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2.愛称とワガママ
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「ねぇねぇリオぉ。褒めてぇ」
皇妃のところから戻ると、嬉しそうにカダージュがメリオラーザに擦り寄った。
「僕ねぇ、書類、リオとの約束の分だけじゃなくてね、もう一枚終わらせたんだあ」
その言葉に、メリオラーザはギョッとする。
皇妃のところに行っていた時間で、二枚?あの時間で、二枚?
メリオラーザは呆れたような息を吐くと、苦笑した。
「殿下は、本当に、もう」
少し屈むカダージュに、メリオラーザはその頭を撫でる。皇族の頭に触れることは不敬だ。しかし、カダージュはメリオラーザにそれを望む。優しく髪を梳くように撫でると、本当に幸せそうに笑うのだ。
「ふふ。リオ。愛しているよ」
頬、というのだろうか、唇に触れそうなほど近い場所にくちづけるカダージュの愛情表現は未だに慣れないけれど、決して嫌ではなく。真っ赤になって俯く頭に、またくちづけが落とされた。
「約束通り、明日は一日僕の望みを叶えてね、リオ」
*~*~*~*~*
朝六時。ティシモ伯爵家に、一人の来訪者。
栗色の髪に、同じ色の瞳、黒縁の眼鏡をかけたカダージュが、応接間に座っていた。
「おはようございます。お待たせいたしました、殿下」
カダージュが到着して少しすると、メリオラーザが現れた。平民のようなワンピースに、動きやすい編み上げのブーツを履いている。カダージュは、メリオラーザを見るなり満面の笑顔になった。
「おはよう、リオ。すごく可愛いねぇ」
頭の天辺から足の先まで何度も見ながら、嬉しそうにカダージュはリオの手を取り、その甲へくちづけた。頬を染めるメリオラーザは、恥ずかしそうにお礼の言葉を口にする。
「御髪と瞳の色が違いますと、とても雰囲気が変わりますね」
照れを隠すように言ったメリオラーザの言葉に、カダージュは笑う。
「リオが、この色綺麗って言ってくれるから」
お忍びデートをするときは、いつもこのスタイル。初めてデートをしたときに、皇家の色を隠す為にした変装を、メリオラーザは褒めてくれた。
「はい。とても綺麗な色ですわ、殿下」
よくある色合いのはずなのに、地色の影響か、光の加減でミルクティーのように甘い色合いになる。カダージュは嬉しそうに顔を輝かせると、きゅうっとメリオラーザを抱き締めた。
「それでは、夕刻六時にはメリオラーザを送ります。行こうか、リオ」
玄関を出て伯爵たちにそう言うと、メリオラーザを馬に乗せ、自身もその馬に跨がり出掛けて行った。
何度顔を合わせても噂と違いすぎる第四皇子に、伯爵たちは、何とも言えない表情で見送った。
………
……
…
「怖くない?リオ」
ポクポクと馬を歩かせているカダージュが、馬に慣れていないメリオラーザを心配する。カダージュと婚約を結んでもうすぐ七年が経つが、こうして馬で出掛けるのは、年に数回程度。その度、カダージュはメリオラーザを気遣う。
「大丈夫ですわ、殿下」
一人で乗ることは出来ないが、カダージュと一緒であれば、少しも怖くなどなかった。微笑むメリオラーザに、カダージュも嬉しそうに笑う。
「デートの時は、殿下じゃないでしょ、リオ」
ボンネット越しの頭にくちづけられたことがわかり、メリオラーザは頬を染める。そして、ますます頬を染めて、
「カダ、様」
ポソ、と愛称を口にした。カダージュは笑みを深めると、ボンネットの隙間から見える頬にくちづける。
「リオ。今日は一日ゆっくりしようね」
こうして帝都から少し離れた、大きな木が一本茂る小高い丘へ、二人はやって来た。帝都が一望出来る、静かな場所。
「リオ。あと二ヶ月でリオとの婚約発表だねぇ」
メリオラーザに膝枕をしてもらいながら、カダージュはそんな話をした。
「そうですわね。カダ様の成人の儀もですわ」
「うん。リオに僕のこと以外で苦労させる気はないからね」
メリオラーザは苦笑した。
「カダ様のことで苦労はするのですね」
「そう。リオが苦労するのは、僕のことだけ」
カダージュが手を伸ばし、メリオラーザの柔らかな頬を指先でふにふにと触れると、メリオラーザは恥ずかしそうに頬を染めた。その姿に、カダージュは満足そうに笑った。
こうしてカダージュのお気に入りのこの場所で、二人は穏やかな時間を過ごすのだった。
*つづく*
皇妃のところから戻ると、嬉しそうにカダージュがメリオラーザに擦り寄った。
「僕ねぇ、書類、リオとの約束の分だけじゃなくてね、もう一枚終わらせたんだあ」
その言葉に、メリオラーザはギョッとする。
皇妃のところに行っていた時間で、二枚?あの時間で、二枚?
