Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月

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動乱の幕開け

お兄ちゃんなの

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夕方近くまで掛かって商品を作り終え、幼女達の様子を伺うが起きる気配は無い。ひょっとしたら起きない可能性もあるが、今後の事を考えると起こした方が良いかもしれない。一先ず風呂と夕食の用意をして待つ事にした。

普通は王侯貴族以外に風呂に入ったりしない。そもそも風呂など無い。しかしそこは元地球人である。風呂に入らない生活など耐えられなかった。とは言ったものの、地球で生活していた頃はシャワー派である。湯船に浸かったら溺死する自信がある程、彼には睡眠時間が足りていなかったのだ。

しかしこの世界にシャワーなど存在しない。作ろうと思えば作れるのだが、色々と大掛かりになるので浴槽で我慢する事にしているのだ。その浴槽も、魔法で水を出してお湯にする。排水は設備があればそこに流すが、野営用ログハウスの様に排水出来なければアイテムボックスにポン。出掛けたついでに川へポイである。不便なのか便利なのか、何とも言えない生活であった。

すっかり日も暮れた頃、椅子に座って仮眠をとっていたルークの耳にゴソゴソと動く音が聞こえて来る。どうやら起きたらしい。だがこちらから声を掛けるべきではないと考え、そのまま待つ事数分。姉が起き上がる。

「ここは・・・」
「オレの寝室。状況はわかるか?」
「あ、はいなの!それで・・・」

自分の置かれた状況は理解出来たようだが、何から聞いたらいいのかわからないのだろう。ともかく、このままにはしておけない。

「詳しい話は後で聞く。まずは妹を起こして風呂で体を綺麗にしてくれ。オレはその間にシーツを交換するから。」
「お風呂?シーツ?・・・あぁ!ごめんなさいなの!!」
「いや、それは明日洗えばいい。それよりお前達だ。何日体を拭いてないのか知らないけど、かなり臭うぞ?」

女性になんてことを言うんだとお叱りを受けるかもしれないが、こうでも言わないと遠慮して風呂に入ってくれない可能性がある。相手は子供だし、正直に言ってやった方が良いと思う。

「体はずっと拭いてないの。」
「そうか。」
「うぅん・・・おねえちゃん?」

どうやら騒がしかったようで、妹の方も起きたらしい。そのまま2人を風呂へ連れて行き、オレはシーツを交換する。掛け布団と枕?そんな物は使わせていない。そもそも、掛け布団や枕など生活に余裕のある者しかお目にかかれない。可哀想だからと気軽に使わせる訳にはいかないのだ。

ちなみに、クリーンアップの魔法も同様である。この魔法、初歩的な位置付けではあるが使える者が多くない。それ以前に、どうやら魔法を使える者自体少ないのだ。学園に通うか、高価な魔導書を買って勉強するか。はたまた冒険者となって先輩に教えを請う以外に習得する術が無いらしい。

そういった意味で、オレは比較的恵まれた環境で育った事になる。つまり、只のお菓子屋がホイホイと魔法を使う訳にはいかないのだ。だが火と水属性の魔法は別である。料理に火と水を使う関係上、師匠や仲間の料理人から火と水属性の魔法を教わる機会がある、と城の料理人から聞いていた。それも適正が無ければ使えない話なのだが。


話を戻そう。シーツを交換していると、例の姉妹が戻って来た。何か不都合でもあったのだろうか?

「お風呂・・・どうすればいいかわからないの。」
「あちゃ~。」

完全にオレのミス。どう見ても庶民なのだから、風呂なんて入った事が無いはずだ。水浴びならば経験があるかもしれないが、ここは川や湖ではない。仕方が無いので、一緒に入って教える事にした。特に何があった訳でもないので割愛するが、子供の入浴は賑やかだったとだけ言っておく。

それからじっくりと野菜を煮込んだスープを食べさせた。好き嫌いがあるかと興味深く見守っていたが、それどころではなかったらしい。まともな食事?という事もあって、終始無言であった。もうちょっと反応があっても良かったのよ?まぁ、目を見開いてたから美味いと思ってくれたんだと思うけど。

少し物足りなさそうにしていたが、明日は肉を食わせてやると言ったらニッコニコだった。子供チョロいぜ。

放っておくと寝てしまいそうな気がしたので、オレは時間を空けずに質問する事にした。色々と聞いておかなければ、今後の方針が決められない。

「さて、まずは自己紹介といこう。オレの名前はアストル。ここでお菓子屋をやってる。」
「私はシノンなの!こっちは妹のカノンなの!!」
「カノンでしゅ。」

噛んだ?でも可愛いからツッコミません。幼女趣味?何とでも言ってくれ。可愛いものは可愛い。

「シノンとカノンか。それで親は?」
「村が魔物に襲われて・・・みんな殺されたの。」
「2人で逃げて来たのか?何処から?」

この後、子供には遅い時間まで話を聞く事となった。途中でカノンは眠ってしまったが、難しい話だったので仕方ないだろう。シノンから聞き出した内容を纏めるとこうだ。


どうやら2人はラミス神国の南西、ヴァイス騎士国との国境近くにある深い森の中にある村から逃げて来たらしい。魔物の群れから襲撃を受け、運良く匿われた2人を残して村は壊滅。魔物達が居なくなった隙を見て、2人は村から逃げ出したそうだ。

