Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月

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帝国の決断1

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各国の代表者達の合意を得られた日の翌朝から、オレとカレンは各地を転々とした。頑丈な囲いの無い街や村を守る為である。

力の節約と護衛を兼ねる意味で、カレンだけが同行していた。転移に回す魔力が惜しいのと、防壁作りに集中したかったのだ。カレンであればオレを連れて転移出来るし、オレの身を守る事が出来る。ヴァニラが居れば手伝って貰ったのだが、何故か彼女は戻って来なかった。


魔物達の移動スピードに負けない速度で防壁を築きつつ、合間を縫って地下トンネルの作製も行う。中々のハードスケジュールだったが、あまり被害を出さずに達成する事が出来た。被害がゼロでない理由は、何処にでも他人の忠告を聞かない無謀で馬鹿な人間がいるからである。

スタンピード発生から10日後、全ての国の王都を地下トンネルで繋ぎ、カレンが知り得る全ての街と村にも防壁を築き上げた。こうして人間達は世界から隔離されたのである。



結局スタンピードは3日3晩続き、現在のダンジョン入り口は落ち着いたものである。時折魔物が出て来る事もあるようだが、オレに対処する時間は無い。何故なら孤立した街や村に食料を届ける必要があるからだ。

穀物等の食料は備蓄から賄っているが、肉は狩りに頼らざるを得ない。そしてその狩りはティナ達が担当している。嫁さん達に危険な真似をして欲しくないのだが、他に頼めるような人材もいない。だが解体は冒険者達に任せる事が出来るので、ひたすら狩っては収納する毎日である。

当然世界中の人々の腹を満たす程の成果を上げられるはずもなく、終わりの見えない作業に疲れが見え始める。


「・・・大丈夫ですか?」
「スフィアか・・・流石にキツイな。特にティナ達の疲労が顕著だ。」
「えぇ。流石に何処かで休んで頂かないと、万が一という事もありますからね。ルークの方はどうです?」
「精神的な疲れがなぁ・・・。特にライムに近い国は転移する街や村が多いから。」

魔物の到達まで猶予の無かった国々は、王都へ避難が間に合わずに孤立する村が多かった。その分オレ達の転移する回数が増える。逆に余裕のあった国では、ほとんどの国民が王都への避難を終えている。そういった国では、転移回数が2~3回なのだ。

このままでは嫁の誰かが力尽きる。早急な対策が必要なのは誰もが思うところであった。だが問題は意外な所にも起きていた。

「もっと問題なのは、帝国に貨幣が集まり過ぎている事です。」
「集まり過ぎ?」
「はい。現状、市場に出回る肉の供給元は我が国の独占状態となっています。世界各国の国民全員に行き渡るよう、大きめの魔物を優先的に狩って頂いておりますが・・・それが問題に拍車をかけているようなのです。」
「少人数で群れを相手にするのはリスクが高いから、どうしても大きい魔物を・・・あぁ、そういう事か!」
「気付きましたか?大型の魔物は高ランクですから、高級食材となってしまうのです。当然裕福な者達が買い取る事になってしまいますので・・・」


魔物は高レベルである程その肉は美味い。ゴブリンやスライムを食おうとは思わないから知らないが、それ以外の魔物はその傾向にある。

そしてオレ達が他国の民に直接食材を手渡す訳にもいかない為、王都は国に、街等の貴族領は貴族達に一任している。人手不足と内政干渉という問題でやむを得ないのだが、どんな時も金は人を狂わす。

オレ達は国民全員に対し、均等に配分する事を条件として魔物を売っている。裏を返せば、配分された後の事には一切口を出せない。そうなると裕福な者は必要以上に欲しがり、貧しい者達は食事を抜いてでも肉を売って現金を得ようと考えるのだ。数日肉を食わなくても生きて行けるのだから。

均等に配分して尚余るようならば良いのだが、全く以て足りていない現状では問題である。いや、問題はこれから起きる。

「金持ちが贅沢を続ければ、何時かは暴動になるな・・・」
「はい。そしてもっと問題なのが「まだあるの!?」これが最も大きな問題ですよ?」

何言ってるんだ?って顔をされたが、そう言いたいのはオレの方だ。

「続けて。」
「・・・やがて街の外に出られる人間がいなくなります。それは冒険者達の実力低下に繋がるでしょう。つまり、人間が食物連鎖の底辺になるのです。そうなれば待っているのは絶滅の危機。」

ゲームで言えば、スタート地点の周囲をラスボス級の魔物が彷徨いている状態か。それはクリア出来ないな。レベル上げに行っていきなりラスボスと遭遇するんじゃ話にならん。

「そこそこの強さを持っている者が生き残っている今の内に対策が必要か。」
「各国もそう考えて軍を派遣しているようなのですが、日に日に犠牲者を増やしているそうです。冒険者ギルドに関しても大人数のパーティを結成してみたりしているようですが、そちらも芳しくは無さそうでした。」
「大人数で行動しない冒険者だと、もっと悲惨な事になってそうだな。」
「悪戯に戦力を失うのも得策ではありません。かと言って、これと言った打開策も有りませんし・・・。」

