Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月

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動乱の幕開け

教育に次ぐ教育

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シノンの精神攻撃によって現実に戻ったルークは、2人に仕事の説明をする。

「2人に手伝って貰うのは、完成したお菓子を棚や机に並べる事。以上!」
「・・・・・それだけなの?」

カノンはお手伝いが出来るからなのか、無言でニコニコしている。一方のシノンは不満を口にした。それだけの事、誰だって出来ると思っているらしいがそれは甘い。

「それだけだ。とは言っても、今の2人には凄く難しいはずだ。そうだな・・・シノンはこのカゴをクッキーの棚に置いてごらん?カノンはこっちをシフォンケーキの棚に。」
「はいなの!」
「・・・わかったの。」

カノンは元気良く、シノンは渋々といった感じで、オレが手渡したカゴを持って店の方へと歩いて行く。オレは結末が予測出来る為、少し時間を置いてから後を追うつもりだ。

数分後、店の方に言ってみると困惑した様子で立ち尽くす2人の姿があった。それもそのはず、今店内には商品が無い。あるのは商品名と値段の書かれた札だけ。文字の読めない2人では、何処が目的の棚なのかわからないのだ。理由はまだある。

「な?難しいだろ?」
「字が読めないから、わからないの。」
「シフォンケーキ無いの・・・。あっても見た事無いの・・・。」

そう。シノンが言うように、2人は文字が読めない。クッキーならば、見た目で判断出来ると思ったらしいが、現物が無ければシノンには判断出来ない。そしてカノンは深く考えずに返事をしたようだが、この世界にシフォンケーキなど存在していない。あるのはフォレスタニア城内だけである。

「つまり、2人はこの店のお菓子と文字を覚える必要がある。それはこれから勉強しよう。」
「「はいなの!!」」
「そして暫くの間はお客さんなんて来ないだろうから、並べるのは何時でも練習出来る。」
「「お客さん来ないの!?」」
「来ないだろうな。この店の事を知ってる人がいないんだから。」

2人が驚くのも無理は無い。だが間違い無く来ない。この店の存在を知る者は数人。一月程度は閑古鳥が鳴いても構わないと思っていたのだから。だが最初の考えを貫き通して良かったと言える。オープンから繁盛していたら、2人の教育まで手が回らなかったはずだ。

「そしていずれ忙しくなったら、オレはお菓子を作らなければならない。そうなれば、会計はシノンに任せる事になる。」
「っ!?」

オレの言葉の意味を理解したのか、シノンの顔が強張る。ちょっと脅してはみたが、売り切れ次第閉店の予定だったから後ろで見ていればいいだろう。この子達に仕事を与える為である。

「と言う訳で、まずはお菓子の名前を覚えようか。そして読み書きと計算。本当なら夜明け前に作るつもりだったけど、今から作るから覚えるように。」
「「はいなの!!」」

なんていい子達なんだろう。ちなみに糞ガキだったら叩く自信がある。地球じゃ体罰は良くないなんて騒がれていたが、オレは必要だと思っている。勿論虐待はダメだ。だが、多少痛い思いをした方が記憶に残るし、どの程度までなら怪我をしないのかといった想像力がつく。とオレは思っている。

一応店は開けているが予定通り客は来ないので、オレはテキパキとお菓子を作って行く。出来上がった物から順番に説明し、実際に並べて見せる。2人は真剣な表情なので、覚えるのに必死なのだろう。まぁ、そんなに難しいものでもない

その後昼食を挟んで1時間程で終了し、2人はそのままお昼寝タイム。カノンは仕方ないとして、シノンは慣れない事をして疲れたらしい。2人をベッドに寝かせ、店を閉めて日持ちしない商品を孤児院へ。それから2人の家具や日用品を買って帰宅し、空いていた部屋に設置。

自作しても良いのだが、こだわり過ぎて高級品と化す事を恐れて自重した。今の所、2人には庶民らしい暮らしをさせるつもりなのだ。

その際の音が聞こえたのか、2人が起きて来た。

「お兄ちゃん?」
「何してるの?」
「あぁ、丁度良かった。今日からここがシノンとカノンの部屋だから。好きに使うといい。」

別に同じ部屋で生活してもいいのだが、2人が誰かに勘違いされると可哀想だ。オレが幼女趣味だと思われる分には構わないのだが、2人がいわれのない非難を受ける事は避けようと思う。オレはいいのかって?他人の評価は気にならないし、鬱陶しい場合は消してやるろう。文字通り物理的に。

物騒な事を考えていると、2人は大騒ぎしていたようだ。

「自分達のお部屋なの!?」
「机なの!ベッドもあるの!!」
「おしょろなの!カノンこっちがいいの!!」

おしょろ?・・・あぁ、お揃いの事か。まだカノンが小さい事を考えて、同じ家具を並べてある。誰がどっちを使うのかは2人に任せよう。喧嘩になったら止めればいいし。

「もう1部屋あるから、部屋を分けても構わない。2人に任せるから、ちゃんと話し合って決めるといい。」
「「はいなの!」」

元気良く返事をしたと思ったら、2人はすぐにどちらを使うか相談し始めた。ここまで仲の良い姉妹は珍しいんじゃないだろうか?そうでなければ、命懸けで王都内を歩き回ったりしないか・・・。


