Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月

文字の大きさ
110 / 258
転生〜統治(仮題)

救助完了

しおりを挟む
シャルルーナが立ち去ってから、ルーク達はテントを設営して一眠りする事にした。フィーナと学園長は冒険者たちに指示を出している為、ティナとナディアと共に眠る事となるのだが、そこはルークである。普通であれば落ち着いて眠る事など出来ないはずなのだが、横になって1秒で夢の中へと旅立ってしまう。

「こんな状況でも寝付きは早いのね・・・。街道でも眠れるんじゃないかしら?」
「ふふふ。ルークは道の真ん中でも眠ってしまいますよ?」
「えっ!?冗談のつもりだったんだけど・・・。とりあえず、私達も休まないとね。」

からかうつもりで言った言葉が事実だったと知ると、当然の事ながらナディアは呆れるしかなかった。そんなルークに気を取られている場合でもない為、ナディアとティナも眠る事にした。

体感で5時間程の睡眠をとり、ルークは目を覚ます。普段は3時間程度の睡眠で済ませてしまうのだが、ダンジョンという環境では疲労が溜まっていたのである。ティナとナディアは眠ったままだったので、起こさないように静かにテントから出ると、冒険者達は出発の準備が整いつつあった。

ギリギリまでティナとナディアを寝かせていたが、全員の準備が終わった段階で2人を起こし、テントを収納して出発する事にする。

総勢30名を超える集団での移動という事もあって、当然移動速度は遅い。新人冒険者も多い為、それは尚更の事であった。そして当然魔物にも気付かれる訳で、帰りは異常な数の魔物に襲われていた。

先頭には当然ルークが立つ。もう魔力と体力を節約する必要も無い為、随分と派手な攻撃を繰り出していた。ルークも虫の体液を浴びるのは避けたかったので、そのほとんどを魔法で対処していくと誰もが思っていた。しかしルークは、積極的に接近戦を行っているのである。

誰よりもルークを良く知るティナは、そんなルークの行動に疑問を抱いていた。そして魔物の襲撃が一段落した段階で、本人に説明を求めたのである。

「ルーク?魔法ではなく刀、それも美桜をずっと使っていませんけど・・・どうかしたのですか?」
「美桜?あぁ・・・美桜は使わないんじゃなくて、使えないんだ。」

ティナの質問に、ルークは苦笑しながら美桜を取り出して鞘から抜いて見せる。その刀身には、無数のヒビが入っていた。当然、ティナの驚きは計り知れないものとなる。自身の刀よりも切れ味は劣るものの、強度に関しては同等以上だったはずなのだ。

「そんな・・・どうして・・・」
「クリスタルドラゴンの尻尾を斬ろうとしたんだけど、一撃でこのザマだよ。鍛冶の技術も、剣術も・・・どっちも未熟だったって事だろうね。だから今は、出来る限り刀を振ろうと思ってるだけだよ。」

ルークの言葉に、ナディアは当時の状況を思い出す。そして、美桜が壊れてしまったのは自分のせいだと、自身を責めるのだが、当然ルークはお見通しであった。

「別にナディアのせいじゃないからね?状況が違ってても、闘う以上結果は変わらないよ。」
「そうかもしれないけど・・・。」
「武器は壊れても作り直せるけど、ナディアは作り直せないからね。無事で良かったと思ってるよ?それにあの時の一撃は、オレの人生の中でも最高のものだった。そうでなければ、美桜もナディアも・・・当然オレも此処にはいなかったよ。」

この時、ルークはナディアを気遣った訳では無い。本心を言っただけであった。完全に不意を突かれたものの、ナディアを護る為に実力を出し切っていたのである。ほんの僅かでも威力が足りなければ、美桜は砕け、ルークはナディア諸共吹き飛ばされていただろう。

これらの出来事がナディアに新たな決意をさせるのだが、ルーク達がそれを知るのは少し先の事である。

余談であるが、この世界にはオリハルコンやミスリル以外にも、希少かつ優れた金属は存在する。アダマンタイトやヒヒイロカネと呼ばれているのだが、何故かルークはそれらを使おうとは思っていない。本人曰く『何となく』なのだが、その理由もいずれ明らかとなるのである。

