Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月

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転生〜統治(仮題)

帰路

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50階を後にする直前、ルークは気になっていた果実を食してみた。その実は甘かったのだが、その種子を齧った時の方が驚きは大きかった。苦みのあるそれは、日本で大変お世話になったものである。そしてこれこそが、ルークの求め続けた食材であった。カカオである。それを知った瞬間、飛び上がって喜びそうになった。

そして次の瞬間、鑑定魔法を使えば良かったと思ったのだ。感じた事が無い程の、耐え難い喉の乾きが襲い掛かって来た為に。すぐさま魔法で水を出し、一心不乱に喉の乾きを潤す。何リットル摂取したかわからないが、暫く飲み続ける事で落ち着いたルークは、食べかけの実に鑑定魔法を使用する。

「やっぱりカカオ・・・うっ!水っ腹だ・・・。」
「何やってんのよ?」

呆れ果てたナディアに、バカじゃないの?という目で見られたルークは、必死に理由を説明する。

「いや、だってこれ、『乾きの呪い』とかって状態なんだよ!?」
「喉が乾くって教えて貰ったじゃない。で?一体それは何なの?」
「これ?カカオって言って、チョコレートの原料だよ。」
「ちょこ・・・何それ?」
「チョコレートって言うのは、ナディアの大好きなお菓子に無くてはならな・・・はっ!?」

ルークは得意気に説明しようとした自身の浅はかさを後悔した。後悔はしない主義だと偉そうに言った、少し前の自分を消してやりたい。だが今は、一刻も早くナディアと距離を取らなければならない。襲われてしまう・・・。

しかし、水を飲み過ぎた事による弊害が訪れる。お腹が重くて思うように動けなかったのだ。もたもたしているうちに、ナディアによって襟口を掴まれる。そして、物凄い勢いでナディアの顔が迫って来る。

「今お菓子って言った!?言ったわよね!?言ってなくても言いなさい!!」
「言ってる事が無茶苦茶!!」

暫くの間、ルークはナディアにチョコレートとはなんぞや?という事を説明させられる事となる。一通り話終えると、肉食獣の目をしたナディアから質問が飛んで来る。

「そのカカオって木は、帝国領でも育てられるのよね?」
「いや、ここの気候じゃないと無理だって。」
「むぅ・・・なら、地下にここと同じ環境を作り出せばいいんじゃない?」
「そんな事、オレに出来ると思ってるの!?」
「私は、出来るか出来ないかを聞いてるんじゃないの!いいからやりなさい!!わかった!?」
「・・・はい。(何処の暴君だよ)」

スイーツが絡んだナディアに歯向かう者など、オレの周囲にはいない。カレンでさえ、静かに距離を取るのだ。ナディアの無茶な要求に項垂れていると、ドワーフの少女ドーラが口を開いた。

「故郷の仲間達なら、地下に広大な空間を作れると思いますよ?」
「本当なの!?」
「は、はい!私達の国は地下にありますから。」

地下に国って・・・地底人なの?そもそも、どうしてそんな場所に国を作ったんだ?気になったので聞いてみると、何とも言えない答えが返って来た。

「ドワーフ族には鍛冶職人が多いのですが、街中に槌の音が響くという事で地下に工房を構えるようになって、何時しか国全体が地下へと移ったと言われています。」


皆が地下に引っ越したら意味無くね?と思ったのだが、訪れた商人達の馬が大きな音に怯えるというのも理由の一つだったらしい。それならば多少は納得がいく・・・かな?

ともかく、ナディアの強烈なプッシュにより、今後のオレの目的地はドワーフの国になりそうだった。何処にあるのか知らないが、カレンに頼めば連れて行って貰えるだろう。

地下農園の話が一区切りついた所で、オレ達は移動を開始する。道中の魔物を倒しつつ、あっさり49階へと到着したのは多分気のせいだろう。行きよりも帰りの方が早く感じる事は良くある事だ。

そして49階に来て早々、オレは皆に聞いてみた。わざと道を間違えたら『入り口』に戻るんじゃね?と思ったからだ。しかし返って来たのは、『その階に入った場所が入り口とみなされる』というものだった。そんなに都合良く物事が運ぶ程、世の中は甘くないらしい。

しかし今回だけは、入り口に飛ばされなくて良かったのかもしれない。地下農園で栽培する木の確保をしていなかったのだ。呪いならばおそらく解呪出来るはずなので、持って行く事に支障は無い。と言うか、ここの木を持って行かなければ栽培する事も出来ないのだ。

オレ達は、アイテムボックスに入れられるだけ各種果物の木を確保しながら、出来る限り移動を続けた。この時思ったのだが、カレンが脱出に1週間も要したのは、おそらく道がわからなかったからだろう。階段まであと少しという所でふりだしに戻されるのは、考えている以上にキツイのだ。


森の熊さん達のペースに合わせての移動という事もあり、最早何日経過しているのかもわからない状況の中、ルーク達はやっとの思いで10階のセーフティエリアに到着する。そこには多くの冒険者達の姿があった。さながらキャンプ場を思わせる光景が広がっていたのである。

全員が無事だった事に安堵していると、ルーク達の姿に気付いた冒険者によってフィーナと学園長が呼ばれる。こうしてついに、ルーク達は2人と合流する事が出来たのだ。

「皆無事だったのね!」
「何とかね。フィーナ達は問題無かった?」
「えぇ。全員が素直に従ってくれたから。」
「それは良かった。じゃあ、オレ達が休んだら出発って事でいいかな?」
「そうね。冒険者達も早く帰りたいだろうし、そう伝えておくわ。」

