あなたは一体誰ですか?

らがまふぃん

文字の大きさ
1 / 20

1.欲望に忠実な

しおりを挟む
新しい話始めました。
怠惰な皇子様のワガママ恋愛話にお付き合いください。


*∽*∽*∽*∽*


 怠惰、陰気、愚かなど、侮蔑の言葉を陰で言われているが、婚約者の前では違う顔を見せる。それを知っているのは、彼に近しい人だけ。

 「やりたくないなあ。リオ、お願ぁい。代わりにやってぇ?」

 淡い水色の髪が、サラリと揺れた。可愛らしく小首を傾げる彼、この国の第四皇子、カダージュ・アス・ヒオニア。怠惰であることは、誰の前でも変わらないのかもしれないが。

 「殿下の仕事です。わたくしに出来るはずがないでしょう」

 淡々と答えるその婚約者、ティシモ伯爵家長女、メリオラーザ。

 「ねえ、リオ」

 皇家の色と言われる金色の瞳が、真剣な色を帯びた。メリオラーザはカダージュのその瞳を真っ直ぐに見つめ返す。

 「実は、今ダラダラしないと大変なことが起こるかもしれないと思っているんだ」
 「かもしれない、でしょう。お試しなさいませ」

 キリリと真顔のカダージュに、無表情のままのメリオラーザはやはり淡々と答える。

 「万が一大変な目に遭ったらどうするの」

 変わらずキリリと質問する。

 「万が一でそのような目に遭うのでしたら、余程運が悪いか余程運が良いかのどちらかでしょう」
 「運がいいって?」
 「万が一に当たるのです。もの凄く幸運かもしれませんね」

 カダージュの顔が、ふにゃりと崩れた。

 「そういう考えをするキミが好きだよ」
 「そのような言葉で騙されると思わないでくださいませ」

 呆れたような溜め息を零すメリオラーザに、カダージュの眉が下がり、潤んだ瞳でメリオラーザを見た。

 「あのね、リオ。本当はね、右手が痛いんだ。ペンが握れない」
 「左利きで良かったですね」
 「書類を見たら秒で眠れるよ」
 「夜が眠れなくなりますわ。今はその特技を発揮するときではありません」

 少しの間、無言で見つめ合う二人。

 「ねえ、リオ」
 「何ですか」
 「眠いぃ。膝枕してぇ?」
 「ですから今眠ったら夜が眠れなくなりますわ。紅茶をご用意いたします」

 欲望に忠実なカダージュにも動じることなくバッサリのメリオラーザ。

 「ねえ、リオ」
 「何ですか」
 「仕事やりたくないから、やる気になるためにデートしよう」
 「無理に今やらなくても構いませんよ」

 しゅんとするカダージュだったが、何かを思い出したのか、机の引き出しを開けた。

 「リーオちゃん」
 「何ですか」
 「これ、さっき僕の側近が渡してくれたメモなんだけど」

 席を立っていそいそとメリオラーザの側に行き、すい、とメモを差し出す。メリオラーザは首を傾げながら受け取り、目を走らせる。

 「これ、お受け取りになったのは一時間以上前でしたわね?」
 「うん。そうだよ」

 にこにことするカダージュに、悪びれた様子はない。

 「皇妃陛下がわたくしをお呼びになっているようですわね」
 「リオは、僕といるより母上の方がいいの?」

 ギラリと向けられた視線に、カダージュは涙目でそう言う。

 「殿下」
 「なあに、リオ」

 微笑むメリオラーザに、カダージュも嬉しそうに笑う。

 「次に同じことをしたら、この婚約は白紙にさせていただきます」

 無表情で告げられた。

 「絶対やらないよ。だから、怒らないで、リオ」

 キリリと頷くカダージュに、何度目かわからない溜め息を零す。

 「すぐに向かいます」
 「待ってぇ。僕も行くよぉ」

 あわあわと追いかけるカダージュを、メリオラーザは少し言葉を強くしてとどめる。

 「殿下は!大人しく待っていてくださいませ」

 メリオラーザに、強く真っ直ぐに見つめられたカダージュは、渋々と頷いた。

 「むぅ。わかったよぅ」

 しおしおと小さく肩を落として、メリオラーザがいない淋しさを紛らわせるために、机に置かれた書類の一枚を、やっと手に取った。

 「ねえリオ」

 退室しかけたメリオラーザを、淋しそうな声でカダージュは呼んだ。

 「何ですか」
 「早く戻ってきてね」

 弱々しく手を振るカダージュに、メリオラーザは少し視線を彷徨わせると、

 「わたくしが戻るまでに、今手に取った書類を終わらせておりましたら、ええと、明日は一日、その、殿下の、お望みを、叶えますわ」

 そう、恥ずかしそうに言った。

 「本当っ?リオ、大好きだ!」

 弾ける笑顔に、メリオラーザは少し頬を赤くしながら扉を閉めた。

 緊張すると表情がなくなる愛しの婚約者。登城すると未だに緊張しているようだが、会話を重ねると、少しずつほぐれる。それでも、いつも優しいメリオラーザ。

 見送ったカダージュは、人が変わったようにペンを走らせたのだった。




*つづく*
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

老け顔ですが?何かあります?

