Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月

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動乱の幕開け

拠点探し

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ライム魔導大国の王都へと続く門の前には、審査待ちの人々が長い列がを成していた。当然ルークもその列を作る1人である。貴族用の門を使用すれば、あっという間に王都内へと入る事が出来る。しかし今回もお忍びである以上、そちらを使用する訳にもいかない。前世の記憶を有するルークにとって、大人しく並ぶという行為は一切苦痛を伴うものではなかった。

しかし、日々争いに身を置く者達にとってはその限りではない。当然ここでも揉め事は起きる。降り掛かる火の粉は全力で払うルークであったが、周囲の火事を見物する野次馬根性など持ち合わせてはいなかった。そればかりか、我関せずを貫く周囲の者達との会話に夢中である。

「いや~、それにしても若いのに1人旅とは、中々肝が座ってるねぇ。ところで兄ちゃんは何処から来たんだい?」
「帝国からですよ。一流の料理人を目指しているんですが、腕には少々覚えがありまして。この国には、料理に使える魔道具や魔法の勉強をと思いまして。」
「そいつはすげぇや。」
「有名な鍛冶職人や珍しい調味料をご存知ありませんか?」

幸か不幸か、ルークの周囲に並んでいたのは商人の集団である。これはチャンスとばかりに、あながち嘘とも言い切れない理由を並べて情報収集に励んでいた。


ちなみに全くの余談であるが、再招集を提案した世界政府の総会をルークとカレンは欠席している。出席したのはスフィアとティナ、そしてフィーナの3名である。これは面倒だった、というどうしようもない理由からではない。あっさりと国を滅ぼしてしまうような者達が出席しては、萎縮して会議にならないだろうというスフィアの配慮によるものである。

事実、不参加を伝えられた出席者達の安堵の表情を、スフィア達は苦笑混じりに一瞥していた。そしてこの会議では、ルークとカレンに関連する話し合いが行われる事となった。鬼のいぬ間に、という事である。

ルークとカレンが危険視されないようにと、グリーディアと結託して2人の正当性を主張。さらには帝国側がカイル王国と冒険者ギルドの要求全面的に飲む事で、議会を取り纏める事に成功している。奔放なルークの性格上、拒絶すると思っていた各国の思惑は外れ、議会は紛糾する事も無く閉会となった。

スフィアの帰国後、決議に対して不満タラタラのルークであったが、好き勝手暴れたのだから我慢しなさいと言われて渋々了承したのである。つまり、世界唯一のSSSランク冒険者誕生である。

これを面白くないと捉えたのが、5帝とそれを有するライム魔導大国の面々であった。自身と同等かそれ以上の力を保有する者が現れたのだから、その心中は穏やかではない。今後、何らかの動きがあるだろうというのは誰の目にも明らかであった。



話を戻すが、そうこうしている間にルークの番となり、無事に王都内へと歩を進めていた。Fランク商人アストルとして。アストルという冒険者の正体について、冒険者ギルドの上層部は把握しつつあった。ルークのみならずアストルとしても様々なトラブルを起こして来た以上、ギルド職員から報告が上がらないはずもない。

そうなると、冒険者として再度別人になるというのは非常にリスクがあった。そこで狙いをつけたのが商業ギルドである。こちらは商売のみとなるが、食材や素材の取引も行っている。料理人を名乗る以上、その食材を購入するのは商業ギルドなのだから、今回はうってつけであった。

他にも魔導ギルドというものも存在している。魔法を専門にする者や、魔道具に携わる者が所属している。今回訪れる国がライム魔導大国でなければ、こちらを選択するという事でも構わなかっただろう。しかし、今回ばかりはリスクが高い。正体を隠すにしても、手の内を明かすというのは避けるべきである。


そんな理由から商人となったルークは、商業ギルドを目指していた。まずは行動の、主に転移魔法を使用する為の拠点確保である。その道すがら、苦笑混じりに独り呟く。

「やれやれ、やっと物語のテンプレっぽい展開か。いや、冒険者ギルドじゃないからテンプレとは言えないな。」

さらに言えば、新人いびりを楽しみにしている冒険者達に絡まれるまでがテンプレだと思ったのだが、それはフラグだろうと思い言葉にはしない。まぁ、商人達の集う場所でそのような展開になる事は無いのだが。

帝国とは全く異なる街並みをじっくりと観察しながら歩く事30分、商人達に教わった場所に辿り着いたルークは建物を見上げる。

「冒険者ギルドよりも遥かに大きいんだな。まぁ、中に取引出来る部屋が幾つもあるって話だったし、当然って所か。」

時刻は昼過ぎ。混雑する朝夕の時間帯を避けたつもりのルークが扉を開けると、予想外の光景が広がっていた。比較的空いてるとは言え、冒険者と違い多くの商人は街の中で活動する。その為、多くの商人達でごった返していたのだ。

また並ぶ事を覚悟したのだが、周囲を見回すと受付はガラ空きであった。これは、商人達が受付を利用するのは何か用がある時のみだからだ。交渉は商人同士、或いは客との間で行われる。大抵の場合、ギルドが介入する必要は無いのである。

