Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月

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帝国の決断2

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スフィアと共に食堂に辿り着くと、そこは正に戦場であった。

「料理長に追加の指示を!」
「空いた食器をお下げして!!」
「誰かお客様の料理を!」
「他の奥様方への対応も忘れないで!!」
「お、お出しする前に料理が!?」

思わず口を開けて眺めてしまった。隣のスフィアも口を開けていたので、そっと顎を持ち上げて口を塞いでやる。しかしオレの行動には気付かない。

笑いを堪えながら食卓に視線を移すと、他の嫁達も口を開けて固まっていた。テーブルに並べられる前に皿から料理が消えるのだから、育ちの良いお嬢様達には刺激が強過ぎたのだろう。動いているのは料理や食器を運ぶ使用人達と、騒ぎの元凶である2人の人物。ティナとエアである。

「ゆ、夢でも見ているのでしょうか?」
「いや、現実だな。そうか、みんなは初めて見たのか?」

やっと復活したスフィアの問い掛けに、オレはみんなが驚いている理由に思い至る。

「初めてって?」
「ん?ナディアも見た事無かったっけ?まぁ、いいか。ティナはストレスが溜まるとやけ食いに走るんだよ。」
「「「「「やけ食い!?」」」」」
「そりゃそうだよな。頑張って確保した食材が他人の物になるんだし、人助けとわかっていてもストレスは溜まるか・・・。」

働かざる者食うべからず、ではないが自給自足の村で生活して来た。オレよりもその時間が長かったティナにとっては苦痛だったのだろう。幾ら心優しいティナであっても、休み無く働かされたらこうなるのも無理はない。

それどころか、ティナがこれまで必死に貯めて来た食材の多くも放出している。口には出さないが、かなりの葛藤があったのだろう。

「やけ食いと呼ぶには些か衝撃的な光景なのですが・・・」
「見たトコまだ30人前だろ?この倍は食うぞ?」
「「「「「はぁ!?」」」」」

当然驚くよな。オレも不思議だよ。だって20人前食っても、ちょっとお腹が膨らむ程度なんだぜ?ティナの腹がどうなってるのかは、この世界最大の謎だろう。流石に50人前を超えると妊婦さんみたいになるが、次の日には元通りなんだから何も言えなくなる。

しかも今回はティナを追従する形でエアがいる。何でエアが張り合ってるのかは知らないが、問題はこっちじゃない。作る側だろう。お上品な貴族達を相手にしてきた料理人に、フードファイターの相手はキツイはず。

「メシどころじゃなさそうだな。ティナ!リクエストはあるか?」
「っ!?んふふぉーふぃふぉ、ふぉふふぉふぉふぇふぁーふぉふぉ!!」

オレの言葉に目を見開いたティナが顔を向ける。リスみたいで可愛いのだが、あまり行儀の良い行動ではないのでコメントは差し控える。

「わかった。」
「「「「「わかったの!?」」」」」

相変わらず食事中のティナの言葉は、オレ以外には理解出来ないらしい。

「ん?肉料理と食後のデザートを、だろ?兎に角行って来るよ。」
「「「「「・・・・・」」」」」

またしても口を開けている嫁さん達だが、今は1分1秒が惜しい。このまま料理が途切れる事になれば、暴走したティナが厨房に乗り込むだろう。生の食材を食い漁るような状況だけは何としても阻止しなければならない。色んな人の為に・・・。

足早に厨房へと移動すると、そこもまた戦場であった。

「料理長!盛り付けを確認して下さい!!」
「次は何の料理を作れば良いですか!?」
「皿はどれを使いますか!?」
「次の料理はまだですか!!」
「一気に言われてもわからん!順番に言え!!」

指示を仰ぐ料理人だけでなく、使用人からも料理を催促されている。因みに、普通の料理屋であればこんな状況にはならない。これは城仕えの料理人ならではの光景なのだ。

と言うのも、王族に提供する料理は毒味を行う。その為、冷めても問題無いから一品ずつ丁寧に作られるのだ。今回のような状況には慣れていないせいで、複数の料理を同時に作るには手際が悪い。