幼い子供2人の足で、よくもまぁここまで辿り着けたものだ。流石は獣人。あ、2人は犬の獣人である。所謂モフモフのフサフサ。犬派のオレには堪らないのだが、生憎幼女趣味ではない。

子供2人で魔物が闊歩する森を抜け、ヴァイス騎士国に向かうのは無理。やむを得ずラミス神国の街へと向かい、巡り巡って王都まで。道端の草を食べて飢えを凌いだそうだ。

一文無しの2人がどうやって王都に入ったのか不思議だったが、どうやらこの国には獣人達が使う抜け道があるらしい。と言うのも、ラミス神国は人族至上主義。獣人の2人にとってこの国は住み難いのだが、あのまま森で暮らす事も出来ず、魔物の少ない村や街を目指したそうだった。

しかし誤算だったのは、獣人への扱いである。虐げられている獣人でさらには孤児。食べ物を恵んで貰う事も出来ず、各地を転々として王都へ。夜中に残飯でも物色しようとし、ついにはオレの店の前で倒れたそうだ。


ここまで聞き、2人が心に負った傷の深さを伺った。しかし、返って来たのは予想外の反応。狩猟民族という位置付けから、魔物による被害は覚悟の上だと言うのである。こんな幼い子供の言葉とは信じられなかった。聞けばシノンは8歳、カノンは5歳。必死に生きようとする執念に、オレの心が突き動かされる事となる。何処か安心出来る孤児院にでも預けようと考えていたのだが、この時オレはその考えを180度転換する。

とりあえずこの日は事情を聞いて終わりにした。そして翌朝、オレは2人の意志を確認する。


「朝ご飯の前に話がある。シノンとカノンは、これからどうする?」
「それは・・・」
「カノンはお姉ちゃんと一緒にいるの!」

ソファーに並んで座る姉にしがみつくカノン。何とも微笑ましい光景である。しかし、ここで表情を崩す訳にはいかない。真剣な表情のまま、オレは改めてシノンへと問い掛ける。

「どうすると聞かれても答えようがないか。なら・・・差別の無い国の孤児院を紹介してもいい。ただし、その場合はバラバラの孤児院になる可能性がある。」
「嫌なの!」
「やー!」

必死な2人の様子に、オレの我慢は限界である。このままいじめた所で、きっと微笑んでしまう事だろう。

「でもなぁ・・・働かざる者食うべからずって言うしなぁ・・・。」
「・・・・・」
「・・・・・カノン、お兄ちゃんのお店で働くの!お姉ちゃんにご飯食べさせてあげるの!!」

しっかりしているのは妹の方だったらしい。いや、この場合は怖いもの知らずか。まだまだ幼いって事だろう。でも姉を気遣えるのだから、しっかりしている事に代わりはない。

「へぇ。あははははっ!良し、採用!!」
「「え?」」

シノンはキョトンとし、カノンは瞳をキラキラさせている。これ以上いじめる趣味も無いので、詳しく説明してやるとしよう。

「カノンはオレの手伝いをする事。無茶な事はさせないから、無理しない事。きちんと言う事を聞けるのなら、1日3回2人にご飯も食べさせる。それとお小遣いもあげよう。シノンの為に頑張るといい。」
「わかったの!」
「じゃあ早速教えるから、一緒に行こうか。」

立ち上がりながらそう告げると、カノンも元気良く立ち上がった。そのまま一緒に部屋を後にしようといった所で、取り残されていたシノンが声を上げる。

「待ってなの!私もここで働かせて欲しいの!!」
「・・・じゃあ一緒に行くか?」
「はいなの!!」

立ち上がったシノンも連れ、オレ達はリビングへと移動した。仕事とは言ってみたが、どう考えても働けるとは思えない。いや、体力はありそうだから出来なくもないだろう。しかしオレも鬼ではない。簡単なお手伝い程度になるだろうが、とにかく読み書き計算だけは覚えて貰おう。仕事に必要だという体面を取る為、最初はお菓子屋に必要な知識から。

「まず、オレの本当の名前はルークだ。喧嘩して家を飛び出したんだけど、見つかるのが嫌だからさっきはアストルと名乗った。でも2人に嘘を吐かせたくないから、ルークと呼んでくれて構わない。」
「「はい!ルークお兄ちゃん!!」」
「お、お兄ちゃん!?そうか、お兄ちゃんか・・・」
「そうなの!」
「お兄ちゃんなの!」
「そうだな、人前ではお兄ちゃんって呼ぶだけでいいか。」

オレの事だ、きっとボロが出て本名がバレると思った。それなら最初からバラしてしまおうと思ったのだが、どうやら杞憂に終わったらしい。子供は正直だから、ティナ相手には隠し通せない。勿論オレも。

それに只『お兄ちゃん』と呼ぶだけなら嘘は吐いていない事になる。これは名案かもしれない。1年と言わず、この子達が成人するまで此処にいてもいいかもな。

(お兄ちゃん・・・ぐふふ・・・ぐへへ・・・)


思考が完全にお父さんのソレなのだが、本人は全く気付かない。

前世を含め、ルークの身の回りには年下の女性がほぼいなかった。姉要素ばかりだった事で、妹に対する憧れがあったのだ。それで気持ち悪い事になっているのだが、本人が脳内暴走に気付くのはもう少し経ってからである。無邪気なシノンの、「お兄ちゃん気持ち悪いの」という一言によって。
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