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ストーカー規制法抵触者
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「おつかれさまでしたー」
そう声をかけてバイト先を後にする。
居酒屋が閉まる時間だ。それなりに遅い時刻なのは当然として。
「どーも」
物陰でしゃがみこんでいた黒い人影が、すっくと立ち上がって発した音というか声。
「……うわ」
見ず知らずの不審者であった方がむしろ良かったかもしれない、と奏汰は思った。そして猛烈に見なかったことにして、走ってその場を去りたいとも。
「偶然だな、奏汰」
「ンなわけあるかクソガキ」
裏口で張り込むように待っていたのは龍也だった。
しかし高校生が出歩いていていい時間ではない。おまけに黒パーカーに黒パンツという上下不審者スタイル。
しかし顔面がよく高身長でスタイル抜群だからか、それすらさまになってるのが癪にさわった。
「何時だと思ってんだよ」
「あれ、心配してくれんの」
ニッと笑うと白い犬歯が覗く。それが一瞬だけ妙に恐ろしく見えて、思わず半歩後ずさった。
「心配っていうか、普通にダメだろ。何考えてんだ」
「だって会いたかったから」
「は?」
恋人じゃあるまいし何をふざけたことを言っているのか。
「言ったはずだけど? 僕はお前が嫌いだって」
「それがなに、俺は好きだから」
「ガキかよ」
「ガキだよ」
それもそうだ。だが言い負かしてやったという表情にまた腹が立ち、奏汰はそれ以上は言葉を飲み込んで彼に背を向けた。
「あっそ、じゃあはやく帰れ」
「やだ」
「……」
「怒った?」
「……」
「待ってよ」
泣きそうな声。寒かったのだろうか、震えている。
だから反射的に振り返ってしまった。
「こっち向いてくれたな」
「おい」
笑ったままだ。チシャ猫みたいにどこか歪で不気味に見えたのは夜道の街頭のせいかもしれない。
薄暗さに臆病者が幽霊を見たと怯えるようなもので、一瞬でもびびってしまった自分を恥じた。
「つまらない演技しやがって」
――嘘つきも嫌いだ。
やはり騙されたらしい。悔しくてキツく睨みつける。
「演技じゃないって。本当に待って欲しかったし、帰らないでくれよ」
「うるさい。僕は疲れてんだ」
さっさと歩き出すとついてきた。
繁華街の路地を足早に行く二つの影。
「ついて来んなっ!」
「いや俺の行く先にあんたがいるだけだ」
「くそっ、ムカつくなお前」
「あはは。あんたは可愛いよ」
「うるさい死ね!」
追いつかれまいとどんどん早足になる奏汰と、見失うまいと追いかける龍也と。
高校生が居酒屋に入れば追い出されるかもと、わざわざこんな出待ちみたいな真似をしたのだろう。
そして龍也の方は、さっきまで夜風で冷えていた身体が一気に熱くなるのが分かった。
競歩みたく早足だからだろうか。いやそれだけではない、憎まれ口でも叩かれるだけ嬉しくなるのだ。
「お前なんて警察官に補導されてろ。バカ高校生」
「目の前に保護者いるから大丈夫じゃない?」
「僕は保護者じゃない!」
そんなやり取りをしながら、二人の歩くスピードはどんどん速くなっていく。
「っ……おい。駅までついてくる気かよ」
「そりゃあ、あんたのアパートの部屋と方向も一緒だから」
「ウソじゃないだろうな!?」
息を乱しながら怒鳴りつけるも、イタズラを思いついた子どものような目をしているから信用ならない。
しかしそもそもなぜ彼が家を知っているのかという疑問までは、奏汰の頭に浮かばないのだが。
「本当だってば。いたいけな少年を夜に一人、置いてけぼりする気かよ」
「誰がいたいけな少年だよ、デカい図体しやがって」
龍也は身長もさることながら体格も良いのだ。
