あなたは一体誰ですか?

らがまふぃん

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3.あらゆる夜会における悪意たち

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 第四皇子カダージュは歳を重ねるごとに、悪い評判が増えていく。怠惰と言われていたが、陰気、愚かなどと、侮蔑の言葉が追加されていく。殆どの者がその姿を見る度に顔をしかめる。髪で顔は隠れているし、座る姿勢もだらしない。挨拶をしても、ボソボソと何を言っているのかよく聞こえない。しかし、皇帝も皇妃も、他の皇族誰も注意をしない。

 第四皇子は見放されている。

 そう囁かれても仕方がないと言えた。何故なら、それを裏付けるように、カダージュの生誕祭が行われた記憶がない。もちろん他の皇子や皇女の生誕祭は行われる。皇子四人、皇女二人、それに皇帝と皇妃、八人の皇族がいる。生誕祭は、一、二ヶ月に一度という頻度になる。多い故になかなか気付かれにくかったが、確かにカダージュの生誕祭は行われていなかった。それに、皇族は十四になると、婚約者候補を選ぶ交流会が行われる。だが、カダージュの交流会は行われなかったのだ。

 「もうそろそろ、も成人の儀ではないのか」
 「あとひと月ほどだったな。さすがに成人の儀は行うのだな」
 「招待状が届いた時は驚いたよ」

 皇妃の生誕祭という祝いの席で、いやらしい笑いを浮かべながら貴族たちは話をする。

 「婚約者候補の交流会もなかったではないか。一体誰がアレの伴侶になるのだ?」
 「成人の儀と婚約披露を同日に行うなど、前代未聞ですな」

 送られてきた招待状は、カダージュの成人の儀だけではなく、婚約披露パーティーも執り行うというものだった。そして、未だカダージュの婚約者は公表されていない。

 「王命で婚約者としたのではないか?指名されたご令嬢は、せめてギリギリまで婚約者であることが知られないようにしてくれと、泣いて頼んだのかもしれんぞ」

 皇族の席の末端に、背中を丸めて俯いて座るカダージュを、チラ、と見る。周りも呆れたような顔で、溜め息をいた。

 「なんと嘆かわしい姿よ」
 「アレと年の近い娘がいたからヒヤヒヤしたぞ」
 「交流会をしても無駄だ。誰からも見向きもされんだろう」
 「わかっていたから、皇家も無駄なことはしなかったのだ」

 皇族に向けていい視線ではない視線を向け、みんなが鼻で嗤った。
 そんな反応は、大人たちだけではない。子息子女たちも、似たようなものだ。いや、もっと酷い。

 「皇家に嫁ぐのが夢とは申しましても、ねぇ?」
 「アレは、ないですわ」

 扇で口元を隠しながら、それでも侮蔑と嘲笑の籠もった視線と声音は隠せない。

 「相変わらず酷い有様ですこと」
 「他の殿下たちを見倣って欲しいですわ」
 「本当、第一皇子殿下なんて、全世界の憧れですわ」
 「この世の賛辞を並べても足りないほど、本当に素敵ですもの」
 「第二皇子殿下のあの甘い雰囲気は、夜の帝王ですわ」
 「きゃあっ。もう、はしたないですわよ」
 「そんなこと仰って、いつも視線は殿下のどちらを見ていらっしゃるのかしら」
 「まあ、そんな意地の悪い」
 「ですが、お側にいらしてくださって、あの甘い声で囁かれたらっ」
 「まっ、腰が抜けてしまいますわっ」
 「第三皇子殿下の可愛らしさも捨てがたいですわあ」
 「あの愛らしいお顔で、お姉様、なんて呼ばれてしまったらっ」
 「いやっ、ダメですわっ。心臓が止まってしまいますっ」

 三人の皇子話で盛り上がり、カダージュに目を向けると、舌打ちをしそうな溜め息が漏れる。

 「それでも、皇家ですのよね」
 「あのご立派な方々に、存在の認識はされていることが、腹立たしいですわ」
 「あんなのでも、声をかけていただけることはあるのですものね」

 第一皇子レヴェージュが、カダージュと何かを話しているのが目に入った。

 「まあ、それでも、噂通り見放されてはいるのでしょうけれど」

 レヴェージュに手で追い払われるようにされると、カダージュは、覚束ない足取りで会場を後にした。

 「あんな陰気なヤツがいるだけで空気が悪くなる。退場してくれて良かったよ」
 「もっと早く追い出して欲しいよ。あんなのでも身分は皇族だ。こっちから追い出せないのも腹が立つ」
 「あ、でも誰だったか、すれ違いざまに、何て言ったかな、何か言ってやったヤツがいたよね」
 「ああ、おーじサマが震えちまってたって話?」
 「そうそう。それ」
 「身分に守られていて良かったですね、みたいなこと言ったんだよな、確か」
 「え、そんなことして大丈夫だったのか?」
 「皇子は怯えて何も言えなかったらしい」
 「うわ。情けないな」
 「精神弱すぎだろ」

 退場してからも、心無い声が嘲笑と共に暫く続くことは、いつもの光景だった。




*つづく*
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