは剣から手を離す。メリオラーザの側に来ると、カダージュはゆっくり手を伸ばし、メリオラーザを抱き締めた。
その一連の行動に、誰もが目を見開いている。
「ごめんね、リオ。ごめん」
メリオラーザの頭に顔を埋めるように、少し震えた声で謝るカダージュ。
「僕のこと以外で苦労はさせないと言ったけど、こういうことじゃない。僕のワガママにだけ振り回されて欲しかった。僕がこうであることで、リオに苦労して欲しかったんじゃないんだ」
抱き締める腕に、力が入る。
「僕がバカだった。そうだ。愚か者の思考回路は、こういうものだった」
人間は、優越感に浸りたい生き物だ。今回は、皇族という身分の者にそれが出来るまたとないチャンス。皇族本人だけではない。その婚約者までも、くだらない優越感に浸りたいためだけに虐げるような存在たち。
自身を落ち着かせようと、カダージュは深く呼吸をした。メリオラーザの額にくちづける。
「ならば僕は、僕以外のものからリオを守ろう」
カダージュは、鬱陶しいとばかりに、その顔を覆う髪をかき上げた。
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