Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月

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フォレスタニア調査隊

ユキ1

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光が収まり、目を開くとそこには見覚えのない男女が立っていた。否、男性の方は見覚えがあった。アークによってお披露目されていた、神崎秀一である。背格好はルークと大差ないが、注目すべきは頭部だろうか。

この世界には存在しない、黒髪黒目の青年。ルークよりも若干小顔のモデル体型。これにはルークを見慣れていた嫁達も食い入るように見つめていた。通常ならば他のモノなど視界に入らないかもしれないが、今回ばかりは違う。シュウと腕を組んでいる女性から放たれる輝きに、美女揃いの嫁達でさえ息を呑んだのだ。


まず最初に、腰まであるサラサラの黒髪へと目が行く。だがそれも束の間、すぐに視線が他の部分に釘付けとなった。

(((((顔小っさ!)))))

大体が8頭身の嫁達だが、目の前の女性は次元が違う。こちらも背格好はティナと大差無かったが、頭部の大きさは1周り以上小さいのだ。実は神崎雪という女性、10頭身なのである。

男性と女性の美意識というのは違うもので、それはどの世界においても言える事であった。当然フォレスタニアでも屈指の美女であるルークの嫁達だったが、目の前の女性の美しさに打ちのめされる。予想外かもしれないが、真っ先に崩れ落ちたのはリノア。椅子から転げ落ち、四つん這いになって項垂れたのだ。

世界一の美女と呼ばれる彼女は、真っ先に敗北を認めたのである。誰も口にはしないが、美しさだけが取り柄の彼女にとって、見た目の敗北は完敗の証。他に勝てる部分が見当たらない以上、早々に負けを認めた方が楽になれるのだ。


争う訳ではないが、比較してしまうのは仕方のない事なのだろう。そして諦めきれない他の嫁達は、必死になって雪を観察する。



透き通るような肌に、大きな瞳。整った顔立ちは、リノアと同等かそれ以上。スタイルに関してもティナと大差は無く、醸し出す雰囲気は深窓の令嬢か亡国の姫君といった所だろう。欠点らしい欠点など見つからない。だが最後の悪あがきと言う訳でもないが、残された者達は一縷の望みに賭けたのである。

「改めて、神崎雪です。ヨロシクね?」
「「「「「ぐはっ!」」」」」
「「?」」

雪の自己紹介によって、嫁達が一斉に崩れ落ちる。事情を飲み込めない秀一と雪は、互いに顔を見合わせながら首を傾げるのだった。



何が嫁達の心をへし折ったのかと言うと、雪の声が美し過ぎたのだ。ハスキーボイスを期待した訳ではないが、少し位は普通の声でも良いだろうと思っていた所にこの美声である。完膚なきまでに叩きのめされた嫁達の敗北宣言である事は、傍観していたエリド村の住人達にしかわからなかった。


「何を遊んでいるのかわからないけど、今後は基本的にこの姿だからそのつもりで頼む。」
「「「「「・・・・・。」」」」」
「みんな大丈夫?」
「「「「「ぐふっ!!」」」」」

シュウの言葉に反応しない嫁達に対し、心配したユキが首を傾げながら声を掛ける。そんな何気ない仕草でさえ迸る美しさに、追い打ちを掛けられる嫁達。このままでは会話にならないと考えた人物が、遠慮しつつも口を挟む。

「ちょっと・・・いいかしら?」
「どうしたの、お母さん?」
「本当にティナ、なのよね?」
「そうよ?どうして?」

戸惑うエレナの気持ちが理解出来ないのか、ユキはキョトンとした表情で聞き返す。これには流石のシュウも呆れつつ、ユキに理由を説明した。

「あのな、ユキ?見た目だけじゃなく口調まで変わってるんだぞ?ハッキリ言って、誰がどう考えたって別人だろ。」
「・・・そう言われると、確かにシュウ君の言う通りね。でも、さっきも見た通り、私はティナよ?」
「それは見ていたけど・・・まだ実感が・・・」
「まぁ、その辺は徐々に慣れて貰うしかないだろう。それより今後の事を話し合いたいんだけど・・・」

シュウが言うように、ユキと一緒にこの場を訪れた理由は姿を見せるだけが理由ではない。この姿になった上で、今後の身の振り方を相談しておこうと思ったのだ。

「どういう事かしら?」
「今まで通りに過ごす訳にもいかないだろ?正確には、今まで通りに過ごす事が出来ないだけなんだけど。」
「それは・・・私達に言われても、ね?」


話し合う相手が違うだろうとばかりに嫁達へと視線を移すエレナ。言いたい事がわかっているのか、シュウは頷きながら答える。

「みんなとは追々話し合うつもりだ。だから今は母さん達と話し合おうと思ってる。」
「私達と?」
「お母さん達はダンジョンを突破したいでしょ?」
「それは・・・」
「協力してあげる、って言ったら?」
「「「「「っ!?」」」」」

ユキの言葉に、エリド村の全員が驚愕の表情を浮かべる。それもそのはず、ほんの少し前にルークの驚異的な戦闘を目にしていたのだ。ハッキリ言って、ルーク1人で充分過ぎる程だろう。

その上、ルークが行くとなればカレンも同行する可能性が高い。この2人が一緒ならば、ダンジョンを突破するのは容易い。喉から手が出る程の人材であり、これ以上を望むべくもない最高の人材。そんな相手が仄めかしたのだから、態度に現れるのも当然の事だった。しかし、逸る者達に待ったを掛けるのもまたその相手側。