いや、下積み時代ならば対応出来たのだろうが、長い事ぬるま湯に浸かりすぎたのだと思う。これは鍛え甲斐がありそうだ。

「ちょいと邪魔するよ?」
「「「「「陛下!?」」」」」

全員が動きを止め、その場に跪く。

「礼はいらん!動きを止めるな!!」
「「「「「はっ!」」」」」
「今からオレが取り仕切る!料理長はオレから離れるなよ!!」
「か、かしこまりました!」

色々と不満はあるだろうが、今回だけは我慢して貰おう。料理人達の教育もしたいが、まずは食材を確認してメニューを考えなければならない。しかし手を止めさせる訳にもいかないので、何らかの指示を出す必要がある。

「料理長、肉を切り分ける者と焼く者を1人ずつ選んでくれ。焼く分をある程度切ったら、色んな大きさに切り分けて欲しい。」
「はい!カールとアダムは肉を担当しろ!!」
「副料理長は野菜も同じように指示を頼む。それからソースとスープの方を確認!毒味用に1皿分けて置いてくれ。オレが許可する。」
「は、はい!」
「味付けも確認するから、出来たら教えるように。」

とりあえず短時間で提供可能な炒め物だ。これで暫くの間、首は繋がる事だろう。その隙に食材と予定されていた献立の確認をして、そこから手の込んだ料理に取り掛かるか。並行して料理長にはデザートも教えよう。

毒味ってのが面倒だけど、やらない訳にもいかないからな。今回はオレが厨房に立ってるから特例って事で我慢して貰おう。

・・・地球を思い出して来たな。ティナよ、相手にとって不足は無いぜ!




ルークが厨房にて闘志を燃やしている頃、ティナとエアを除いた面々が語り合っていた。


「みなさんお疲れのようですが、やはり魔物は手強いのですか?」
「う~ん、そうなんだけど少し違うのよね。」
「「「「「?」」」」」

スフィアの問い掛けにフィーナが答える。しかし歯切れの悪い返答に、狩りに参加していない者達が首を傾げる。そんなみんなの様子にナディアが説明を始める。

「今回増えたのって小型の魔物がほとんどでしょ?だから大型の魔物は問題無いのよ。」
「ダンジョンの出入り口を通れる魔物との事ですからね。それが?」
「小型の魔物は数が多くて群れるんだけど、元々棲息してた魔物の群れに今回溢れて来た魔物が合流したのよ。同種で争う事なく、ね。」
「腕の良い冒険者程、最小限の労力で狩りをするの。それが体に染み付いてるんだけど、それが返って混乱を引き起こしているのよ。」

ナディアの説明に捕捉する形でフィーナが口を挟む。しかしその説明も、冒険者ではない嫁達には理解出来なかった。

「意味がわからないのですが・・・?」
「リノアにも理解出来るように・・・どう説明したものかしら?」
「ふぇーふぃふぃふぁふぉふぇふぇふぁふぉーふぇふふぁ?」
「・・・ごめんティナ。ルークじゃなきゃわからないから。」

口いっぱいに詰め込みながら頑張って説明しようとしたティナだったが、当然理解出来る者はいない。呆れた表情で指摘するフィーナに、ティナはまさかの行動をとる。

ーーごっくん!

「兵士に例えてはどうですか?」
「ちょっとティナ!ちゃんと噛んでから飲み込みなさいよ!!」

ほぼ丸呑みだった為、驚いたナディアが何処かズレた指摘をする。しかしティナは気にした様子もない。

「例えばフルプレートに身を包んだ近衛騎士団と戦うとします。その中にカレン様やフィーナ、ナディアが紛れ込んでいたとしたらどうです?」
「それは・・・反則ですね。」
「「「「「確かに!」」」」」
「実際はそこまででもありませんが、概ねそのような現状にあります。」

非常にわかり易い例えだった事もあり、他の者達も納得の表情を浮かべる。だが例えとしてはわかり易くとも、実際の状況を知らない彼女達は少しでも情報を手に入れようと考えた。好奇心というのもあるが、立場上政治に無関心という訳にもいかない。

