異界の魔術士

ヘロー天気

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三界巡行編

第八章:朔耶の日常と巡る運命

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 コウ少年を悠介達のところに預けて数日。
 狭間世界で進行中の大きな案件に関わる為に、オルドリア大陸やフラキウル大陸のある異世界でやっておくべき細かい仕事を済ませて回る朔耶。
 今日は冒険飛行から帰国中であるレイオス王子達の魔導船団まで、沙耶華を迎えに訪れていた。

「やほー、迎えに来たわよー」

 魔導船団の近くに転移した朔耶は、先頭を行く一番船の甲板に下りると、船内の沙耶華に声を掛けた。いつもの休憩スペースでレイオス王子と向き合っていた沙耶華が振り返る。

「あ、朔耶さん」
「今日も別れの時が来てしまったか」

 毎回、名残惜しそうにしながらそっと沙耶華の手を放すレイオス王子。様になってはいるのだが、当事者の沙耶華は勿論、朔耶からも『見ていて恥ずかしい』と思われていた。
 もっとも、沙耶華の感想には照れが多分に含まれているが。


「それじゃあまた後日。良い旅を~」
「うむ。サヤカを頼む」

 沙耶華を連れてその場から地球世界の自宅庭に帰還する朔耶。この後は沙耶華を遠藤家に送ってから京矢を迎えに御国杜家まで赴き、また都築家自宅に戻って庭から異世界に送る予定だ。

「毎回送って貰ってますけど、結構大変ですよね」
「そうねぇ、世界渡りはともかく、こっちの世界での移動はやっぱりネックよねー」

 転移先は割と自由に選べるが、帰還場所は転移した場所固定なので、毎回朔耶の自宅庭まで行き来しなければならない。
 転移するところを誰かに見られないようにする為の処置だったが、そろそろ両家の自宅を転移の起点にしても良いかもしれないと話し合う。

「それじゃあまた一週間後くらいに」
「沙耶華ちゃんまたな~」
「はい、ありがとうございました」

 兄の車で沙耶華を遠藤家に送り届けた朔耶は、その足で御国杜家に向かう。途中、ガソリンスタンドに寄って給油休憩しつつ、兄重雄とも今後の送迎について話し合った。

「やっぱり今のままだと、お兄ちゃんの負担にもなるかなって」
「そうさなぁ。俺としては習慣化してるから特に負担でも無いけど、向こうから戻って直ぐ自宅って方が安心出来るのは確かだろうな」

 こちらの負担軽減にもなるであろうが、朔耶の力に頼り切りな状態の京矢と沙耶華にとっても、幾分気持ちが楽になるところはあるんじゃないかと兄は指摘する。

「まあ、そうよね~。アンダギー博士が転移門でも完成させたら、色々変わりそうだけど」
「転移門か……世界間を行き来出来るような魔法の装置って、結構ヤバそうだけどな」
「流石に世界まで渡れなくてもいいけどね」

 出来たら出来たで、また別の問題が起きそうだから面倒だわと朔耶は肩を竦める。
 そんなこんなと御国杜家にやって来た朔耶は、京矢とも話し合って転移の起点を屋内に設定する事を提案した。

「いいと思いますよ。足元がしっかりしてれば大丈夫なんですよね?」
「うん、畳とか絨毯とかフローリングだと、向こうに飛ぶ時にちょっと削っちゃうからね」

 朔耶がわざわざ庭に出て転移している理由も、実はそれが原因の一つにある。以前、とある事情で自分の部屋からオルドリアに飛んだ事がある朔耶の部屋の床には、その時の跡が薄ら残っていたりするのだ。
 そんな訳で、御国杜家の屋内に転移用の場所を作って貰った朔耶は、そこから京矢を連れてフラキウル大陸はナッハトーム帝国の帝都エッリアの離宮に転移した。

「お~、自分の家から離宮に来るのって、何か新鮮ですね」
「荷物も運びやすくなりそうね」

 地球世界の物をなるべく異世界に持ち込まないようにしている朔耶の方針と違い、京矢は積極的にこちらの道具を持ち込んで活用している。今回の自宅からの転移は急遽決まった事なので、荷物の量はいつも通り鞄に詰めて運べる程度だが、今度からもっと大量に運ぶ事も可能だ。