筋肉のしっかりとある体型と言えばいいのか、服の上からでも分かる厚みと固さに男としての嫉妬も掻き立てられる。
「ねえ一緒に帰ろうよ、奏汰」
「馴れ馴れしく呼ぶんじゃ――うおっ!?」
ほとんど小走りでいたせいか、ちょっとしたことでつまずく。
手を出すことも間に合わず顔面を打ち付けるかと身構えた時だった。
「っ……!」
「危ないって」
ぐっ、と身体が引かれて後ろから腕を回す格好で抱きすくめられている。
どうやら止めてくれたらしい。
「気をつけなよ」
「あ、ああ」
なんとなく気まずくなり、大人しくうなずいた。
「すまない……」
「あんたって口悪くて大人げないくせに変に素直なところあるよな」
「は? お前はやけに喧嘩売ってくるじゃないか」
「違うってば。そういうとこが大人げなくて可愛い」
「うるさい、クソガキのくせに」
そろそろ腹も立ってきて、奏汰は勢いよく腕を振り払った。
「最寄り駅までは送ってやる。それで大人しく帰れ」
「そのまま俺ん家来てよ」
「調子に乗るな、はっ倒すぞ」
「おお、怖い怖い」
拳を振りあげて脅すが、龍也は肩をすくめて笑うだけ。
「チッ」
これ以上、会話するだけ無駄かもしれない。
大きく舌打ちしてまた歩き出そうとしたら。
「……あのすみません」
「え?」
突然声がして振り返った。さっきまで気配すらなかった所に、一人の男が立っている。
「すみません、少しよろしいですか」
「……なに?」
丁寧な物言いとは裏腹に、なにかギョッとさせる物々しい雰囲気をまとっていた。
夜の闇に紛れてしまいそうな黒のスーツ姿もあいまってかもしれない。
とっさに警戒したのは奏汰だけでなく、龍也も無言で彼の肩を抱いて男を睨む。
「この男性、知りませんか」
そう言って差し出してきたのは一枚の写真。
なにやら数人写っているものの一部を拡大したものらしい。少しぼやけ気味なのはそのせいか、単純に腕がイマイチなのかは分からない。
しかしその写真は明らかに写っている側の意図する所でなく、簡潔に言えば盗撮であった。
「なんだこの写真」
「この人物に見覚えありませんか、名前は――そちらの方はご存知のようですね」
顔をしかめ黙り込む奏汰に、男は視線を移す。
「いや別に……」
慌てて首を横にふるが嘘だと自白するようなものだ。
そう、確かに知っている。写りは悪いが今日の夕方には見た顔だ。
――堂守さんじゃないか。
ぐったりと床に座り込むバイト先の先輩を思い出す。あの後病院へ行ったのだろう、佐倉 絵里も付き添いで早退したらしい。
店長は何も言わなかったのを今更ながら思い出した。
「本当に知りませんか」
鋭い眼差しが奏汰をつらぬく。
特徴のない顔だと思っていたが、よくよく見ればやたらと目つきのキツい男であった。
「本名はサガラ ユキ、今はまた別の名前を名乗っているかもしれません」
「サガラ……?」
聞いた事のない名前。しかし写真の特徴は明らかに堂守である。
奏汰は少し迷ったあと。
「知らないですね、間違いなく」
と断言した。
「そうですか」
男がジッとこちらに視線を合わせてくる。
奏汰もまた敢えて逸らさず睨み返す。こういう時、うっかり下でも向こうものならつけ込まれると分かっているのだ。
「……分かりました」
一分くらいだろうか。彼には十倍くらいの時間に思えたが、男のつぶやくような声にようやく張り詰めていた空気が少し緩んだ。
「不躾な真似を申し訳ありませんでした」
男は丁寧に頭を下げると。
「ではまた」
と彼らとすれ違うように向こうへ歩いて行ってしまった。
その身のこなしが素早いせいか、二人はまるで狐につままれたような気分で顔を見合わせる。
「い、行くか」
「うん」
最初に口火を切った奏汰は、ぎこちなく歩き出す。
「っていうか今のなに?」
「僕に聞くなよ」
サガラとは誰なのだろう。写真はやはり堂守だったが偽名を名乗っていたのだろうか、それはなぜ?
