唇を隠して,それでも君に恋したい。

初恋

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ボクの"エラブヒト"

ボクの想いをシルヒト。

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「海,皆楽しそうやったな」

「そうだね。君もだけど。……寒いだろうに」

「そりゃー泳ぎって言ったら僕やろ? 小学生の頃なんて学年一やったんやけん」



和寧がカラカラと笑い寛ぐのは,皆が風呂に向かった旅館の大部屋の敷布団。

僕は適当に個室風呂の準備をしながら話に付き合った。



「伊織もちょっとくらい入ればよかったのに」

「やだね。僕はラインが出る服は着たくない」



海での自由時間は,後にマリンスポーツが控えていたため,ラッシュガードでの参加だった。

和寧は何も気にせず楽しんでいたようだが,僕は少しでもバストの膨らみを知られたくなかったため,体育と同様欠席。

生理だという女子や海に入りたくないからと生理を偽称する女子と共に文化体験としてだるまの目玉を描く体験をした。

不可思議そうに僕を見る視線には慣れている。

もくもくと作業していれば,あとは何も気にならなかった。



「おめでとう」



思わず櫛を落とす。

ぎろりと恨めしげに視線を向け,僕はきゅっと唇をかんだ。




「どうも」



その件については僕としても言いたいことが山ほどある。



「何で黙ってた?」

「だって,言うたって焦らすだけやん。何かまずい方向に行きそうなら報告したけど,むしろ好転したやろ」

「ふ~ーーーーん」

「えー。全然納得してないじゃん」



ふはっと吹き出した和寧。

体育倉庫での事も,未遂を直接見られたのも。

もとを正せば全部和寧のせいなのに。

それでもこいつの言う通り,僕はこれ以上ない状況を手に入れた。

だから,どうしてもこれ以上の文句が言えない。



「そんなに好きか?」

「うん」

「何で?」

「好きだから」



タオルに着替えに,全部もって。

僕は正面から和寧を見た。



「答えになっとらんよ」



和寧は目を細めて,柔らかい声を発する。



「君には教えない」



お先に,と僕は個室に閉じ籠った。



「あつ……」



耳のこの熱さが,目敏い彼の目に映っていないといいけど。



「俺も入ろっかな~」

「だめに決まってるでしょ」



同性の誰より好きな恋人ができたのに。

約束通り君と風呂になんて入れない。

しばらくすると,ざわざわと騒がしい音が聞こえてきた。

もうそんなにと思いながら風呂から上がる。

何をそんなに騒いでいるんだろう。

僕は髪を拭きながら皆のもとへ向かった。



「何してるの?」



思わず呆れた声を出してしまった先にいるのは,湯上がりで頬を上気させた三太。

が,はしゃぎながら布団を引きずっている。



「いやー俺二段ベッドの上だからさ! 敷布団大好きなんだよ!!」

「ちょっと三太いい加減にして。埃が舞うから」



スズも夜まで母親業をやってられないのか,珍しく眉を深くしていた。



「ふふ」



そんな馬鹿げた光景にも,修学旅行効果なのか笑ってしまう。

そんな僕に,敦がそっと寄ってきていた。



「髪,そろそろ乾かさないと風邪引くぞ」



つままれた毛束。



「う,ああ」



かつてない距離感にどきりとする。

湿った毛先から首筋にぽつりと水滴が落ちて,僕はタオルを持つ手に力を込めた。



「あそうだ。寝る場所適当に決めちゃっていい?」



スズの声に,洗面所に行くのを止める。

振り返って,少し考えてから



「僕寝相悪いから。壁際がいい」



と要望を伝える。

ベッドなら落ちるだけで済むけど敷布団と雑魚寝となれば話は別。

わざわざ真ん中で寝て,あちこち蹴飛ばす趣味はない。

僕の言葉にスズはこくんと頷いた。



「んじゃあその隣から決めるか……」



その呟きに,隣の男が反応する。

僕は小さな予感にとっさに口を開いた。



「和寧で」

「いやそんなホストの指名みたいに言われても。僕の分まで君が決めるん?? まぁそうだよね,伊織は僕よな~ー」



仕方ないなぁとでも言い出しそうなにやにやした声色が鼻につく。

僕がじとりと目線で抗議すると

"照れ屋め"

と余計な口パクを返してきた。



「なんで」



ぎくりと肩をすぼめる。

隣から聞こえる小さくも不満げな声はもちろん敦のものだ。

僕が彼の言葉を意識的に遮ったことにももちろん気づいただろうし,わざわざ隣に和寧を指名したことも気に入らないのだろう。

別に敦や……リューでなければ誰でもよかった。

和寧を選んだ事に深い意味はない。



「仕方ないだろ」



僕からも小さく返す。

僕が反撃するのは予想外だったようで,見上げる僕の目を見て敦は目を丸くした。



「僕だって人並みに恥ずかしいんだよ」



好きな人の隣でなんて,落ち着いて寝られるわけがない。



「じゃあ僕は歯磨きと髪乾かしに言ってくるから。あとは適当に決めて。荷物も邪魔だったらどかしていいよ」



咳払いで誤魔化すように,僕はまた洗面所へと戻る。

敦が,関係の名前が変わっただけであんなにも積極的な態度を見せるとは正直思っていなかった。

その事実に戸惑う自分がいる反面,彼の打ち明けた僕への想いが本物かもしれないと期待する。

そして

ー意外と焼きもち焼き?

なんて,以前では考えられなかった恋人らしい思考が,僕の頭に広がった。

翌朝。

僕は明るい日の光が差し込む部屋のなかで。

温かな人の体温と



「ちょっと……洒落にならん感じになるからやめてくれる?」



という困惑と呆れ混じりの和寧の声で目を覚ました。

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