ルークが空いている受付に向かうと、奥から中年の男性と若い女性がやって来た。

「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょう?」
「あまり大きくない家を借りるか買うかしたいんですが。」
「・・・失礼ですが、ご予算の程は?」

笑顔で対応してくれた男性の表情が一変する。ふらりと現れた若造が突然家を買うなんて言い出したら怪しむのも当然だろう。だが、そんな事には構わず懐事情を明かす。当然、現物をチラリと見せながら。

「購入するなら金貨50枚程、借りるなら物件を見てからですかね。」
「・・・失礼致しました。すぐに調べて参りますので、そのままお待ち下さい。」

やはり金の力は偉大である。ただ、王都で土地付き一戸建てに金貨50枚は決して多くない。むしろ少ないと言える。地球の価値感とは根本的に異なるのだ。貴族等の裕福な人間が多く、警備兵が見回る事から何処よりも安全な場所となる。

木材等の材料を仕入れるのは魔物が闊歩する森という背景もあってか、家は非常に高価なのだ。オレの場合、住むのは王都の外でも問題は無い。しかし、留守中に家を魔物や盗賊に荒らされる事は避けたい。

成人したての若造が即金で金貨50枚を出すというのも目立つ。しかし、安くてボロい家や治安の悪い地域に住んでトラブルに巻き込まれた方が問題だとの結論に至った。そう結論付けたのはスフィアだが。

そんな事を思い返していると、商業ギルドの職員達が戻って来た。手には幾つかの書類。それを並べながら席につく。

「予算内ですと、こちらの物件になります。あまり詮索するべきではないのでしょうが、良くそれだけのお金をお持ちでしたね?」
「親が残してくれたものなんですよ。これを元手に、夢だった料理人を目指そうかと思いまして。」
「そうでしたか。これは申し訳ありませんでした。」

親が残してくれたという嘘に、どうやら遺産だと思ってくれたらしい。自分で稼ぎましたなんて言えないからね。許して貰おうじゃないか。

心の中で謝りながら、並べられた物件に目を通す。その中に貴族街と呼ばれる地域の物件は無い。これは、例え小さくとも貴族街の家ともなれば桁が上がる為だろう。ある種、成功者や権力者のステータスという一面を持つのだから、価値が吊り上がるというものだ。

オレの場合、そんな見栄は必要無い。スラムのような治安の悪い地域でも問題無いだろう。しかし、あまりにも酷い家に住むとなれば誰かしら心配する。そうなれば、誰かがオレと行動を共にすると言い兼ねない。自重せずに好き勝手出来たらどれだけ楽なのだろう。

さっきから話が逸れているので話を戻そう。並べられた物件は全て一般人の住む地域の物。王都の中心に近い物から、かなり距離のある物まで。どれがいいのか正直悩む。そこでオレは、プロにアドバイスを求める事にした。

「この中で特にオススメなのはどれです?」
「そうですねぇ・・・この中でしたら、こちらの物件でしょうか。」

中年男性が並べられた書類の中から、1つの物件をオレの前に置く。目を通してみると、家と土地の大きさは小さめだ。これの何がオススメなのだろうか?そんな考えが伝わったのか、職員が説明する。

「この物件は、元々1階が魔道具店だったのですよ。身寄りの無いお婆さんが営業していたのですが、数年前に亡くなりましてねぇ。料理人を目指していらっしゃるとの事ですから、改装して料理店にするのはどうかと思いまして。」
「あぁ、なるほど。」

やべぇ!そこまで深く考えて無かった!!そうだよな、普通は住居兼店舗にするものか。帰って転移する事しか考えてなかったわぁ。

「オマケに研究所等の施設に囲まれておりまして・・・料理店としてなら立地は文句無しなんですよ!」
「・・・どうしてオレに?」

オレの疑問は当然だろう。成人したての小僧に勧めるような物件とは思えない。もっと有名な料理人・・・あぁ、そうか。聞いてから理解したよ。

「普通の料理人には手が出にくい物件なんですよ。有名な料理人であれば、もっと大きな土地に店を構えます。あまり繁盛していないような料理人には厳しい値段です。」
「売れ残っている理由は?」
「正直、店舗としては些か小さいのです。最近は魔道具や武器防具の種類も増えましたから・・・。」
「料理店としても小さいのでは?」
「いえ、充分だと思いますよ。ただ、研究者達は裕福ですから・・・舌が肥えているんです。」

ちょっと!ハードル上げないでくれる!?文句を言おうと思っていたら、今まで黙っていた女性が口を開いた。頬を染めながら。

「こちらの物件、本来であれば金貨100枚なのでお買い得ですよ?場所もここから近いですし。私の家からも・・・」
「・・・は?」
「いやぁ、実はコイツは私の娘でして。お客さんに一目惚れしたそうなんですよ。ですから、私の権限で半額にしました。あ、ワタクシ商業ギルド長なんですよ~。あはははは~。」
「はぁ!?」


やめて!嫁さん達に知られたら何を言われるかわかったもんじゃないわ!!それにギルド長!?親バカが権力でゴリ押しって事!?タチが悪いわ!!



頭を抱えながら、どう切り抜けようか必死に考えるルークなのであった。
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