宵森みなと
恋愛
可愛くなりたくて、似合わないフリフリの服も着てみた。 でも、鏡に映った自分を見て、そっと諦めた。 ――私はきっと、“普通”じゃいられない。 5歳で10歳に見られ、結婚話は破談続き。 周囲からの心ない言葉に傷つきながらも、少女サラサは“自分の見た目に合う年齢で学園に入学する”という前代未聞の決意をする。 努力と覚悟の末、飛び級で入学したサラサが出会ったのは、年上の優しいクラスメートたちと、ちょっと不器用で真っ直ぐな“初めての気持ち”。 年齢差も、噂も、偏見も――ぜんぶ乗り越えて、この恋はきっと、本物になる。 これは、“老け顔”と笑われた少女が、ほんとうの恋と自分自身を見つけるまでの物語。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

聖女の座を追われた私は田舎で畑を耕すつもりが、辺境伯様に「君は畑担当ね」と強引に任命されました

さら
恋愛
 王都で“聖女”として人々を癒やし続けてきたリーネ。だが「加護が弱まった」と政争の口実にされ、無慈悲に追放されてしまう。行き場を失った彼女が選んだのは、幼い頃からの夢――のんびり畑を耕す暮らしだった。  ところが辺境の村にたどり着いた途端、無骨で豪胆な領主・辺境伯に「君は畑担当だ」と強引に任命されてしまう。荒れ果てた土地、困窮する領民たち、そして王都から伸びる陰謀の影。追放されたはずの聖女は、鍬を握り、祈りを土に注ぐことで再び人々に希望を芽吹かせていく。  「畑担当の聖女さま」と呼ばれながら笑顔を取り戻していくリーネ。そして彼女を真っ直ぐに支える辺境伯との距離も、少しずつ近づいて……?  畑から始まるスローライフと、不器用な辺境伯との恋。追放された聖女が見つけた本当の居場所は、王都の玉座ではなく、土と緑と温かな人々に囲まれた辺境の畑だった――。

わたくし、悪女呼ばわりされているのですが……全力で反省しておりますの。

月白ヤトヒコ
恋愛
本日、なんの集まりかはわかりませんが、王城へ召集されておりますの。 まあ、わたくしこれでも現王太子の婚約者なので、その関連だと思うのですが…… 「父上! 僕は、こんな傲慢で鼻持ちならない冷酷非道な悪女と結婚なんかしたくありません! この女は、こともあろうに権力を使って彼女を脅し、相思相愛な僕と彼女を引き離そうとしたんですよっ!? 王妃になるなら、側妃や愛妾くらいで煩く言うのは間違っているでしょうっ!?」 と、王太子が宣いました。 「どうやら、わたくし悪女にされているようですわね。でも、わたくしも反省しておりますわ」 「ハッ! やっぱりな! お前は僕のことを愛してるからな!」 「ああ、人語を解するからと人並の知性と理性を豚に求めたわたくしが悪かったのです。ごめんなさいね? もっと早く、わたくしが決断を下していれば……豚は豚同士で娶うことができたというのに」 設定はふわっと。

ジルの身の丈

ひづき
恋愛
ジルは貴族の屋敷で働く下女だ。 身の程、相応、身の丈といった言葉を常に考えている真面目なジル。 ある日同僚が旦那様と不倫して、奥様が突然死。 同僚が後妻に収まった途端、突然解雇され、ジルは途方に暮れた。 そこに現れたのは亡くなった奥様の弟君で─── ※悩んだ末取り敢えず恋愛カテゴリに入れましたが、恋愛色は薄めです。

疑惑のタッセル

翠月 瑠々奈
恋愛
今、未婚の貴族の令嬢・令息の中で、王国の騎士たちにタッセルを渡すことが流行っていた。 目当ての相手に渡すタッセル。「房飾り」とも呼ばれ、糸や紐を束ねて作られた装飾品。様々な色やデザインで形作られている。 それは、騎士団炎の隊の隊長であるフリージアの剣にもついていた。 でもそれは──?

ある公爵令嬢の死に様

鈴木 桜
恋愛
彼女は生まれた時から死ぬことが決まっていた。 まもなく迎える18歳の誕生日、国を守るために神にささげられる生贄となる。 だが、彼女は言った。 「私は、死にたくないの。 ──悪いけど、付き合ってもらうわよ」 かくして始まった、強引で無茶な逃亡劇。 生真面目な騎士と、死にたくない令嬢が、少しずつ心を通わせながら 自分たちの運命と世界の秘密に向き合っていく──。

【完結】溺愛される意味が分かりません!?

もわゆぬ
恋愛
正義感強め、口調も強め、見た目はクールな侯爵令嬢 ルルーシュア=メライーブス 王太子の婚約者でありながら、何故か何年も王太子には会えていない。 学園に通い、それが終われば王妃教育という淡々とした毎日。 趣味はといえば可愛らしい淑女を観察する事位だ。 有るきっかけと共に王太子が再び私の前に現れ、彼は私を「愛しいルルーシュア」と言う。 正直、意味が分からない。 さっぱり系令嬢と腹黒王太子は無事に結ばれる事が出来るのか? ☆カダール王国シリーズ 短編☆

処理中です...