「確かにそうですね――って、あれ?」

 ふいに、京矢は自分の耳を押さえるように片手を頭に充てると、訝しむ表情で小首を傾げた。

「どうしたの?」
「いや……何か、コウと交信が繋がらなくて」

 困惑している様子の京矢に、朔耶はハッと気付く。

「ああそっか、まだ話してなかったっけ。コウ君、狭間世界に残って活動してるのよ」
「あれ、そうなんですか?」

 朔耶はレクティマの回収に京矢の提案通り、コウを連れて行った事が功を奏した事や、その後の顛末を説明する。

「そんな訳で色々協力してもらってるの」
「なるほど、コウならその辺り適役ですね」

 コウと記憶を共有できる京矢は、狭間世界からコウが戻れば、これまでとは一風変わった冒険譚が読み取れるだろうと楽しみにしているようだ。

 京矢が離宮の奥部屋に戻った事を皇女殿下に報告に行く使用人さん達の動きを捉えつつ、朔耶はこの後の予定を考える。

『これでこっちの用事は一段落かな。明日は悠介君のところに飛ぶ前に、ポルヴァーティアの様子を見て来ましょうかね』
ウム キョウハモウ ヤスムガヨイ

『ん、そうする』

 転移回数にはまだ余裕があるものの、結構飛び回ったのでそこそこ疲れも溜まっている。
 必要があれば精霊の癒しで疲労も吹き飛ばして活動し続ける事も出来るが、現状そこまで緊急の案件は無いので、明日に備えて早目に休む事にした。


 翌日。
 朝からポルヴァーティア大陸に転移した朔耶は、ステルスモードで真聖光徒機関の中枢施設近くを訪れると、カルツィオに向かうポルヴァーティアの大使達を乗せた飛行機械を見送った。
 汎用戦闘機をベースに改修された箱型の輸送機が三機、連なって飛んで行く。
 大神官が率いるポルヴァーティアの最大組織である真聖光徒機関は、既に十数機の汎用戦闘機型の飛行機械を保有している。

 悠介の『カスタマイズ・クリエート能力によるカーストパレス大改変』に引っ掛からなかった、僻地の格納庫などに残されていた予備の機体やパーツで組み上げられたらしい。
 元々技術者も操縦者も、信徒の中に熟練した者が多く在籍しており、整備施設や製造工場の建設も始まっている。魔導技術による国力の再建まで、そう時間は掛からないだろう。

(悠介君もカルツィオ側の技術の底上げに頑張ってるみたいだけど、こればっかりはね~)

 形だけ真似る事は出来ても、悠介の能力を介さなければ所詮は劣化コピー止まり。カルツィオの技術者が魔導技術の根幹部分を理解して修得しなければ、差は開く一方だ。
 とはいえ、以前のようにポルヴァーティアからの一方的な侵略や蹂躙はもう起こせない。
 いずれカルツィオ全体に浸透して行くであろう魔導技術による文明の変化は、ポルヴァーティア自身にも大きな影響と変化をもたらせるのは確実だ。

 カルツィオやポルヴァーティアに降臨する異世界からの来訪者は、その大地に変革をもたらせる目的で喚ばれると聞く。

『そう言う意味では、悠介君もアルシアちゃんも、しっかり目的果たしてるよね』
ヘンカクノ シシャガ フタリモ ソロッタノダ

 そこへ朔耶の乱入という異例イレギュラーもあり、ポルヴァーティアの支配者が何百年も続けて来た大陸融合による侵略と国土拡張は、邪神と戦女神の尽力に勇者も協力してポルヴァーティアの敗北で幕を閉じた。
 そして現在、融合したカルツィオとポルヴァーティアは、新生カルパディア大陸として共存する新たな時代の幕開けを迎えた。

『まだまだ問題山積みだけど、一つずつ処理していくしかないわね』
ウム

 狭間世界に通うようになった当初は、政治的な深入りはしないと嘯いていた朔耶だったが、今や自然に両大陸の問題を精査し、調停を視野に入れて動く事を考えている。
 神社の精霊もあえて突っ込まないので気付かない朔耶なのであった。


『あ、そう言えば、"カーストパレス改変"で思い出したけど、この前の大規模魔力変動ってどうなったの?』
イマノトコロ ウゴキハ ナイ

 オルドリア大陸を飛び回っていた先日の夜、周囲の精霊達が少し騒ぐ事態があり、神社の精霊から遠くの大陸でかなり大きな魔力変動があったようだと聞いた。
 その規模は悠介がポルヴァーティアで起こしたカーストパレス改変の比ではなく、おおよそ数倍と思われる範囲で魔力が動いたらしい。方角は南方なので、フラキウル大陸ではない。

 カーストパレス改変の数倍の規模ともなると、大きな街の一つや二つ分どころでは済まない。
 恐らくは、フレグンス王国クラスの結構広い領土を持つ国の、全域に及ぶほどの広範囲に渡って魔力が動いたのだ。
 通常ではあり得ないような魔力の変動が起きた場合、以前に魔王騒ぎを起こしたトゥラサリーニのような、力ある何者かが何かしらやらかしている事も考えられる。

 今のところは『精霊の知らせ』も無く、『魔王が誕生した』等と言う噂話も聞こえて来ないので心の隅に覚えておく程度に止めているが――

(まあ、こっちが片付いてからだね)

 今現在係わってる問題が一段落したなら、折を見て様子を見に行こうかと考えていた。


『さて、それじゃああたし達も行きましょうかね』
ウム

 遠くカルツィオの空域に入ろうとしている箱型輸送機の、米粒のような機影を見やった朔耶は、一旦地球世界の自宅庭に帰還すると、狭間世界のカルツィオ聖堂を目指して転移するのだった。



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