Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月

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動乱の幕開け

ライムダンジョン防衛戦6

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ルークとアリドがスローモーションによる喜劇を演じている頃、ライム王城地下ではウリドとオリドによる作業が行われていた。

「あの新神、今頃アリド姉様の能力で笑える状態になっているのでしょうね?」
「見に行ってみるか?」
「いいえ、ウリド姉様。慢心は危険よ。今は此方に集中しましょう。」
「それもそうだな。しかしこの床、一体何で出来ているんだ?オリドの能力でも時間が掛かってるぞ?」

好奇心は猫を殺す。そんな事を考えたオリドによって、喜劇の観客となる事を諦めたウリド。そもそも、アリドの行動如何では自分達までもが演者となる恐れがある。下手な接触は避けるべきなのだ。

そしてウリドが口にしたオリドの能力。此方は姉達のそれとは趣が異なる。姉達全員が一定の範囲内を対象としているのに対し、オリドだけは触れる必要があった。現在も城の最下層にある宝物庫の床に手を突いていた。

その床に向かって魔法を撃ち続けるウリド。このオリドの能力、触れた物の強度を激減させるというモノである。物質生物問わず、あらゆる物を対象とする。しかし能力発動に掛かる制限もまた、非常に厄介なものとなっていた。能力を使用している間、オリドはその場を動く事が出来ない。

床下の安全が確保出来ていない現状、完全に破壊するのはオリドを危険に晒す。故にウリドは手探りで床を攻撃する必要があった。完全に壊れないギリギリのライン。それを見極めるのだから、ウリドの消耗もそれなりである。


こうして作業開始から1時間程が経過した頃。ルークがスローモーションで乳繰り合う事僅か5分少々だろうか。不意に魔法を撃つウリドの手が止まる。

「オリド!」
「私も感じる・・・向こうの準備も整ったみたい。行きましょう姉様!」

床を見つめていた2人だったが、その奥に無数の気配を感じて走り出す。

「ついに、ついにやったぞ!」
「えぇ、これで地獄の門が開く!あのお方の悲願、この世界に混沌を齎す第一歩を踏み出したのよ!!」

並走しながら、2人は心底嬉しそうに語り合う。しかし一刻も早くその場を離れまいと、その足が止まる事は無い。そうして間もなく、オリド達の目にルークとアリドの姿が写り込んだ。

「アリド姉様!すぐに退避を!!」
「っ!?わかったわ!残念だけど、貴方をペットにするのは次の機会に取っておくわね。」


オリドに呼び掛けられ、すぐに能力を解除したアリド。恥ずかしい姿を見られたくないのもあったが、まともに会話をする為にも能力は解除する必要があった。しかし、その隙を黙って見逃すルークではない。すぐさまアリドに向けて反撃に移ろうとする。

だがそれはオリドによって止められる。

「こんな所で呑気にしている場合ではありませんよ?」
「・・・どういう意味だ?」
「間もなく地獄の門が開きます。」
「頭、大丈夫か?」

出会った当初は眠い眠いと言っていたのに、再会したと思ったら痛い発言である。これにはルークも着いて行けなかった。そんなルークに構っている暇は無いとばかりに、オリドがヒントを出す。

「ふふふっ。この城の下に何があるのか、当然ご存知ですよね?」
「城の地下?・・・ダンジョンか?」
「そうです。我々の目的は強固に塞がれていたその床に、ギリギリまでのダメージを蓄積する事でした。」
「何の為に?態々そんな面倒な事をしなくとも、壊してしまえば良かっただろ?」

ルークの言い分は最もである。壊れないギリギリを狙う意図が掴めない。此処に大勢の人間が居れば、それが意味する所に気付いた者もいたかもしれない。しかし残念ながら、ルークにはわからなかった。

「そんな事をすれば巻き込まれてしまうではありませんか。」
「巻き込まれる?一体何・・・何だ!?」

ーー ゴゴゴゴゴゴ!!


激しい轟音と揺れが周囲を襲う。ルークは辺りを見回すが、その原因は見当たらない。だがそれも、オリドによって理解させられる。

「いよいよ始まりましたね。此処にいると、貴方も危険ですよ?」
「何?」
「わかりませんか?向こう側から、蓋をこじ開けようとしているんですよ!」
「向こう側・・・って、まさかスタンピードか!!」

非常に長い期間、そのダンジョンは閉ざされていた。それはつまり、増えた魔物を討伐する者がいなかった事になる。

想像もつかない程の時を経て、押し込められていた魔物達の勢いは凄まじい。十数年周期で起きるスタンピードですら、周辺への被害は甚大なのだ。それが数百年、或いは千年に及ぶ期間に渡って閉じ込められていた。一体どれ程の爆発力を秘めている事だろう。それがルークにも理解出来たのだ。

「では、私達はこれで。」
「待て!クソっ!!」

原理は不明だが、オリド達の姿が消える。しかし、もう彼女達に構っている猶予は無い。放っておけば、王都中に魔物が溢れる事になる。そうなれば民衆だけでなく、建物も壊されるだろう。

(折角確保したオレの隠れ家を、こんな事で失ってたまるか!)

