弁えすぎた令嬢

ねこまんまときみどりのことり

文字の大きさ
6 / 17

《過去》 コロネへの気持ち(ミカヌレ) その1

しおりを挟む
 ミカヌレは知る。
 ワッサンモフ公爵家の使用人は、とても優秀だと言うことを。

 嫁いですぐの時は見えない壁を感じていたが、次第に彼らの態度は軟化し、いつの間にか仲間に入れてくれていた。

 生まれたコロネと一緒に、自分に対しての態度にも敬いを見せ、丁寧に仕えてくれた。この邸の女主人として業務もミカヌレに教え、導いてもくれたのだ。

 ただ相変わらずスライストの執務室へ入ることは許されなかったが、だからこそミズレーン伯爵に嘘をつかずに済んだ。
 もし入れたなら、報告の義務が発生するからだ。

『ワッサンモフ公爵家の守りは堅く、入室は困難です』

 いつも手紙の内容は変わらない。
 送れるのはその日の食事のメニューや、自分に宛てられた仕事くらいだ。
 孤児院や教会への訪問と、その寄付額の内容。家政費や職員の人数など。
 名前は分かっても、姓は分からないと告げていた。

 ミズレーン伯爵家では、余計な知識を得て逃げたりしないようにと、最低限のことしか学んでいない。今思えば、そこでしか生きられないようにする為なのだろう。
 だから知性が低いと思われているミカヌレは、そうしても別段叱責を受けることもなかった。



 勿論学校にも通っていないし、幼い時は下働き扱いだった。衣類や食器の手が荒れる仕事や、トイレや浴室の掃除、浴室の水を井戸から汲むのもミカヌレ達子供の仕事。
 でもそれに集められた孤児は、順繰りとそれが繰り返されているようだった。


 少し成長して容姿が良いと判断されれば、男女共に特殊任務の勉強をさせられる。痩せっぽちの体に肉が付くように、今までよりたくさん食事が食べられるようになった。

 けれど年上のある隠密の先輩は、私達を悲愴な面持ちで見ていた。
 時には「あいつらは淫売になるんだ。俺達とは違う」と見下して囁く声も、別の先輩から何度も聞いた。

 何のことか分からないし、上の先輩達に言われたことは絶対だから、任務に逆らうこともできない。
 そして少し大人になって気付いた時に、自分達の仕事は世間一般では穢らわしいものなのだと知るのだ。

 けれど親もなく、今さら孤児院に戻ることさえできはしない。孤児院もお金に余裕がなく、空腹でそこを飛び出して悪事に手を染めたり、空腹のまま病気にかかり、亡くなることも多いと聞いたからだ。

 悪人にも上下があり、後ろ楯のない孤児はいつでも危険に晒される。捕まれば牢屋に入れられて体罰を加えられた後に、危険地帯で労役に就かされるか死刑になるかだ。

 孤児院で生き延びても、貴族や金持ちに雇われて一生働くことになる。良い人に雇われれば幸せだが、そんな場所は恵まれた者から埋まっていき、はずれクジが多く残る。
 一部の貴族は平民を見下す為、扱いも酷いと聞いた。



 伯爵に拾われた子供達も同じだ。
 訓練に耐えられなければ、怪我をして死に。
 逆らえば体罰を受けて死に。
 失敗すれば体罰を受けながら、次は失敗は許されないと怯えながら生きるのだ。

 だから同じ元孤児でも、ランク付けをする。

 ハニートラップ色仕掛けの諜報は個人仕事で、性的な部分の負担はあれど戦闘による怪我は負わない。だから死亡率や怪我のリスクも低い。生き延びる可能性が高いのだ。

 敵地に忍び込み、時に戦闘に加わる隠密は明日の命も知れない場合もある。だからハニートラップ要因を貶めてうさを晴らすのだろう。


 そんな場所で生きていたミカヌレは、長生きしたい気持ちなどを持っていなかった。

 死にたくないから従うが、命乞いまでして生きたくもない。できれば銃で急所を一発で撃ち抜いて、苦しまないで土に還りたい。

 そう思って生きていた。
 我が子コロネに出会うまでは。









しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

使い捨て聖女の反乱

あんど もあ
ファンタジー
聖女のアネットは、王子の婚約者となり、瘴気の浄化に忙しい日々だ。 やっと浄化を終えると、案の定アネットは聖女の地位をはく奪されて王都から出ていくよう命じられるが…。 ※タイトルが大げさですがコメディです。

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!

よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

私の愛しいアンジュ

毒島醜女
ファンタジー
横暴でメンヘラなアンジュ。 でも唯一の妹だと思って耐え、支えてきた。 そんな時、妹が取り換えられた子だと判明した。 本物の私の妹はとてもいい子でこれからも上手くやっていけそう。 一方で、もう片方は……

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

魔女見習いの義妹が、私の婚約者に魅了の魔法をかけてしまいました。

星空 金平糖
恋愛
「……お姉様、ごめんなさい。間違えて……ジル様に魅了の魔法をかけてしまいました」 涙を流す魔女見習いの義妹─ミラ。 だけど私は知っている。ミラは私の婚約者のことが好きだから、わざと魅了の魔法をかけたのだと。 それからというものジルはミラに夢中になり、私には見向きもしない。 「愛しているよ、ミラ。君だけだ。君だけを永遠に愛すると誓うよ」 「ジル様、本当に?魅了の魔法を掛けられたからそんなことを言っているのではない?」 「違うよ、ミラ。例え魅了の魔法が解けたとしても君を愛することを誓うよ」 毎日、毎日飽きもせずに愛を囁き、むつみ合う2人。それでも私は耐えていた。魅了の魔法は2年すればいずれ解ける。その日まで、絶対に愛する人を諦めたくない。 必死に耐え続けて、2年。 魅了の魔法がついに解けた。やっと苦痛から解放される。そう安堵したのも束の間、涙を流すミラを抱きしめたジルに「すまない。本当にミラのことが好きになってしまったんだ」と告げられる。 「ごめんなさい、お姉様。本当にごめんなさい」 涙を流すミラ。しかしその瞳には隠しきれない愉悦が滲んでいた──……。

四の五の言わず離婚届にサインをしてくれません?

白雲八鈴
恋愛
アルディーラ公爵夫人であるミレーネは、他の人からみれば羨ましいと思える立場にいた。 王妹の母譲りの美人の顔立ち、公爵夫人として注目を集める立場、そして領地の運営は革命と言えるほど領地に潤いを与えていた。 だが、そんなミレーネの心の中にあるのは『早く離婚したい』だった。 順風満帆と言えるミレーネは何が不満なのか。その原因は何か。何故離婚できないのか。 そこから始まる物語である。

【完結】私は、幸せ者ね

蛇姫
ファンタジー
奇病を患った少女は笑う。誰よりも幸せそうに。 ショートショートは完結ですが、恐らく短編になる同作品を執筆中です

【完結】名無しの物語

ジュレヌク
恋愛
『やはり、こちらを貰おう』 父が借金の方に娘を売る。 地味で無表情な姉は、21歳 美人で華やかな異母妹は、16歳。     45歳の男は、姉ではなく妹を選んだ。 侯爵家令嬢として生まれた姉は、家族を捨てる計画を立てていた。 甘い汁を吸い付くし、次の宿主を求め、異母妹と義母は、姉の婚約者を奪った。 男は、すべてを知った上で、妹を選んだ。 登場人物に、名前はない。 それでも、彼らは、物語を奏でる。

処理中です...