Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月

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動乱の幕開け

ロックオン

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ルークは頭を抱えながら、必死に対応を模索していた。商業ギルドの仲介で家を手に入れるという選択肢を選んだ以上、買おうが借りようが関わりを断つ事は出来ない。そうであれば、必要最低限の関わりに留める必要がある。

王都の外れにある家を手に入れるか、或いは金に物を言わせて貴族街の屋敷を手に入れるか。最早、事前の打ち合わせや正体を隠す事など頭に無い。自らの行動が引き起こした問題とは言い切れない以上、冷静な判断など不可能であった。幾ら考えても名案など浮かばない。必死になればなる程、ドツボにハマるのだ。

ここでルークの中で何かがプツリと切れた。答えの出ない問いに、思考を放棄したのである。

『そもそも最初の選択が最良だったんだから、そのままで良くね?もう考えるのも面倒だし。』

そう。別に修羅場でも何でもない。普段であれば、あれこれ考えて墓穴を掘る。しかし今回は思考を放棄した事で修羅場を回避する事となる。いちいち嫁の誰かに相談しようものならば、これから手を出す予定ですと言うようなものだ。

結果、超お買い得物件を選択をしたのである。・・・通常であれば。降って湧いた不確定要素、商業ギルド長の娘によりルークの心は蝕まれて行く事となるのだが、それはまた後ほど。


「じゃあこの家に決めます。」

そう告げながら、テーブルの上に金貨50枚を並べる。下見もせずに決断した事で、一瞬動揺したギルド長であったが、表情に出す事無く応対する。流石は商売のプロと言った所だろうか。

「ありがとうございます。・・・・・確かに金貨50枚頂きました。それでは職員に案内させますので、少しの間お待ち頂けますか?」
「わかりました。」

アンタの娘に案内させるんじゃないの?と思ったルークだったが、続く親子の会話で予想が外れた事を知る。

「ギルド長、私がご案内致しますが?」
「レイチェルは今回ご遠慮しなさい。」
「・・・わかりました。でしたら手続きの方は私が。申し訳ありませんが、ギルドカードをお貸し頂けますか?」

随分大人しく従ったものだと安心しきったルークはギルド長の娘、レイチェルと呼ばれた女性に商業ギルドカードを手渡す。2人が奥に消え、待つ事数分。1人の高齢男性がやって来た。

「お待たせしました。それでは私がご案内させて頂きます。ギルドカードはお返ししますね。」
「ありがとうございます。では、よろしくお願いします。」



商業ギルド職員に連れられ、ギルドを後にするルークの姿を見つめながらレイチェルが呟く。

「アストル君・・・素敵。まだ成人して間もないはずなのに、あの落ち着きよう。長身にガッシリした体、そして見た事も無い程の美形。加えて珍しい黒髪黒目・・・美味しそう。さっさと仕事を終わらせて、ハァ、ハァ・・・。」

恍惚を浮かべたレイチェルの言葉を耳にした者がいれば、間違いなく身震いした事だろう。10人中10人とまではいかないが、5~6人は美人だと言うであろうレイチェル。しかしその瞳は肉食獣の輝きを放っていたのだ。

そんなレイチェルの様子を物陰から見守っていたギルド長が呟く。

「はぁ・・・。次の犠牲者は成人したての15歳か。これ以上若い芽を摘まれる訳にはいかない。早めに何らかの手を打つ必要があるか。しかし、レイチェルにも困ったものだ・・・。」

ギルド長が呟いた内容は関係者は勿論の事、周辺住民の間では周知の事実であった。レイチェルは有名人なのだ。悪い意味で。

レイチェルという人物を一言で説明すると、熱しやすく冷めやすい。惚れやすいその性格は、非常に重いものであった。過去、レイチェルに言い寄られ陥落した男性の数は20を越える。その全ての者達が心を病んで再起不能となっているのだが、特に問題となってはいない。

いや、問題となる前にギルド長が示談に持ち込んでいた。握り潰すという行為に走らなかった事には好感が持てるかもしれないが、これにも当然理由がある。


本来、ギルド長という役職はかなりの権力を持つ。それこそ下手な貴族であれば、簡単に消す事が出来る程に。しかし、ライム魔導大国にある商業ギルドの長である彼、ロックスは違った。元々商売人である彼は、対人関係に聡い。例え一般市民であろうと、敵に回す恐ろしさを熟知しているのだ。

レイチェルによって心を病んだ者達に対する充分な補償を行う事で、問題が大きくなる事を避けて来た。彼の収入であれば、家計が傾く程の出費ではない。しかしそれも今の所、という話である。このままのペースで被害者が増え続ければ、如何なギルド長と言えどその限りでは無い。

何より決定的な理由。それは、レイチェルの行いが罪に問われないという事にあった。簡単に言ってしまえば、レイチェルがしているのは単に『惚れた男性に付き纏う行為』である。フォレスタニアにある全ての国において、そんな事を罰する法など存在しない。

