唇を隠して,それでも君に恋したい。

初恋

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ボクの"エラブヒト"

"キミ"の戸惑いと"ボク"の歓び

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「なんか勢いで来ちゃったけど」

「うん」



真面目な顔で,何かを考える敦。

ここはもしかしたら,僕から口火を切るべきなんだろうか。

敦が見たものと僕がしようとしていたことは紛れもない事実で,なんと説明して良いか分からない。

ひとつ確かなことをあげるとすれば,それは恋心から来る行為ではなかったと言うこと。

好きなのか,とか,付き合ってるのとか。

そう言うことだけなら,直ぐにでも答える準備が出来てる。

だけど敦が言及したのは,別の事だった。



「俺は……お前に1番近い友達は俺だと思ってた」

「……え?」

「いつも近くにいて,些細な変化に気付いて,1番最初に頼ってくる相手は,俺だと思ってた」



それは,間違っていないと思う。

僕は敦がいたから,他者とかかわる機会を得て。

敦の事が好きだから,君の事ならなんでも分かって。

スズでもリューでもない,僕が一番に頼る相手は敦だ。



「でも。変わったよな」

「変わったって僕は」

「あいつ,和寧に。今は一番気を許して安心して,いつも名前を呼んで。バスでも伊織は絶対に俺を呼ぶと思ってた。……あんなに警戒してたのに,顔を明かして,キスするくらい……」

「それは違う!」



僕は困惑しながらも,それだけを叫ぶ。

和寧は確かにトクベツだ。

それはあいつが僕と同じだからで,分かりあえる唯一だからで。

全部全部,違う。

キスだって何も特別なことは無い。

ただ僕たちのようなS·Pがこの先,普通に生きていくための希望になればいいと,少なくとも僕はそう思っただけなんだ。

僕はただ。

僕が心から想うのは



「ぼ」

「つまり,俺は」

「う,うん」



真っ直ぐな瞳に,揺らぐ。

思わずたじろいで,僕は続きを待った。



「俺は,伊織の1番じゃなくなって,妬いてる」

ーだから,怒ってるとかじゃ,ない



柱を背に小さくなっていく身体。

とうとう僕の膝の高さまで小さくなって,僕はようやく



「え?」



と反応する。

今のは,あれだ,つまり……

親友,的なことを言いたかったのであって。

僕が期待するようなあれでは,ないはずで。



「あっ……つぅ」



こんなに体温が上がる生き物なのか人間は。

そう思ってしまうほど,隠せない。

今なにか言われたら,僕は否定できない。

僕を見上げた敦がはっと息をのむ。

そして僕の手首を掴まえた。



「俺はスズや三太と違って,誰かを好きになったこともない。それに,こんな気持ちになったことも。だから正直分からないけど,伊織。俺は,多分……お前の事が好きだ」



見開いた瞳の横で,敦の告白が聞こえる。

僕は信じられない思いで,更に目蓋を持ち上げた。

手首に伝わる緊張と痛みが,現実を思わせる。

混乱のなか,渇いた喉から飛び出たのは



「僕の方が,好きに決まってる」



拒絶ともとれるような,挑発で。



「「え??」」



発した自身まで驚いて,僕は敦と目をあわせて瞬いた。

そうだ,意味が分からない。

僕の方がずっと,敦が好きだ。

敦がなんと言おうと,僕は信じない。

でも




「じゃあ和寧とは」

「何でもない。ちょっと話せない事情があって……でももうしない。まだ未遂だから,本当に何もない」

「俺と,付き合ってくれるか?」



僕は,敦の事がどうしよもなく好きだ。

その敦が,たとえ気の迷いだとしてもこう望んでくれるなら。



「条件がある。僕は君に沢山の隠し事をしている。それを……隠したままでいいなら。それから,僕の許した以上の接触をしないこと。そんな僕でもいいなら……」



僕が受け入れないなんてそんなはずないんだ。

本当はこんなことも,言いたくない。

僕から敦へ条件を突き付けるなんて,拒絶で頬が痙攣する。

君は君のままでいい。

僕なんて,敦の好きなように扱えばいい。

でも,そうは言えないのが……僕の運命だ。



「今まで通りでいい。伊織は伊織のままで,俺は好きだ」



やっぱり君は中村 敦。

僕に無いものを持っていて,僕にあげられないものを僕にくれる。

僕の大好きな人。



「おーー。2人一緒だったんや」

「三太」



皆と合流すると,三太がいち早く僕たちに気がついた。



「入れ違いになったのかな。あのあと直ぐ和寧も見つかってさ」



スズの悪気ない言葉に,勝手に気まずい僕は小さく微笑みだけ返す。

当の和寧はぴょこりとスズの隣から顔を出して,探るようなからかうような……とにかく好奇心一杯の表情を僕に寄越していた。

元はと言えば……と文句のひとつでも言いたくなっていると,そんな僕に向かってスズが話しかける。


「そろそろバス戻ろうかと思ってて。2人も戻ろう。三太が自販機で変なジュース買ったんだよ。ね,リュー」



ずんと立つリューを見ると,何本もペットボトルを抱えている。

思いがけない光景に,僕はふはっと笑った。

いつの間にか,肩に力が入っていたみたいだ。

 

「じゃあ早く戻ろうか」

「うん」



敦は珍しく,皆の後ろを僕と歩く。

和寧はちらりと僕を振り返ったけれど,それ以上何も言わなかった。

ざわざわとして,胸がつまる。

ふと,こつんと何かが僕の手の甲に当たった。



「~っ」



悩む。

でも僕はこうする他ないと思って。

敦の,人差し指だけを数秒握り返した。

だめだ。

僕は敦のこんな行動が,たまらなく嬉しい。



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