そもそもあの体調不良となにか関係でもあるのだろうか。
次々と浮かんでくる疑問や疑惑。
「……ヒート」
「奏汰?」
「いやなんでもない」
ふと思い出したのだ、彼の言葉を。
『ヒートがこない』
そう言っていたではないか。その意味はもしや。
「……妊娠」
「え? あんた妊娠してんの、俺の子?」
「ンなわけないだろ、ぶちのめすぞ」
「ちょ、暴力反対!」
どさくさに紛れに抱きついてこようとする龍也に肘鉄食らわせながら、ふと脳内に湧いてきた言葉に奏汰はゾクリと身を震わせる。
――堂守さん、大丈夫かな。
あとで連絡入れてみようとスマホをポケットにねじ込んだ。
そう声をかけてバイト先を後にする。
居酒屋が閉まる時間だ。それなりに遅い時刻なのは当然として。
「どーも」
物陰でしゃがみこんでいた黒い人影が、すっくと立ち上がって発した音というか声。
「……うわ」
見ず知らずの不審者であった方がむしろ良かったかもしれない、と奏汰は思った。そして猛烈に見なかったことにして、走ってその場を去りたいとも。
「偶然だな、奏汰」
「ンなわけあるかクソガキ」
裏口で張り込むように待っていたのは龍也だった。
しかし高校生が出歩いていていい時間ではない。おまけに黒パーカーに黒パンツという上下不審者スタイル。
しかし顔面がよく高身長でスタイル抜群だからか、それすらさまになってるのが癪にさわった。
「何時だと思ってんだよ」
「あれ、心配してくれんの」
ニッと笑うと白い犬歯が覗く。それが一瞬だけ妙に恐ろしく見えて、思わず半歩後ずさった。
「心配っていうか、普通にダメだろ。何考えてんだ」
「だって会いたかったから」
「は?」
恋人じゃあるまいし何をふざけたことを言っているのか。
「言ったはずだけど? 僕はお前が嫌いだって」
「それがなに、俺は好きだから」
「ガキかよ」
「ガキだよ」
それもそうだ。だが言い負かしてやったという表情にまた腹が立ち、奏汰はそれ以上は言葉を飲み込んで彼に背を向けた。
「あっそ、じゃあはやく帰れ」
「やだ」
「……」
「怒った?」
「……」
「待ってよ」
泣きそうな声。寒かったのだろうか、震えている。
だから反射的に振り返ってしまった。
「こっち向いてくれたな」
「おい」
笑ったままだ。チシャ猫みたいにどこか歪で不気味に見えたのは夜道の街頭のせいかもしれない。
薄暗さに臆病者が幽霊を見たと怯えるようなもので、一瞬でもびびってしまった自分を恥じた。
「つまらない演技しやがって」
――嘘つきも嫌いだ。
やはり騙されたらしい。悔しくてキツく睨みつける。
「演技じゃないって。本当に待って欲しかったし、帰らないでくれよ」
「うるさい。僕は疲れてんだ」
さっさと歩き出すとついてきた。
繁華街の路地を足早に行く二つの影。
「ついて来んなっ!」
「いや俺の行く先にあんたがいるだけだ」
「くそっ、ムカつくなお前」
「あはは。あんたは可愛いよ」
「うるさい死ね!」
追いつかれまいとどんどん早足になる奏汰と、見失うまいと追いかける龍也と。
高校生が居酒屋に入れば追い出されるかもと、わざわざこんな出待ちみたいな真似をしたのだろう。
そして龍也の方は、さっきまで夜風で冷えていた身体が一気に熱くなるのが分かった。
競歩みたく早足だからだろうか。いやそれだけではない、憎まれ口でも叩かれるだけ嬉しくなるのだ。
「お前なんて警察官に補導されてろ。バカ高校生」
「目の前に保護者いるから大丈夫じゃない?」
「僕は保護者じゃない!」
そんなやり取りをしながら、二人の歩くスピードはどんどん速くなっていく。
「っ……おい。駅までついてくる気かよ」
「そりゃあ、あんたのアパートの部屋と方向も一緒だから」
「ウソじゃないだろうな!?」
息を乱しながら怒鳴りつけるも、イタズラを思いついた子どものような目をしているから信用ならない。
しかしそもそもなぜ彼が家を知っているのかという疑問までは、奏汰の頭に浮かばないのだが。
「本当だってば。いたいけな少年を夜に一人、置いてけぼりする気かよ」
「誰がいたいけな少年だよ、デカい図体しやがって」
龍也は身長もさることながら体格も良いのだ。
筋肉のしっかりとある体型と言えばいいのか、服の上からでも分かる厚みと固さに男としての嫉妬も掻き立てられる。
「ねえ一緒に帰ろうよ、奏汰」
「馴れ馴れしく呼ぶんじゃ――うおっ!?」
ほとんど小走りでいたせいか、ちょっとしたことでつまずく。