動機が不純極まりないのだが、為すべき事は同じなので何も言うまい。


どんな時よりも素早い動きで、ルークは問題となっている地下とやらを目指す。面倒なので壁をぶち破って進もうとするが、ルークの魔法でもビクともしない。

「この城、何で出来てるんだよ!って、待てよ!?簡単に壊せないなら、魔物も道なりに進むはず。それなら・・・」

どうせ王都を蹂躙した魔物は外へ向かうだろう。ならば、一先ず王都を守るには魔物を外に出してしまえばいい。そう考えたルークは、すぐに作戦を変える。

上空から確認した際、王城が王都の端に位置していた事を思い出す。それならばと、王城の出入り口から王都の外までを繋ぐトンネルを作り始めたのだ。


王都の一角を破壊しながら、土魔法で作り出したトンネル。分厚い壁にした事で、ルークの魔力は空になる。しかし神気も持っているルークは、その半分までも消費して何とかトンネルを作り上げた。

完成した事でホッと一息つく間も無く、ついにダンジョンを塞ぐ床が破られる。


ーー ドゴォォォン!!
ーー ドドドドド!!

魔物達が移動していると思われる轟音と地響きは、それから1昼夜に渡って続くのだが・・・ルークが最後まで見届ける事は無かった。


神と言っても万能には程遠い。まずは自分の大切な人達を護らなければならないのだ。魔物達の先頭が王都の外へ出たのを見届け、すぐさまフォレスタニア城へと転移する。

「きゃっ!!」
「スフィア!!」

転移魔法を隠すなんて言ってる場合ではなかった為、ルークはスフィアの執務室へと直接転移したのだ。これに驚いたのは、側に控えていた使用人である。しかしルークは見向きもせずスフィアの名を叫ぶ。

「ちょっとルーク!貴方「ライムのダンジョンを守り切れなかった!」そんなっ!?」
「今すぐ各国に通達してくれ!あの魔物達は今の世界には強すぎる!!」
「わかりました!って、ルークはどうするのです!?」
「とりあえず、みんなを城に連れて来てからカイル国王の所へ飛ぶ。」
「なるほど。では、お願いします!」

スフィアと視線を合わせたまま、頷く暇も無く転移する。まずは嫁達の安全を確保しなければならないのだ。各国への連絡を任されたスフィアだったが、通常の手段は使えない事に気付く。ならばと、まずは自国の警戒を引き上げる事にした。

「スフィア様?陛下のお姿が・・・」
「後で説明しますから、この事は他言無用です!そして貴女は今すぐに重臣を謁見の間に呼び集めて下さい!」
「か、かしこまりました!!」

城のメイドには相応しくない、ドタバタとした様子で走り去る使用人。その姿を目で追いながらも、スフィアは各国への連絡に気持ちを切り替えるのだった。

(知られてしまったものは仕方ありません。それより今は連絡手段です。緊急時ですから、先ずは転移魔法陣に向かうとしましょう。)


各国の王城に設置された転移魔法陣。それは月に1度、世界政府の担当者によって解放される。これは乱用を避ける目的の他、転移魔法陣への魔力充填に時間が掛かる為であった。

だが転移は出来ずとも、声のみの通信は可能となっていた。そうでなければ有事の際、転移魔法陣を使う事が出来ないからである。今回の場合、転移する必要は無いが通信する必要があった。早馬や鳥などの文書では、道中で魔物に襲われる可能性が高い。これまでの魔物とは異なる以上、不確定な伝達手段を用いるべきではないのである。


たった1人で転移魔法陣の下を訪れたスフィアは、その上に乗り呼び掛ける。ここで説明しておくと、転移魔法陣の敷かれた部屋の外には担当者が控えている。これは有事の際、音声を聞く者がいなければ意味が無いからである。

当然転移の乱用を防ぐ為、室内に入るには鍵が必要となる。その鍵を持つ事が許されるのは王のみなのだが、フォレスタニアにおいてはスフィアが持っていた。気軽に転移している皇帝が持つ意味など無いのである。

話をスフィアに戻そう。

「転移魔法陣管理局長フィクス!聞こえますか?」
「・・・・・この声は、スフィア王妃殿下ですかな?」

呼び掛けた後、暫く待っていると返事が聞こえて来た。どうやら無事に繋がったらしい。

「えぇ。非常事態です!出来れば各国に緊急招集を掛けたいのですが、それは可能ですか?」
「魔力量は問題ありませんが・・・何事です?」
「ライム魔導大国にあるダンジョンにて、スタンピードが確認されました。」
「何ですと!?いや、しかし何故それを・・・?」

声から察するに、フィクスと呼ばれたのは初老の男性だろうか。そのフィクスの疑問は当然である。遠く離れた異国の出来事を、これまた他国の王妃から告げられたのだ。どうやって知り得たのか、全く以て疑わしい。だが、ライムに存在すると言われるダンジョンの危険度については、当然フィクスも聞き及んでいた。

「説明は後です。それより今は、各国に警戒を促して下さい。その上で招集を。」
「はぁ・・・因みに、それはどれ程の脅威ですかな?」
「我が国の陛下が大量に彷徨いてる、と言えば伝わりますか?」
「ななな、何ですとぉ!?畏まりました!直ぐに各国へ通達致します!!」

ルークの破天荒ぶりは他国にまで轟いている。スフィアの適切な例えにより、事の重大さが伝わったフィクスは慌てながらもスフィアの要求に従ったのだった。


これにより、瞬く間に各国が知る所となる。ライムのダンジョンから溢れ出した魔物は、フォレスタニア帝国皇帝のような化物揃いだと。後日、この話を耳にしたルークが落ち込むのだが、それはどうでも良い話。


こうして人々を恐怖の底へ叩き込む、動乱の世が始まったのである。
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