ともあれ、ルーク達はその後も順調に歩を進め、約2日を掛けてダンジョンの入り口へと到着するのであった。救出した冒険者達がダンジョンから脱出したのを見届け、残すはルーク達のみとなったのだが、突然ルークがフィーナに声を掛ける。

「あ、悪いんだけど、少しここで待ってて貰える?」
「いいけど・・・どうかしたの?」
「転移を封じられた今の状態で、外から転移魔法を使ったらどうなるのか確認しておきたくて。」
「あぁ、それは大事ね。例え一方通行でも、この状況で入って来られるなら大分違うものね。」

フィーナの了承を得て、フィーナ以外の全員がダンジョンの外に出る。暫くすると、ルークが走って来た為、フィーナは結果を聞いてみた。

「走って来たという事は、転移出来なかったのね?」
「うん。そんな事より外に飛竜がいるんだけど・・・ギルド本部の人間が来てるんじゃない?」
「飛竜って・・・シシル!?まさか・・・。」

心当たりでもあったのか、フィーナは足早にダンジョンの外へと向かう。そしてそこには、いつの間にか2人の男が立っていた。そのうちの1人が、フィーナの姿に気付き声を掛けてくる。あいつは何時ぞやの・・・。

「フィーナ様!!」
「えっと・・・誰だっけ?」
「そんな!?貴女の部下のリックですよ!忘れたのですか!?」
「え?そんな人もいたような・・・いたかしら?」

フィーナは、興味が無い事はすぐに忘れてしまうという、大変素晴らしい性格の持ち主だった。リックが呆然としていると、もう1人の男がフィーナに近寄って来る。

「フィーナさん、一応コイツは貴女の部下なんですけどね?」
「そうだったかしら?仮にそうだったとしても、私はもうギルドを辞めたの。もう部下じゃないわ。そんな事より、どうしてデニスがここにいるのかしら?ねぇ、副本部長?」
「貴女を探してたからに決まってるでしょう?まぁ、ここのギルドから救援要請が届いたので、詳細を確認していたら偶然貴女らしき名前を見つけたので、急いで駆けつけたんですけどね。」

このおっさん、冒険者ギルド本部の副本部長だったのか・・・。まぁ、フィーナに用事みたいだし、オレはさっさと退散しようかな。と思ったのだが、フィーナに捕まったので仕方なく留まる事にする。

「それで?ギルドを辞めた私に、何か用でもあるのかしら?」
「あのですねぇ・・・辞めます、はいそうですか、って訳にもいかないのは貴女もわかってますよね?」
「そんな事言われても、ギルドに戻るつもりは無いわよ?」
「貴女の意志がどうであれ、一度説明に来て頂かないと困るんですよ。」

今回、デニスっておっさんの言い分の方が筋は通っている気がする。会社で言えば、突然社長が「オレ、会社辞めるわ」って言うようなものだ。社員が納得出来る訳がない。そんな事をオレが考えたのが、フィーナにはわかってしまったらしい。

「ルーク・・・貴方はどっちの味方なの?」
「そ、そんなの当然、フィーナに決まってるじゃないか!何を言っているんだい?」
「ふ~ん、そうなの~?後でゆっくり話し合いましょうね?」
「すみません、ワタクシ嘘をつきました。ぐぇ!!」
「嫁の味方をしなさいよ!くぅぅぅ!!」

話し合い回避の為、正直に告白したら首を締められました。理不尽です。いや、オレが悪い。・・・悪いのか?いや、悪くないだろ!?・・・やっぱりオレが悪いですね。

「仲が良いのはわかりましたが、説明に来て頂けるんですよね?」
「そんなの当然、行かないに決まってるでしょ。」
「いや、ですから・・・」
「あ~、フィーナはフォレスタニア帝国の王妃だから、国に話を通して貰えます?」
「・・・でしたら陛下が許可して頂ければ済みますよね?」
「うちの国、オレが勝手に判断する訳にもいかない事情があるんですよねぇ・・・。オレが長期間不在でも行政が回ってるんだから、大体わかりますよね?」
「えぇ・・・それは良くわかります。」
「ふざけるな!貴様がフィーナ様を縛り付けてるんだろ!?」

話が纏まりそうだったのに、我に返ったリックが言い掛かりをつけてきた。って言うか、またしても喧嘩を売ってきた。国王に対して、あの口の利き方はマズイだろ。根拠の無い言い掛かりには、流石にイラっと来る。

