弁えすぎた令嬢

ねこまんまときみどりのことり

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《過去》 ミカヌレが去った理由

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 ミカヌレはコロネに絵で植物を覚えさえ、実際に散歩しながらそれを教える。公爵家の護衛達もそれに口を挟むことはない。

「そうなのね、おかあさま。たべられるものがいっぱいね。おはなのみつ、おいしい~」

「そうよね。お母様もよく蜜を吸ったわ、懐かしい」

 思い出して泣くミカヌレに、コロネは首を傾げる。

「どうしたの? どこかいたいの?」
「ごめんなさい。違うのよ、コロネ。優しい人を思い出しただけ」

「そうなの? よかったぁ」

 幸せそうに微笑む娘を抱きしめて涙を隠す。

「そうよ、嬉しい思い出なの。たくさん助けてくれたのよ、お姉さまは。血の繋がりはなかったけど、大好きだったぁ」


 よしよしと頭を撫でてくれる娘に涙が溢れ、思わず強く抱きしめていた。
(この子だけは不幸にしたくない。絶対に!)


 そんな思いだけで、持ちうる限りの技術や学びを伝えていく彼女。
 高等な教育は公爵家で教えてくれるので、それ以外の生活に関わることを娘に教え込む。


 たとえば、厨房を借りて料理を。
 古着を集めて裁縫を。
 古い真鍮を再加工した、アクセサリー作りを。
 時には雑巾を搾り、邸の掃除を。
 


 若いメイド達は「奥様、私達が行いますから。お止め下さい」と驚愕するが、メイド長がそれを止める。

「これは奥様の教育なのです。使用人の動きを把握する為に必要なことなので、邪魔はしないように」
「分かりました。私達もお嬢様に負けられませんね」


 若いメイド達もそれに応じ、「素晴らしい教えですね」と、見守ることになる。

 コロネは母と過ごすことが楽しく、何だかウキウキした。ミカヌレも我が子と過ごす時間が、いつまでも続くことを願った。そして同時に、コロネが貴族として大事にされ、この知識が必要とされないことも祈る。


 ミカヌレはミズレーン伯爵家のことを独自に調査し、異変がないか様子を見ていた。
 もうこの頃にはワッサンモフの使用人達(公爵に忠誠を誓う者の集まり)の動きを知っていた彼女は、公爵夫人付きの侍女アンナの協力を得て「茶会に行くわ、パーティーにもね」と頻繁に出かけて情報収集をしていたのだ。

 開き直りと言って良いくらいに。

 そしてベグルに子種がなく、クロダイン公爵家の後継を外され放逐されたことも、この頃に知ったのだ。

 同じ頃、ミカヌレと同じくハニートラップ要員で親友のバターナからの情報も得ていた。

「ミズレーン伯爵は貴女ミカヌレに命じて、コロネを利用する計画を話していたわ。当初は貴女と恋仲だったベグルに命じて、コロネをクロダイン公爵の小飼貴族と結婚させて弱体化させる気だったみたいだけど、計画が狂ったことで方向転換したようね。
 今後は貴女に惚れ込んでいるスライストの弱味を利用し、無理を通す気みたいよ」

 参加したパーティーでそのことを聞き、ミカヌレは覚悟を決めた。
 侍女のアンナにもその話をし(その前に既に近くに移動し聞いていたアンナ)、家令レイアーと侍女長メロアンにも相談した。

「良いのですか、それで? 旦那様スライストに相談すれば、きっと解決できますよ」
「良いのよ、もう。私がいることで、ワッサンモフ公爵家の弱味になるのは嫌なの。ただコロネだけはよろしくね」

「「「分かりました。それだけはお約束致します。ご英断感謝します、奥様」」」
「こちらこそ、ありがとうございました」

 深く頭を下げ、感謝を込めてお礼をするミカヌレ。彼女も隠密として生きてきたので、貴族の底意地の悪さを深く知っていた。
 コロネのいるワッサンモフ公爵家を、ミズレーン伯爵の、いやクロダイン公爵の食い物にさせる気はない。




 そしてミカヌレを恋多き女に仕立てあげ、男と駆け落ちした計画を発動させた。彼女ミカヌレを悪者にしてコロネの落ち度などないと、幼い心を守る為に。そしてスライストにも、ミカヌレを早期に諦めさせるように。


 けれどスライストは、醜聞を聞いても彼女を諦められず、自ら捜索中に足場の悪い崖から馬ごと落下し消息不明となった。
 運の悪いことに雨で川は増水しており、後に付いていた護衛の者達さえ、落ちた場所を捜索しても彼を見つけることが出来なかった。


 その後にスライストの弟である、クリム・チェロスト子爵家族がワッサンモフ公爵家に入り込み、実権を握ろうと画策。


 捜索を続け葬式はしていないものの、スライストの生存は絶望視されていた。


 泣き崩れるまだ5歳のコロネと、公爵家の使用人達。前公爵であるセサミさえ、その事態にただ沈黙を続けるばかりだった。




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