異界の魔術士

ヘロー天気

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トレクルカーム王国編

序章

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 狭間世界で国家間の問題に係る幾つかの大きな案件が片付いた。ようやく一段落。
 オルドリア大陸に問題は無し。平和な今日この頃。
 明日からは南の大陸の調査に出掛ける。


 朔耶メモより――




 序章




 科学技術が発達した現代文明のある地球世界。高度な発展を遂げながらも滅びた、魔導文明の痕跡を残す魔法が実在する異世界。
 それら世界と世界の隙間に在るとされる狭間世界。

 三つの世界を行き来しながら活動する『都築朔耶』。

 精霊の暴走とも言える召喚によって異世界に喚ばれ、『重なる者』となった朔耶は、その世界で知り合った人々と様々な交流を続けながら多くの縁を紡いで来た。

 『何とかしたいと思って、何とか出来る力があるから、何とかする』をモットーに活動を続ける朔耶。今回もまた、異世界に見つけた新たな地、南方の大陸まで翼を向けていた。

 少し前に、その南方大陸で精霊達が騒ぐほどの大きな魔力変動を観測した。

 狭間世界で起きた『大陸融合』による影響で、異世界に大規模な魔力の乱れが生じた時には、それを切っ掛けに魔王が誕生するという事態が発生し、朔耶も討伐に参加した事がある。

 大きな魔力変動後に、オルドリア大陸やフラキウル大陸でこれといった問題は起きていないが、その発生地点には何があるのか。
 何が原因でそれほどの魔力変動が起きたのか、朔耶は独自に調査をしに来たのだ。


「ここがあの魔力変動の起きた大地ね」
アノ マチニハ ユカヌ ノカ?

 浅い起伏がどこまでも続く、広大な褐色の平地帯に降り立った朔耶は、神社の精霊が指摘した遠くの街に視線を向ける。
 夢内異世界旅行で見た、艶のある青い防壁に囲まれた大きな囲郭都市。

 あの街の中心付近には、沢山の畑に囲まれた小高い丘の上に、宝石のような半透明の巨塔が立っている。結構距離を置いたここからでも、その強い魔力と存在感を示していた。

『今回は魔力変動の原因調査だから、先に周りを調べて、それからかしらね』

 いつも問題があるとまず中心に飛び込んで臨機応変行き当たりばったりに動いていたので、今回は慎重かつ計画的に進めていくつもりなのだと、朔耶は自身の成長をアピールする。

『毎回ドタバタ劇やってたからね。偶にはスマートにいかなくちゃ』
…………ソウカ

『ちょっと、何よその間は』
キニ スルナ ソレヨリモ――

 朔耶の成長アピールをスルーした神社の精霊は、周囲の状況を伝えて行動を促した。何もない平地だというのに、複数の人間に囲まれている。

 どうやら地面に潜伏できる空間があり、そこに結構な人数が潜んでいたらしい。
 ここに降り立ったのは偶然だが、朔耶自身も『意識の糸レーダー』で安全確認をおこなっていたので驚きはしない。

『いや~、なんでピンポイントでこんなところに降りるかな』
ソウイウ サガ ナノヤモ シレヌ

 今回、地球世界の自宅庭から世界を渡る際の転移目標にしたのは、件の囲郭都市の中に聳えるシンボルのような巨塔だが、いきなり街の中に出るのを避けて十分離れた位置を意識した。
 そうして転移した先がこの地点だったのだ。

 地下に潜んでいる者達は、突然現れた朔耶に驚き、警戒を浮かべている。意識の糸を伸ばした朔耶は、彼等の内心から拾える限りの情報を読み取った。

『ドルメアの斥候部隊?』
タタカイヲ ナリワイニ シテイル モノタチノ ヨウダガ――

 神社の精霊によると、彼の者達の帰属意識に違和感を覚えるそうな。
 彼等は総じて一人の人物を指導者として敬い、またその指導者を中心とした組織を国家と見做して忠義を立てている。傭兵のようでもあるし、軍人のようでもあるという。
 そして、ここに潜んでいる理由が、あの街を攻める為の監視目的だった。

 朔耶に対しては、『トレクルカームの術者か?』と疑いを向けている。トレクルカームというのは、この褐色の大地を統べる王国を指す。
 そして、あの街は名をハルージケープ。トレクルカーム王国の中枢となる王都であった。

 ドルメアの部隊は最近、王都ハルージケープに対して周到な準備のもと、奇襲攻略作戦を仕掛けていた。
 作戦は失敗に終わったのだが、失敗した原因に『黒髪の女錬金術士』という存在が浮かぶ。

(その錬金術士かもって疑われてるのね)

 この国と彼等の関係はよく分からないが、敵対している側からこそ見える情報もあるだろう。
 朔耶は今のところ、国家間の戦いでどちらかに肩入れするつもりは無かったが、情報を得る相手としては悪くないのでは? と考える。

『ここはブラットさんのパターンでいこうかな』
ブラット ドノホド シンシトハ カギラヌゾ?

 オルドリア大陸で一時期行動を共にし、その後も縁あって色々な戦いで共闘した、最初は敵対勢力だったパーシバル傭兵団を引き合いに出す朔耶に、神社の精霊はあれは特殊な例だと諭す。

『危ない人達だったらそれはそれで』

 その時は逆に、彼等ドルメアの情報を持ってハルージケープに赴けば、そちらから信頼を得られるかもしれない。
 そんな朔耶の目論見を聞いた神社の精霊は、それではいつものサクヤ式臨機応変行き当たりばったりと変わらないのでは? と思ったが、敢えて指摘はしなかった。

マア ヤッテ ミヨ
『うん。じゃあレッツお話!』

 行動方針を定めた朔耶は、先程から地面の下の空間――恐らく魔法で掘った塹壕よりこちらの様子を窺っているドルメアの斥候部隊に声を掛ける事にした。

「ドルメアの斥候部隊の皆さーん、こんにちはー」
「「「!?」」」

 潜んでいた偵察装備の斥候兵が、偽装した地面の蓋を跳ね上げるようにして一斉に飛び出して来ると、朔耶を囲むように武器を構えて迎撃態勢を取った。
 そして何人かはこの場から速やかに離れていった。本隊への伝令役だろう。

「あれ?」
サクヤヨ……

 まずは穏便に話し合いからと挨拶をした朔耶は、いきなりの物々しい空気に小首を傾げる。神社の精霊からは、『今のは隠れている相手に対する挑発になるぞ』と諭された。

「……そう言えばこの人達、隠れてるんだったわ」

 お互いに相手の存在を認識していたので、うっかりしてたわと朔耶は頭を掻く。

 ドルメアの斥候部隊は、朔耶が自分達に気付いているとは思っていなかったのだ。地下潜伏を見抜かれたばかりか、その所属まで正確に言い当てられた事で、かなり動揺しているようだ。

「あ~、えーと、他所の大陸から来ました。都築 朔耶といいまーす」

 それでもとりあえず話し合いをと、朔耶は改めて自己紹介をするのだった。



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