メリオラーザは呆れたような息を吐くと、苦笑した。
「殿下は、本当に、もう」
少し屈むカダージュに、メリオラーザはその頭を撫でる。皇族の頭に触れることは不敬だ。しかし、カダージュはメリオラーザにそれを望む。優しく髪を梳くように撫でると、本当に幸せそうに笑うのだ。
「ふふ。リオ。愛しているよ」
頬、というのだろうか、唇に触れそうなほど近い場所にくちづけるカダージュの愛情表現は未だに慣れないけれど、決して嫌ではなく。真っ赤になって俯く頭に、またくちづけが落とされた。
「約束通り、明日は一日僕の望みを叶えてね、リオ」
*~*~*~*~*
朝六時。ティシモ伯爵家に、一人の来訪者。
栗色の髪に、同じ色の瞳、黒縁の眼鏡をかけたカダージュが、応接間に座っていた。
「おはようございます。お待たせいたしました、殿下」
カダージュが到着して少しすると、メリオラーザが現れた。平民のようなワンピースに、動きやすい編み上げのブーツを履いている。カダージュは、メリオラーザを見るなり満面の笑顔になった。
「おはよう、リオ。すごく可愛いねぇ」
頭の天辺から足の先まで何度も見ながら、嬉しそうにカダージュはリオの手を取り、その甲へくちづけた。頬を染めるメリオラーザは、恥ずかしそうにお礼の言葉を口にする。
「御髪と瞳の色が違いますと、とても雰囲気が変わりますね」
照れを隠すように言ったメリオラーザの言葉に、カダージュは笑う。
「リオが、この色綺麗って言ってくれるから」
お忍びデートをするときは、いつもこのスタイル。初めてデートをしたときに、皇家の色を隠す為にした変装を、メリオラーザは褒めてくれた。
「はい。とても綺麗な色ですわ、殿下」
よくある色合いのはずなのに、地色の影響か、光の加減でミルクティーのように甘い色合いになる。カダージュは嬉しそうに顔を輝かせると、きゅうっとメリオラーザを抱き締めた。
「それでは、夕刻六時にはメリオラーザを送ります。行こうか、リオ」
玄関を出て伯爵たちにそう言うと、メリオラーザを馬に乗せ、自身もその馬に跨がり出掛けて行った。
何度顔を合わせても噂と違いすぎる第四皇子に、伯爵たちは、何とも言えない表情で見送った。
………
……
…
「怖くない?リオ」
ポクポクと馬を歩かせているカダージュが、馬に慣れていないメリオラーザを心配する。カダージュと婚約を結んでもうすぐ七年が経つが、こうして馬で出掛けるのは、年に数回程度。その度、カダージュはメリオラーザを気遣う。
「大丈夫ですわ、殿下」
一人で乗ることは出来ないが、カダージュと一緒であれば、少しも怖くなどなかった。微笑むメリオラーザに、カダージュも嬉しそうに笑う。
「デートの時は、殿下じゃないでしょ、リオ」
ボンネット越しの頭にくちづけられたことがわかり、メリオラーザは頬を染める。そして、ますます頬を染めて、
「カダ、様」
ポソ、と愛称を口にした。カダージュは笑みを深めると、ボンネットの隙間から見える頬にくちづける。
「リオ。今日は一日ゆっくりしようね」
こうして帝都から少し離れた、大きな木が一本茂る小高い丘へ、二人はやって来た。帝都が一望出来る、静かな場所。
「リオ。あと二ヶ月でリオとの婚約発表だねぇ」
メリオラーザに膝枕をしてもらいながら、カダージュはそんな話をした。
「そうですわね。カダ様の成人の儀もですわ」
「うん。リオに僕のこと以外で苦労させる気はないからね」
メリオラーザは苦笑した。
「カダ様のことで苦労はするのですね」
「そう。リオが苦労するのは、僕のことだけ」
カダージュが手を伸ばし、メリオラーザの柔らかな頬を指先でふにふにと触れると、メリオラーザは恥ずかしそうに頬を染めた。その姿に、カダージュは満足そうに笑った。
こうしてカダージュのお気に入りのこの場所で、二人は穏やかな時間を過ごすのだった。
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