手を出すことも間に合わず顔面を打ち付けるかと身構えた時だった。
「っ……!」
「危ないって」
ぐっ、と身体が引かれて後ろから腕を回す格好で抱きすくめられている。
どうやら止めてくれたらしい。
「気をつけなよ」
「あ、ああ」
なんとなく気まずくなり、大人しくうなずいた。
「すまない……」
「あんたって口悪くて大人げないくせに変に素直なところあるよな」
「は? お前はやけに喧嘩売ってくるじゃないか」
「違うってば。そういうとこが大人げなくて可愛い」
「うるさい、クソガキのくせに」
そろそろ腹も立ってきて、奏汰は勢いよく腕を振り払った。
「最寄り駅までは送ってやる。それで大人しく帰れ」
「そのまま俺ん家来てよ」
「調子に乗るな、はっ倒すぞ」
「おお、怖い怖い」
拳を振りあげて脅すが、龍也は肩をすくめて笑うだけ。
「チッ」
これ以上、会話するだけ無駄かもしれない。
大きく舌打ちしてまた歩き出そうとしたら。
「……あのすみません」
「え?」
突然声がして振り返った。さっきまで気配すらなかった所に、一人の男が立っている。
「すみません、少しよろしいですか」
「……なに?」
丁寧な物言いとは裏腹に、なにかギョッとさせる物々しい雰囲気をまとっていた。
夜の闇に紛れてしまいそうな黒のスーツ姿もあいまってかもしれない。
とっさに警戒したのは奏汰だけでなく、龍也も無言で彼の肩を抱いて男を睨む。
「この男性、知りませんか」
そう言って差し出してきたのは一枚の写真。
なにやら数人写っているものの一部を拡大したものらしい。少しぼやけ気味なのはそのせいか、単純に腕がイマイチなのかは分からない。
しかしその写真は明らかに写っている側の意図する所でなく、簡潔に言えば盗撮であった。
「なんだこの写真」
「この人物に見覚えありませんか、名前は――そちらの方はご存知のようですね」
顔をしかめ黙り込む奏汰に、男は視線を移す。
「いや別に……」
慌てて首を横にふるが嘘だと自白するようなものだ。
そう、確かに知っている。写りは悪いが今日の夕方には見た顔だ。
――堂守さんじゃないか。
ぐったりと床に座り込むバイト先の先輩を思い出す。あの後病院へ行ったのだろう、佐倉 絵里も付き添いで早退したらしい。
店長は何も言わなかったのを今更ながら思い出した。
「本当に知りませんか」
鋭い眼差しが奏汰をつらぬく。
特徴のない顔だと思っていたが、よくよく見ればやたらと目つきのキツい男であった。
「本名はサガラ ユキ、今はまた別の名前を名乗っているかもしれません」
「サガラ……?」
聞いた事のない名前。しかし写真の特徴は明らかに堂守である。
奏汰は少し迷ったあと。
「知らないですね、間違いなく」
と断言した。
「そうですか」
男がジッとこちらに視線を合わせてくる。
奏汰もまた敢えて逸らさず睨み返す。こういう時、うっかり下でも向こうものならつけ込まれると分かっているのだ。
「……分かりました」
一分くらいだろうか。彼には十倍くらいの時間に思えたが、男のつぶやくような声にようやく張り詰めていた空気が少し緩んだ。
「不躾な真似を申し訳ありませんでした」
男は丁寧に頭を下げると。
「ではまた」
と彼らとすれ違うように向こうへ歩いて行ってしまった。
その身のこなしが素早いせいか、二人はまるで狐につままれたような気分で顔を見合わせる。
「い、行くか」
「うん」
最初に口火を切った奏汰は、ぎこちなく歩き出す。
「っていうか今のなに?」
「僕に聞くなよ」
サガラとは誰なのだろう。写真はやはり堂守だったが偽名を名乗っていたのだろうか、それはなぜ?
そもそもあの体調不良となにか関係でもあるのだろうか。
次々と浮かんでくる疑問や疑惑。
「……ヒート」
「奏汰?」
「いやなんでもない」
ふと思い出したのだ、彼の言葉を。
『ヒートがこない』
そう言っていたではないか。その意味はもしや。
「……妊娠」
「え? あんた妊娠してんの、俺の子?」
「ンなわけないだろ、ぶちのめすぞ」
「ちょ、暴力反対!」
どさくさに紛れに抱きついてこようとする龍也に肘鉄食らわせながら、ふと脳内に湧いてきた言葉に奏汰はゾクリと身を震わせる。
――堂守さん、大丈夫かな。
あとで連絡入れてみようとスマホをポケットにねじ込んだ。
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