「落ち着いて欲しいんだけど、オレもそんなに暇じゃない。抱えてる問題を片付けるのに数日、或いは十日以上要するかもしれない。それに、何の見返りも無く手伝う程オレはお人好しじゃない。」
「どうすればいいの!?」
「難しい事じゃないんだ。ただ、少しの間嫁さん達の仕事を代わって欲しい。」
「「「「「?」」」」」

予想の遥か斜め上の要望に、エレナ達は揃って首を傾げる。

「いや、いい加減みんなの家族に挨拶しておこうと思ってたんだ。里帰りの迎えに行ったついでに挨拶する予定だったんだけど、こんな事になっちまったし。」
「私とシュウ君の事も説明するべきだと思うから、ココにご招待したら?」
「あぁ・・・情報漏えいを防ぐ意味でも、その方が良さそうだな。日程を調整して貰えば1日で済むかもしれないか。」

他国の王城ともなれば、警備上の観点から親族のみとの面会とはいかない可能性もある。この場合の警備とは他国の皇族、つまりはルークの安全を考慮しての話だ。ルークに何かがあれば、戦争に発展してしまうのだから、神経質にもなるというものだ。

それにどこぞの密偵が潜入していた場合、こちらが勝手に対処出来るとも限らない。ならば買って知ったる自国の方が都合が良いだろう。


ユキの提案からそこまで汲み取り、さっさと答えを出してしまう辺り。長年連れ添った夫婦を連想させるに充分であった。さらなる危機感を覚え、やっと嫁達が再起動する。


「どの国も臣下から多少の反発はあるでしょうが、大勢の王族が一同に会するとなれば同意も得やすいはずです。」
「出来れば会食だけに留めておきたいけど、大半の時間を会議に費やすんでしょうね。」
「「「「「会議?」」」」」

ルビアの呟きの意味がわからず、主に学園組が聞き返す。

「どの国も危機的状況でしょ?唯一対処してるのがルーク・・・シュウだもの。娘達を利用してでも協力を仰ぎたいはずよ。不本意でしょうけどね。」
「「「「「なるほど!」」」」」
「当然だな。そして交渉に関しては全てユキに一任する。」
「な、何故です!?」

シュウの決定を不服としたスフィアが食いつく。しかしシュウは淡々と理由を説明する。

「スフィアがどれだけ公平を貫こうと、少なからず不満は出る。結局は他国の王族なんだからな。」
「その点私ならば、どうとでも言いくるめる事が出来るでしょ?王族でも無ければ、どの国とも無関係だもの。出身国と思われているカイル王国は招待しないし。だよね?」
「あぁ。もし納得がいかない者がいるのであれば、その国の参加は見送らせて貰う。どうする?」
「・・・それでは不利になりますから、従うしかないではありませんか。」

文句を言うなら後回し。そう言われてしまえば何も言い返す事は出来ない。言いたい事を言わせて貰えず、不満だらけのスフィアは渋々従うのであった。

他の嫁達からも意見が出なかったので、シュウは話を進める事にした。

「招待するのは両親、あるいは近親者のみ。それぞれ2人ずつにしておこう。それ以上だと饗す側も大変だし、本来の目的から外れる可能性が高いからな。」
「わかり易く説明すると、やり手の臣下を連れて来ないように、って意味かな。今回はあくまでシュウ君のご挨拶が目的だもの。」

政治に疎い嫁にもわかるよう、ユキがはっきりと捕捉する。これによって政治とは無縁の嫁達も理解したのか、何度も頷いていた。


シュウとユキの考えに対し、ほとんどの者達が感心しきりだった。しかし政治に深く関わって来た2人の嫁が警戒を顕にする。

((マズイ・・・))

スフィアとルビアである。しかし彼女達が何かを企てている訳でもない。ならば何を警戒しているのか。それはユキの頭脳である。

頭脳戦においては他にライバルがいなかった2人に、突如として強敵が現れたのだ。因みにだが、嫁達は別に表立って争っている訳ではない。むしろ嫁達の仲は良い。だからと言って、夫に甘えて胡座をかいても良いとはならない。皇族や王族には跡目争いというものが存在する。

彼女達の場合、シュウが皇帝の座を譲ると明言しているのだが、それは安心材料にならない。何故ならシュウ、ルークは神皇子なのだ。数千年後、或いは数万年後に最高神の座が待っているはず。そうなれば、人間の跡目争い以上の何かが待っている可能性だってある。しかもティナは全ての種族から嫁を娶る事を望んでいる。ユキは明言していないが、それだけに安心は出来ない。結局彼女はティナなのだから。


人間の王族であれば十数年で決着がつく問題が、彼女達の場合は気が遠くなる程の時間に渡って続く。当然嫁は増えるし、それだけ諍いも起こるだろう。かと言って他人を蹴落とせばルークの失望を買うのだから、自分自身の力で寵愛を勝ち取らねばならない。つまり、捨てられない保証は無いという事だ。


頭脳を武器にする2人が、持ち前の頭脳によっていち早くその事に気付く。何とも皮肉な状況に焦りの色を浮かべるスフィアとルビアを見つめながら、ユキはただ笑みを浮かべるのだった。
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