フィーナとそんなやり取りを交わし、ふと気付く。学園長が大人しいのだ。何処か悪いのかと思って学園長に視線を向けていると、フィーナが小声で説明してくれた。

「残念ながら、と言うのもおかしな話だけど、学園長ならここの冒険者達の前では立派な女性よ?まさに組織のトップって感じね。」
「どういう事?」
「あの人、本来は素晴らしい人みたいなのよ。で、ここには学園の卒業生が混じってる。あとはまぁ・・・わかるでしょ?」

フィーナの説明で、オレ達は察する事が出来た。あのロリババア、学園では猫を被っていやがったらしい。ここで正体をバラしてやってもいいのだが、不必要な恨みを買う必要はない。不本意ながら、ここは黙っていてやろう。

とりあえずオレ達は、森の熊さん達と共に休憩する場所を確保して、今後の予定を話し合う事にした。本来ならば、何も話し合う事など何も無い。しかし、ランクAパーティ『森の熊さん』としては、命を救われた恩を返したいとの事であった。しかしこちらとしては、本来の目的のついでという形で依頼を受けている。ついでだろうと、依頼には変わりない。礼は冒険者ギルドから貰うつもりなので、この場にいる冒険者達から受け取るつもりなど無いのである。

「今回はギルドの依頼だから、礼を受け取るつもりはありません。ですから貴女方も、謝礼を支払う必要は無いんですよ?」
「これでも私はエルフの王族です。その私が、礼を欠くなどあってはならない事です。ですから、何が何でも受け取って頂きます。」
「いや、別に金に困ってる訳でもないし、必要無いですよ?」
「あのぉ・・・横から口を挟んで申し訳ありません。一応私達はランクAパーティなんですけど、それ程お金に余裕がある訳でもないんですよ・・・。」

熊の獣人であるフウさんが、申し訳なさそうに教えてくれた。この世界の冒険者は、Sランクであってもレベルが高い訳ではない。これは仕方のない事だと思っている。誰でも命は惜しいのだから、命懸けでレベルを上げようと思っているのは、多分オレくらいのものだろう。

「残念ですがフウの言う通り、私個人が支払えるような金銭は多くありません。」
「なら、何をルークに渡そうと言うのかしら?」

ナディアが不機嫌そうにシャルルーナに問い掛けた。何故ナディアが不機嫌そうなのか?それは、王族が絡むと面倒事に巻き込まれると考えているからである。そして現在、ナディアは絶賛オレの味方なのだ。・・・主にチョコレートの為。結果オーライです!

「今の私に支払える物と言ったら、私自身しかありません。」
「却下ね。話にならないわ。」
「なっ!?何故即答するのですか!?」
「エルフの妻なら、既にティナとフィーナがいるもの。ただでさえ妻の数が多いと言うのに、これ以上増やす理由も見当たらないの。礼は不要だって言ってるんだから、貴女を差し出されても迷惑よ。」

ルークの説明をすると、好きな事をしていられるのであれば、恋人や妻はいなくても構わないと思っていた。事実、日本にいた頃は未婚であった。恋愛経験はあるのだが、諸事情により結婚までには至っていない。本人は押しに弱い為、この世界の女性達を受け入れてしまったのだが、流石に限度というものはある。

「一国の王妃がそのような断り方をして、エルフの国と軋轢が生じるとは思わないのですか?」
「それは・・・」
「ナディア、もう充分だよ。ありがとう。続きはオレの口からハッキリと言おう。オレと敵対したいのであれば、好きにしてくれ。売られた喧嘩は買う。そして容赦はしない。その結果、エルフ族がティナとフィーナ2人だけになるとしても、オレは一向に構わない。」

やはりシャルルーナは生まれながらの王族なのだろう。言い合っていたナディアが、国を出されて怯んでしまった。そして、国を持ち出すのであればオレの出番となる。そもそも、帝国はエルフの国と一切関わりが無い。そういった情報だけは、スフィアから叩き込まれていた。オレが売られた喧嘩をすぐに買うからという理由で・・・。

だから、軋轢が生じようと問題の無い国はそれなりにあるのだ。それでも、ナディアの姉を治療する方法に関して、他国が情報を所持している可能性はある。そうである以上、ルークは我慢しようと思っていたのだが、ナディアに対して高圧的な態度を取ったシャルルーナに、我慢する事が出来なくなっていた。

完全にアテが外れたのがシャルルーナである。国同士の話に持って行けば、優位に立てると考えていたのだ。それが、ルークの喧嘩っ早い性格によって裏目に出てしまう。恐らく、このまま話し合いを続けても碌な結果にならない事は明白であった。悔しさを滲ませながらも、この場は大人しく引き下がる事にしたのである。

「流石に私個人の意思で他国と争う事は出来ませんよ。今回は大人しく引き下がりますが、私は諦めませんからね?」

そう言い放つと、シャルルーナは立ち去ってしまった。この時のシャルルーナの表情は恍惚と呼ぶべき物であったのだが、目撃した者がいなかった為、当然ルーク達にはわからない。

何やら面倒な事になりそうな予感がするが、スフィアに任せてしまおうと思うルークなのであった。
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