この時ルークは盛大な勘違いをしていた。普通、田舎の子供が自分達の部屋を持つ事は無い。ベッドは藁にシーツを掛けた物だし、木箱が机代わりである。王都に暮らす者達は、それなりに裕福な者達なのだ。それでも子供達は1部屋を共用するし、ルークが用意したような家具は買えない。貴族が使う派手な装飾こそ無いものの、充分に高級な部類に入る。

それもそのはず。エリド村の自室を思い出して用意したのだが、前提が間違っている。ルークの育ての親は、世界に名の知られた冒険者だ。姉代わりのティナもそうである。つまり、その収入は下手な貴族を上回り、有する財産はかなりの物である。ルークが使っていたのは実用的かつ丈夫な品々だったのだ。安い訳が無い。


オマケに喧嘩にならなかったのは、ルークに捨てられないようにと2人が気を遣った結果である。幼子ですら生きる事に必死である。能天気なのはルークだけであった。

さらに拍車をかけたのがその間取りである。本来、物置だった部屋を子供部屋に改造してしまっていた。荷物を何処に仕舞うのかと思うだろうが、その解決方法はアイテムボックスである。アイテムボックスによる排水処理を前提とした風呂と言い、庶民は愚か貴族も真っ青の生活様式であった。

いろいろと自重したつもりが色々とぶっ飛んだ家と化しているのだが、シノンとカノンにはわからない。比較する庶民の知り合いがいないのだから。まぁ、比較する事無く成長するのだが、それはまだ先の話。


こうして賑やかな3人暮らしはあっという間なもので、気付けばライム魔導大国の商人達との約束の日。ルークは1人、元々の拠点へと足を運んでいた。

「お待たせしました。随分と早いですね。」
「えぇ、お客様をお待たせする訳には参りませんから。」

ルークが声を掛けると、商人達の代表者と思しき者が言葉を返す。会話から情報を引き出す事も考えたのだが、長居するのは危険だと思い話を進める。因みにだが、大きく変化した外観に触れなかったのは、ここを利用する必要が無くなったからである。ルークと言うのは、興味の無い事には本当に無関心なのだ。だが一応断っておく必要がある。

「え~と、ちょっと事情がありまして・・・折角改装して頂いたのですが、当分の間は使う事が出来なくなってしまって・・・。」
「そうですか。ですが、我々も商売ですから、代金さえ頂ければ構いませんよ。料理には興味がありましたけどね。」

そう言って笑う商人達に恐縮しながら、全員で建物の中へと足を運ぶ。作って貰った調理器具の使い方を説明する為である。本来であれば料理人達に説明する約束だったのだが、ここに料理人の姿が無かった為だ。

「料理人の方々に説明する約束でしたけど・・・?」
「それなんですが、鍛冶職人には口止めしましたが、何処から情報が漏れるかわかりませんからね。実物を持って我々が売り込んだ方がリスクが小さいと判断したのですよ。」

そう言われると納得である。恐らくだが、料理人だけでなく庶民の間でも普及するだろう。商品を確保する前に存在を知られてしまえば、儲けようと考える料理人が出て来るかもしれない。それならば、準備が整った段階で売込みをかけた方が利益は大きくなる。

特許など存在しない世界なのだから、真似される前に大きく売り出す必要がある。そして商会の名と調理器具が広まれば、当面の間は安泰となるだろう。

(それで料理人の代わりにこの人達を集めた訳か。だったら売る物を指定する必要があるな・・・。)


厨房へと足を運び、ルークは内心で呟く。料理をするように見えなかった商人達が、調理器具の説明を聞いても覚えられないと思っていたのだ。しかし、そこに集まっていた者達を見て考えを改める。

「料理人の代わりに、信用の置ける我々の妻達に集まって貰いました。」
「料理の出来る奥さん達が覚えて、皆さんに時間を掛けて説明すると。それなら安心ですね。」
「はい。食材は豊富に取り揃えておりますので、実際に使って頂きたいのですが。」
「その事なんですが、この中にはお菓子作りにしか使わない道具もあるんですよ。そっちは覚えても仕方が無いと思うんですが、どうです?」

ルークの言葉に、商人と妻達が相談を始める。簡単には結論が出ないだろうと考え、その隙にお菓子用の道具だけを別の場所に選り分ける。そうして待つ事数分、商人の代表が声を掛けて来た。

「アストル様のおっしゃるように、今回は普通の料理に使う道具だけにします。我々が覚える事を考えると、妻達にも馴染みのないお菓子作りは難しそうですので・・・。」
「あはは。まぁそうでしょうね。私も他の方に話を持ち掛けるつもりはありませんから、売る時期は皆さんにお任せしますよ。自分が使う分を確保出来れば満足ですし。」
「「「「「ありがとうございます!」」」」」

ルークの言葉に全員が安堵の笑みを浮かべた。その後、実際に使い方を教えながらの料理教室となったが、ルークが提案した調理器具は非常に好評であった。無論、その時作った料理も。


今回の調理器具を合同で販売した商会の名は、世界中に轟く事となる。相手が複数という事もあって、ルークは全ての商会名を覚えていないのはご愛嬌である。そして後日、何気なく商業ギルドを訪れたルークの元に大金が転がり込むのはお約束だろう。
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