実はこの行動に意味が無い訳でもない。当然犠牲は出るだろうが、確実に強くなる者はいる。しかしそれは少数であり、かえって話をややこしくするのだ。聖人君子のような性格の持ち主であれば大歓迎なのだが、すぐに調子に乗るような者であってはならない。万が一反乱を起こされた場合、対処出来る者がいないのだから。

そこまで考えて、ふと疑問に思う。

「犠牲は出ているんだろうけど、収穫もあるんじゃないのか?飛躍的に強くなってる者もいると思うけど?」
「えぇ。ごく少数ではありますが、そういった報告も受けています。それも大きな問題ですね。」

まだありますか・・・。全部に反応していたら話が進まない。そう思って大人しく続きを促す事にした。

「飛躍的に実力が向上した者の中から、傲慢な態度を取る者が現れ始めたようなのです。」
「あぁ・・・つまりは調子に乗ってると?」
「簡単に言ってしまうとそうなります。横暴な者から逃げる事も、ましてや追い出す事も出来ませんから、どの国も頭を抱えているようです。手に負えない者が防壁の内側に現れたのですから、それも当然でしょうね。」

ある意味、魔物よりもタチが悪いって事になる。調子に乗ってるのだからやりたい放題なんだろう。まさにカオスだ。

「やれやれ、この非常時に一体何やってんだか。」
「これだけ問題が起こっていますから、何から手を付けたら良いものか・・・」
「・・・そうか!オレとスフィアの考えにはズレがあるんだな?」
「?」

首を傾げているから、本当にわからないらしい。

「スフィアに質問だ。オレは誰だ?」
「・・・ルークです。」
「もっと詳しく。」
「えぇと、フォレスタニア帝国の皇帝・・・まさか!?」
「そう、この国の皇帝だ。つまり、元々他国の出来事に首を突っ込むべきじゃない。」
「それはつまり、他国の民を見捨てると?」
「見捨てるって表現は不適切だけど、まぁそういう事かな。」

この国の民ではないのだから、オレが気にする事じゃない。前提から間違っていたんだ。

「オレは嫁さん達が大事だ。言い換えれば、嫁さん達以外はどうでもいい。だからこそ、みんなを危険に晒してまで他国の人間を守るのは見当違いも甚だしい。本末転倒だよ。」
「それは・・・嬉しいのですが、上に立つ者としてどうかと思いますよ?」
「そこだよ。上に立ってるのはこの国の民達であって、他国の民ではないだろ?」
「それはそうですが、世界政府加盟国としての責務があります。」

そうなんだよな。オレが頭を抱える問題でもある。一方的に脱退を宣言してもいいんだが、それだと他国に対して宣戦布告するようなもの。旧帝国がしなかったのに、オレがするのも憚られる。だからこそ、他国に足を引っ張られる今の状況を指を咥えて見ているしかないのだ。

「脱退は不可能。かと言って他に手段も無い、か。けど、オレ達だけが尽力してて他国は何もしてないよな?」
「その分の対価を支払っていますよ?」

その対価がさらなる問題の引き金って、負のスパイラルじゃねぇか。

「金以外の対価を要求するのはどうかな?」
「・・・美術品や女になりますけど、それを望みますか?」

あぁ、それは勘弁して欲しいな。というか、『女』の部分で目つきが変わったのは気のせいだと思おう。

「そういうのは遠慮したいな。他に無いの?」
「他ですか?あとは奴隷や・・・土地でしょうか。」
「奴隷とか土地って、ひょっとして厄介払いじゃない?」
「気付きましたか。長い目で見れば大きな損害。国力の著しい低下でしょうが、今の状況では民も土地も足手まといにしかなりませんからね。」

養えない土地や人は早めに手放した方がダメージは少ない。落ち着いてから取り戻すのは大変かもしれないが、国が滅びるよりマシって事なんだろうな。

「国としては嬉しいだろうけど、貰ったら貰ったで大変だよな。って言うか、結局みんなの苦労は変わらないよね?寧ろ自国を守らなきゃいけない分、引けない状況になるか。うん、却下で。」
「ではどうしますか?」
「どうしたもんかねぇ・・・やっぱみんなと相談すべきだよな。」
「まぁ、ルークにはその権利がありますが、勝手に決めるよりは良いでしょうね。」

亭主関白でもいいけど、仲の良い夫婦関係が理想だ。だからこそ、きちんと相談して決めるべきだと思う。

「なら早速みんなの所に行こうか。」
「そうですね。早くしないと夕食がティナさんによって片付けられてしまいますから。」

肩を竦めるスフィアに苦笑を返す。頑張ってくれてるので面と向かって言わないが、ティナの食べる量が凄まじいのだ。普段は10人前で済んでる所、最近は20人前を余裕で完食してしまう。


料理人としては美味しそうに沢山食べてくれるのは嬉しいのだが、何事にも限度はある。そんな光景を思い出しながら、スフィアと共にみんなが集まる食堂へと移動する事にした。
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