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午前中は、思ったより長い
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朝ごはんが終わると、子どもたちはそれぞれ散っていった。
外に出る子。
部屋に戻る子。
椅子に座ったまま、ぼんやりしている子。
食堂には、食器と静けさが残る。
「……さて」
エレナが腰に手を当てて言った。
「次は洗濯です」
「ですよね」
即答すると、エレナは一瞬だけ目を瞬かせた。
「分かってます?」
「流れ的に」
「……あぁ、はい」
中庭に出ると、洗濯物の山があった。
朝のうちに洗った分らしく、まだ水気が残っている。
「これ、全部です」
「結構ありますね」
「毎日です」
「……ですよね」
納得しかなかった。
ロープは三本。
風向きは、右から左。
「乾きやすいのは、こっちですね」
そう言って、僕は端から干し始めた。
「……あの」
エレナが様子を見ながら声をかける。
「手際、良くないですか?」
「普通だと思いますけど」
「“普通”がこれだと、助かるんですが」
会話をしながらも、手は止まらない。
大人の服は間隔を広めに。
子どもの服は、風が抜ける位置に。
「……そこ、気にします?」
「乾きムラ出るので」
「……なるほど」
エレナは、だんだん何も言わなくなった。
代わりに、そっと籠を差し出すだけになる。
「これも」
「はい」
そのやり取りを、
少し離れたところから子どもたちが見ていた。
「ねえ」
背の低い男の子が、恐る恐る近づいてくる。
「それ、早く乾くの?」
「乾くよ」
「なんで?」
「風、通るから」
「ふーん……」
男の子は、しばらく洗濯物を眺めてから、
「じゃあ、これもこっち?」
「うん」
言われた通りに掛けると、
なぜか誇らしげな顔をした。
「よし」
「何が?」
「手伝った」
「……ありがとう」
それで十分だったらしい。
洗濯が一段落すると、
今度は掃除だった。
「午前中で、できるところまで」
「了解です」
雑巾を手に取ると、
床のきしみ具合や、埃の溜まりやすい場所が自然と分かる。
「……そこも?」
エレナが聞く。
「角、溜まります」
「……溜まりますね」
納得が早い。
気づけば、
誰かが雑巾を持って隣に来ていた。
「……ここ、拭く」
無口な男の子だ。
「お願い」
短いやり取り。
でも、ちゃんと伝わる。
午前の鐘が鳴る頃、
中庭は洗濯物でいっぱいになり、
廊下と食堂は、見違えるほど静かになっていた。
「……」
エレナは、一周見渡してから、
大きく息を吐いた。
「……終わりましたね」
「終わりましたね」
「……まだ、昼まで時間あります」
「ありますね」
そこで、エレナは言葉を切った。
少し迷ってから、
改めて僕を見る。
「……ユウさん」
「はい」
「一晩だけ、って話でしたよね」
「ええ」
即答だった。
「今日中に、仕事探すつもりです」
「ですよね」
エレナは、少しだけ笑った。
「……それ、聞いて安心しました」
「安心?」
「はい。ここに居着く気、最初からだと困るので」
「それは……分かります」
「でも」
そこで、言葉が一拍置かれる。
「“今日一日だけ”なら、どうですか」
ユウは、少し考えた。
一日。
もう、半分は過ぎている。
「……昼まで、ですよね?」
「昼からも」
「……」
間が空く。
エレナは、無理に押さなかった。
「嫌なら、断ってください」
「……嫌じゃないです」
それは、嘘じゃなかった。
「じゃあ」
エレナは、小さく頷く。
「昼ごはん、お願いしてもいいですか」
「簡単なもので」
「それで十分です」
こうして、
“一晩だけ”のはずだった滞在は、
“今日一日”に伸びた。
まだ、約束はしていない。
まだ、決めてもいない。
でも。
「……昼、何作ろう」
そんなことを考えている時点で、
答えは、少しずつ形を持ち始めていた。
外に出る子。
部屋に戻る子。
椅子に座ったまま、ぼんやりしている子。
食堂には、食器と静けさが残る。
「……さて」
エレナが腰に手を当てて言った。
「次は洗濯です」
「ですよね」
即答すると、エレナは一瞬だけ目を瞬かせた。
「分かってます?」
「流れ的に」
「……あぁ、はい」
中庭に出ると、洗濯物の山があった。
朝のうちに洗った分らしく、まだ水気が残っている。
「これ、全部です」
「結構ありますね」
「毎日です」
「……ですよね」
納得しかなかった。
ロープは三本。
風向きは、右から左。
「乾きやすいのは、こっちですね」
そう言って、僕は端から干し始めた。
「……あの」
エレナが様子を見ながら声をかける。
「手際、良くないですか?」
「普通だと思いますけど」
「“普通”がこれだと、助かるんですが」
会話をしながらも、手は止まらない。
大人の服は間隔を広めに。
子どもの服は、風が抜ける位置に。
「……そこ、気にします?」
「乾きムラ出るので」
「……なるほど」
エレナは、だんだん何も言わなくなった。
代わりに、そっと籠を差し出すだけになる。
「これも」
「はい」
そのやり取りを、
少し離れたところから子どもたちが見ていた。
「ねえ」
背の低い男の子が、恐る恐る近づいてくる。
「それ、早く乾くの?」
「乾くよ」
「なんで?」
「風、通るから」
「ふーん……」
男の子は、しばらく洗濯物を眺めてから、
「じゃあ、これもこっち?」
「うん」
言われた通りに掛けると、
なぜか誇らしげな顔をした。
「よし」
「何が?」
「手伝った」
「……ありがとう」
それで十分だったらしい。
洗濯が一段落すると、
今度は掃除だった。
「午前中で、できるところまで」
「了解です」
雑巾を手に取ると、
床のきしみ具合や、埃の溜まりやすい場所が自然と分かる。
「……そこも?」
エレナが聞く。
「角、溜まります」
「……溜まりますね」
納得が早い。
気づけば、
誰かが雑巾を持って隣に来ていた。
「……ここ、拭く」
無口な男の子だ。
「お願い」
短いやり取り。
でも、ちゃんと伝わる。
午前の鐘が鳴る頃、
中庭は洗濯物でいっぱいになり、
廊下と食堂は、見違えるほど静かになっていた。
「……」
エレナは、一周見渡してから、
大きく息を吐いた。
「……終わりましたね」
「終わりましたね」
「……まだ、昼まで時間あります」
「ありますね」
そこで、エレナは言葉を切った。
少し迷ってから、
改めて僕を見る。
「……ユウさん」
「はい」
「一晩だけ、って話でしたよね」
「ええ」
即答だった。
「今日中に、仕事探すつもりです」
「ですよね」
エレナは、少しだけ笑った。
「……それ、聞いて安心しました」
「安心?」
「はい。ここに居着く気、最初からだと困るので」
「それは……分かります」
「でも」
そこで、言葉が一拍置かれる。
「“今日一日だけ”なら、どうですか」
ユウは、少し考えた。
一日。
もう、半分は過ぎている。
「……昼まで、ですよね?」
「昼からも」
「……」
間が空く。
エレナは、無理に押さなかった。
「嫌なら、断ってください」
「……嫌じゃないです」
それは、嘘じゃなかった。
「じゃあ」
エレナは、小さく頷く。
「昼ごはん、お願いしてもいいですか」
「簡単なもので」
「それで十分です」
こうして、
“一晩だけ”のはずだった滞在は、
“今日一日”に伸びた。
まだ、約束はしていない。
まだ、決めてもいない。
でも。
「……昼、何作ろう」
そんなことを考えている時点で、
答えは、少しずつ形を持ち始めていた。
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