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骨 壁 白線
しおりを挟むグイッと引っ張られる。
「……わっ、」
後方へと蹌踉け、誠の胸元へとすっぽり背中が収まれば……直ぐ目の前を、小さな女の子がトタトタと走って横切った。
「………」
もし引き止められていなかったら……ぶつかって、怪我させてたかも……
「……大丈夫ですか?」
僕の顔を、誠が上から覗き込む。
間近に見える瞳。繋がれた手。密着する身体。その温もりと、誠の匂いに包まれ──
「す、すみません……」
耐えきれずに半歩、誠から距離を取る。
高鳴る気持ちを誤魔化すように、深呼吸をしながら。
「……」
「……少し、休憩しますか?」
繋がれた手が、離れる。
それを寂しいと感じてしまった。……自分から、離れた癖に。
「……あの、渡瀬さん」
手にしていたバックをキュッと握る。
「……お腹、空きませんか……?」
「……」
「二人分のお弁当を作ってきたので……もし、宜しければ……」
振り返ってバックを持ち上げて見せれば、僅かに目を見開いた誠が直ぐに柔らかく微笑んだ。
ベンチを見つけて座る。
距離を取って座り、その隙間におかずの入ったお弁当箱を広げる。
骨付き唐揚げ。卵焼き。たこさんウインナー。ほうれん草の胡麻和えに金平牛蒡。
そして別容器に入っている、うさぎ形に切った林檎。
ラップに包んだおにぎりは、直接手渡しする。
「……これ全部、成宮さんが?」
「はい。大輝に頼まれて……」
「では、これを食べ損ねた浜田くんに、感謝ですね」
誠が穏やかな笑顔を僕にくれる。
今まで、緊張して殆ど話せなかったのに。
悠の元に戻ると決めてから、まだ緊張はするものの……今までに比べれば、気を張っていない事に気が付く。
ペンギンがいる。
ここは、動物園なのに。
「……可愛い!」
ガラスに張り付く僕の傍らに、誠が立つ。
「ねぇ誠さん。あのペンギン、何となく大輝に似てませんか?」
白線に沿って歩くペンギンの列から外れ、岩壁の前を一匹、ピョンピョンと飛び跳ねるペンギンを指差す。
「……はは。そうですね」
誠が、ガラス越しのペンギンを眺めながら目を細める。
スッと通った鼻筋。綺麗な横顔。
真っ直ぐ前に向いていた瞳が、僕へと向けられて……
──ドクンッ
視線がぶつかり、心を射抜かれ……
顔が熱く火照って、押し込めていた感情が一気に沸き上がる。
………もう、諦めた筈なのに。
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