「何だ、やっぱり喧嘩を売ってるんだよな?前回はフィーナに返されたけど、今回はきっちりと受け取って貰うぞ?」

オレは売られた喧嘩を買うという意味を込め、副本部長に自身のギルドカードを渡す。これでオレもギルドとは無関係である。やっとムカつく職員を懲らしめる事が出来る。

「やっぱり?どういう意味ですか?」
「あぁ、それはねぇ・・・」

副本部長は事情を把握していなかったようで、フィーナが細かく説明してくれた。それを聞いた副本部長の表情が、徐々に険しいものとなる。

「リック、君の処分は本部に戻ってから言い渡します。大変厳しいものとなる事、覚悟しておきなさい。」
「な、何故です!?私はギルドの為を想って!」
「フォレスタニア皇帝陛下に対して不敬をはたらく事の、何処がギルドの為になると思っているのです?良くて鉱山奴隷。まぁ、陛下から訴えが上がった時点で、死罪はほぼ確実でしょうね。」
「そ、そんな・・・私はこんな所で死ぬ訳には行かないんだ!!」

あ、逃げた・・・。厄介事の予感しかしません。誰か後を追い掛けて、サクッと殺っちゃってくれませんか?・・・ですよねぇ、誰も行かないと思ったよ。皆の中でも、取るに足らない相手という認識なのだろう。まるで何も無かったかのように、副本部長が話を進める。

「うちの職員が失礼しました。指名手配しておきますので、後の事はこちらにお任せ下さい。それと、フィーナさんの件は帝国に連絡しておきますので、また後日という事で・・・。」

そう言うと副本部長は、今回の救援依頼に関する事後処理へと向かってしまった。今回のダンジョンは、色々と起こり過ぎたので、じっくり一つずつ解決するとしよう。


こうしてルーク達は、城へと帰る事が出来たのである。だが帰る直前、地面に光る物が落ちている事に気付き、拾って確認する。

「ん?地面にカードが・・・ってオレのギルドカードじゃん!あのおっさん、受け取ったフリして置いて行きやがったな!?」
「流石はデニス、やるわね・・・。」
「ちっくしょぉぉぉ!!」
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

異世界転生 剣と魔術の世界

小沢アキラ
ファンタジー
 普通の高校生《水樹和也》は、登山の最中に起きた不慮の事故に巻き込まれてしまい、崖から転落してしまった。  目を覚ますと、そこは自分がいた世界とは全く異なる世界だった。  人間と獣人族が暮らす世界《人界》へ降り立ってしまった和也は、元の世界に帰るために、人界の創造主とされる《創世神》が眠る中都へ旅立つ決意をする。  全三部構成の長編異世界転生物語。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

スキル覚醒の覇王ー最弱から成り上がる異世界チート伝

あか
ファンタジー
主人公: 名:天城蓮(あまぎ れん) 高校生。異世界に転生。 与えられたスキルは「模倣(コピー)」だが、初期は“未熟”で使い物にならない。 しかし実は、一定条件で“覚醒進化”し、あらゆるスキルを「上位変換」できる唯一無二の能力へと進化する。 ヒロイン: エリス・ヴァンデル — 王国の天才魔導士。蓮に興味を持ち、共に旅をする。 やがて、蓮の覚醒の鍵となる存在。 世界観: 五大神に支配された世界「アルカディア」。 スキルによって人生が決まり、弱者は徹底的に排除される。 蓮はその理不尽なシステムを破壊する“異端者”として成り上がる。 80話で完結になっています。 ご感想などあればよろしくお願いします。

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

異世界へ転生した俺が最強のコピペ野郎になる件

おおりく
ファンタジー
高校生の桜木 悠人は、不慮の事故で命を落とすが、神のミスにより異世界『テラ・ルクス』で第二の生を得る。彼に与えられたスキルは、他者の能力を模倣する『コピーキャット』。 最初は最弱だった悠人だが、光・闇・炎・氷の属性と、防御・知識・物理の能力を次々とコピーし、誰も成し得なかった多重複合スキルを使いこなす究極のチートへと進化する! しかし、その異常な強さは、悠人を巡る三人の美少女たちの激しい争奪戦を引き起こすことになる。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

処理中です...