罪となるのは大抵の場合、男の側が女性に対して無理矢理詰め寄ってどうこうという話になる。その場合、衛兵等が領主や国の判断を仰いで裁きを下すというのが一般的である。その為、女性が加害者となる事を想定していないのだ。

貴族の令嬢が平民男性を玩具にするという事例も存在するのだが、こちらは表沙汰になる事が無い。そもそも訴え出る男がいないのだ。大抵の場合、高嶺の花とも呼べる令嬢に弄ばれるという行為は、男という生き物にとっては幸せな一時なのである。困った事に。


長々と説明したが、要はレイチェルがストーカーだという話である。狙う相手が冒険者であれば、相手が逃げるだけで済んだのかもしれない。しかし困った事に、レイチェルは冒険者を狙わない。正確には狙えないのだ。危険な街の外で、惚れた相手をコソコソ付け回すような実力など無い。そんな事をしていれば、背後からガブリである。

余談ではあるが、レイチェルは未だ男性経験ゼロである。そこまで辿り着ける精神力の持ち主が現れなかった為、とだけ付け加えておく。


そんな訳で、大抵のターゲットがその辺の男である。ギルドの受付嬢というのは花形であり、言い寄られて嫌と言う男は少ない。しかもレイチェルはギルド長の1人娘なのだ。上手く行けば逆玉の輿というヤツである。そんな要因が重なる事で、欲望丸出しの馬鹿な生き物が毒牙にかかるのだった。


背筋に寒さを感じたルークが震えると、案内していた職員が声を掛ける。

「大丈夫ですかな?」
「えぇ、大丈夫です。ちょっと寒気がしただけですから。温かい服を用意した方が良さそうですね。」
「帝国程暖かくはありませんからね。(レイチェルに狙われたら寒くもなるじゃろ)」


そんな職員の哀れみを込めた視線に首を傾げていると、どうやら件の物件に到着したようである。

「着きました。こちらが鍵と契約書なります。本来であれば中をご案内してから契約となるのですが、お客様は既に契約済みです。案内はここまでとさせて頂いた方がよろしいですかな?」
「そうですね。中を見て回るのは1人でも出来ますし。」
「それでは、何か問題がありましたら何なりとおっしゃって下さい。」

鍵を受け取り、ギルド職員に礼を告げてから家の中へと入る。1階は元々魔道具店だったという事もあり、幾つもの棚が並べられている。防犯を考えての造りなのか、窓は1つも無い。あまりの暗さに、ルークは魔法で光の玉を浮かべた。

「う~ん、すぐに食堂を開けるような造りじゃないよな。まぁ、細かい事は後にして2階を見ておくか。」

細かい部分を挙げたらキリが無いと考えたルークは、さっさと奥にある階段を登る。2階もこれといった特徴は無く、普通の建物であった。そして間取りの確認も束の間、ルークは窓からの眺めに意識を向ける。

「三方が見渡せるってのはポイント高いな。まぁ、家の裏が見えないのは仕方無いか。」

両隣は民家なのだが平屋である。その為、2階からはある程度の建物が見渡せるのだ。当然、この家よりも大きな建物が無数にある為、王都を一望する所までは望めない。そして家の裏には武器屋があるらしく、そちら側には窓が無い。区画整理でもした方が良いと思うのだが、他国に期待するだけ無駄だと思ったルークは思考を切り替える。

「今日の所は建物の大きさを測って帰るかな。防犯は・・・何も無いからまだいいか。」

建築資材や道具、家具といった諸々の準備が出来ていない状態だった事もあり、部屋の間取りを紙に記入してから城へと転移する。この時のルークの行動も誤算の1つであった。

転移は窓の無い1階にて行われた。その為、目撃者の心配は無い。しかし、その目撃者がいない事が問題だったのである。仕事を終え、夕暮れ間近となった時刻にルークの下を訪ねて来た者がいたのだ。


ーーコンコン。・・・・・コンコン。・・・・・ドンドンドン!ドンドンドン!!

「アストルさ~ん!いらっしゃいませんか~?・・・出掛けているみたいですね。買い出しと食事でしょうか?・・・少し待つとしましょう。そうしましょう!」

そう呟いたのはレイチェルである。日が暮れるまでには帰って来るだろうと考えたレイチェルは、ルークの家の前、ではなく自宅へと戻って行った。しかしこれは諦めた訳ではない。なんとレイチェルの家は斜め向かいだったのだ。しかもバッチリとルークの家が見える、通りに面した部屋である。

家族も驚く程のスピードで夕食を済ませ、そのまま自室の窓際に座る。視線の先は当然ルークの家である。まさに張り込みを行う刑事の如く。そしてそれは、周囲の家から灯りが消えるまで続けられた。

「こんな時間まで帰って来ないなんて、トラブルにでも巻き込まれたのでしょうか?・・・っ!?まさか娼館に!?ぐぬぬ・・・。」


レイチェルとしてはルークが帰って来るまで張り込むつもりであったのだが、所詮は素人。この日、明け方前には力尽きてしまった事でルークは事なきを得る。

しかし、この日の出来事によってレイチェルに火がついたのは間違いの無い事実であった。
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