「では例えば、ゴブリンの群れの中にも反則級の強さを持つゴブリンが紛れているという事でしょうか?」
「ふぉ?」
「「「「「早っ!?」」」」」

会話の最中にも関わらず全員の視線がリノアに移った数秒の間に、並べられた料理が全てティナの口の中に詰め込まれていた。これには何事にも動じないカレンもビックリである。

「ふぉーふぇふふぇ・・・」
「説明は私達がしますから、ティナはゆっくり食べなさい。」
「んっ!」

それでも説明しようとしたティナを制止して、カレンが代わりを務めると告げる。これにはティナも大人しく従った。単に食欲が勝っただけなのだが。

「リノアさんの問いに答えますが、おっしゃる通りです。そして先程お話にもあったように、これが事態をややこしくしています。」
「ややこしい、ですか?」
「えぇ。何しろ小型の魔物は群れるのですよ。見た目は全く同じですが、その強さは異なります。私やルーク以外の者達にとって、手加減して戦えるような相手ではないでしょう。つまり無意識に手加減してしまう相手に対して、意識して全力で闘わなければならないのです。」
「見た事が無い魔物ならともかく、狩り慣れてる弱い魔物に全力を出し続けるのって精神的に疲れるのよ。あっさり倒せる魔物もいれば、思わず苦戦する個体がいたりしてね。慣れるまでは気が抜けないわ。」
「「「「「なるほど。」」」」」

カレンの説明を引き継ぎ、フィーナが心情を吐露する。やっと非戦闘組も理解したようだ。

「今回のスタンピードですが、ダンジョンの入り口を通り抜けられる大きさの魔物だけが此方側へと移動しました。そしてダンジョンの地形もありますが、空を飛ぶ魔物が来られなかったのも僥倖と言えるでしょう。」
「言われてみると、確かにそうね。ダンジョン内は飛べないって事?」


カレンの言葉に、ナディアが納得する。そう。今回のスタンピードでは、小型の歩行する種類の魔物しか現れなかったのだ。しかも走る事の出来る魔物だけ。ルークが苦戦した『ゴブリンさん』は居るが、最も厄介だと感じたスライムはいない。これはスライムが走る事が出来なかったからであった。

同様に翼を持つ魔物も現れなかったのだが、これはダンジョン内部の構造が影響していた。出入り口は広く造られているのだが、少し進むと狭い洞窟が続いている。それも曲がりくねった状態で。

そこを抜けると広い空間に出るのだが、飛行する類の魔物は二の足を踏んでいた。そこへエリド村の者達が向かった為、全て彼等の餌食となったのである。

実はこのダンジョン、最初から最後まで1本道。休憩する場所はあるが、安全な場所は無い。そういった意味で、最高難易度のダンジョンなのだ。本当はダンジョンと呼べる代物ではないのだが、この時点で知る者はいない。

途中まで進んだルークとカレンは何となく気付いているが、口外出来る内容でもないので伏せている。


「昨日ルークと内部を確認して来ましたが、入り口からずっと細長い通路が続いていました。あれでは思うように飛べませんし、のんびり歩いて移動しては他の魔物に踏まれてしまいます。それに空を飛ぶような魔物は警戒心も強いですからね。まだ様子を伺っているのでしょう。」
「様子を伺っているという事は・・・これからが本番ですか?」

不安そうな表情のスフィアが訪ねると、カレンが微笑みながら答える。

「暫くは大丈夫ですよ。先日エレナ達がダンジョンに向かったでしょう?恐らく、彼女達がダンジョンを抜けるのに最低1~2ヶ月。そして向こう側の魔物が此方へ移動するのも1~2ヶ月。最低でも併せて2ヶ月は魔物が現れる心配はありません。(多分エレナ達は抜けられずに戻って来るでしょうから、実際は半年以上の猶予がありますけどね・・・)」
「「「「「ほっ。」」」」」


全員が安堵の溜息を吐く傍らで、リスのようなティナが顔を向けている事に気付いた者はいない。小動物のような仕草にルークならば気付いたかもしれないが、そのルークは未だ戦場の最中にあった。
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